最近弾いたギター 2017年初秋



最近弾いたギターの印象。備忘を兼ねて記しておこう。
そもそも日々ろくろく弾きもしないのに、楽器についてあれこれ講釈するのは、まったくもって不本意なのだが、気になる楽器があると身体がムズムズしてくるのは、もはや性癖を通り越して病気かも知れない。しかし周辺には更なる重症患者もいるので、気を楽にして程々に病気と付き合っているのが現状だ。最後に楽器を買ったのは2014年秋のオルディゲス(あっ、こんなのもあったか)。その後、症状は落ち着いていたのだが、この春くらいから少々ソワソワが続いている。そんな中、久しぶりに楽器店を巡回。以下順不同にインプレッション他を。どこの店かを明かさない方がいいかなと思い、年式他詳細情報は伏せておく。もっとも、ちょっとネットをサーチすれば分かるだろうが…。


■ドミンゴ・エステソ■
松・シープレスのエステソ。表板・裏板ともクラック修理跡があるが適切に修理されていて問題なし。ネックや指板の状態もよかった。この時代の楽器らしく、軽いボディーと薄めの表板により低音ウルフトーンはF#辺り。低音がドンと鳴り、高音も木質系ながら反応よく、高音のハイポジションのつまりもなし。音量も十分。相場よりも少々低めの価格設定。シープレスというと現代的視点ではフラメンコギターをイメージしてしまうのか、横・裏がローズ系(いわゆる黒)になると、それだけで3割程価格アップする。音に関してはシープレスは決して悪くない。

■フランシスコ・シンプリシオ■
トルナボス付き。松・ローズ。店主が調弦しているときから、6弦開放のEがドーンと部屋に満ちてびっくり。ドンッ、だけでなくサステインもあって、ドーンと尾を引く。高音ハイポジションは全体にややつまり気味だが、トルナボスの響きがのって、曲を弾くとそれほど気にならないだろう。エステソと比べると男性的で豪放な音。全体に均一で整っていたエステソはとは好対照。委託品とのことで、持ち主がペグをピカピカの後藤に替えてあったり、横板と裏板が材質も違っていて、店主曰く、一度開けて裏板を張り替えているようだとのこと。私もそうみた。そのあたりもあってか価格も安めに設定してあった。

■矢木聡明ブーシェモデル■
初めてみる楽器。アマチュア製作コンクールで優勝経験もある愛知の方だそうだ。ブーシェモデルだけにこだわって作っているとのこと。細部まで丁寧に作られていて、特に指板の工作精度は素晴らしく、ほれぼれした。力のある低音と、太い高音で、全体にやや渋めの玄人好みながらいいギターだった。

■佐藤忠夫■
3本在庫してあった佐藤忠夫の作品中、松・メープルのモデルを試奏。特徴的なヘッドデザインが好みの分かれるところだろうか。他全体の工作精度はまずまず。ネックの状態もよい。音もメイプルらしく、少し短めの余韻を伴って、コロコロ・コンコンとよく鳴っていた。低音も十分で、20万円を切る価格は超お買い得と感じた。

■中野潤サントスモデル■
もっぱらトーレスモデルやハウザーモデルで知られる中野潤。サントスモデルは注文主からのオーダーもあって、ギター文化館コレクションにあるサントス・エルナンデスを参考にして作られたとのころ。かなりかっちり作られた印象の楽器。低音力強く、高音も立ち上がり鋭く、エネルギー感もあって良く鳴っていた。年月を経た本家サントスのような枯れた味わいはさすがに無理だが、出来たばかりのサントスかくやと思わせる。

■寺町誠MT-2■
国内中堅製作家という印象の寺町誠氏。それでも東京、名古屋、大阪の複数の販売店が常時在庫する背景には、コンスタントに良品を提供している実績あってのことだろうし、その音質や品質も好評だからに違いない。松・マダガスカルローズ(漆黒板目の良材)の新作を試奏。見かけのプロポーションがフレタ似であることから、もっと男性的な楽器かと思っていたが、それほどガチガチではなかった。低音のウルフはG辺りだが、それより低い音域も充実した鳴り。高音はどの音も均一に鳴り、エネルギー感、サステインとも十分。工作精度、音ともに良い楽器。価格も適正。このレベルの楽器を早い時期に手に入れて長く弾き込むというのは最良の選択の一つだろう。

