作曲家・指揮者の外山雄三氏が亡くなった。享年92歳。合掌

かつて外山氏の指揮者としての姿をテレビでよく目にした。70年代初頭、群馬交響楽団と市民合唱団による初めてのベートーヴェン第九交響曲が演奏された際に外山氏が指揮棒を取った。当時、浪人生だったぼくにとっては初めての第九の実演であり、人生最初で最後のブラヴォーを叫んだ思い出の演奏会でもあった。そんなことを思い出しながら、きょうはこの盤を取り出した。
1980年・昭和55年にキングから出た「現代日本の音楽名盤シリーズ」中の一枚。外山雄三「管弦楽のためのラプソディ」の他、小山清茂作曲「管弦楽のための木挽歌」や尾高尚忠「フルート協奏曲」など、シリーズの第1巻とだけあって人気がありかつ名曲定番の日本現代音楽が収められている。 邦人作品全般の中でも名曲の誉れが高い、指揮者尾高忠明氏の父に当たる尾高尚忠(1911-1951)のフルート協奏曲で心を落ち着かせたあと、外山雄三の「管弦楽のためのラプソディ」に針を降ろした。
「管弦楽のためのラプソディー」は1960年代NHK交響楽団の海外公演に際してアンコールピースとして使われ人気となった。「あんたがたどこさ」の手まり歌に始まり、ソーラン節、炭坑節、などの民謡がにぎやかに続く。中間部では信濃追分がフルートソロで抒情的に歌われる。そして後半は、おらが郷土のソウル・ミュージック「八木節」が登場。打楽器群の派手なデモンストレーションに続き、聴きなれた八木節が管弦楽技法を凝らして展開される。久々に聴いたが、やはり痛快な曲だ。群馬県人でなくても心踊るに違いない。
作曲家としての外山雄三の作品、業績については寡聞にして不案内。よく知られるこの曲は名刺代わりではあっても、氏にとっては軽い余技程度のものだったかもしれない。しかし多くの愛好家にとってはいつまでも耳に残る名曲といっていいかと思う。
懐かしい80年代N響オールスターズともいえる面々による演奏。ホルン千葉馨やフルート小出信也…指揮は外山雄三。
この盤の音源。昭和36年(1961年)4月文京公会堂でのセッション録音。手持ちのLP盤でも当時の録音技術の高さがうかがえる好録音。
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先日の記事に書いた草津夏期音楽アカデミー.。そのオーケストラコンサートで指揮をとるアントニー・ヴィットで思い出し、きょうはこの盤を取り出した。

ナクソス盤の「ウェーバー序曲集」。ナクソスに多くの録音を残しているポーランドの指揮者アントニ・ヴィット(1944-)がニュージーランド交響楽団を振った1枚。2006年録音。収録曲は以下の通り。
「オイリアンテ」序曲
「ペーター・シュモルとその隣人たち」序曲
「オベロン」序曲
「幽霊の支配者」序曲
付随音楽「トゥーランドット」のための序曲と行進曲より序曲と第2幕の行進曲
「プレチオーザ」序曲
「シルヴァーナ」序曲
「歓呼」序曲
「アブ・ハッサン」序曲
「魔弾の射手」序曲
ウェーバーの序曲というと<魔弾の射手><オベロン><オイリアンテ><アブ・ハッサン>辺りがコンサートでもCDでも、ほぼこの順番の頻度で取り上げられる。ぼくもこの盤を手にするまでの他の曲はまったく覚えがなかった。あらためて聴いてみると、やはりこれら常連組はよく出来ている。元々の歌劇そのものを聴かずして、その序曲を語る資格などないのだろうが、有名な<魔弾の射手>や、ぼく自身もっとも好きな<オベロン>などは、エンターテイメントとしてのオペラのエッセンスがドイツ音楽の伝統の中に調和する。ドイツの深い森をイメージさせるホルンや、雄弁なチェロのフレーズなど、いつ聴いても心おどる。
