ショパン初期マズルカ集



三連休最後の月曜日…といっても、もはやサンデー毎日の身にはどうということもない。昼過ぎから野暮用外出。三時を少し回って帰宅した。灼熱の一日。夜半前になってようやくクールダウン。この盤を取り出した。


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アルトゥール・ルビンシュタイン(1887-1982)の弾く作品7のマズルカ集。
格別ショパンファンでもないし、ルビンシュタインファンでもないのだが、やはり一時代を築いたルビンシュタインが弾くショパンは聴いておこうと思い、20年近く前に手に入れた。独奏曲がひと通りと2曲の協奏曲が収められている。1887年生まれのルビンシュタインであるが、同世代の演奏家に比べて随分と長生きしたおかげで多くの録音をステレオで再録音して残すことができた。このボックスセットも50年台後半から60年代半ばの録音で、いずれも良好なステレオ録音だ。作品7は以下の5曲からなり、ルビンシュタインのショパン録音を集めた手持ちのボックスセットではDisk3に収められている。マズルカの通し番号でいうと第5番から9番にあたる。

1.マズルカ 変ロ長調
2.マズルカ イ短調
3.マズルカ ヘ短調
4.マズルカ 変イ長調
5.マズルカ ハ長調

ショパン(1810-1849)が晩年に至るまで40曲以上書き続けたマズルカは、彼の望郷の歌であり、音楽家としての原点でもある。作品7のマズルカは1830~32年に作られたものというから、まだ二十歳になったばかりの頃の作品。ちょうどショパンがワルシャワを離れてウィーンに向かった頃にあたる。晩年の作品にみられるような深く沈鬱な表情、あるいはそれらを通り越した達観はないが、若さゆえのストレートでダイレクトな感情表出が捨てがたい。そしてどこをとってもすっかりショパンの作風だ。

夜更けて聴くには、文字通り夜想曲もいいのだが、ショパンの故郷ポーランドの民族舞踏に由来するマズルカも味わい深い。ワルツと同じ3拍子ながら特徴的なアクセントや跳躍からくる拍節感、哀愁を帯びた曲想など、マズルカは独特な雰囲気がある。 ルビンシュタインは若い頃から名うてのヴィルティオーソとして鳴らしたが、80歳に近くなった60年代半ばに録音された一連の演奏は、力が抜け穏やかで静けさに満ちている。同郷のショパンへの想いも歳を経て一層共感する何かがあるようにも思え、こうして夜更けに聴くにふさわしい。


この盤の音源。作品7-2 イ短調。簡素に淡々とした抒情が綴られる。


同 作品7-3 へ短調



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ベートーヴェン ピアノソナタ第18番変ホ長調「狩」



数日前に梅雨入りした関東地方。きょう日曜日も時折り雨降り。この時期らしい空模様の一日だった。昼過ぎには部屋の片付けをしながらのナガラ聴き。この盤を取り出した。


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クララ・ハスキル(1895-1960)によるベートーヴェン。ハスキル晩年1959~60年録音。手持ちの盤はまだフィリップスレーベルが健在だった2005年に廉価盤で出たときのもの。協奏曲第3番ハ短調(マルケヴィッチ指揮ラムルー管弦楽団)とピアノソナタ第17番ニ短調「テンペスト」、第18番変ホ長調「狩」が収録されている。今夜はこのうち第18番を選んでプレイボタンを押した。

モーツァルト弾きとして名高いハスキルだが、もちろんベートーヴェンはピアノ弾きとして重要な作曲家だったに違いない。とはいえ、むやみにレパートリーを広げる演奏家ではなかったとようで、ベートーヴェンではこの盤に収録された3曲にしぼって取り分けよく演奏したそうだ。

ベートーヴェンのソナタ18番はそう多く取り上げられる曲ではないかもしれないが、よりポピュラーな第17番「テンペスト」と好対照を成している佳曲。全楽章を通じて、ベートーヴェンとしてはやや珍しく、チャーミングで軽みのある曲想だ。第1楽章は付点音符によるリズミックなモチーフが印象的な明るい楽章。2楽章に4分の2拍子のスケルツォをおき、第3楽章に優美なメヌエットが配されている。このメヌエットは美しい。終楽章は8分の6拍子。タランテラ風の急速調で、ベートーヴェンらしい熱を帯びたフィナーレとなる。

