週末土曜日の午後。暑さも手伝って散らかり放題だった道楽部屋を片付け、清々としたところでアンプの灯を入れ音盤タイム。久しぶりにこの盤を取り出した。

本ブログに登場するチェリストの中でもイチ押しのアントニオ・ヤニグロ(1918-1989)が弾くベートーヴェンのチェロソナタ集。ピアノはウィーン三羽烏の一人イエルク・デムス(1928-2019)。録音は1964年ウィーン。手持ちの盤は十数年前に日本コロンビアから廉価盤で出たときのもの。
ヤニグロを最初に知ったのは指揮者としてだった。その昔、70年代に出ていた廉価盤LPでザグレブ室内管弦楽団の指揮者として名を連ねていた。それ以前の50~60年代、もっとも嘱望されたチェリストの一人だったが、手の故障もあって指揮に重きをおくようになった。きょうはこの盤に収められた5曲の中から第1番ヘ長調を聴いている。
ベートーヴェンの5曲あるチェロソナタのうちでもっともポピュラーなのは第3番イ長調だが、マイ・フェイバリットはこの第1番ヘ長調だ。以前チェロ相方と話をしていた際、彼女も第1番が好きだと言っていた。第1番は二つの楽章から出来ているが、その第1楽章冒頭のアダージョ・ソステヌートの序奏が素晴らしい。荘重な雰囲気の中に美しい歌があふれる。この序奏だけでもこの曲を聴く価値があるだろう。主部に入ってまず気付くのはピアノパートの雄弁さだ。もちろん単純な伴奏音形に留まることはなく、しばしば主旋律を取り、チェロが脇役に回る。チェロとピアノの協奏ソナタと言ってもいいほどだ。
ヤニグロのチェロは何を聴いても高貴で美しく、申し分ない。協奏的に合わせるピアノのデムスも全盛期だろう。古典的な折り目正しさを守りつつ、ロマンティックなフレーズも歌い過ぎず、終始品格の高い音楽に満ちている。ベートーヴェンというだけでエモーショナルな表現で押す演奏がありがちだが、そうした演奏とは一線を画す名演だと思う。
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この盤の音源。第1番・第1楽章から始まり、第3番までの再生リスト。
第1番の楽譜付き音源。ブレンデル親子による演奏とのこと。
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先日来の流れで、きょうもベートーヴェンの室内楽。取り出したのはこの盤。

ベートーヴェンの弦楽五重奏曲を二つ収めたアルバム。スークカルテットにヴィオラが加わっている。1976年録音のチェコ:スプラフォンレーベルの一枚。手持ちの盤は1983年にミッドプライスで出たときの盤。今夜はその中からハ短調作品104に針を降ろした。
好事家の方はご承知の通り、この曲はオリジナルの五重奏曲ではない。原曲はピアノ三重奏曲 変ホ長調作品1-3 。このLPの解説ではベートーヴェン自身の編曲と書かれているが、現在では他者の編曲によるものとされ、ベートーヴェンが僅かながら関わっている、というのが定説のようだ。曲は4つの楽章からなる。
第1楽章はベートーヴェンの名刺代わりとでもいうべきハ短調で書かれているが、原曲が初期の作品であることもあって、中期以降のような深刻な雰囲気はなく、冒頭はそこそこ悲劇的な開始ではあるが、展開の深さは程々。総じて短調調性のシンプルなフレーズが歌われる。第2楽章は民謡調の主題によるベートーヴェン得意の変奏曲。第3楽章は型通りメヌエットが置かれているが、軽やかな雰囲気はなく中々重厚な響きになっている。終楽章もソナタ形式で中身濃く書かれていて、充実した楽章だ。
楽譜を仔細に見比べたわけではないが、原曲のピアノパートをともかく弦楽に移植したものなのだろう。娯楽要素の高いサロンコンサート用の需要が多かった当時の音楽界にあっては、ピアノがなくても弦だけで演奏できるように、あるいは弦の得意な貴族向けに、といった要請から、本人作、他者作を問わず、こうしたアレンジが成り立っていたものと思う。原曲の曲想を尊重しながらも、仲間内のアンサンブルで楽しむといった雰囲気が感じられる。
WDR響のメンバーによる演奏
スコア付き音源
原曲のピアノトリオ作品1-3の第1楽章。 ピアノが入ると音楽が俄然色彩を帯びる。
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先日聴いた「ラズモフスキー」で思い出し、きょうはこの盤を取り出した。

ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第11番ヘ短調「セリオーソ」作品95。手元にはアルバン・ベルクカルテットの盤(初回録音)、ゲヴァントハウス四重奏団の比較的新しい録音などがあるが、今夜は50年代モノラル時代の名盤、バリリSQの全集盤を取り出した。手持ちの盤は60年代のおそらく国内初出盤。ミント状態のボックス入りセットに980円のプライスタグが付いているのをリサイクルショップで見つけ、小躍りして買い求めた記憶がある。
「セリオーソ」というベートーヴェン自身が付けた題名通りの曲想。中期から後期に至る狭間に作られ、ラズモフスキーセットのような問答無用の充実感とはひと味違う凝縮感。全4楽章通しても20分程で決して大きな曲ではないし、いかにもベートーヴェンという展開に圧倒される感もない。
第1楽章は切羽詰まったような主題で堰を切ったように始まるが長くは続かず、ふと緊張の糸を緩めたように力を抜くフレーズが現れる。以降も所々煮え切らない様子が続く。 第2楽章は安息に満ちた主題で始まる。しかし不安そうな気配が続き、意味深長な減七和音で擬終止したのち 第3楽章がアタッカが始まる。 第4楽章も哀歌を聴かせながらも、最後は突然あっけらかんとしてFdurに転じてしまう。ベートーヴェン自身の模索とも諧謔とも言われる理由がよく分かる曲だ。
バリリSQの演奏は、たっぷりとしたヴィブラート、時に波打つような大きな抑揚表現など、現代的視点でいうとひと世代前のスタイル。アンサンブルの精度も昨今のレベルからみると見劣りする。しかし、モノラル盤の太く温度感のある音質も手伝って、この曲の凝縮感に程よい肉付きを与えたような演奏で中々好ましい。
バリリSQによるこの盤の音源。
マーラーはベートーヴェンやシューベルトなどの曲をいくつか編曲・改編している。「セリオーソ」にもマーラー編の弦楽合奏版がある。当然だが、弦四編成とはまったく印象が異なる。マーラーの意図通りだろうが、ロマン派色が濃厚になり、そぎ落とされた凝縮感でなく、悲劇性と同時に豊かな抒情性が表出する。素材の良さは紛れもなしというところだろう。大阪音大のオケによる第1楽章。(第2楽章以下もあり)
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室内楽、最近あまり聴いていなかったと思い、久しぶりにこの盤を取り出した。

ベートーヴェンの弦楽四重奏曲第7番ヘ長調作品59-1。数年前に手に入れたゲヴァントハウス四重奏団による全集盤中の1枚。2002年録音。手元にあるベートーヴェン弦四はバリリSQのモノラル盤全集LP、ABQの中期作品、ラサールSQの後期作品がある。このゲヴァントハウス四重奏団の盤は、比較的新しい録音で何か全集盤リファレンスをと思い、手に入れた。
この曲は弦楽四重奏第7番というよりは、ラズモフスキー第1番と呼ばれる方が多いかもしれない。中期弦楽四重奏を構成するラズモフスキーセットの3曲は規模・大胆な曲想等、前期作品の作品18の6曲と一線を画すといってよい傑作揃いだ。今夜取り出した第7番作品59-1も40分近くを要する大曲だ。
ヘ長調の明るい曲調で始まる第1楽章は周到に作られたソナタ形式。特に展開部では曲の勢いを増すだけの構成ではなく、フーガも導入されて各パートごとの対比や緊張感の表現が見事。この作品を含む<傑作の森>を実感させてくれる。さらにこの曲では第2楽章にスケルツォ、第3楽章にアダージョの緩徐楽章がおかれている。構成の上、第9交響曲の先取りのようでもあるし、曲想そのものも豊で飽きさせない。発表当時「冗談だろう」と言われたスケルツォの出だしのチェロのリズムがブルックナー第7のスケルツォを思わせるし、ヘ短調に転じる第3楽章の悲痛な歌では全楽章を通して活躍するチェロが一層雄弁に語る。 ゲヴァントハウス四重奏団のこの演奏は現代風のスッキリ系で、演出臭さも皆無。スコアを素直に再現している感があって好感がもてる。古いバリリSQの弾く第3楽章はどんな感じだっただろうか。いずれも聴き直してみようと思う。
この盤の音源。全4楽章
スコア付き音源。エマーソンSQの演奏とのこと。
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きのうの土曜日、当地は冷たい雨に見舞われた。前日は春を通り越して初夏を感じさせるほどの陽気だったが、一転。しまい込んだ厚手の上着を取り出した。 さて、ここ数日、先日組み立てた小型スピーカーのエイジングを兼ねてあれこれ聴いている。きょうはアルゲリッチはお休み。プレイヤーにセットしたのはこの盤だ。