アントニ・ヴィット(1944-)は日本のオケにも度々客演している大ベテラン。ぼくも当地群馬交響楽団の定期で聴いたことがある。テンポは速からず遅からずで、いずれの曲も聴かせどころでは、しっかりカタルシスを感じさせてくれる指揮ぶり。80年近い歴史を持つ実力十分のニュージーランド交響楽団の好演もあって、文句なしの出来栄えだ。録音も良好。低音重視のピラミッド型音響とは異なる、すっきりと見通しのよい音で各パートの分離やバランスがとてもよい。静寂の中から立ち上がる透明感のある音響は、このオケの個性と録音会場ウェリントン・タウンホールの音響によるものだろう。カラヤン、クーベリック、サヴァリッシュといった独墺系指揮者のウェーバーとは趣きが異なるが、この盤も現代的で明快な演奏として一聴の価値有りかと。
この盤の音源で「オベロン」序曲 独墺系序曲類の中ではもっとも好きな曲の一つ。
同 「オイリアンテ」序曲
「魔弾の射手」序曲 スウィトナー指揮NHK交響楽団。徳永(弟)・山口の1stVnツートップ。チェロ徳永(兄)他、懐かしき昭和のN響。
演奏機会の少ない「歓呼」序曲 最後に英国国家がワンフレーズ入る。シノポリとこの曲ゆかりのシュターツカペレ・ドレスデン。 例によって!マークが出るので、YouTubeで見るとクリック。 それにしてもゼンパーオパー…雰囲気満点だなあ
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ここ数日、梅雨末期を思わせる不安定な天気が続く。きょうもじわじわと蒸し暑い一日。電気料金を気にしつつもエアコンとアンプをオン。ちょっと気分転換にこんな盤を取り出した。

ドヴォルザークの序曲「謝肉祭」。パーヴォ・ヤルヴィ指揮ロイヤルフィルハーモニーの演奏。例によって激安ボックスセットの雄ブリリアントレーベルのドヴォルザーク交響曲全集中の一枚。1994年録音。
交響曲のいくつかとチェロ協奏曲が突出して有名なドヴォルザークだが、他にももちろん多くの名曲がある。管弦楽曲だけでも、4つの交響詩、いくつかの序曲、伝説曲、チェコ組曲、アメリカ組曲やセレナーデ、スラヴ舞曲など、思い出してみると結構な曲数にのぼる。そんな中にあって、序曲「謝肉祭」は10分足らずの小品ながら演奏頻度も高い人気の曲。中間部にフルートとオーボエによる美しい緩徐部をはさんで、前後はまさにボヘミアの謝肉祭を連想するような素朴で賑やかなフレーズが続く。もちろんドヴォルザークらしい、どこか懐かしいメロディーにあふれ、おそらく初めて聴いても一緒に口ずさみたくなるだろう。充実した交響曲作品の箸休めに好適な佳曲だ。
この盤の音源
2012年のプロムスでの演奏。この曲は中間部をはさんだソナタ形式で出来ている。懐かしさあふれる第2主題は1分47秒から。ここを聴いただけでドヴォルザークの曲と察しがつく。美しい中間部は3分50秒から。イングリッシュホルン、そしてフルート、オーボエが続く。中間部が終わるとソナタ形式展開部に相当するフレーズが続く。7分25秒過ぎからは、バロック期以来20世紀ポップス、昭和歌謡まで続くお馴染みのコード進行VI-II―V-Iが聴ける。指揮をしているのは1946年プラハ生まれのイルジー・ビエロフラーヴェック。90 年代後半にBBC響へデヴューし2006年に首席指揮者に。そんなイギリスとの縁からプロムスに出たのだろう。
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先日、野暮用あって神田神保町へ繰り出した際、ひと休みしようと入った喫茶店でワグナーの「タンホイザー」が流れた。幾度となく聴き馴染んだ曲だが、偶然入った店で流れていたこともあって、何だか懐かしい光景に出会ったような気分になった。帰宅後、思い出したようにこの盤を取り出した。

クラウス・テンシュテット(1926-1998)とベルリンフィルによるワグナー管弦楽曲集。1980~83年録音。手持ちの盤は十数年前に廉価盤で再発されたときのもの。収録曲は以下の通り。
Disk_1
