マルケヴィッチのロシア物



秋たけなわの十月半ば。残念ながら公私ともに少々慌ただしく、行楽の余裕もなく日々過ぎる。きょうもいつも通りに業務に精励し、夜半前の音盤タイム。久しぶりにこんな盤を取り出した。


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音盤のジャンルとして管弦楽小品集というものがある。腕利きの指揮者やオーケストラが、その実力のほどを示すために管弦楽曲を何曲か収録することが多い。ポピュラー小品を集めたもの、オペラの序曲や間奏曲を集めたもの、国単位でまとめたドイツ管弦楽曲集、フランス近代管弦楽集といった感じだ。当然ロシア管弦楽集というものもある。お国物ということでロシアの指揮者、オーケストラの盤が多いのは当然だが、それと並んでフランス系の指揮者、オーケストラの盤が多い。近代ロシアの管弦楽曲が色彩的な管弦楽手法を駆使していることから、フランスの系譜に通じるのだろう。かつてのアンセルメ&スイスロマンド管弦楽団、英デッカがアンセルメの後継者として売り出したデュトワ&モントリオール響、そしてこのイーゴル・マルケヴィッチがラムルー管弦楽団を振ったこの盤が思いつく。マルケヴィッチ(1912-1983)はウクライナのキーウ(キエフ)貴族家系の出だ。幼いときにパリへ出たので、この盤のように仏系オケとの協演も多い。

一目見たら忘れないようなジャケットデザインがある。指揮者マルケヴィッチを正面からとらえたこのジャケット写真も相当インパクトがあると思うが、どうだろう。眼光鋭いようで、実は不敵な笑みを浮かべているようにも見える。一言で言えば、イケてるを通り過ぎてイッてしまっている。50年代終盤の録音。収録曲は以下の通り。

1.歌劇≪ルスランとリュドミラ≫序曲
2.交響詩≪中央アジアの草原にて≫
3.交響的絵画≪ヨハネ黙示録から≫
4.序曲≪ロシアの復活祭≫作品36
5.歌劇≪五月の夜≫序曲
6.組曲≪金鶏≫(4つの音楽的絵画) 序奏とドドン王の眠り
7.組曲≪金鶏≫(4音楽的絵画) 戦場のドドン王
8.組曲≪金鶏≫(4つの音楽的絵画) シュマハ女王の踊り-ドドン王の踊り
9.組曲≪金鶏≫(4つの音楽的絵画) 婚礼の行列-ドドン王の死-終曲

ロシア管弦楽集でのお約束通のように、グリンカ作曲「ルスランとルドミュラ」序曲で開始。ムラヴィンスキー&レニングラードフィル盤には及ばないが、切れ味鋭い展開。しかもこの盤は予定調和的には終わらない。途中、一般にはメゾピアノ程度で叩かれるティンパニのフレーズがフォルテで強打されギョッと驚く。次に同じパターンが出てくるときに、二度目は驚かないぜと身構えていると、今度はふっと抜いてピアノで叩く。そのときジャケット写真のマルケヴィッチを見ると、不気味な笑みに見えてドキッとするのだ。

3曲目のリャードフ作曲;交響的絵画「ヨハネ黙示録から」は多彩な表現を秘めたいい曲だとあらためて感心した。6分弱の小品だが、曲の後半は弦楽器群、管楽器群が交互に短いフレーズでクレッシェンド・ディクレッシェンドを繰り返しながら進行し、一聴してマーラー交響曲の一節かと思うほどだ。他の収録曲、リムスキー・コルサコフの序曲「ロシアの復活祭」や歌劇「五月の夜」序曲、組曲「金鶏」もオーケストラの機能と多彩な音色を駆使して聴き応え十分。マルケヴィッチは色彩的なこれらの曲を明晰に描き出す。もう少し演奏される機会があってもいいように思う。