■一柳マエストロモデル■
松・ハカランダの上位モデル。3年程経過した中古品だったが傷は少なく、ネック他楽器としての状態は良好。低音の充実ぶりは今回試奏した一連の楽器中トップかもしれない。どっしりと深く重く響く。中高音は低音側に引っ張られてか、ややマイルドな印象。太く穏やかな響き。こういうバランスが好みの人もいるだろう。

■パコ・サンチャゴ・マリン■
先日来宅した知人が使っていて、一気にファンになってしまったパコ・サンチャゴ・マリン。今回650mmと640mmの両方を試奏した。松・中南米ローズ。2本とも素晴らしくよく鳴る楽器だった。低音は強いウルフトーンは伴っていないが、6弦ローポジションまでしっかりエネルギー感がある。5弦の7~10フレット辺りのつまりも少ない。高音は先日の印象同様、立ち上がり鋭く、かつ明るくよく鳴り、実に気持ちがいい。


…と、初秋の巡回報告は以上の通り。秋は空気も乾き、楽器のコンディションも上向く季節だ。楽器は弾いてナンボ。さて、こんなろくでもない与太ブログなど書いていないで、練習に励みましょうかね。


フランシスコ・シンプリシオ1929


ドミンゴ・エステソ1930


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バッハ カンタータBWV78<イエスよ、汝わが魂を>



きのうからきょう未明にかけて台風が足早に駆け抜けた。幸い当地に被害はなく、きょうは台風一過の快晴となった。三連休最終日。これといったこともなく一日を終え、さてあすは仕事という晩。そういえば最近聴いていないなあ、バッハのカンタータ…。とふと思い出し、こんな盤を取り出した。


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きのう9月17日日曜日は、教会暦では三位一体主日後第14主日にあたると知り、この日のためにバッハが書いたカンタータから、BWV78<イエスよ、汝わが魂を>を聴くことにした。例のブリリアント版バッハ全集の一枚。このカンタータは、いわゆるコラールカンタータの中でも名曲として知られ、以下の7曲からなる。

第1曲 コラール合唱『イエスよ、汝わが魂を』
第2曲 二重唱『われは急ぐ』
第3曲 レチタティーヴォ『ああ、われ罪の子』
第4曲 アリア『わが咎を消し去る御血潮』
第5曲 レチタティーヴォ『傷、釘、荊、墓』
第6曲 アリア『今や汝わが良心を鎮むべし』
第7曲 コラール『主はわが弱きを助くと信じたり』

第1曲冒頭から半音階の下降音形による印象的なフレーズが始まる。曲はこの冒頭の音形によるシャコンヌ(パッサカリア)として進行する。第2曲ではイエスの元へと急ぐ足取りが、低弦(指定はヴィオローネ)のピチカートと無窮動風のオスティナートで表現され、それにのってソプラノとアルトが伸びやかに歌う。テノールのレチタティーヴォとアリア(フルートのオブリガートを伴い美しい)に続き、第5曲バスのレチタティーヴォ。そしてオーボエとバスによる二重協奏曲を思わせる第6曲バスのアリアへと続く。数あるバッハのカンタータの中でも名曲として知られ、人気も高い曲だけに、構成するいずれの曲も機知に富みまったく飽きさせない。特にチャーミングな第2曲と、対照的なバスによる第5曲のレチタティーヴォと第6曲のアリアは印象的だ。

ところで、ブリリアント版のバッハ全集は数年毎に新盤がリリースされている。最初のリリースは確か2000年だった。最新版は2014年に出たものが現在も流通している。先日パソコンもネットも無縁という知人が欲しいというので、代行してアマゾンで取り寄せた。一部の演奏が最新版に入れ替わっていたが、声楽曲は以前のものと同じようだ。特筆すべきは再編集によって枚数が140枚とダイエットされ、パッケージも一層コンパクトになったこと。カンタータに関しては、メジャーな録音に比べると見劣りすることもあるが、ヨーロッパで日常的に演奏されている雰囲気を楽しむにはむしろ好適かもしれない。何しろ、ちょっとした飲み代程でバッハ全集が手に入るのは有難い。


独ヴルツブルクのバッハカンタータクラブという団体よる演奏。動画コメントによれば指揮者とソプラノ、バスは日本人とのこと。


こちら方面はまったく疎いのだが、今やマタイ魔笛も歌う初音ミクによる第2曲ソプラノとアルトのアリア。



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アルベルト・ポンセ(G)