1.楽劇「ワルキューレ」~ワルキューレの騎行
2.楽劇「神々の黄昏」~夜明けとジークフリートのラインへの旅
3.楽劇「神々の黄昏」~ジークフリートの死と葬送行進曲
4.楽劇「ラインの黄金」~ヴァルハラ城への神々の入城
5.楽劇「ジークフリート」~森のささやき
6.楽劇「ワルキューレ」~ヴォータンの告別と魔の炎の音楽
Disk_2
1.歌劇「タンホイザー」序曲
2.歌劇「リエンツィ」序曲
3.歌劇「ローエングリン」~第1幕への前奏曲
4.歌劇「ローエングリン」~第3幕への前奏曲
5.楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」~第1幕への前奏曲
Disk_1の<指環>抜粋編も魅力的だが、今夜はDisk_2の序曲・前奏曲編をプレイヤーにセットしプレイボタンを押した。 タンホイザー序曲が木管のアンサンブルで静かに始まる。ゆったりとしたテンポで木管群がテーマを吹き終えると弦の副旋律が絡んでくる。そして迎える最初のクライマックス。ここまで聴いただけでテンシュテットとベルリンフィルとのこの演奏の素晴らしさに納得する。遅めのテンポ設定、息の長いフレージング、深いアインザッツ、いずれもがワグナーの演奏に相応しい。後年、カラヤンの跡を継いた某指揮者によって骨抜きにされたと揶揄される以前のベルリンフィルの音が堪能できる。分厚い弦の響き、よく溶け合う管楽器群、ここしかないという絶妙のタイミングで入るティンパニーの一打。いずれもドイツの権化・ワグナーの演奏に相応しい。EMIの技術陣もデジタル録音の場数を踏んだためか、アナログ期からデジタル期への移行時期に録られた同じテンシュテットのマーラー全集に比べると混濁感が少なく、よい録音だ。
続く「リエンツィ」序曲。もちろんこの曲自体は昔から知ってはいたが、テンシュテットの演奏によって初めてこの曲の魅力が分かったといってよい。この演奏も前半の抑えた表情とゆったりとしてテンポ、そして後半のエネルギッシュな前進との対比が素晴らしい。金管群が吹くフレーズごとに内在するエネルギーがどんどん膨れ上がり、それが最後に爆発的にほとばしる。トライアングルが入って突進する大団円も決して軽くならず重量感を保ったままだ。
腕利きの指揮者とオーケストラの多くがワグナーの管弦楽集を録音する。フルトヴェングラー以来、幾多の名盤があって、手元にも十指を下らない盤がある。どれか一枚と言われたら大いに迷うが、このテンシュテット&BPO盤は筆頭格の一枚だ。
この盤の音源。「タンホイザー」序曲
1988年のロンドンフィルとの来日公演時の一連のワグナー・プログラムからリエンツィ序曲。ベルリンフィルとのCDに劣らず素晴らしい演奏。開始から1分20秒過ぎ、低弦群が断続的な音形を繰り返しながら進み、1分40秒過ぎで主題が確立する。もうここで参ってしまう。そこからおよそ1分間弦楽群が主題を奏でる。コンマスがネックを上げて感じ入ったように心を込めて弾いている。3分20秒あたりから金管群の寄せては返す繰り返しで盛り上がり、3分45秒でトゥッティで主題が確立。4分2秒ティンパニの一打も絶妙のタイミングだ。4分20秒あたりからの弦の装飾音風の音句を強めに響かせ、金管群の奏でる主題と有機的に調和していく。…と、こんな風に聴いていくと音楽的感興に満ちあふれた12分間があっという間に過ぎる。テンシュテットはこのときすでに咽頭癌に侵されていた。前年には休養と取っているほどの状態だったという。額の汗そして終演直後の表情からは演奏を終えた喜びより、本当に辛そうな表情が見て取れる。まさに身を削っての演奏だったのだろう。
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お上りさん東京散歩、きょうはお休み。久々に本業回帰で音盤タイム。先日、阿佐ヶ谷ヴィオロンでかかっていた、この曲を取り出した。

