トーマス・ビーチャムのディーリアス



天気下り坂との予報だったが、一日雨も降ることなくもちこたえた。
夕方、仕事を少し早く切り上げて退勤。ちょっとした野暮用を済ませて9時少し前に帰宅した。ひと息ついてPCを眺めていたら、きょうは英国の指揮者トーマス・ビーチャムの誕生日と出ていた。…ならば、と取り出しのはこの盤だ。


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サー・トーマス・ビーチャムは現在まで続く製薬会社の子息として1879年のきょう生まれ、1961年3月に81歳で没した。当時の裕福な家庭の常として教養としての音楽教育を受けたが、それが高じてオペラ劇団やオーケストラを私費で設立するにいたった。特に手兵ロイヤルフィルハーモニー管弦楽団を指揮した多くの録音は彼の名を広めた。中でもイギリス近代の作曲家ディーリアスの管弦楽曲を集めたレコードは今もスタンダードな名演されている。手持ちの盤はセラフィムレーベルのLP輸入盤。ロイヤルフィルハーモニーを指揮した晩年のステレオ録音だ。確か70年代半ば、大学3年のとき手に入れた。ディーリアスの曲が一部のクラシックファンの間で、その穏やかな曲想から話題となり始めた頃だったと思う。

この2枚のLPには「春初めてのカッコウの声を聴いて」、「ブリッグの定期市」、「楽園への道」といったディーリアスの代表的な管弦楽曲が収められている。いずれの曲も、曲名からイメージできるような描写的な曲想が繰り広げされる。近代フランス印象派を連想するような部分や、フランス以外の近代ラテン系作品(スペインのファリャ、アルベニス、イタリアのレスピーギ等)、またイギリスの伝統的で穏やかかつ保守的な音使い、そういった要素が織り成す、ともかく気持ちのいい、それでいて表層的だけでない音楽だ。「ブルックの定期市」では冒頭、ハンガリー田園幻想曲を思わせるペンタトニックのフルートの旋律が出てきて、少々驚く。その後穏やかな曲想の変奏曲が続き、とりわけ管楽器のソロが彩りを添える。<春初めてのカッコウの声を聴いて>は、まさに春のまどろみの中で、ふと聴こえてきたカッコウの声に心躍るひとときと、少々気だるい春の空気感をよく表現している。


この盤の音源。<春初めてのカッコウの声を聞いて>


民謡をベースにした変奏曲<ブリッグの定期市>。穏やか曲想だが編成は大きく、コールアングレやバスクラリネット等も加わった三管編成。秋山和慶指揮する洗足学園のオケ。管楽器のソロもみな立派!


ビーチャムへのインタビューと練習風景。 (こちらは最晩年シカゴ響との演奏



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カラヤン&VPO1987年ニューイヤー・コンサート



きょうも穏やかで過ごしやすい一日だった。連休を前に世間も平穏。みな仕事に精出しているのかな…
音楽の季節要因というのは人それぞれにあると思うが、ぼくの場合この時期になると聴きたくなる音楽の一つにウィンナワルツがある。多くの日本人には新春のニューイヤーコンサートがすり込まれているだろうが、春本番を迎え、学校も仕事も新年度が始まるこの時期にも、明るくおおらかなウィンナワルツは中々相応しいと思う。と、そんなことを考えつつ、今夜はこの盤を取り出した。


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ヘルベルト・フォン・カラヤン(1908-1989)が生涯にたった一度だけその指揮台に立った1987年ウィーンフィル・ニューイヤーコンサートのライヴ盤。1987年・昭和62年…ニューイヤーコンサートの元旦中継もすっかりお馴染みになりつつあった頃、世間はバブル経済のお祭り騒ぎに突入する前夜、あれからもう三十年。歳もとるはずだ。

さてこのレコード。ウィーンフィルが奏で、ムジークフェラインに響く音はまことに立派で非の打ちどころがない。テンポ設定や歌いまわしも極めて自然。どこをとっても不自然さはない。反面これはという面白さやハッとする解釈はほとんどなく、この演奏でなければ…というものがあるかと問われると答えに詰まる。ぼくはカラヤンに対してはシンパでもアンチでもないのだが、世間的あるいは業界内での圧倒的な人気を博しながら、もうひとつ玄人筋にウケがよくないのはそのあたりのカラヤンの資質ゆえだろう。まあ、ニューイヤーコンサートというお祭りだ。解釈を四の五のいうこともない。飛び切りの美音でシュトラウスの豊かな歌にひたれればそれで十分だろう。

