スメタナ 連作交響詩「わが祖国」



お上りさん東京散歩、きょうはお休み。久々に本業回帰で音盤タイム。先日、阿佐ヶ谷ヴィオロンでかかっていた、この曲を取り出した。


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カレル・アンチェル(1908-1973)指揮チェコフィルハーモニーによるスメタナの連作交響詩「わが祖国」の全曲盤。しばらく前にアンチェルの録音が廉価盤でまとまってリリースされた際の一枚。1963年録音。

多くの曲でキレのいい、スッキリと引き締まった造形を聴かせてくれたアンチェルとチェコフィルだが、この盤ではやや趣きが異なり、少しロマンティックに寄った解釈をみせる。やはり曲が曲だけに、彼ら自身の血に直接訴えるのだろうか、あるいは聴く側のぼくの方に心理的バイアスが加わるのか、多分その両方だろう。有名な第2曲ヴラタヴァ「モルダウ」など聴いていると、テンポはゆっくり目だし、前半もやや抑え気味の表情付けで実にしみじみと歌いぬく。また第3曲のシャールカでは終盤の劇的な展開に目を見張る。第5曲「ターボル」冒頭の序奏では、強烈なティンパ二の強打と、終始浸透力のあるファンファーレを聴かせる金管群が印象的だ。チェコの殉教者;ヤン・フスの不屈の魂を表現しているのだろう。

こうして連作交響詩<わが祖国>全曲をあらためて聴いてみると、その名の通り、様々なモチーフを連ねた実に立派な交響作品で、大規模な広義のソナタとしての交響曲とは当然異なる趣きだが、モルダウの美しい旋律だけに耳を奪われず、ぜひ他の曲も通して楽しみたいと、今更ながらに感じた次第だ。


この盤の音源。第4曲「ボヘミアの森と草原から」


貴重な映像。1968年プラハの春音楽祭。音楽祭の開催がスメタナの命日に合せた五月初め。この年の夏以降ソ連侵攻によりチェコ動乱が始まることになり、そしてアンチェルは翌年亡命し祖国を離れる。何度かこのステージを踏んだアンチェル&チェコフィルの最後の演奏だったに違いない。残念ながら音はモノラルで冴えない。


モルダウの後半。晩年を送ったカナダでの演奏がこちらに。1969年、小澤征爾のあとを受けるかたちでトロント交響楽団のシェフになったが、4年後の1973年には世を去った。
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ケンペ&SKD ウィンナ・ワルツ・コンサート



先回記事にしたウィーンフィル:ニューイヤーコンサート。かつては毎年楽しみにしていたものだが、近年はほとんど観なくなってしまった。もっともワルツ自体は大好きで、時期を問わず気分が向くと聴く。そんなときに取り出す音盤の一つがこの盤だ。


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ルドルフ・ケンペ(1910-1976)がドレスデン国立歌劇場管弦楽団(シュターツ・カペレ・ドレスデン:SKD)を振ったウィンナワルツ集。1972年暮れから翌年の年明けにかけての録音。ブックレット表紙にも小さく記されている通り、同団創立425年!を記念して作られた。いくつもの名録音を生んだドレスデン聖ルカ教会での録音。手持ちの盤はコロンビアの廉価盤シリーズ「クレスト1000」の一枚。収録曲は以下の通り。

1. J・シュトラウス2世「こうもり」序曲
2. J・シュトラウス2世:ワルツ「ウィーンの森の物語」
3. ヨーゼフ・シュトラウス:ワルツ「天体の音楽」
4. スッペ:「ウィーンの朝・昼・晩」序曲
5. レハール:ワルツ「金と銀」
6. J・シュトラウス2世:ポルカ「浮気心」

さすがに四百年余の伝統を誇る名門SKD。実に上手い。この盤の原題<Galakonzert>に相応しい幕開けの曲「こうもり」序曲冒頭、弦楽群の速いパッセージや付点音符のアンサンブルがピタリと揃い気持ちがいい。以降お馴染みのウィンナワルツが並ぶが、いずれも整ったアンサンブルとやや速めのテンポで颯爽とした演奏。ロベルト・シュトルツ盤が濃厚甘口とすれば、こちらは淡麗辛口といった風情だ。しかし薄味ではなく、「ウィーンの森の物語」の中間部、短調に転じて出るオーボエソロとそれに続くチェロのメロディーなど、楚々としながらもテンポをぐっと落として十分に歌わせる。全体が速めのテンポなので、この落差がより効果的で、聴く側の気分もパッとギアチェンジされる。