雨が降ったりやんだりの日曜日。風邪はほぼ収束するも、何かする気力もなく、終日所在なく過ごす。夕方近くになって何気なく音盤棚を見回し、こんな盤を取り出した。


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フランスのギタリスト:アルベルト・ポンセ。
ポンセ(1935-)は演奏家としてよりは指導者としての印象の方が強いだろう。パリ・エコールノルマル音楽院の教授を務め、ローラン・ディアンスはじめ、福田進一、村治佳織などパリで学んだギタリストの多くはポンセに教えを受けている。取り出した盤は十数年前にネットで箱買いしたLP盤数百枚の中に入っていたもの。1976年仏ARIONレーベルの盤。ポンセはこの頃同レーベルから数枚のアルバムを出していたようだが、今となっては少し珍しいものかもしれない。

収録曲はA面にリョベートやプジョール、B面にはピポー、デ・ラ・マーサ、ブロウエル、ヴィラ・ロボス、セルヴァンテス、カルレヴァーロの作品が入っている。A面冒頭のリョベート;スケルツォ・ワルツから切れのいい技巧と抜群のリズム感、そして流れるような曲の運びだ。プジョールの小品(Cubana,Tonadilla,Tnago,Villanesca,Scottish mandrileno)も美しいメロディーを趣味のいい歌い口で聴かせる。ピポーの歌と踊り第1番もあっさりとした軽みのある演奏、デ・ラ・マーサのハバネラやヴィラ・ロボスのショーロもラテン演歌調にならず趣味がいい。
この盤は総じてラテン系のメロディアスな曲が収められているが、こうしてポンセの演奏で聴くと、ラテンという言葉からイメージするイタリアやスペイン、中南米系の系譜ではなく、『ラテンの雄;フランスの薫りかくや』と思わせる。強烈なタッチやヴィブラートとルバートで押してくるようなラテン系譜とはかけ離れていて、リズムやアーティキュレーションの切れがよく、歌い方も粘らず実に趣味がいい。久々に聴いたが、いいアルバムだ。


この盤録音と同時期1975年の映像。こういう右手タッチの形も最近は見られなくなった。



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布施明



風邪は大事に至ることなく収束方向。きょうは朝から食事もとったし、体調が悪いと受け付けない珈琲も数日ぶりに香りが楽しめた。幸か不幸かこの三連休は台風接近もあってあいにくの予報。さて、のんびり音盤でも聴きながらリハビリにつとめようかと、こんな盤を取り出した。


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手元にある昭和歌謡のLP盤は70枚ほど。まったく脈絡のない集合だが、ほとんどの盤は90年代後半から2000年辺りにかけて手に入れたもの。一部を除いて多くはリサイクルショップのジャンクボックスから@100程で救済してきた。従って盤質は玉石混合で、レコード盤の方ではなく、プレイヤーの針の方が痛むのではないかと思うような酷い状態のものもあって、そんな盤ではスクラッチノイズも盛大に出てくるが、それでも昭和のレコード盤に違いはなく、当時の録音技術、バックバンドの楽器や演奏のレベルなどが当時のままよみがえり、懐かしいことこの上ない。きょうはその中から布施明の盤を選んでみた。盤の状態は極めてよく、若き日の声を存分に楽しめる。

布施明は70年前後シャボン玉ホリデーでお馴染みの顔だった。デビュー当時まだ十代だったが、歌の上手さはよく覚えている。ぼくにとっての布施明は「シクラメンのかおり」以前の、「霧の摩周湖」や「恋」を歌う姿の印象の方が圧倒的に強い。この盤は1968年発売のベスト盤だが、当時はまだ二十歳そこそこであったはずだ。しかし声はよくコントロールされていて、伸びやかでよく通る声が気持ちいい。この頃の歌が今でも歌い継がれる大きな理由の一つは、プロの作詞家によって作られた歌詞と、その日本語を譜割りの音価一つ一つにのせ作った、プロ作曲家の作曲技法によるところが大きいと思う。音程に不自然な跳躍がなく、和声進行も自然で、結果として覚えやすく歌いやすい。今でこそ「そこそこクラシックオタク入ってます」状態のぼくだが、ベースには十代に聴いた歌謡曲や洋楽ポップスがある。歌謡曲もポップスのその和声の源泉は古くからの西洋調性音楽だ。Ⅵ-Ⅱ-Ⅴ7-Ⅰ(Am-Dm-G7-C)の和声進行などは、歌謡曲やポップスに多数見られるが、クラシックではバロック音楽時代以来の常套句。決して異質なものではなく、共通点も多い。遥かイタリアン・バロックに思いをはせつつ、昭和レトロの歌謡曲を聴くのもまた一興だ。