この年のニューイヤーはカラヤンが振るということに加え、ソプラノのキャスリーン・バトル(1948-)の登場も話題になった。この盤では彼女が歌う<春の声>が最後のトラックに収録されている。当時のバトル人気はすごかった。黒人ソプラノ歌手ということでは先駆者はもちろんいるが、彼女は取り分けヴィジュアルも物腰もチャーミングで日本でも大そうな人気を得た。
このニューイヤーを振ったカラヤンは2年後の1989年7月に逝去。日本のバブル景気はピークを向かえる。何万円もするクラシックコンサートのチケットが売れ、にわか景気に浮き立った人々がブランド物のスーツを着込んでサントリーホール集う光景。しかしそれも2年後には幕となる。二十数余年も前のことかと思いながらこの盤を久々に聴くと、この先二十年後はと考えてしまう。


ポルカ<観光列車><ピチカート・ポルカ>と続く。


バトルが歌う<春の声>



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アニア・アウアー(Vc)のドヴォルザーク



週末から暖かな日和続く。きょうも雲が少々多めながらも穏やかな一日だった。
週明け月曜日。きのう日曜の遊び疲れもあって出勤の足取りは重かったが、気を取り直して業務に精励。先週からつついていた案件も何とか片付け業務終了。定時少し前に退勤となった。帰宅後、ひと息ついて何日かぶりにアンプの灯を入れ音盤タイム。久々にこんな盤を取り出した。


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アニア・タウアー(1945-1973)の弾くドヴォルザークのチェロ協奏曲ロ短調。70年代前半に二十代の若さで亡くなったアニア・タウアー。ドイツグラモフォンに残したの2枚のレコードが唯一の公式録音らしい。コレクターズアイテムになっていたその2枚のレコードが、十年程前にタワーレコードの企画盤;ヴィンテージシリーズで復刻したのがこの盤だ。ドヴォルザークのチェロ協奏曲のほか、マックス・レーガーの無伴奏チェロ組曲第3番、ジャン・フランセのチェロとピアノのための幻想曲が収められている。

総じて奇をてらわずに生真面目に歌うタウアー。わずかに技巧的な難を指摘することも出来るだろうが、そうした良し悪しを語る以前に、享年28歳の一人の女性の若過ぎる死を思うと、胸を締めつけられる。前途洋々であったであろう時期に晴れ晴れとレコーディングをし、コンサートに臨み、しかし運命に翻弄されて迎えた死。切々と歌うチェロの哀愁を帯びた旋律が、一層切なく響く。同時に、同じく若くして演奏活動の一線から退いたデュ・プレを思い出す。
のだめカンタービレに指揮者役で登場したズデニェック・マーツァル指揮のチェコフィルのバックは、万事大仰にならず室内楽的なアプローチでタウアーのソロに寄り添う。時折聴こえてくるヴィブラートと伴ったホルンの音にこの時期のチェコフィルらしさを感じる。1968年3月の録音だから、プラハの春直前の録音ということになる。プラハの春を期に多くのチェコの音楽家が亡命をしたが、マーツァルもその一人であった由。嘱望されながら自ら命を絶った若き女性チェリスト、政変を期に翻弄された人々…そんなことを思いながら聴くドヴォルザークはいっそう心にしみる。


この盤の音源。ドヴォルザークのチェロ協奏曲全楽章。第1楽章の終わり途中で切れて第2楽章が始まってしまうのが残念。


ゴーティエ・カプソン(仏1981-)による演奏。パーヴォ・ヤルヴィ指揮パリ管。叙情性に富む素晴らしい演奏。



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カルカッシ教則本をさらう & 誤植も発見!



天気晴朗なれど風強し。昼をはさんでチョイと外出。帰宅後は昨晩録画しておいた例のアレを観て、そのあと楽器を取り出し、三時間ほど戯れた。きょうは久々にカルカッシ教則本を開き、各調性のカデンツァとそれを使った簡単なアルペジオ練習、さらに練習曲などを飽かずに弾いて楽しんだ。


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ぼくら世代のギター愛好家には馴染み深い<カルカッシ教則本>。黄色い表紙の溝淵浩五郎編の全音版はいまも版を重ねている。ぼくもギターを弾き始めた高校生の頃、部室にあったボロボロのカルカッシ教則本を使っていた記憶がある。しかし前半の初級向けページだけを順にさらい、あとはまともに見た記憶がない。そしてその後もこの教則本とは疎遠になっていたのだ、数年前に気になって今更ながらと思いつつ手に入れた。