レハール「金と銀」が格調高く品格ある演奏で聴けるのもうれしい。リズミックな序奏のあと、弦のユニゾンでゆったりと出るメロディーはいつ聴いても美しく、どこか懐かしい。「金と銀」やこの盤にはないがワルトトイフェル「スケーターズワルツ」やイヴァノヴィッチ「ドナウ川のさざなみ」などは、おそらく小学生の頃、音楽の時間にでも聴いただろうし、当時昭和40年代にはラジオやテレビでホームミュージックとしてよく流れていた。その頃の音が脳内のどこかにインプットされているに違いない。シュトラウスの華やかなウィンナワルツに比べ、少し陰りのある曲想がまた味わい深い。

現役時代のケンペはどちらかというと万事中庸をいく指揮者と言われていたが、没後に出てきたライヴ録音などから「燃えるケンペ」の側面も知られるようになった。この盤を聴くと、曲が曲なので「燃える」というものではないが、ライヴ感にあふれ、聴かせどころを心得た巧者だとよくわかる。


この盤の音源で「金と銀」


この盤の音源。全6曲


ケンペの「金と銀」にはウィーンフィルとの録音もある。



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カラヤン&VPO ニューイヤーコンサート1987年



以前だったらきょうが成人の日。ハッピーマンデーだか何だか知らないが、祝日がふらふら移動することには違和感をもつ。成人の日は15日。かつては共通一次やセンター試験、ラグビー日本一決定戦…まあ、ぶつぶつ言っても仕方ないけど。 さて、令和五年に引っ掛けた「5」しばりは松の内も終えるのでひと先ず終了。きょうは遅ればせながら年頭気分に戻って、この盤を取り出した。


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ジャケット帯が両面仕様というのも珍しい
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ヘルベルト・フォン・カラヤン(1908-1989)が生涯にたった一度だけその指揮台に立ったウィーンフィル・ニューイヤーコンサートの1987年ライヴ盤。1987年・昭和62年…ニューイヤーコンサートの元旦中継もすっかりお馴染みになりつつあった頃、世間はバブル経済のお祭り騒ぎに突入する前夜、あれからもう35年余。歳もとるはずだ。

さてこのレコード。ウィーンフィルが奏でムジークフェラインに響く音はまことに立派で非の打ちどころがない。テンポ設定や歌いまわしも極めて自然。どこをとっても不自然さはない。反面これはという面白さやハッとする解釈はほとんどなく、この演奏でなければ…というものがあるかと問われると答えに詰まる。ぼくはカラヤンに対してはシンパでもアンチでもないのだが、世間的あるいは業界内での圧倒的な人気を博しながら、もうひとつ玄人筋にウケがよくないのはそのあたりのカラヤンの資質ゆえだろう。まあ、ニューイヤーコンサートというお祭りだ。解釈を四の五のいうこともない。飛び切りの美音でシュトラウスの豊かな歌にひたれればそれで十分だ。

この年のニューイヤーはカラヤンが振るということに加え、ソプラノのキャスリーン・バトル(1948-)の登場も話題になった。この盤では彼女が歌う「春の声」が最後のトラックに収録されている。当時のバトル人気はすごかった。黒人ソプラノ歌手ということでは先駆者はもちろんいるが、彼女は取り分けヴィジュアルも物腰もチャーミングで日本でも大そうな人気を得た。

このニューイヤーを振ったカラヤンは2年後の1989年7月に亡くなった。日本のバブル景気はピークを向かえる頃。何万円もするクラシックコンサートのチケットが売れ、にわか景気に浮き立った人々がブランド物のスーツを着込んでサントリーホール集う光景。しかしそれも2年後には幕となる。35年前のことかと思いながらこの盤を久々に聴くと、自己見積もり20年の余生もあっという間だ。


ポルカ「観光列車」「ピチカート・ポルカ」と続く。


バトルが歌う<春の声>



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コープランド バレエ音楽 「ビリー・ザ・キッド」「ロデオ」



先日届いたNHK交響楽団ニュースレターで今月のプログラムを眺めていたら、レナード・スラットキン(1944-)が6年ぶり来演し、コーポランドのバレエ音楽を振ると出ていた。 スラットキン、コープランド、バレエ音楽かぁ…とつぶやきながら、ふと思い出し、この盤を取り出した。