カレル・アンチェル(1908-1973)指揮チェコフィルハーモニーによるスメタナの連作交響詩「わが祖国」の全曲盤。しばらく前にアンチェルの録音が廉価盤でまとまってリリースされた際の一枚。1963年録音。
多くの曲でキレのいい、スッキリと引き締まった造形を聴かせてくれたアンチェルとチェコフィルだが、この盤ではやや趣きが異なり、少しロマンティックに寄った解釈をみせる。やはり曲が曲だけに、彼ら自身の血に直接訴えるのだろうか、あるいは聴く側のぼくの方に心理的バイアスが加わるのか、多分その両方だろう。有名な第2曲ヴラタヴァ「モルダウ」など聴いていると、テンポはゆっくり目だし、前半もやや抑え気味の表情付けで実にしみじみと歌いぬく。また第3曲のシャールカでは終盤の劇的な展開に目を見張る。第5曲「ターボル」冒頭の序奏では、強烈なティンパ二の強打と、終始浸透力のあるファンファーレを聴かせる金管群が印象的だ。チェコの殉教者;ヤン・フスの不屈の魂を表現しているのだろう。
こうして連作交響詩<わが祖国>全曲をあらためて聴いてみると、その名の通り、様々なモチーフを連ねた実に立派な交響作品で、大規模な広義のソナタとしての交響曲とは当然異なる趣きだが、モルダウの美しい旋律だけに耳を奪われず、ぜひ他の曲も通して楽しみたいと、今更ながらに感じた次第だ。
この盤の音源。第4曲「ボヘミアの森と草原から」
貴重な映像。1968年プラハの春音楽祭。音楽祭の開催がスメタナの命日に合せた五月初め。この年の夏以降ソ連侵攻によりチェコ動乱が始まることになり、そしてアンチェルは翌年亡命し祖国を離れる。何度かこのステージを踏んだアンチェル&チェコフィルの最後の演奏だったに違いない。残念ながら音はモノラルで冴えない。
モルダウの後半。晩年を送ったカナダでの演奏がこちらに。1969年、小澤征爾のあとを受けるかたちでトロント交響楽団のシェフになったが、4年後の1973年には世を去った。
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先回記事にしたウィーンフィル:ニューイヤーコンサート。かつては毎年楽しみにしていたものだが、近年はほとんど観なくなってしまった。もっともワルツ自体は大好きで、時期を問わず気分が向くと聴く。そんなときに取り出す音盤の一つがこの盤だ。


ルドルフ・ケンペ(1910-1976)がドレスデン国立歌劇場管弦楽団(シュターツ・カペレ・ドレスデン:SKD)を振ったウィンナワルツ集。1972年暮れから翌年の年明けにかけての録音。ブックレット表紙にも小さく記されている通り、同団創立425年!を記念して作られた。いくつもの名録音を生んだドレスデン聖ルカ教会での録音。手持ちの盤はコロンビアの廉価盤シリーズ「クレスト1000」の一枚。収録曲は以下の通り。
1. J・シュトラウス2世「こうもり」序曲
2. J・シュトラウス2世:ワルツ「ウィーンの森の物語」
3. ヨーゼフ・シュトラウス:ワルツ「天体の音楽」
4. スッペ:「ウィーンの朝・昼・晩」序曲
5. レハール:ワルツ「金と銀」
6. J・シュトラウス2世:ポルカ「浮気心」
さすがに四百年余の伝統を誇る名門SKD。実に上手い。この盤の原題<Galakonzert>に相応しい幕開けの曲「こうもり」序曲冒頭、弦楽群の速いパッセージや付点音符のアンサンブルがピタリと揃い気持ちがいい。以降お馴染みのウィンナワルツが並ぶが、いずれも整ったアンサンブルとやや速めのテンポで颯爽とした演奏。ロベルト・シュトルツ盤が濃厚甘口とすれば、こちらは淡麗辛口といった風情だ。しかし薄味ではなく、「ウィーンの森の物語」の中間部、短調に転じて出るオーボエソロとそれに続くチェロのメロディーなど、楚々としながらもテンポをぐっと落として十分に歌わせる。全体が速めのテンポなので、この落差がより効果的で、聴く側の気分もパッとギアチェンジされる。