あらためてこの教則本をみると中々興味深く、よく出来ているなあと感心することが多い。第1部;初等科ではギターでよく使われる調性(ハ・ト・ニ・イ・ホ・ヘの各長調とイ・ホ・ニの各短調)の終止形(カデンツァ)とスケール、アルペジオの簡単な練習曲がある。第2部;中等科ではスラーやグリサンド、装飾音などと、第4ポジションから第9ポジションまでの運指、ギターではあまり見かけない調性の基本、またカンパネラやハーモニクス、変則調弦などの特殊奏法が出てくる。第3部には50曲の小品が並び(オリジナルはここで終わる)、そして第4部;高等科ではカルカッシ以外の作曲家、ソルやコスト、タレルガなどの曲集になっている。中級レベルを自称する輩も、第2部中等科にある各ポジションの練習曲は初見力をアップさせるための基本を習得できるし、練習曲も古典的でチャーミングな曲が多い。音をひと通り出すに留まらず、楽曲形式の把握、アーティキュレーションやフレージングを考えながら弾くと十分な音楽的楽しみが味わえる。

とはいえ、多くのギター愛好家にとってカルカッシ教則本を通してしっかりマスターしたという輩は少ないのではないか。教室の先生もおそらくこの本のすべてを生徒に課すことはないだろう。そんな背景が影響しているのか、先日あまり目が向けられないであろうページに以下のような誤植を見つけた。

■溝淵浩五郎版■
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オリジナル:カルカッシ作品59
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手元にある溝淵浩五郎版は奥付によると1999年に改訂新版として出され、ぼくが手に入れた2010年までに16刷まで版を重ねている。その83ページ。初等科のページで出てくるギターでよく使われる調性以外の調についての解説で、シャープ6つの長調を<変ヘ長調>と記してあった。これは<嬰ヘ長調>の間違いだ。オリジナルのファクシミリ版をみても<FIS DUR>と書かれている(写真赤枠部分)。シャープ6つのdurの曲など通常出くわさないし、この本を手にした先生や生徒も、おそらく素通りしてきたことから、初版から半世紀以上経過しているにもかかわらずこれまで誤植が放置されていたのだろう。まあ、そんな重箱の隅をつついても意味のないことだが、このページ前後に記された<その他の調>と題され、ギターではあまり見かけない調性にも、この教則本でひと通り接することが出来ること確認し、もし手元にこの本がある愛好家諸氏はぜひこれらのページもひと通りさらってみることをおすすめしたい。この本で示される終止法(カデンツァ)とそれを使った簡単なアルペジオ練習では、単純に主要三和音だけということではなく、二、六の和音や減七なども使われ、古典的な和声感の基本的な響きが確認できる。また楽曲形式の把握やハイポジションでの左手のサンプルとして手ごろな練習曲が並んでいる。今更カルカッシ…という声が聞こえてきそうだが、あらためて手に取ると学ぶことが多い。クラシックギター愛好家にとっては<一家に一冊カルカッシ>と唱えたくなる。


愛媛県在住のギタリスト青木一男さんがご自身のホームページにカルカッシ教則本の全曲をYouTube動画でアップしている。その他にも初級から中級に進むにあたって必要な練習曲を多数アップしていて素晴らしい。特にカルカッシ教則本にある全練習曲を弾いた一連の演奏は賞賛に値する。曲によって19世紀ギターとモダンギターを使い分けているが、いずれも適切なフレージングとアーティキュレーションを施し、かつ時々ピリッとアクセントになるような表現も織り交ぜて弾いている。大曲、難曲にチャレンジするのもいいが、こうしたもう弾くことはないだろうと思っていた練習曲にスポット当てて、古典を味わうのも一興だ。

溝淵編;カルカッシ教則本P.72 Allegretto


溝淵編;カルカッシ教則本P.72 Vals 



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ロメロ親子 古典派ギター二重奏曲集



早いもので四月も下旬。きょうは都内での仕事を終えたあと、知人と銀座で落ち合って食事。きのう開店した話題のギンザシックスも遠巻きに確認。外国人観光客も混じり大変な人出だった。知人もぼくも下戸につき、たらふく食べて歓談。それじゃまた、と帰途についた。


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10時少し前に帰宅。ひと息ついて、さて週末金曜日。一昨日のマティエカの記事で思い出し、久々にこんな盤を取り出した。

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取出したのはロメロ一家、オヤジさんのセレドニオと長男ペペによる二重奏。1976年10月録音。収録曲は以下の通り。19世紀中庸のギター古典期のオーソドクスな曲が3つ入っている。(写真右アントン・ディアベリ)

  1. セレナード イ長調 作品96-1(カルリ)
  2. 協奏的変奏曲 作品130(ジュリアーニ)
  3. セレナード ヘ長調 作品63(ディアベリ)