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アーロン・コープランド(1900-1990)のバレエ音楽 「ビリー・ザ・キッド」「ロデオ」を収めた一枚。コープランドといったら「アパラチアの春」くらした思い浮かばない無知ぶりだが、この盤も以前激安箱買いした数百枚の中入っていたもの。レナード・スラットキン指揮セントルイス響の演奏。1985年録音。収録されている二つのバレエ曲のうち「ロデオ」は全曲盤としては初めての盤だとライナーノーツの書いてあった。ぼくのように独墺系の後期ロマン派あたりまでしか聴いていない者よりは、吹奏楽分野の演奏家や愛好家にはずっと馴染みが深いだろう。

20世紀アメリカの代表的作曲家のバレエや劇の音楽というとバーンスタインの作品を最初に思い浮かべるが、コープランドもこうして聴くと中々に素晴らしい。12音技法の作品も書いているコープランド。いくつかの場面ではアメリカ大衆音楽を思わせる節も出てくるが、全体としては安直なポピュラリティーを狙っておらずシンフォニックで純音楽としての品位が高い。バレエ音楽ということもあって打楽器群の活躍が目覚しいし、管弦楽の響きも充実しているが、決してドンチャン騒ぎになっていないところいい。デジタル録音もこなれた時期の録音で、アナログ盤で聴いてもグランカッサを含む打楽器のダイナミクス、管弦楽の分解能も素晴らしい。久々に音量を上げたくなる一枚だった。


「ビリー・ザ・キッド」組曲版 Denver Young Artists Orchestraというオケによる2015年の演奏。


「ロデオ」スコア付き音源


スラットキンからのメッセージ


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カレル・アンチェル&チェコフィル 管弦楽名曲集 vol.1



日に日に深まる秋。好天続きながら朝晩は次第に冷え込んでいく。エアコン不要の貴重な季節。夜半前のひととき、絞り気味のボリュームで楽しむ管弦楽曲いとをかし。今夜取り出したのはこの盤。


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カレル・アンチェル&チェコフィルによる管弦楽名曲集vol.1。先回の記事に取り上げたvol.2とペアでリリースされたこの。vol.2が中欧物。このvol.1がロシア・スラヴ物という企画。収録曲は以下の6曲。録音は1958年~1964年。

1. グリンカ:歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲
2. ボロディン:交響詩「中央アジアの草原にて」
3. リムスキー・コルサコフ:スペイン奇想曲 作品34
4. チャイコフスキー:イタリア奇想曲 作品45
5. チャイコフスキー:序曲「1812年」作品49
6. スメタナ:歌劇「売られた花嫁」序曲

アンチェルの他の盤同様この演奏も、キレの良さ、緊張感と集中力の高さに耳がいく。冒頭第1曲のグリンカは例のムラヴィンスキー&レニングラードのライヴ盤に勝るとも劣らないスピード感だ。手持ちの盤で調べてみたらムラヴィンスキー&レニングラードが4分50秒、かなりの快速調と思われるマルケヴィッチ&ラムルー管が5分20秒、そしてこのアンチェル盤は5分4秒…なるほど納得だ。録音がややオンマイクで録られていることもあって、ヴァイオリン群の快速フレーズが実にクリアで、熱っぽさがダイレクトに伝わってくる。もちろんベルリンフィルはもっと上手いかもしれない。しかしチェコフィルの弦楽群は十分上手いし、キレのよさと集中力は並大抵ではない。きっと練習ではアンチェルにびっちり絞られたことだろう。

一転、ボロディンではエキゾチックな二つのテーマを十分に歌い込んでいく。アンチェルの盤を先回、今回と続けて聴いてあらためて分かったことだが、彼の演奏はキッチリ、スッキリした造形とそれに見合うキレと緊張感のある音作りをベースとしながら、この盤のボロディンにように抒情的な要素を持つ曲では長いフレーズもたっぷりと歌っていく。曲に応じた二つの顔を実にうまく使い分け、いずれもが集中力と緊張感に富む演奏だ。3曲目のスペイン奇想曲は緩急が交互に現れる構成だが、アンチェルの描き分けが見事。