この盤のマイナスポイントを挙げるとすれば録音状態だろうか。マルケヴィッチの意図なのか録音セッションの条件(複数のホールで収録されている)なのか不明だが、いくつかの曲で低音が薄く中高音が張り出した音響バランスで驚く。中高音が勝っているため各楽器間の分離はよく、確かにマルケヴィッチの分析的な曲の組立と意図が一致しないでもない。録音エンジニアのクレジットがないで不明だが、フランス人の音響バランスはこんなものなのだろうか。60年代前後の低音の充実したドイツグラモフォン録音とは思えない音作りだ。このCDは2006年に「マルケヴィッチの芸術」と称して発売されたシリーズ中の一枚。マルケヴィッチは音盤セールス上マイナーな存在かもしれないが、指揮者としての実力、楽曲の分析力など極めて高く評価されていて、このロシア管弦楽名曲集でもその実力のほどが垣間見られる。


手持ちの盤からアップ。歌劇≪ルスランとリュドミラ≫序曲


同 交響詩≪中央アジアの草原にて≫


同 交響的絵画≪ヨハネ黙示録から≫



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アンセルメ「三角帽子」



相変わらずのマンネリ記事が続く本ブログ。信頼性の乏しいカウンタのアクセス数ながら、一時期の7割程度の来訪者数。個人的備忘もボチボチ店じまい…まあ、それもいいかな、と思いつつ本日も更新。辛抱強くアクセスして下さる方には感謝・感謝!。 アクセスついでにと言ってはナンですが、更新有無にかかわらず記事下方にある「クラシック鑑賞」バナーをクリックしていただけると幸いです。どうか引き続き宜しくお願い致します。

さて週明け月曜日。いつも通りの一日ながら、あれこれ少々ややこしい状況もあって何とはなしに集中力を欠く一日だった。帰宅後の音盤タイムでくつろぐ気分にもなれず、そういえば先日聴いた演奏で印象に残っていたことを思い出し、今夜はこの盤について備忘を記しておこう。


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エルネスト・アンセルメ(1883-1969)と彼の手兵スイスロマンド管弦楽団によるファリャのバレエ音楽「三角帽子」1961年録音。メゾソプラノはテレサ・ベルガンサ(1933-2022)。歌劇「はかなき人生」から間奏曲と舞曲がカップリングされている。このコンビはステレオ初期の50年代後半から60年代にかけて、英デッカの看板楽団の一つとして、主にスペイン・フランス・ロシア等の色彩的な管弦楽作品を多数録音した。英デッカの鮮明な録音とも相まって、そのいずれもがベストセラーとして長らく定番の評価を受けていた。手持ちの盤は例によって十年程前、大阪東梅田の中古レコード店で見つけた1962年リリースの国内初出盤。60~70年代を通じて名盤として評価が高かった盤だ。

久々に針を落として、あらためてその音の良さに驚いた。曲冒頭のティンパニーの連打、突き抜けるようなトランペット、空間に飛散するカスタネットの響き。半世紀前の音とは思えないほど鮮烈だ。アンセルメ&スイスロマンドの一連の録音が素晴らしいばかりに、同コンビの来日公演で実演に接した日本のファンは、録音との落差にがっかりしたという話もうなづける。確かに耳をそばだてると、少々アンサンブルの甘さがのぞくところもあるし、管の音程があやしいときもある。弦楽群もやや響きが薄い。しかし、華やかで色彩的な管楽器の音色、弦楽群のスッキリした歌いっぷりなど、総じてこうした曲に相応しい音響で文句はない。


この盤の音源


この曲の中で最も知られた「粉屋の踊り」  しばしばギターソロでも演奏される。


2013年プロムスでの演奏会形式の舞台



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ラヴェルで暑気払い



月があらたまって令和四年葉月八月。週明け月曜。きょうも暑い暑い…。節電要請を承知の上でさすがに耐えがたく、帰宅早々道楽部屋のエアコンをオン。ひと息ついて今夜は音盤で暑気払い。こんな盤を取り出した。


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小澤征爾とボストン交響楽団によるラヴェル管弦楽曲集。1974年録音。手持ちの盤はLP三枚組の初出盤。「昭和50年度芸術祭参加」のタイトルが記された16ページにおよぶ立派なブックレットが付いている。これも以前ネットで激安箱買いした数百枚の中に混じっていたもの。