名曲<霧の摩周湖> この盤の音源と同じく初出時の音源と思われる。かぶせてある映像は…90年代以降でしょうかね。


こちらは70年代終わりから80年代初頭か。


2005年だそうです。


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チャイコフスキー 管弦楽組曲第3番



不覚にも風邪をひいてしまった。
まず喉がやられ、さらに鼻、気管へ。きょうは一日鼻水ズルズル、咳もゴホゴホ。仕事にも集中できず。少し早めに退勤し、かかりつけの医者で薬を処方してもらってきた。まったくもって冴えない一日だった。
…というわけで、こんなどうでもいいような与太ブログなど更新せずに床に就くのが賢明なのは承知しているが、たまたまきょうの通勤途上で聴いた曲が気になったので、ちょっとだけヨ~と、この盤を取り出した。


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チャイコフスキーの管弦楽組曲第3番ト長調作品55。例のアンセルメボックスのロシア音楽編全33枚中の1枚。
Disc1,2
・チャイコフスキー:『くるみ割り人形』全曲 Op.71
・チャイコフスキー:管弦楽組曲第3番ト長調 Op.55
・チャイコフスキー:管弦楽組曲第4番ト長調 Op.61『モーツァルティアーナ』
という具合で、管弦楽組曲第3番はナッツクラッカーの続きと、組曲第4番と共にDisc2に収められている。何箇所かで顔を出すヴァイオリンソロは、ルジェーロ・リッチが弾いている。

チャイコフスキーの熱心なファンでも何でもないぼくにとって、管弦楽組曲はこのアンセルメ盤以外に手持ちはない(おそらく…)。つまり、ごく最近までこの曲をFM等で聴き流すことはあっても、まともに対峙して聴いたことはなかった。この曲の評価は様々あるようだが、こうしてあらためて聴いてみると、中々立派な曲。少なくてもチャイコフスキーの個性は十二分に出ていて、楽しめる佳曲だ。
第3番は4つの楽章からなる。第1曲は<エレジー>の副題が付くが、エレジーというほどの悲痛さはない。甘口のセンチメンタルなメロディーと10秒と聴かないうちにチャイコフスキーと分かる管弦楽手法で作られている。第2曲<憂うつなワルツ>は、これもいかにもなチャイコフスキーのワルツ。第1曲<エレジー>よりもメランコリック度数は強いだろうか。第3曲はテンポを上げてスケルツォとなり、第4曲は主題と12の変奏曲から成る。どこかロココヴァリエーションを思わせる雰囲気。前半は型通りに調や楽器を変えた変奏で進むが、中盤以降は少し凝った構成となって、様々な管弦楽技法が繰り広げられ、最後はこれもまたチャイコフスキーらしい華麗なポロネーズで大団円となる。

アンセルメ&スイスロマンドのこの録音はアンセルメ晩年の1968年のもの。他の60年代録音とかなり音の録り方が違っていて、この録音は各楽器の音像が大きめかつ手前に張り出し、少々独自な音響イメージを提示する。年代的には少し古い50年代終盤から60年代中盤までの、自然な広がりを感じる録音に比べると、やや不自然さを感じるのだが、クレジットされている録音技師の名前が異なることから、担当したエンジニアの趣向が反映された音作りになっているものと思う。演奏の細部に聴き耳を立てると、技術的に少々怪しいところや、アンサンブルのカジュアルな部分が気にならないわけではないが、明快な音で起伏に富んだ演奏で悪くない。


ロジェストヴェンスキー指揮アイスランド交響楽団による演奏。ロジェストヴェンスキーといえば70年代のチャイコフスキー交響曲の録音が印象的だった。ナクソスに多くの録音があるアイスランド響とともにいい演奏を聴かせてくれる。