ハスキルはいずれの楽章も力で押すことなく、美しい音色と穏やかなフレージングが生きた演奏だ。全楽章を通じて、ハスキルが力を込めたフォルテシモで鍵盤をたたく箇所はそう多くない。メッゾフォルテ以下の弱音のコントロールが素晴らしいのだ。人間もそうだが、大事なことは大声で叫ばず小声で伝えるものだということが、ハスキルの演奏からはよく分かる。あのチャップリンをして「私の生涯に出会った天才はチャーチル、アインシュタイン、そしてハスキルだけだ」と言わしめた天賦の才に恵まれながら、若くして病魔に冒され、ナチスに追われたハスキルの過酷な人生を思うと、晩年のこれらの演奏を裏付けるものが分かるような気がする。


この盤の音源。第1楽章 手持ちの盤からアップ。


この盤の音源。 第3楽章 優美なメヌエット


18番の楽譜付き音源。ケンプの演奏だそうです。



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ベートーヴェン ピアノソナタ第26番変ホ長調「告別」



少し前から断続的にベートーヴェンのピアノソナタを聴いている。全曲くまなくというわけではなく、どうしても気に入った曲を繰り返し聴くことが多い。きょうはこの盤を取り出した。


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アルフレッド・ブレンデル(1931-)の弾くベートーヴェンのピアノソナタ第26番変ホ長調「告別」と第29番変ロ長調「ハンマークラヴィア」が収められているLP盤。1985年のリリース。時代はCDへのシフトが進みつつあった当時、ベートーヴェンのピアノソナタはグルダのアマデオ盤全集が手元にあったのだが、少し新しい録音も聴きたいと思い、1800円というミドルプライスと録音のいい直輸入原盤使用という触れ込みに釣られて、このフィリップス盤を手に入れた。しかしその後あまり聴いた記憶がなく、今も盤面は真新しい。さきほどからいつものCEC製プレイヤーとオルトフォンSPU-Gという組み合わせで聴いているが、ノイズなくクリアな音を聴かせてくれている。その後、この録音を含むブレンデルの70年代録音の全集セットをCDで手に入れたが、LPはLPで味わい深い。

「告別」ソナタはベートーヴェンのピアノソナタな中では好きな曲の一つだ。特に第1楽章がいい。落ち着いた、しかし緊張感のある序奏。そして主部では短調と長調のスケールが微妙に交錯する。ブレンデルの、この1977年録音の演奏はやや遅めのテンポで急がず騒がず、展開部に入ってもフレーズの一つ一つをじっくり確かめるように進む。ベートーヴェン演奏にありがちな剛直な感じは皆無。むしろ静寂感が支配しているといってもいいくらいで、ぼくが抱くこの曲のイメージにぴったりだ。一緒に入っている大曲ハンマークラヴィアソナタについてはまたいずれ。


この盤の音源。「告別」ソナタ全3楽章 手持ちのCD盤からアップ。


楽譜付き音源。



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マリオ・ジョアン・ピリス「ショパン後期作品集」



月があらたまって令和五年水無月六月。ぼちぼち梅雨入りの便りも届く頃。関東地方ではこれからが田植えのシーズン。あちこちの用水路は水かさを増している。さて、週半ばの木曜日。少し湿った空気を感じながら夜半の音盤タイム。久しぶりにこの盤を取り出した。


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マリオ・ジョアン・ピリス(1944-)の弾くショパンの後期作品集。2008年録音の2枚組。収録曲は以下の通り。

ディスク1
ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 作品58
2つの夜想曲 作品62 夜想曲 第17番 ロ長調 作品62の1
2つの夜想曲 作品62 夜想曲 第18番 ホ長調 作品62の2
3つのマズルカ 作品59 マズルカ 第36番 イ短調 作品59の1
3つのマズルカ 作品59 マズルカ 第37番 変イ長調 作品59の2
3つのマズルカ 作品59 マズルカ 第38番 嬰ヘ短調 作品59の3