この盤が出た40年前といえば、すでにロメロ・ファミリーはペペやアンヘルのソロ活動も始まり、十分な人気を博していた頃だ。その時期に、こうした19世紀半ばヨーロッパでギターが広く定着しつつあった時代の、見方によってはやや地味とも思われる純古典曲を選んだこの親子にまず拍手を送りたい。ロメロ・ファミリーはスペイン物ばかりじゃない、ヨーロッパの古典もしっかり演奏できまっせという気概さえ感じる。

演奏もそうしたポリシーを反映するかのように実にオーソドクス。まるで古典派二重奏のお手本のような演奏で好感が持てる。カルリのイ長調のセレナーデは、冒頭の序奏や第1楽章などは、アマチュアの手慰み程度だと、度々出てくる付点音符の処理に手を焼くのだが、さすがに完璧に合っていて格調高い古典的な雰囲気十分だ。ジュリアーニの協奏変奏曲は、70年代半ばの当時人気の高かったジュリアン・ブリームとジョン・ウィリアムスの演奏などと比べると、闊達さや自在にには欠けるだろうが、ぼくはこのロメロ親子の生真面目なくらいきっちりした演奏を好む。ブリームとジョンの演奏はもちろん素晴らしいが、二人の名人芸の方に耳がいく。ディアベリのセレナーデでもロメロ親子のアプローチは変らない。ディアベリ(1781-1858)という、当時のウィーンにあって職業作曲家(ギター専門家ではない)として名声を博した人が書いたウィーン古典派の本流をいく<家庭音楽>の曲想はクラシックギター音楽の貴重な財産。もっと評価され、演奏されていいように思う。

この時代の曲は今であれば19世紀当時の楽器を使い、よりオーセンティックなスタイルで楽しみたいところだが、40年前は今ほどオリジナル志向は強くなかっただろう。ここはモダンギター(使用楽器はジャケット写真でみると、父セレドニオがラミレス、長男ペペがバルベロ1世だろうか)による70年当時のオーソドクスな解釈と演奏スタイルとして楽しむことにしよう。


ディアベリのセレナーデから行進曲とメヌエット。原曲通り第1ギターはテルツギターを使っている。全曲の楽譜はこちら






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マティエカ・ソナタ集



旧友Y氏から楽譜が届いた。


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少し前から旧友Y氏が編纂を進めていた私家版<マティエカ・ソナタ集>。
ウィーン古典派ど真ん中の作曲家ヴェンチェル・トーマス・マティエカ(1773-1830)が書いたギター作品の中から<ソナタ>と題されている作品を集めたもの。海外図書館アーカイブ等から集めたファクシミリ版ベースの楽譜をあらためてまとめたもの。もちろん一部は現在も出版譜が流通しているが、こうしたまとまった曲集はない。少し前に出来し、プロのギタリストも含む愛好家諸氏に配布され、また先日4月9日にひたちなか市で行われてY氏も講師を務めた<バロックギターと19世紀ギターによるレクチャーコンサート>のテキストとしも使われたとのこと。収録曲は以下の通り。

 大ソナタ1番
 大ソナタ2番
 ソナタ 作品16
 ソナタ 作品17
 <交響曲形式による>(第3ソナタ) 作品20-21
 <ハイドンによる>ソナタ 作品23
 6つのソナタ 作品31

Y氏によれば「不当に無視されているマティエカ、その実力に応じた正当な評価を得られるよう、また演奏会・発表会で演奏されるよう、作成した」そうだ。また巻頭言にはこうも記している。「…上記のように理解されるウィーン古典派だが、ギターではどう現れるか…。その時代・様式にあてはまるのは、S.モリトール、J.キュフナー、W.マティエカ、A.ディアベリそして有名なジュリアーニ…共通するのは彼ら(モリトール・ジュリアーニを除き)がギターがメインの作曲家ではなかったことです。キュフナーには交響曲・弦楽四重奏曲・ヴィオラ協奏曲・軍隊用の多数の曲があり、マティエカやディアベリには宗教音楽や歌曲、多数の室内楽曲がある。モリトール、ジュリアーニにも多数の室内楽がある。…ギターにおけるウィーン古典派の充実したソナタ、緩徐楽章の純粋に器楽的な美しさ、ギタリスティックな外連(けれん)味は皆無である。しかし一度は練習・演奏して欲しい…」