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ワルターのベートーヴェン第二



週半ばの水曜日。天気晴朗。陽射し強く、気温も30度超えの暑い一日。きょうも程々に働き、いつも通りの日常が終了。ひと息ついて、さて、あまり意欲的に聴く気分にはならなかったが、こんなときの元気付けには、これが良かろうと、こんな盤を取り出した。


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ブルーノ・ワルター( 1876-1962)とコロンビア交響楽団によるベートーヴェンの交響曲第2番。このコンビによるワルター晩年の録音の一つ。手持ちのCDでは名演の誉れ高い第6番<田園>がカップリングされている。牛を引くジャケットデザインは確かLP盤<田園>のオリジナルジャケットだ。このコンビによるベートーヴェン交響曲の録音は偶数番号がとりわけ優れているといわれる。ワルターの陽性で温厚な解釈からそういうことになったのだろう(もちろん奇数番号も悪くない)。この盤では2番と6番という組み合わせで、このコンビのよい面が十全に現れている。

第1楽章冒頭から充実した響きがスピーカーからあふれてくる。ワルター晩年の記録を残す目的で録音セッション用に集められたやや小編成のコロンビア響だが、そうしたハンディキャップはまったく感じない。ロスアンジェルスやハリウッドの腕利きを集めただけのことはある。むしろ小編成ゆえにワルターに指示に対する反応がダイレクトに現れて、アクセントやスフォルツァンド、短いフレーズ内でのクレッシェンドなど、少し大仰かと思うほど小気味良くきまるし、低弦群もしっかりと聴こえてくる。いや、むしろ異例といってくらいチェロ・バスの音形やアクセントを強調し、ときにゴウゴウをうなりを上げるほどの迫力だ。スタイルとしてはやや古いドイツ流の様式感で、音楽の味付けとしてはやや濃い口となる。しかしコロンビア響の運動性能はきわめてよく、音楽は鈍重になったり滞ったりはしない。
この2番の圧巻はやはり第2楽章だろう。本ブログでは度々この第2楽章の美しさを語っているが、ワルターの演奏は中でも抜きん出て素晴らしい。手持ちの盤幾多ある中でテンポはもっとも遅く、ゆったりとしたテンポにのせて歌うカンタービレは他では聴けない素晴らしさだ。参考までに第2楽章の時間をいくつかの盤と比較してみた。多くの演奏の平均値に比べると4割も長い。

 14分30秒 ワルター&コロンビア響 この演奏
 12分30秒 クリュイタンス&BPO カラヤンに先立つBPO最初のステレオ盤全集
 11分07秒 スウイトナー&SKB 中庸をいくスタンダード
 10分33秒 カラヤン&BPO 60年代録音
 10分01秒 ノリントン&LCP ピリオドスタイル
  9分59秒 トスカニーニ&NBC

終楽章はもう少しテンポを上げたい気もするが、音楽は充実し切っていて、決め所のティンパニやトゥッティはエネルギーに満ちていて申し分ない。トスカニーニやフルトヴェングラーらと並んで20世紀前半の巨匠時代の一翼を担ったワルターだが、モノラル期までで亡くなった他の二人に比べ50年代後半から60年まで存命し、晩年コロンビア響との良好なステレオ録音が残せたことは幸いだった。


