BWV639



夜半を過ぎて、モーリス・ジャンドロンの弾く小品集を聴いている。


BWV 639 Ich Ruf zu Did Herr  201802_Gendron.jpg


お馴染みのチェロ小品が並ぶ。その中の一曲、バッハのコラール前奏曲「主イエス・キリストよ、われ汝に呼ばわる」BWV639。オルゲルビュッヒライン(オルガン小曲集)を楽譜を眺めつつ聴く。フルニエがこの曲を録音し楽譜も出ていることから、ジャンドロンの盤にも収録されたのだろう。その美しさゆえに古くから単独でも取り上げられ、オルガン以外の楽器でもしばしば演奏される。

オルガン譜にはフラット3つが付されているが、d=レには常時臨時記号としてフラットが付きdesになっていて、実際にはフラット4つのヘ短調として出来ている。バッハがなぜこんな記譜をしたかについて知人から「三位一体の修辞学的提示に他ならない。<我は御身を呼ぶ、イエス・キリストよ>というイエスは父と子と聖霊は一体ということからして神に向かっていることも同時に示している。」とのコメントがあった。

そう教えてくれた知人らと集まって以前、フルート・チェロ・ギターで遊んだ際にこの曲も合わせた。フラット4つはギターでは弾きにくいので、半音下げてホ短調でやらないかとぼくから提案したのだが、知人のコメントもあって、ここはやはりオリジナル尊重すべしということでヘ短調で演奏することにした。但しギターは少々インチキをして、カポタストを1フレットに付け、その状態でホ短調の楽譜で弾く。これで出る音はヘ短調になる。シャープひとつの楽譜とフラット4つの楽譜ではメンタリティーが異なるのだが、そこは<気分はf-mol>で勘弁してもらった思い出がある。


チェロとオルガンによる演奏


ポール・ガルブレイスのブラームスギターによる演奏。


オリジナルのオルガンによる演奏。楽譜付き。



バッハにおける記譜と実際の調性に関する考察。この動画に寄せられたコメントには、教会旋法から移行する時期に(手馴れた)ドリア調で記譜して、臨時記号を付して旋律的短音階にするという手法がとられたとある。記譜=ハ短調、実際の調性=ヘ短調というBWV639の事例はこの動画で解説しているホ短調~イ短調の関係と同じで、この理屈で説明が付くことにはなる。



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ラフマニノフ チェロソナタ ト短調



三連休明けの火曜日。朝から頭痛に見舞われた。原因ははっきりしていて、寝不足、不摂生、そして何より仕事がよくない(-.-; 早めに床についてたっぷり寝て、そして仕事から解放されれば快調になる。話は単純なのだが、中々そうもいかないのが世の常だ。まあ仕方ないっスね。さて、つべこべ言わず今宵の一枚。こんな盤を取り出した。


201802_Tortelier_15.jpg


例のトルトゥリエのボックスセット中のディスク#15。この盤にはチェロソナタが3曲入っている。ショパンとラフマニノフ、それとフォーレ2番。今夜はその中からラフマニノフのソナタを選んだ。1968年の録音で伴奏をアルド・チッコリーニが付けている。

ラフマニノフの作品中もっともよく知られているのはピアノ協奏曲第2番だろうが、このチェロソナタはその甘口コンチェルトの直後に書かれているにも関わらず、甘さ控え目で中々渋いロマンティシズムに満ちている。そしてラフマニノフらしくピアノパートは素人のぼくが聴いてもかなり難易度が高そうだと察しが付くほど雄弁だ。第1楽章はLentの序奏のあとかなり激情的なアレグロが続く。第2楽章のスケルツォもタランテラ風で熱がこもっている。第3楽章アンダンテがもっともロマンティクな曲想だが、メジャーキーとマイナーキーの間をたゆたうように進む具合が美しい。ラフマニノフは露骨な甘さがいささか…という向きにはこのチェロソナタがお薦めだ。


トルトゥリエによるこの曲のレッスン。若き日の倉田澄子も。


ゴーティエ・カプソンのチェロとミニスカ・ピンヒールでお馴染みのユジャ・ワンのピアノによる全曲。



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高橋竹山



再び寒波到来。いつもは上越国境の山々でブロックされる雪雲が、きょうはその勢い止まらず、雪雲の末端が県南部の平野部まで押し寄せてきた。降雪には至らないが、時折空が掻き曇る。陽だまりリスニングと思い立ったが、明るい陽射しには遠い。そんな空模様を眺めてつつ、思い出したようにこんな盤を取り出した。


201802_高橋竹山


高橋竹山(1910-1998)の津軽三味線。1973年渋谷ジャンジャンでのライヴ録音。当時から高橋竹山の素の芸を優れた録音でとらえた名盤とされたもの(CD復刻されていないのかな…)。手持ちの盤は後年近所のリサイクルショップで手に入れた。さすがにいつものジャンク箱ではなく、レコードコーナーに収まっていたもの。 高橋竹山はもちろん、津軽三味線についても何も知らないに等しいぼくなどが、この盤について語るつもりはまったくない。しかし思うところあってこの盤を手に入れ、その音に触れたときの衝撃は強く深いものだった。