ディスク2
1. ポロネーズ 第7番 変イ長調 作品61≪幻想≫
3つのマズルカ 作品63 マズルカ 第39番 ロ長調 作品63の1
3つのマズルカ 作品63 マズルカ 第40番 ヘ短調 作品63の2
3つのマズルカ 作品63 マズルカ 第41番 嬰ハ短調 作品63の3
3つのワルツ 作品64 ワルツ 第6番 変ニ長調 作品64の1「小犬」
3つのワルツ 作品64 ワルツ 第7番 嬰ハ短調 作品64の2
3つのワルツ 作品64 ワルツ 第8番 変イ長調 作品64の3
マズルカ 第45番 ト短調 作品67の2
マズルカ 第47番 イ短調 作品67の4
チェロとピアノのためのソナタ ト短調 作品65
マズルカ 第51番 ヘ短調 作品68の4

ショパンは1810年に生まれ、1849年に39歳で亡くなっている。この盤にはその晩年1844年以降の作品がほぼ網羅されている。この頃ショパンは体調を崩し、父を失い、ジョルジュ・サンドとの別れもあった。まさに失意の晩年だったろう。若い頃はショパンに対して<女学生が甘ったるい小説を小脇に抱えながら聴く音楽>といった、いささか偏見めいた印象もあって、積極的に聴くことはなかった。しかし近年、特に後期作品やマズルカなどを頻繁に聴くようになり、その良さを実感するようになった。滅多に新譜には飛びつかないが、この盤は発売されてまもなく出会い、迷わずレジに持っていた。

ピリスは抑え気味の抑揚で、静かにショパン晩年の心情をなぞるように弾いている。オーディオの音量をやや控え目にして聴くとより味わい深く響く。<子犬のワルツ>もピアノ発表会聴くような陽気にパラパラと弾く様には遠い。マズルカは沈み込んだ音調がいっそう聴く側の心を打つ。
チェロソナタはショパンの多くのピアノ独奏曲にはない渋い曲想の佳曲。晩年の作品あるいはショパンの作品とは思えない起伏と力に満ちたフレーズもときにあるが、しかし底流には心折れるような悲痛でメランコリックな曲想が流れる。この盤ではパヴェル・ゴムジャコフという1975年ロシア生まれのチェリストが弾いていて、やや暗めの音色でよくこの曲のイメージをつかんでいる。



この盤のプロモーションビデオ。ショパンの晩年作品について語り、弾くピリス。


この盤の音源 マズルカ第40番ヘ短調 作品63の2


同 マズルカ第51番ヘ短調 作品68の4


同 チェロソナタ 全3楽章



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ベートーヴェン ピアノソナタ第17番ニ短調「テンペスト」



先回久しぶりに聴いたグールドのベートーヴェンで思い出し、きょうも同じボックスセットからこの盤を取り出した。


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ベートーヴェンのピアノソナタ第17番ニ短調作品31-2「テンペスト」。例のグールド・ボックスセット中の一枚。作品31の第16、17、18番のソナタを収められている。1973年録音。

ベートーヴェンのピアノソナタで、副題や呼称が付されている曲の中でこの第17番「テンペスト」は、演奏頻度という点で「悲愴」や「熱情」「月光」に次ぐ位置にあるだろうか。知名度ではそれらの曲に一歩譲るものの、曲の内容は勝るとも劣らない。ぼく自身の嗜好もあって、ベートーヴェンのピアノソナタの中では「告別」「テレーゼ」等に次いでお気に入りの一曲だ。

第1楽章は明確な二つの主題をもつソナタ形式だが、その構成はよくある起承転結のソナタ形式とはやや異なる。開始冒頭のゆっくりとした導入句、また副主題の前にもゆっくりとした分散和音を配した経過句がおかれている。楽章全体を通して、古典的なソナタ形式をベースにしながらも、よりロマンティックに寄った幻想曲風の色合いをもつように感じる。これは第1楽章だけでなく、続く第2楽章ではより強く感じる。第3楽章は16分音符が連続する印象的はモチーフで始まる。キャッチーなモチーフだがその扱いはさずがにベートーヴェン、複雑な転調やヘミオラを含む拍節の移動など、凝った作りで音楽の深みを際立たせている。