ぼく自身はジャンル問わずいろいろな音楽を好ましく思っているが、結果的に振り返るとやはり独墺系偏重の感は否めない。ラヴェルをはじめ、近代フランス音楽はあまり聴くこともなくこれまできたのだが、この歳になってようやくボチボチ手にするようになった。この盤にはそんな近代フランスのエッセンスともいうべきラヴェルの管弦楽作品がまとまっている。

三枚組の一枚目に針を落とし、最初の「ボレロ」をパスして「スペイン狂詩曲」「ラ・ヴァルス」を聴く。スペイン狂詩曲の第1曲「夜への前奏曲」から、その名の通り、ひんやりとした夜の気配が響く。部屋の温度が一気に五度ほど下がる感じだ。続く「マラゲーニャ」、「ハバネラ」、「祭り」もスペイン情緒をたたえながらも、太陽と青空のイメージは控え目で、どこか高貴で洗練されていて美しい。 あまり聴かないフランス音楽の中にあって「ラ・ヴァルス」は例外的に以前から好きな曲の一つ。題名通り三拍子で書かれていながら、あちこちに仕組まれたヘミオラ他、ラヴェル一流の技巧により拍節感が希薄になり、何やら空中に浮遊している感じになる。華麗にして官能的そしてときにユーモラスでもある名曲。スペイン狂詩曲と併せて、いっときの暑気払いには好適だ。

小澤征爾は録音当時、名門ボストン響のシェフとなって間もなくの頃で、次々と新録音をリリースし、若くして絶頂期ともいえる状況を迎えていた。その後現在までを振り返ってみても、やはり70年代から80年代の勢いのあった時代がもっとも小澤らしい時期だったように感じる。


洗足学園大のオケによる「スペイン狂詩曲」



この盤の音源「ラ・ヴァルス」


グールドの弾く「ラ・ヴァルス」



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ポール・パレー&デトロイト交響楽団「19世紀フランス名曲集」



なんて音楽を知らないのだろう…最近つくづくそう思い、我ながらいやになってしまう。世には多くの楽曲がある。例えそれをクラシックのある時代に限っても途方もなく、およそ盆暗サラリーマンの呑気な余技で手に負えるものではない。まあ、そんなことはとうの昔から分かっているし、分相応に自分の手に負える範囲で楽しむしかないのは百も承知だ。しかし、好き嫌い、わかるわからない以前に、知らないというのはまったく手の施しようがない。きょう取り上げたこの盤などを聴くと、あらためてそのことを痛感する。


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ポール・パレー(1886-1979)とデトロイト響による19世紀フランス作品集。十年程前にタワーレコードの企画物として出た「ビンテージシリーズ」中のもの。50年代後半から60年代初頭にかけての録音。オリジナルは当時、米マーキュリーのリビングプレゼンスシリーズとしてリリースされたもの。収録曲は以下の通り。

Disk1
(1)交響曲変ロ長調OP.20(ショーソン)
(2)バレエ「ナムーナ」第1組曲(ラロ)
(3)歌劇「イスの王様」序曲(ラロ)
(4)歌劇「サムソンとデリラ」~バッカナール(サン=サーンス)
Disk2
(1)気まぐれなブーレ(シャブリエ)
(2)楽しい行進曲(シャブリエ)
(3)狂詩曲「スペイン」(シャブリエ)
(4)田園組曲(シャブリエ)
(5)歌劇「いやいやながらの王様」~ポーランドの祭り(シャブリエ)
(6)歌劇「グヴァンドリーヌ」序曲(シャブリエ)
(7)歌劇「いやいやながらの王様」~スラヴ舞曲(シャブリエ)
(8)交響詩「死の舞踏」Op.40(サン=サーンス)
(9)英雄行進曲OP.34(サン=サーンス)
(10)フランス軍隊行進曲OP.60-4(サン=サーンス)