オーケストラピースの中でも好きな曲の一つ「売られた花嫁」序曲はグリンカ同様の快速調の演奏。この曲の開始、弦楽群がザワザワと集散を繰り返しながら盛り上がりトゥッティが確立される様は、いつ聴いても実に胸のすく展開で、オーケストラという合奏形態の完成度の高さに感動する。


この盤の音源。グリンカ歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲


同 ボロディン「中央アジアの平原にて」


同 リムスキー・コルサコフ「スペイン奇想曲」



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カレル・アンチェル&チェコフィル 管弦楽名曲集 vol.2



今週は好天続き。まさ秋たけなわ。食欲もりもりでウェストばかりが気にかかる。さて、週末土曜日。野暮用少々片付けながらBGMにこんな盤を取り出した。


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チェコのマエストロ:カレル・アンチェル(1908-1973)が手兵:チェコフィルハーモニーを振った管弦楽名曲集。日本コロンビアからスプラファン・ビンテージ・シリーズとして十年程前に廉価盤でリリースされたもの。今夜聴いたvol.2の収録曲は以下の通り。なおvol.1にはロシア物が収録されている。60年代前半の録音。

1. モーツァルト/歌劇「魔笛」 序曲 K.620
2. ベルリーズ/序曲「ローマの謝肉祭」 作品9
3. ウェーバー/舞踏への勧誘 作品65
4. リスト/交響詩「前奏曲」S.97
5. ウェーバー/歌劇「ウィリアム・テル」 序曲
6. R・シュトラウス/交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」
7. ワグナー/歌劇「ローエングリン」第1幕への前奏曲

この手の名曲集の聴きどころは、名曲として名高いオーケストラピースをまとめて聴けるということが第一だが、もう一つ、指揮者とそのオケがそうしたよく知られた名曲をどう料理するかという点だろう。この盤に聴くアンチェルの楽曲に対するアプローチや解釈は実に明快だ。ひと言でいうと、ビールのCMのようだが「キレのよさ」だろうか。19世紀独墺系指揮者のロマンティシズムに根ざしたようなイメージとは正反対といっていい。

冒頭の「魔笛」序曲の数小節を聴いただけで、そのキレのよさは十分にわかる。トゥッティのアインザッツに曖昧なところがなく、スパッと竹を割ったように響く。付点音符の扱いも、旗の長い方の音符をやや短めに切り上げ、同時に旗の短い方の音価も少し切り詰めリズム感をはっきり出そうという意図がわかる。魔笛は主部に入っても速めのテンポで前へ前へと進む。だが不思議なことに、一部の若手指揮者にときどきあるように音楽が前のめりになる感じはしない。速度は速いが安定しているのだろう。ローマの謝肉祭も速めのテンポながらラテン系指揮者にあるような上っ面だけの華々しさとは次元を異にする。一方で、交響詩「前奏曲」や歌劇「ウィリアム・テル」序曲、ローエングリンなどでは深いドイツの響きともいうべき要素も十分に感じさせる。リヒャルト・シュトラウスのティルも間然するところがない。この盤が録音された60年代前半のチェコフィルのアンサンブルや音質も正に黄金期だろうか。アンチェルのキレのいい筋肉質の解釈にぴたりと寄り添い、素晴らしい演奏を展開していてまったく飽きさせない。

自分以外の家族が全員アウシュビッツに送られたという悲劇を背負っているアンチェル。同じ1908年生まれには、カラヤン、カイルベルト、朝比奈隆らがいる。当地群馬交響楽団の首席客演指揮者だった名匠マルティン・トゥルノフスキー(1928-2021)はアンチェルに学んだ。1968年プラハの春を機に亡命。晩年はカナダに移り住んでトロントのオケを振ったりもしたが、この盤を録音した60年代前半がもっとも幸福な時期だった。


この盤の音源。「魔笛」序曲


同 「ローマの謝肉祭」



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マルケヴィッチのロシア物



秋たけなわの十月半ば。残念ながら公私ともに少々慌ただしく、行楽の余裕もなく日々過ぎる。きょうもいつも通りに業務に精励し、夜半前の音盤タイム。久しぶりにこんな盤を取り出した。