レハール「金と銀」が格調高く品格ある演奏で聴けるのもうれしい。リズミックな序奏のあと、弦のユニゾンでゆったりと出るメロディーはいつ聴いても美しく、どこか懐かしい。「金と銀」やこの盤にはないがワルトトイフェル「スケーターズワルツ」やイヴァノヴィッチ「ドナウ川のさざなみ」などは、おそらく小学生の頃、音楽の時間にでも聴いただろうし、当時昭和40年代にはラジオやテレビでホームミュージックとしてよく流れていた。その頃の音が脳内のどこかにインプットされているに違いない。シュトラウスの華やかなウィンナワルツに比べ、少し陰りのある曲想がまた味わい深い。
現役時代のケンペはどちらかというと万事中庸をいく指揮者と言われていたが、没後に出てきたライヴ録音などから「燃えるケンペ」の側面も知られるようになった。この盤を聴くと、曲が曲なので「燃える」というものではないが、ライヴ感にあふれ、聴かせどころを心得た巧者だとよくわかる。
この盤の音源で「金と銀」
この盤の音源。全6曲
ケンペの「金と銀」にはウィーンフィルとの録音もある。
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以前だったらきょうが成人の日。ハッピーマンデーだか何だか知らないが、祝日がふらふら移動することには違和感をもつ。成人の日は15日。かつては共通一次やセンター試験、ラグビー日本一決定戦…まあ、ぶつぶつ言っても仕方ないけど。 さて、令和五年に引っ掛けた「5」しばりは松の内も終えるのでひと先ず終了。きょうは遅ればせながら年頭気分に戻って、この盤を取り出した。

ジャケット帯が両面仕様というのも珍しい

ヘルベルト・フォン・カラヤン(1908-1989)が生涯にたった一度だけその指揮台に立ったウィーンフィル・ニューイヤーコンサートの1987年ライヴ盤。1987年・昭和62年…ニューイヤーコンサートの元旦中継もすっかりお馴染みになりつつあった頃、世間はバブル経済のお祭り騒ぎに突入する前夜、あれからもう35年余。歳もとるはずだ。
さてこのレコード。ウィーンフィルが奏でムジークフェラインに響く音はまことに立派で非の打ちどころがない。テンポ設定や歌いまわしも極めて自然。どこをとっても不自然さはない。反面これはという面白さやハッとする解釈はほとんどなく、この演奏でなければ…というものがあるかと問われると答えに詰まる。ぼくはカラヤンに対してはシンパでもアンチでもないのだが、世間的あるいは業界内での圧倒的な人気を博しながら、もうひとつ玄人筋にウケがよくないのはそのあたりのカラヤンの資質ゆえだろう。まあ、ニューイヤーコンサートというお祭りだ。解釈を四の五のいうこともない。飛び切りの美音でシュトラウスの豊かな歌にひたれればそれで十分だ。
この年のニューイヤーはカラヤンが振るということに加え、ソプラノのキャスリーン・バトル(1948-)の登場も話題になった。この盤では彼女が歌う「春の声」が最後のトラックに収録されている。当時のバトル人気はすごかった。黒人ソプラノ歌手ということでは先駆者はもちろんいるが、彼女は取り分けヴィジュアルも物腰もチャーミングで日本でも大そうな人気を得た。
このニューイヤーを振ったカラヤンは2年後の1989年7月に亡くなった。日本のバブル景気はピークを向かえる頃。何万円もするクラシックコンサートのチケットが売れ、にわか景気に浮き立った人々がブランド物のスーツを着込んでサントリーホール集う光景。しかしそれも2年後には幕となる。35年前のことかと思いながらこの盤を久々に聴くと、自己見積もり20年の余生もあっという間だ。
ポルカ「観光列車」「ピチカート・ポルカ」と続く。
バトルが歌う<春の声>
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