大手販売店の企画物だからそこそこのセールス成績を見通してのことだろうし、それほど奇抜な秘曲・珍曲のたぐいではもちろんない。にも関わらずここにリストされた曲のうちぼくが知っている曲は三分の一ほどしかなかった。作曲者名やその代表作はみな馴染みがあるにも関わらずだ。もともと独墺系楽曲に偏重しているぼく自身の嗜好もあってフランス音楽は馴染みがないというのが大きな理由だが、ベートーヴェンやブラームスの同曲異演盤を何組も聴き漁る前に、まだ知らない曲に耳を傾けなくてはいけないと痛感した。

ショーソン唯一の交響曲変ロ長調は以前FMで聴いたことがある。そのときの記憶はもう残っておらず、この盤であらためて聴き直した。第1楽章冒頭の憂愁かつ荘重なイントロダクションが印象的だ。主部に入るとフランス物という先入観をくつがえす厚い響きと構成。どこかフランクの交響曲ニ短調に通じる響きやワグナー「ラインの黄金」に似たフレーズがあるなあと感じていたら、ショーソンはフランクに学びワグナーにも傾倒してバイロイトへもよく通ったとWikipediaに書かれていて納得した。随所に魅力的なメロディーがあふれ、もっと演奏されてもいい曲だろう。
ラロのバレエ曲や序曲はこの盤で初めて聴いた。曲を聴いているとそのまま華やかな舞台をイメージできる楽しい曲だ。シャブリエは狂詩曲「スペイン」ばかり有名だが、この盤で取り上げられている元はピアノ曲の組曲「スペイン」や他の序曲・小品はいずれもリズムの扱いが巧み、かつ色彩的なオーケストレーションが印象的だ。シャブリエ作品の中心をなすピアノ曲もまとめて聴いてみたくなる。

ぼくにとっては馴染みの薄いフランス物だが、以前記事に書いたピエール・デルヴォーの盤なども忘れた頃に取り出して聴いてみると、文句なしに美しく楽しい。理詰めで建造物を構築する感のあるドイツ物とは少々異なり、知覚した印象をそのまま音のパレットに広げたようなフランス物には独自の魅力があることはよく分かる。音盤棚にあふれる独墺系の盤を少し整理して、フランス物やイタリア物あるいは古楽に触手を伸ばそうかと考えてしまう。


この盤の音源。ポピュラーなシャブリエ「狂詩曲スペイン」


同 ショーソン「交響曲変ロ長調」第1楽章


同 サン=サーンス「英雄行進曲」



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エルガー 弦楽のためのセレナーデ



先回の記事で取り上げたエルガー。その続きというわけでもないが、音盤棚を眺めていて見つけたこの盤を取り出した。


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イ・ムジチ合奏団が弦楽合奏のための近現代作品を取り上げた一枚。1985年録音。時代はCDへ移行の真っ最中。新譜アルバムのアナログ盤リリースが無くなり始めた頃だろうか。この盤も蘭フィリップスの輸入原盤に日本語の解説シートを付す形でリリースされている。収録曲は以下の通り。イタリアあり、アメリカあり、イギリスありのユニークな選曲だ。

レスピーギ  :リュートのための古風な舞曲とアリア第3組曲
バーバー   :弦楽のためのアダージョ(弦楽四重奏曲ロ短調op.11より)
ニーノ・ロータ:弦楽のための協奏曲
エルガー   :弦楽セレナード ホ短調op.20

この盤にはバーバーとエルガーの弦楽合奏の名曲が入っているところが気に入っている。映画音楽で有名なニーノ・ロータの作品も珍しい。イ・ムジチにとってはお国物というところか。エルガーはパーセル以来途絶えて久しかったイギリス音楽における中興の祖をいわれる。ときに近現代的な和声感、ときに穏やかなロマンティシズム、それらが同居する作風。針を落とした弦楽セレナーデは、その穏やかなロマンティシズムの方を代表する作品だろう。

