スウィトナー&SKBのブルックナー第五



令和五年如月。程々に働き、夜7時過ぎに帰宅した。相変わらずの日常。ひと息ついて、部屋の片付けをしながらBGM代わりに、この盤を取り出した。


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ブルックナーの交響曲第5番。オトマール・スウィトナー(1922-2010)とベルリン歌劇場管弦楽団(シュターツカペレ・ベルリンSKB)による1990年1月の録音。手持ちの盤は10年程前にキングレコードから廉価盤でリリースされたときのもの。同コンビによるブルックナーは1986年の第8番以降順次録音がなされ、1、4、7、そしてこの5番まで進んだところでスウィトナーの病気により中断。折からの東西ドイツ統合、SKBシェフ交代(スウィトナー⇒バレンボイム)もあって、結局全曲録音には至らなかった。

音が出始めていきなり驚く。第1楽章冒頭、低弦群のピチカートのテンポが速い。思い入れもなくスイスイと歩みを進める。これには少々拍子抜けだ。この曲を半世紀近く前にケンペとミュンヘンフィルの盤で知り、馴染んだ耳には、この第1楽章のピチカートはもっと意味深く弾いてもらいたい。もちろんゆったりとしたテンポがほしい。主部に入っても音楽は横へ横へとスムースに流れていく。縦に杭を打ち込んでいくようなスタイルではない。気になったので手持ちの盤のいくつかについて、第1楽章の演奏時間を調べてみた。

スウィトナー&SKB     18分41秒
マタチッチ&チェコフィル 19分25秒
ケンペ&MPO        20分56秒
チェリビダッケ&MPO    23分21秒

やはり最速だ。音響として軽くはないし、SKBは極上のバランスで素晴らしい音を録音会場のイエス・キリスト教会に響かせている。ただ、いささか食い足らない。アダージョ指定の第2楽章も速めのテンポに変わりなく、音楽はもたれることなく先へ先へと進む。続く第3楽章スケルツォもさぞ急速調かと思うと、ここは中庸で落ち着いた運びとなる。そしてこの曲の聴きどころ最終楽章。クライマックスの二重フーガへの道のりも速め速めに進んでいく。繰り返すが、オケの音響は素晴らしく、管楽器群のバランスも良好で不足感はない。思い起こせばスウィトナーはそういうタイプではない。総じてこのブルックナーは、第5番と聞いて連想するような、壮大なゴシック建築を築き上げていくような演奏ではなく、テンポをかなり自在に動かしつつも美しくスムースに流れるブルックナー。時代を少し遡った古典期から初期ロマン期に軸足を置いた演奏と感じる。ケンペ盤やチェリビダッケ盤の対極ともいえる演奏として価値ある録音だ。


この盤の音源。全4楽章



以下のサイトに、この録音の少し前に録られたブラームス「ハンガリー舞曲」録音にまつわる話と晩年のスウィトナーの様子を伝える話が載っている。
http://columbia.jp/kono1mai/075suitner.html


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第5番-冒頭 低音弦ピッツィカートのテンポ

失礼します、時々ですが おじゃまして 楽しく拝読しております。
ご紹介の スウィトナー/SKB ブルックナー第5番、恥ずかしながら 今まで知りませんでしたが、貴記事にリンクされた動画で 実際に音を聴いた瞬間、冒頭テンポの選択に、与太さまとはまた異なる感慨でびっくり・・・ それは(私の)個人的な思い入れ深いクナッパーツブッシュ/WP(DECCA)盤と ほぼ同じ速さだったからです(第1楽章 18分43秒)。
私 “スケルツォ倶楽部”発起人が、かつて同曲に初めて耳馴染んだ演奏こそ(幸か不幸か)クナッパーツブッシュ盤でした。与太さまの場合とは真逆に、この快速スピードが幼い頃から脳に刷り込まれてしまい、その後 他のどのレコードを聴いても違和感に苛(さいな)まれるという後半生(笑)でした。
なにしろカラヤンもヨッフムもインバルもみんな「標準」スピード・・・こんなテンポをとる演奏など他に皆無、どうせクナ盤だけなんだろと思っていたら、あの堅実なイメージのスウィトナーが!という驚きの情報・・・ ありがとうございます!
それにしても・・・スウィトナーがクナッパーツブッシュから指導を受ける機会など さすがになかったでしょうが(スウィトナーが修業時代を過ごした地域で二人に共通する場所はミュンヘンだけ)ドイツ/オーストリアのどこかローカルな伝統なのか、それとも単に偶然なのか・・・ 謎です。
ともあれ、興味深い音盤のご紹介、ありがとうございます。貼られた動画を最後まで聴きながら、勝手に楽しく考察させて頂きました (^^)v

Re: 第5番-冒頭 低音弦ピッツィカートのテンポ

スケルツォ倶楽部発起人さま>
こんにちは、コメントありがとうございます。
クナッパーツブッシュ&ウィーンフィル盤も手元にあり、それも初めて聞いたとき、その速さに驚きました。記事に書いた通り、ケンペ&MPO盤ですり込まれたら、他のほとんどの演奏は速く感じてしまいますよね(^^; チェリビダッケの時間を記しましたが、ケンペは主部に入ってからは決して遅くないので、序奏だけなら、ケンペ盤が一番遅いだろうと思います。しかも冒頭の最弱音ピチカートは、LP時代にはよほどSNの良いシステムでないと、まともに聴けませんでした。
http://guitarandmylife.blog86.fc2.com/blog-entry-2470.html
ベートーヴェンやブラームスなど、他のケンペの演奏は概してすっきり速めのテンポ感なので、このブルックナー第5は取り分け異例に感じます。それが何に起因しているのか分かりませんね。 また気になったことがあったらコメント下さい。宜しくお願いいたします。
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マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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