この盤の音源。第2楽章は10分29秒から。


同曲。カール・ベーム( 1894-1981)最後の来日となった1980年ウィーンフィルとのライヴ@昭和女子大人見記念講堂。賛否あった演奏だった。



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ピリスのショパン



日経新聞文化欄の「私の履歴書」。九月から湯川れい子(1936-)が登場している。すでに十話。戦中の幼少の頃を過ぎ、戦後の青春時代から大人の女性に成りつつある頃まできた。きょうは初めてダンスホールへ行き<マンボズボン>を履いたカッコいい男性に誘われるくだりだった。
「私の履歴書」は各界の著名人、第一人者の生涯を連載でたどる。日経新聞という性格上、登場するのは企業人・財界人が多いが、政治家や文化人などもしばしば現れる。いずれも一時代を成した人、その道の第一線を切り開き歩んできた人ということもあって、年齢的には70歳から80歳位の人が多いだろうか。人生の節目になった出来事など、それぞれに面白いが、ぼくが最も興味をもって眺めるのは、それぞれの時代の様子、空気、雰囲気…そんなものだ。
例えば、いま登場している湯川れい子。父は軍人、母は武家の娘。幼少の折は東京山の手に住む。父は務めから帰ると着物に着替える。無駄のない所作でそれを手伝い、脱いだ衣服を手際よくたたむ母。終戦の玉音放送のあと母に呼ばれ、「これからはいろいろな人間がやってくる。もし辱めを受けるようなことがあったら、これで自害しなさい」と、懐刀の使い方を教えられる…。そんな描写を読みながら、ぼく自身の記憶にもない、今となってはおそらく日本のどこにも見られなくなった光景を想像すると、意外にリアルなイメージが頭の中に広がり、もしそうした時代に生きていたら、どんな風に過ごしていただろうかと、とりとめもなく考える。数分で読める連載だが、そこから広がるイメージが存外に大きく、職場の書架から取り出して休憩時間に眺めるのはちょっとした楽しみだ。ちなみに連載小説も今月から新たに林真理子の「愉楽」が始まった。初回からシンガポール駐在の男と人妻との情事の場面で始まり、こちらも仕事の手を休めてリフレッシュするにはちょうどいい塩梅だ。


201709_Pires.jpg


さて、きょうは前ふりが長くなってしまったが…週明け月曜の夜。久しぶりにこんな盤を取り出した。
マリオ・ジョアン・ピリスの弾くショパンの後期作品集。2008年録音の2枚組。収録曲は以下の通り。

<ディスク:1>
ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 作品58
2つの夜想曲 作品62 夜想曲 第17番 ロ長調 作品62の1
2つの夜想曲 作品62 夜想曲 第18番 ホ長調 作品62の2
3つのマズルカ 作品59 マズルカ 第36番 イ短調 作品59の1
3つのマズルカ 作品59 マズルカ 第37番 変イ長調 作品59の2
3つのマズルカ 作品59 マズルカ 第38番 嬰ヘ短調 作品59の3

<ディスク:2>
1. ポロネーズ 第7番 変イ長調 作品61≪幻想≫
3つのマズルカ 作品63 マズルカ 第39番 ロ長調 作品63の1
3つのマズルカ 作品63 マズルカ 第40番 ヘ短調 作品63の2
3つのマズルカ 作品63 マズルカ 第41番 嬰ハ短調 作品63の3
3つのワルツ 作品64 ワルツ 第6番 変ニ長調 作品64の1≪小犬≫
3つのワルツ 作品64 ワルツ 第7番 嬰ハ短調 作品64の2
3つのワルツ 作品64 ワルツ 第8番 変イ長調 作品64の3
マズルカ 第45番 ト短調 作品67の2
マズルカ 第47番 イ短調 作品67の4
チェロとピアノのためのソナタ ト短調 作品65
マズルカ 第51番 ヘ短調 作品68の4

ショパンは1810年に生まれ、1849年に39歳で亡くなっている。この盤にはその晩年1844年以降の作品がほぼ網羅されている。この頃ショパンは体調を崩し、父を失い、ジョルジュ・サンドとの別れもあった。まさに失意の晩年だったろう。若い頃はショパンに対して<女学生が甘ったるい小説を小脇に抱えながら聴く音楽>といった、いささか偏見めいた印象もあって、積極的に聴くことはなかった。しかし近年、特に後期作品やマズルカなどは頻繁に聴き、その良さを実感するようになった。この盤はそんなぼくの最近の心情にジャストミート。滅多に新譜には飛びつかないが、この盤は発売されてまもなく出会い、迷わずレジに持っていた。

ピリスは抑え気味の抑揚で静かにショパン晩年の心情をなぞるように弾いている。オーディオの音量をやや控え目にして聴くとより味わい深く響く。<子犬のワルツ>もピアノ発表会聴くような陽気にパラパラと弾く様には遠い。マズルカは沈み込んだ音調がいっそう聴く側の心を打つ。
チェロソナタは多くのピアノ独奏曲にはない渋い曲想の佳曲。晩年の作品あるいはショパンの作品とは思えない起伏と力に満ちたフレーズもときにあるが、しかし底流には心折れるような悲痛でメランコリックな曲想が流れる。この盤ではパヴェル・ゴムジャコフという1975年ロシア生まれのチェリストが弾いていて、やや暗めの音色でよくこの曲のイメージをつかんでいる。


この盤のプロモーションビデオ。ショパンの晩年作品について語り、弾くピリス。


チェロソナタ。この盤の演奏音源。


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プロフィール

マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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