アレグロ・ヴィヴァーチェの指定ながら、どこか憂いを秘めた第1楽章、深い抒情に満ちた旋律が歌われる第2楽章、軽快なフレーズに揺れるうちに、第1楽章の主題に回帰する第3楽章。美しいイギリス音楽の見本のような曲だ。イ・ムジチの演奏は音響的な美しさに関しては文句なしの出来栄え。もっと渋めの演奏を聴きたくもなるが、これはこれで十分素晴らしい。
エルガー作品はこのセレナーデをはじめ、チェロ協奏曲、ヴァイオリン協奏曲、エニグマ変奏曲、序奏とアレグロ、2つの交響曲など、いずれも傑作揃い。「愛の挨拶」と「威風堂々」ばかりではエルガーも可哀相だ。メディア・演奏者共、もっと広く取り上げてほしい。

この盤の音源。エルガー:弦楽セレナーデ 第2楽章


同 第1楽章


全楽章 コロナ禍に誕生したデュラーレ・チェンバー・ストリングス・アンサンブルという団体。



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ムソルグスキー「はげ山の一夜」



あす6月23日は「はげ山の一夜」にちなむ日…ということらしい。何でもこの曲の背景として「聖ヨハネ祭(6月24日)の前夜に不思議な出来事が起こる」というヨーロッパの伝承があるあり、その伝承による「はげ山に地霊チェルノボグが現れ手下の魔物や幽霊、精霊達と大騒ぎするが、夜明けとともに消え去っていく」というロシア民話がベースになっているとのこと。ぼくのような極東の片田舎のオジサンにはとんとお呼びでない史実だが、まあそんなものかと合点して、今夜はこの盤を取り出した。


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エルネスト・アンセルメ(1883-1969)と手兵スイスロマンド管によるロシア管弦楽曲集。
今さら解説するまでもないだろうが、エルネスト・アンセルメは元数学者にして、のちにフランス物やバレエ音楽を得意とする指揮者として活躍した。特にスイスの仏語圏(スイスロマンド)を代表するオーケストラであるスイスロマンド管弦楽団を振って英デッカに残した一連の録音はステレオ初期の名盤として人気を博した。今夜取り出した盤はタイトル通りロシア近代の管弦楽曲を集めたもので、収録曲は以下の通り。

1. 交響詩「はげ山の一夜」(ムソルグスキー-リムスキー=コルサコフ編)
2. 歌劇「サルタン皇帝の物語」~くまんばちは飛ぶ(リムスキー=コルサコフ)
3. 序曲「ロシアの復活祭」(リムスキー=コルサコフ)
4. 歌劇「ルスランとリュドミーラ」序曲(グリンカ)
5. 同「イーゴリ公」~ダッタン人の踊りと合唱(ボロディン-リムスキー=コルサコフ編)
6. 交響詩「中央アジアの高原にて」(ボロディン)
7. 歌劇「三つのオレンジへの恋」~行進曲とスケルツォ(プロコフィエフ)

久々にフルボリュームで聴いてみたが、60年代英デッカ黄金期を伝える実に鮮やかできらびやかな音質にあらためて驚いた。ゴージャスという言葉がぴったりだ。日本では東京オリンピック以降60年代後半から70年代にかけてステレオ装置が一般家庭にも普及し出したが、英デッカ録音は独グラモフォンの重厚さや米コロンビアのやや乾いた音質に比べ鮮烈に響いたに違いない。この盤もマイクロフォンを各パートごとに設置してそれぞれ楽器の音は明確にピックアップした上でミキシングするという、英デッカのマルチポイント録音の特徴がよく出た録音だ。コンサートホールで聴くオーケストラのバランスとは明らかに違うのだが、これはこれで再生音楽としての楽しみを堪能させてくれる。

「はげ山の一夜」で鳴るグランカッサの音は、音というよりは部屋の空気を静かに揺すぶるように響き、不気味な妖怪達のうごめきや周囲を吹き抜ける冷ややかな風をイメージさせる。但し、これ(コンサートホール聴くグランカッサの空気感に近いイメージ)を実感するには40Hz程度の低音域まで素直に出るオーディオシステムが必要だ。こういう録音を聴くと作曲家や演奏家の意図をきちんと理解するには相応のオーディオシステムが必要だと思ってしまう。ほどほどのシステムだと、どうしても耳につきやすいメロディーや中音域のハーモニーだけに神経がいきがちだ。従来この曲はもっぱらリムスキー・コルサコフ編曲の版が演奏されてきたが、近年はその他の版でも演奏されるようになってきた。その辺りの事情は「展覧会の絵」に似ている。下記に貼ったアバドによる演奏が一つのサンプル。

