カレル・アンチェル&チェコフィル 管弦楽名曲集 vol.2



今週は好天続き。まさ秋たけなわ。食欲もりもりでウェストばかりが気にかかる。さて、週末土曜日。野暮用少々片付けながらBGMにこんな盤を取り出した。


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チェコのマエストロ:カレル・アンチェル(1908-1973)が手兵:チェコフィルハーモニーを振った管弦楽名曲集。日本コロンビアからスプラファン・ビンテージ・シリーズとして十年程前に廉価盤でリリースされたもの。今夜聴いたvol.2の収録曲は以下の通り。なおvol.1にはロシア物が収録されている。60年代前半の録音。

1. モーツァルト/歌劇「魔笛」 序曲 K.620
2. ベルリーズ/序曲「ローマの謝肉祭」 作品9
3. ウェーバー/舞踏への勧誘 作品65
4. リスト/交響詩「前奏曲」S.97
5. ウェーバー/歌劇「ウィリアム・テル」 序曲
6. R・シュトラウス/交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」
7. ワグナー/歌劇「ローエングリン」第1幕への前奏曲

この手の名曲集の聴きどころは、名曲として名高いオーケストラピースをまとめて聴けるということが第一だが、もう一つ、指揮者とそのオケがそうしたよく知られた名曲をどう料理するかという点だろう。この盤に聴くアンチェルの楽曲に対するアプローチや解釈は実に明快だ。ひと言でいうと、ビールのCMのようだが「キレのよさ」だろうか。19世紀独墺系指揮者のロマンティシズムに根ざしたようなイメージとは正反対といっていい。

冒頭の「魔笛」序曲の数小節を聴いただけで、そのキレのよさは十分にわかる。トゥッティのアインザッツに曖昧なところがなく、スパッと竹を割ったように響く。付点音符の扱いも、旗の長い方の音符をやや短めに切り上げ、同時に旗の短い方の音価も少し切り詰めリズム感をはっきり出そうという意図がわかる。魔笛は主部に入っても速めのテンポで前へ前へと進む。だが不思議なことに、一部の若手指揮者にときどきあるように音楽が前のめりになる感じはしない。速度は速いが安定しているのだろう。ローマの謝肉祭も速めのテンポながらラテン系指揮者にあるような上っ面だけの華々しさとは次元を異にする。一方で、交響詩「前奏曲」や歌劇「ウィリアム・テル」序曲、ローエングリンなどでは深いドイツの響きともいうべき要素も十分に感じさせる。リヒャルト・シュトラウスのティルも間然するところがない。この盤が録音された60年代前半のチェコフィルのアンサンブルや音質も正に黄金期だろうか。アンチェルのキレのいい筋肉質の解釈にぴたりと寄り添い、素晴らしい演奏を展開していてまったく飽きさせない。

自分以外の家族が全員アウシュビッツに送られたという悲劇を背負っているアンチェル。同じ1908年生まれには、カラヤン、カイルベルト、朝比奈隆らがいる。当地群馬交響楽団の首席客演指揮者だった名匠マルティン・トゥルノフスキー(1928-2021)はアンチェルに学んだ。1968年プラハの春を機に亡命。晩年はカナダに移り住んでトロントのオケを振ったりもしたが、この盤を録音した60年代前半がもっとも幸福な時期だった。


この盤の音源。「魔笛」序曲


同 「ローマの謝肉祭」



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この演奏、お気に入りです。

アンチェルとチェコフィルの「魔笛」序曲の演奏にあらためて魅了されました。ほんとにいいですね。
https://blog.goo.ne.jp/narkejp/e/80c8b88eba917864226c2e065634b275


Re: この演奏、お気に入りです。

narkejp さん
山形はそろそろ冬支度でしょうか。そういえば、来年4月から当地群馬交響楽団の首席指揮者として山響を大きく育てた飯森範親氏を迎えることになりました。昨年から音楽アドヴァイザーとして何度か客演指揮していましたが、来年から本格的に飯森&群響としてスタートするとのことです。きっと意欲的な活動を牽引してくれるものと期待しています。
アンチェル…「魔笛」序曲に限らず、アンチェルの演奏は唯一無二の感が強いですね。もう少し世代が違っていたらピリオドスタイルを志向したかもしれないなあと感じます。
プロフィール

マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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