グールドの演奏動画.。時折見せる指揮を取るようなアクションと共に、完全に音楽と同化した弾きぶりだ。
第1楽章。


同 第2楽章


第3楽章の管弦楽アレンジ(MIDI音源)



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ベートーヴェンのバガテル



先週末、部屋の片付けをしながら久々にこの盤を取り出し、プレイヤーにセットした。


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グレン・グールド(1935-1985)の弾くベートーヴェンのバガテル集。例のボックスセット中の一枚。1974年録音。

ちょっとした小品といった意味を持つバガテルだが、「ちょっとした」の意味は作曲家により、あるいは作品により様々だ。この盤には作品33の7曲と作品126の6曲が収められている。作品33はまさに「ちょっとした」モチーフ集のようでもあり、確かに彼のピアノソナタに使われているモチーフや音形が現れたりする。あるいは技術面での教育的ピースの側面もあるのかもしれない。一方作品126は作品33とはまったく世界が異なる。作品126の6曲はベートーヴェンの最晩年の作品としての意味が色濃く出ている。規模はいずれも小さく、その点はまさにバガテルではあるのだが、曲のイメージやモチーフの扱いは深く、ときに瞑想的だ。

ベートーヴェンは古典派からロマン派への扉を開けた存在と位置づけられるが、この作品33と126の二つのバガテル集を聴くとその意味がよく分かる。作品126は明らかにロマン派の音楽になっているからだ。感情の表出、モチーフの扱い、調性の位置づけ、それぞれが古典期よりも拡大され、大胆な試みがなされいてる。


この盤の音源。ベートーヴェンが残したもっとも美しいピアノ曲の一つといわれるバガテル作品126の3。深い呼吸で瞑想的な演奏を繰り広げるグールド


同 作品33の7曲と作品126の6曲



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アルゲリッチ「ショパン・リサイタル」



少し前から続けて聴いているアルゲリッチ。今夜はこの盤を取り出した。


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マルタ・アルゲリッチ(1942-)の「ショパン・リサイタル」という称する一枚。1967年録音。手持ちの盤の帯には「来日記念」と記されており、1970年1月の初来日を前に再発された盤だ。これも例によって20年近く前、大阪出張が続いていた時期に、梅田の中古レコード店で買い求めた。収録曲は以下の通り。

ピアノ・ソナタ 第3番ロ短調Op.58
ポロネーズ 第7番変イ長調Op.61「幻想ポロネーズ」
ポロネーズ 第6番変イ長調Op.53「英雄」
3つのマズルカ Op.59 第1~3番

1965年のショパンコンクールで優勝したあと、アルゲリッチはEMIにショパンプログラムのセッション録音を行なった。ところがこれが契約上の問題でお蔵入りとなり、2年後の1967年にほぼ同じプログラムでグラモフォンで録音しなおした。それがこの盤だ。EMI録音はその後三十年余経った1999年になってようやく陽の目を見ることになる。

久々に針を下したのだが、アルゲリッチの演奏に関して巷間言われるような「自由奔放な解釈、強靭なタッチ、情熱的な演奏」といった特徴はそれほど顕著ではないように感じる。どの曲もやや速めのテンポですっきりとした造形と粒立ちのいい美しい音。当時から世界のトップレベルであった彼女にしてみれば当たり前のことだが、音楽全体がよくコントロールされている。ソナタ第3番や英雄ポロネーズなど、昨今はもっと力づくで大汗をかくような演奏にもしばしば出くわすが、そうしたものとは別次元だ。これをもって、セッション録音はぬるい、アルゲリッチはライヴでこそ、といった評価は当たらないと感じる。LP盤のA面、B面、ゆっくりじっくり聴いて、ショパンを堪能できる名盤だを思う。



この盤の音源。ソナタ第3番の第1楽章


1965年6月にEMI入れた録音の全曲。1999年にようやくリリースされた。


徳岡氏がA(明るく)T(楽しく)M(マニアック)にアルゲリッチを語る。



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プロフィール

マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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