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音盤のジャンルとして管弦楽小品集というものがある。腕利きの指揮者やオーケストラが、その実力のほどを示すために管弦楽曲を何曲か収録することが多い。ポピュラー小品を集めたもの、オペラの序曲や間奏曲を集めたもの、国単位でまとめたドイツ管弦楽曲集、フランス近代管弦楽集といった感じだ。当然ロシア管弦楽集というものもある。お国物ということでロシアの指揮者、オーケストラの盤が多いのは当然だが、それと並んでフランス系の指揮者、オーケストラの盤が多い。近代ロシアの管弦楽曲が色彩的な管弦楽手法を駆使していることから、フランスの系譜に通じるのだろう。かつてのアンセルメ&スイスロマンド管弦楽団、英デッカがアンセルメの後継者として売り出したデュトワ&モントリオール響、そしてこのイーゴル・マルケヴィッチがラムルー管弦楽団を振ったこの盤が思いつく。マルケヴィッチ(1912-1983)はウクライナのキーウ(キエフ)貴族家系の出だ。幼いときにパリへ出たので、この盤のように仏系オケとの協演も多い。

一目見たら忘れないようなジャケットデザインがある。指揮者マルケヴィッチを正面からとらえたこのジャケット写真も相当インパクトがあると思うが、どうだろう。眼光鋭いようで、実は不敵な笑みを浮かべているようにも見える。一言で言えば、イケてるを通り過ぎてイッてしまっている。50年代終盤の録音。収録曲は以下の通り。

1.歌劇≪ルスランとリュドミラ≫序曲
2.交響詩≪中央アジアの草原にて≫
3.交響的絵画≪ヨハネ黙示録から≫
4.序曲≪ロシアの復活祭≫作品36
5.歌劇≪五月の夜≫序曲
6.組曲≪金鶏≫(4つの音楽的絵画) 序奏とドドン王の眠り
7.組曲≪金鶏≫(4音楽的絵画) 戦場のドドン王
8.組曲≪金鶏≫(4つの音楽的絵画) シュマハ女王の踊り-ドドン王の踊り
9.組曲≪金鶏≫(4つの音楽的絵画) 婚礼の行列-ドドン王の死-終曲

ロシア管弦楽集でのお約束通のように、グリンカ作曲「ルスランとルドミュラ」序曲で開始。ムラヴィンスキー&レニングラードフィル盤には及ばないが、切れ味鋭い展開。しかもこの盤は予定調和的には終わらない。途中、一般にはメゾピアノ程度で叩かれるティンパニのフレーズがフォルテで強打されギョッと驚く。次に同じパターンが出てくるときに、二度目は驚かないぜと身構えていると、今度はふっと抜いてピアノで叩く。そのときジャケット写真のマルケヴィッチを見ると、不気味な笑みに見えてドキッとするのだ。

3曲目のリャードフ作曲;交響的絵画「ヨハネ黙示録から」は多彩な表現を秘めたいい曲だとあらためて感心した。6分弱の小品だが、曲の後半は弦楽器群、管楽器群が交互に短いフレーズでクレッシェンド・ディクレッシェンドを繰り返しながら進行し、一聴してマーラー交響曲の一節かと思うほどだ。他の収録曲、リムスキー・コルサコフの序曲「ロシアの復活祭」や歌劇「五月の夜」序曲、組曲「金鶏」もオーケストラの機能と多彩な音色を駆使して聴き応え十分。マルケヴィッチは色彩的なこれらの曲を明晰に描き出す。もう少し演奏される機会があってもいいように思う。

この盤のマイナスポイントを挙げるとすれば録音状態だろうか。マルケヴィッチの意図なのか録音セッションの条件(複数のホールで収録されている)なのか不明だが、いくつかの曲で低音が薄く中高音が張り出した音響バランスで驚く。中高音が勝っているため各楽器間の分離はよく、確かにマルケヴィッチの分析的な曲の組立と意図が一致しないでもない。録音エンジニアのクレジットがないで不明だが、フランス人の音響バランスはこんなものなのだろうか。60年代前後の低音の充実したドイツグラモフォン録音とは思えない音作りだ。このCDは2006年に「マルケヴィッチの芸術」と称して発売されたシリーズ中の一枚。マルケヴィッチは音盤セールス上マイナーな存在かもしれないが、指揮者としての実力、楽曲の分析力など極めて高く評価されていて、このロシア管弦楽名曲集でもその実力のほどが垣間見られる。


手持ちの盤からアップ。歌劇≪ルスランとリュドミラ≫序曲


同 交響詩≪中央アジアの草原にて≫


同 交響的絵画≪ヨハネ黙示録から≫



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プロフィール

マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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