クラシックギターの世界は不思議な世界で、クラシックギター愛好家といいながら、ほとんどクラシックを聴かない、知らない輩があまりに多い(プロもアマも)。カルリやソル、ジュリアーニを弾きながら「ウィーン古典派、それってナア~に?」…。残念なことだが、それがクラシックギター界の現実だ。 ピアノにおけるバイエルのような古典的素養(日本において…)の第一歩もマスターせずに、いきなりバッハやソルの大曲に取組み、アマチュアの遊びだから何でもアリと平然と言い放つ人も多い。バイエルを終えたばかりのピアノ初心者が、「弾きたいから」という素朴な理由で、すぐにベートーヴェンの後期のソナタに取り掛かって、イヤー、弾けないなあ、もっと練習しないと…と言っているようなものだ。作品に対して失礼とさえ思える。古楽器奏者:竹内太郎氏も以前日記に書いていた。難しい曲を選びすぎる、バッハなんてプロでもおいそれと手を出せないバロック期の最高峰だと。

先日の私家版作曲家年表の記事にも書いたが、クラシックギターという特別な歴史があるわけではなく、古典ギター全盛期のカルリ、ソル、ジュリアーニ、メルツといった作曲家の作品はまぎれもなくクラシック音楽全般の古典派・初期ロマン派の中に位置付けられ、それらの様式感や解釈を会得するには18世紀末から19世紀初めてのクラシック音楽全般に親しむことがもっとも手っ取り早い。 もちろんギターでベートーヴェンやモーツァルトというわけにいかないが、マティエカやキュフナー、ディアベリの作品があることに気付くべきだ。Y氏は古典を<楷書>と位置付け、古典に対する理解と敬意なくしていは、その後のロマン派もそれ以前の古楽もないと論じるが、まったくその通りだ。

今回のマティエカの続編も計画中とのこと。私家版もいいが、現代ギター社あたりがきちんと出版してくれたらと願うところだ。


6つのソナタから第4番。


マティエカの作品としてもっとも知られる作品21<ノクターン>のオリジナル三重奏版の演奏(シューベルトがチェロパートを加えたという四重奏版もよく演奏される)。シュタウファースタイルの19世紀ギターレプリカを弾くのは古典作品を積極的に取り上げている益田正洋氏。ウィーン古典派ど真ん中の作風。


同時代のディアベリによる<協奏風セレナータ>作品105



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メンデルスゾーン 交響曲第1番ハ短調



週明け月曜日。暖かな一日だったが、夕方から雨。どうやらあすは春の嵐で大荒れになるらしい。大したことがなければいいが…。 さて、桜も散り、空気も緩んできたところで、何か春らしい曲はないか知らんと一考。こんな盤を取り出した。


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メンデルスゾーン(1809-1847)の交響曲第1番ハ短調。カラヤン&BPOによる全集盤中の1枚。1972年ベルリン・イエス・キリスト教会での録音。例によってギュンター・ヘルマンスと、彼に加えてクラウス・シャイベが録音技術を担当。まさにカラヤン黄金期の布陣だ。メンデルスゾーンの1、2番が手元になかったので、それではと物色し、数年前にタワーレコードのワゴンセールで買い求めたもの。

この曲はメンデルスゾーン15歳のときの作品。それ以前に弦楽のための交響曲を12曲作り、そのあとに作った初めての管弦楽交響曲。第1楽章冒頭から古典~初期ロマン派の短調作品がもつ劇的な展開と感情表現が素晴らしい効果をあげている。第2楽章は15歳の少年が作ったものとは思えない深い叙情と歌に満ちていて、今更ながらにメンデルスゾーンの天才ぶりに驚く。第3楽章はメヌエットだが実質的にはスケルツォ。ここでも短調らしい厳しい表情と時々長調に転じたときの大らかな響きのコントラストが素晴らしい。アレグロ・コン・フォーコの指示がある終楽章もロンド形式ではなく、きっちりとソナタ形式で書かれていて、手に汗握る展開だ。中間部におかれたフーガも素晴らしい効果を上げている。

カラヤンの演奏は各パートがもっと渾然一体となった、やや肥大した響きだったように記憶していたのだが、きょう聴いてみるとそんな感じはない。各パートはきっちりと分離し、整ったアンサンブルを聴かせる。よく伸びた低弦群の音がヘッドフォンからしっかりと聴こえてくる。木管群の距離感も適切だ。それでもトータルとしては、細部よりは全体を、縦よりは横を重視した解釈と演奏。春らしいというよりは、明日の天気予想同様、春の嵐を想起させる、若々しくも充実した短調作品の第1番を再確認した次第だ。


フランツ・リスト・ワイマール音楽大学の学生オケによる演奏。ベルリンフィルの教育プログラムの一環として、昨年フィルハーモニーの室内楽ホールで演奏されたときの模様だそうだ。



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プロフィール

マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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