ローラ・ボベスコ(1921-2003)の弾くモーツァルトのヴァイオリンソナタ他の2枚組。1981年来日時に新座市民会館でセッション録音されたもの。ピアノはボベスコと若い頃から組んでいるジャック・ジャンティ。手持ちの盤は十数年前に出たタワーレコードの企画盤<ヴィンテージコレクション>の一枚。収録曲は以下の通り。
ベートーヴェン:
ヴァイオリン・ソナタ第5番ヘ長調「春」
ヴァイオリン・ソナタ第9番イ長調「クロイツェル」
モーツァルト:
ヴァイオリン・ソナタ第34(27)番変ロ長調K.378
ヴァイオリン・ソナタ第40(33)番変ロ長調K.454
ヴァイオリン・ソナタ第28(21)番ホ短調K.304
1921年生まれ(生年は諸説あり)のボベスコは2003年に亡くなるまで長いキャリアを持ち、きっとぼくらより少し上のオールドファンに馴染みが深いだろう。名声に比して来日は遅く1980年、熱心なファンによる個人招聘で初来日して一気に人気沸騰。以来8回に渡って来日を重ねた。かつてはブロンドの美貌ヴァイオリニストとしても知られ、この盤が録音された還暦を過ぎた頃の写真を見ても往時の美しさをうかがい知ることができる。
先ほどから絞り気味のボリュームでモーツァルトのソナタを聴いている。おそらくコンサートヴァイオリニストとしての彼女のピークは50年代から60年代ではないだろうか。その意味では、この盤はすでに往時のピークを過ぎた頃の録音ではあるが、却ってそのことが奏功し、決して騒がず。控えめな音量で楚々とした弾きぶりで、モーツァルトのこうしたソナタに相応しい。すべての音にヴィブラートがかかったような、そして音がしずくとなってこぼれ落ちそうな音色も他に類をみない。セッション録音ではあるが、何か親しい仲間うちでのサロンコンサートを聴く趣き。こうした特質はK.378の優美で成熟した曲想にぴたりだ。K.454第2楽章の美しさも極上。モーツァルトのヴァイオリンソナタ中唯一の短調作品K.304はやや速めのテンポをとり、感情過多になることなく弾き進められる。音色やボーイングはややオールドファッションでありながら、テンポ設定や抑揚は意外にもすっきりとした造詣で、全体として音楽の品格が高く、優美この上ない。
手持ちの盤からアップした。K.304 第1楽章
同第2楽章
以前、K.304をヴァイオリン・チェロ・ギターのアレンジで遊んだことがある。
http://guitarandmylife.blog86.fc2.com/blog-entry-938.html
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きょうも俄かアルゲリッチ愛が止まらない! 今夜取り出したのはこの盤だ。

ミッシャ・マイスキー(1948-)とマルタ・アルゲリッチ(1941-)による2003年ブリュッセルでのコンサートライブ。収録曲は以下の通り。
1.バレエ「プルチネルラ」~イタリア組曲~チェロとピアノのための (ストラヴィンスキー)
2.チェロ・ソナタ ハ長調op.11(プロコフィエフ)
3.チェロ・ソナタ ニ短調op.40 (ショスタコーヴィチ)
4.バレエ「石の花」op.118~ワルツ~チェロとピアノのための編曲(プロコフィエフ)
アルゲリッチとマイスキーは実年齢の差以上にひと世代違う感じだが、随分前から共に世界のトップであることには違いはない。二人が初めて会ったのは70年代初頭。その後70年代後半からは度々共演するようになったとライナーノーツに記されている。随分前から、あるいはマイスキーが国際的に知られる存在になる前からデュオを組んでいたことになる。アルゲリッチはいつの頃からか、ソロ活動よりもピアノを始め他の楽器とのデュオを活動の中心におくようになった。ネルソン・フレイレ、クレーメル、そしてマイスキー等々。このうちマイスキーとのデュオがコンサート、録音とも最も活発だったろうか。
マイスキーとアルゲリッチという当代トップの二人の演奏という前に、このアルバム、ロシア物でまとめた選曲がまずいい。ストラヴィンスキーの<プルチネルラ>で華やかに始まり、プロコフィエフのチェロソナタで豊かな歌が歌われ、そしてショスタコーヴィッチで深い抒情と悲劇性につつまれる。本格的にして、エンターテイメントとしても文句なしだ。
ストラヴィンスキーを聴くと、このデュオの性格が明快に分かる。擬バロックの整った佳曲らしく楚々と始まるが、まもなくデュオとしての感情表出がそこここに出てくる。1小節の僅かな間、ひと呼吸のワンフレーズの間にディナーミク、アゴーギグの変化が仕組まれ、この曲を素材としてデュオとしての表現があふれ出る。もちろん、どちらが主役とはいわず、まさに双頭のデュオ。単なる伴奏にとどまらないアルゲリッチの表現意欲満々の弾きぶりで、曲もいきいきと迫ってくる。
この盤の音源でプロコフィエフのチェロソナタ。
このコンビによる2020年の無観客ライヴ。最初に二人のソロでバッハ作品(無伴奏チェロ組曲、パルティータ)、続いてベートーヴェンのソナタ第2番、ブロッホ「コルニドライ」、ショパンのソナタ(第3楽章)と続く。贅沢なライヴ。
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4月に入って穏やかな日が続いている。週半ばの木曜日。いつも通りの音盤タイム。今夜は気分を変えてバロックにしようかと、この盤を取り出した。