アンセルメが1969年に亡くなったあとスイスロマンド管弦楽団は長らく低迷。一方英デッカは80年代のデジタル録音時代を迎えてフランス物・ロシア物の色彩的な管弦楽曲の再録音を迫られ、アンセルメと同じくスイス生まれのフランス系指揮者シャルル・デュトアと手兵;モントリオール交響楽団のコンビに白羽の矢を立てて録り直すことになる。


この盤の音源。アンセルメとスイスロマンド管。14秒過ぎからのグランカッサの響きが出ればオーディオの低域再生能力は及第か。


原典版の演奏。例によって!マークが出るが、「YouTubeで見る」をクリックするばOK。


ジャズ・フュージョン界の大御所ボブ・ジェイムスによって70年代半ばに大ヒットした版。



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ビゼー「カルメン組曲」



週末日曜日。新年度ということもあって、朝イチそして夜も町内自治会の用事があり、あたふたと日が暮れる。ひと息ついて、さて今夜はこんな盤を取り出した。


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ビゼーの管弦楽曲を集めた一枚。チョン・ミョンフン(1953-)指揮パリ・バスティーユ管弦楽団による演奏。1991年録音。手持ちの盤はグラモフォンから廉価盤で出たときに手に入れたもの。「カルメン」組曲、管弦楽のための小組曲 「子供の遊び」、「アルルの女」 第1・2組曲が収められている。このうち「カルメン」組曲は以下の通り。

 1.闘牛士、2.前奏曲、3.アラゴネーズ、4.衛兵の交代
 5.間奏曲、6.セギディーリャ、7.アルカラの竜騎兵、8.ジプシーの踊り

かのバブル期にはオペラも随分と盛ん上演され、にわかオペラファンも増えた。お目当ての彼女(もちろんワンレン・ボディコンの)をオペラ「カルメン」に誘い、男は終演後「さすが!やっぱ、オペラは本場イタリアだよね!」と得意そうに胸を張った。残念!「カルメン」はスペインが舞台のフランス語のオペラでした…というオチ(^^;

さてこの盤。チョン・ミョンフンは1989年に新設されたパリ・バスティーユ・オペラの音楽監督に就いたものの、その後内紛に巻き込まれ1994年に解任された。もっとも、その後の彼の活躍をみると、むしろその方がよかったと言えなくも無い。この盤はそうしたゴタゴタの前の蜜月時代に録られた。
CDプレイヤーのプレイボタンを押すとお馴染みのメロディーが次々に出てくる。ぼくはオペラはまるで知らないのだが、こうした組曲形式やさわりの有名な曲などは、かれこれ半世紀になるクラシックとの付き合いに中で、聴くともなしに聴いてきたのだろう。おおよそは耳に馴染んだ曲ばかりだ。 チョン・ミョンフンの表現はさぞエネルギッシュで情熱的で…そう予想していたのだが、意外にも音楽は控えめと感じるほど冷静かつ整然としている。もちろんそれはネガティブな意味ではない。テンポはやや速めですべての音が軽やかに響き渡り、フレーズのあちこちも決して滞ることなくスッキリと進む。弦楽群は決して重くならず、その響きにのって木管群のソロがとりわけ美しく鳴り渡る。さすがフランス!と拍手を送りたくなるほどだ。新設されたオペラ座のピットの入ることになった若き俊英たちは「音楽は騒ぎ立てればいいってもんじゃないぜ」とでも言っていたに違いない。


「世界の」藤村実穂子との「カルメン」抜粋 2013年東京。フランス放送フィルハーモニー.。所々映像と音声がずれる。


ラトビアのアコーディオン奏者クセーニャ・シドロワ。 これはちょっと…音楽が耳に入ってこないなぁ(^^;



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プロフィール

マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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