モーリス・ジャンドロン(1920-1990)の弾くヴィヴァルディのチェロソナタ集。1967年録音。手持ちの盤は1978年に出た国内盤。十数年前、例によって出張先の大阪梅田の中古レコード店で見つけて買い求めた。通奏低音をマリケ・スミト・シビンガ(ハープシコード)とハンク・ランク(チェロ)という奏者が受け持っている。収録曲は1740年にパリでセット出版された以下の6曲が収められている。
第1番変ロ長調 RV47/第2番ヘ長調 RV41/第3番イ短調 RV43
第4番変ロ長調 RV45/第5番ホ短調 RV40/第6番変ロ長調 RV46
チェロソナタというとベートーヴェン他古典期以降の作品がまず思い浮かぶ。バッハは有名な無伴奏作品を残しているが、ソナタは書いていない。ソナタとしてよくチェロで演奏されるのはヴィオラ・ダ・ガンバと通奏低音のためのソナタだ。バロック期を通して、チェロのためのソナタは古典期以降から現代までのチェロの位置付けからすると予想以上に少ない。そんな中、このヴィヴァルディのセットは当時まだ通奏低音担当楽器の役割が強かったチェロにスポット当てた作品として現在でもチェロ弾きに愛好されているようだ。本盤のライナーノーツによれば、ヴィヴァルディは6曲をセットとして書き、調性的にも考慮されているとのこと。形式としては、緩・急・緩・急の教会ソナタ形式を採っているが、いくつかの曲ではアルマンドやクーラントといった舞曲名が指定されていて、バロック期組曲形式の様相もみせる。
さてジャンドロンのヴィヴァルディ。穏やかな音色と過激にならない弾きっぷりで、陽気なイタリアン・バロックのイメージとは少々趣きを異にする。当時、楽器指定のない通奏低音パートにはハープシコードに加え、ガンバ族やリュート族が主流だったろうが、この盤ではソロと同じチェロが使われている。もちろん通奏低音側のチェロは控え目な音量と弾きぶりだが、ハープシコードだけの通奏低音に比べ音楽は厚みを増して2本のチェロが絡み合いながら進み、その間をハープシコードのリアライゼーションされた通奏低音が響くというもので、さながらトリオソナタを聴いているかのように感じる。とりわけハープシコード弾いているマリケ・スミト・シビンガによるリアライゼーションが雄弁で、独奏チェロ以上に聴き惚れてしまう。
実はこのセットの中から第1番変ロ長調を数年前、チェロ弾き相方と弾いたことがある。通奏低音として相方知人のチェロと共にぼくもギターで参加した。通奏低音の素養はまったくないので、リアライゼーションされた出版譜(レナード・ローズ版他)を参考に弾いたことを思い出す。
ジャンドロンによるこの盤全6曲の音源。たっぷりとしたボウイングとヴィブラート。今となっては懐かしい響きだ。
第1番変ロ長調。ピリオドアプローチのチェロ、オルガンによる通奏低音。
ギターソロ版の第1番。 IMSLPでMartin Graysonによる編曲が二つ(A-dur、D-dur)見られる。
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