201802_高橋竹山2


高橋竹山の名が広く知られるようになったのは70年代になってからだろう。それも津軽三味線や民謡の世界だけでなく、広く音楽や舞台に関心を寄せる若い世代の共感を呼ぶうようなった。このジャンジャンでのライヴはその象徴的な記録だ。昨今ではロックやジャズとのコラボレーションもこなし、激しいパッションを表出する津軽三味線だが、この竹山の語りや演奏はそうしたイメージとは程遠い。

「三味線は叩くものはなく、弾くもの」と語った竹山。正確なビートは終始乱れることなく、それにのって中音域の旋律が太く歌う。そして高音域の装飾音のごとき細かな音がさりげない、しかし見事な指さばきで加わる。曲間で会場の若者たちに語りかける津軽弁。厳しく辛かったであろう生い立ちを飄々と語りながら、ときに笑いを誘う様にも、三味線から出る音同様に力任せでない、しなやかに心に訴えくる至芸を感じる。








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サン=サーンスのチェロ曲



戌年如月。当地は夕刻から降雪。明朝は今年二度目の雪景色だろうか。
月があらたまり、日経文化欄の「私の履歴書」は草笛光子から良品計画の松井忠三へ。初回のきょうは中核ヘルメット戦士が企業戦士に変わっていったいきさつから始まった。林真理子の連載も相変わらず。今どき珍しくなった男目線のエンターテイメントが続く。さてさて、代わり映えしない日々。寒さもいえぬ時期だが、春もそう遠からず。渋茶をちびちびやりつつ、こんな盤を取り出した。


201802_Isserlis.jpg


イギリスのチェロ奏者スティーヴン・イッサーリスの弾くサン=サーンスのチェロ作品集。収録曲以下の通り。

1.チェロ協奏曲第1番
2.チェロ協奏曲第2番
3.チェロと管弦楽のための組曲
4.ミューズと詩人たち
5.祈り
 スティーヴン・イッサーリス(vc)
 ジョシュア・ベル(Vn)4 フランシス・グリエール(org)5
 ティルソン・トーマス&ロンドン交響楽団1
 エッシェンバッハ&北ドイツ放送交響楽団2~4

サン=サーンスのチェロ曲というと、まずは「白鳥」それと協奏曲の第1番。それ以外の曲は演奏頻度がぐっと下がるといったほうがいいかもしれない。この盤は二つの協奏曲と併せて、魅力的なチェロ曲がパッケージされていて、チェロ好きには堪らないマストアイテムというところだろう。

先ほどから作品16のチェロと管弦楽のための組曲を聴いている。エッシェンバッハ指揮の北ドイツ放送交響楽団が伴奏を付けている。1999年録音。何でもこの録音が初のCD録音だそうだ。LP時代にはいくつか録音もあったようで、例のワレフスカのボックスセットにも入っている。プレリュード・セレナーデ・ガヴォット・ロマンス・タランテラという構成。元はピアノ伴奏だが管弦楽編曲版がよく演奏される様子。サン=サーンスがまだ20代の頃の作品で、組曲の構成で分かるように古い時代の舞曲形式とロマン派らしい曲想が加わったものといったらいいだろうか。バッハ無伴奏の1番を思わせる(でもないか)無窮動風のパッセージが続くプレリュード、軽い夜風がそよぐようなセレナーデ、和声の移ろいが美しいロマンス、チェロ協奏曲の終楽章といってもいいような躍動感とテクニカルなフレーズで聴かせるタランテラ。全曲を通して明快で美しく分かりやすい旋律と和声で構成されていて楽しめる佳曲。もっと演奏されてもいいように思うが、演奏時間がこの盤で17分という、オケのコンサートでソロのメインプログラムにのせるにはやや短いことが災いしているのだろうか、あまり耳にしない。スティーヴン・イッサーリス(1959-)は日本音楽財団から貸与されたストラディバリウスにガット弦を張り、力任せでない美しい音を奏でる。


この盤の音源でサン=サーンスのドッペルとでもいうべき「ミューズと詩人たち」の終盤。


作品16の組曲から「セレナーデ」 ピアノ伴奏版


オルガン伴奏の「祈り」



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ウェーバー フルートソナタ集


週末土曜の朝。早起きを強いられる平日から解放され、寿命が3年は延びる感じ。気持ちよさにつられて朝食のパンも対平日比5割増だ(^^; さて、そんな気分につられて朝の音盤タイム。こんな盤を取り出した。


201801_Weber_FL.jpg


ウェーバーのフルートソナタ集作品10。ジャン・ピエール・ランパルのフルート、ジョン・スティール・リッターのピアノ。1982年録音。第1番から第6番までの6曲からなり、元々ヴァイオリンとピアノのための作品として出版され、のちにフルート版がウェーバー本人の許諾も得て出版された由。ヴァイオリン版との違いはフルートでは演奏不可能な低い音域の変更や和音の単音化など僅かにとどまり、ピアノパートはまったく同一、とライナーノーツに記されている。
全6曲のうち半分は2楽章だけ、比較的規模の大きな第6番を除くと、いずれもちょっとした小品というほどの規模だ。この曲は元々<アマチュアに向け作曲・献呈されたヴァイオリンオブリガート付き段階的ピアノソナタ集>と題されていたそうで、時代的にはロマン派に属するウェーバーではあるが、古典的な様式感と簡潔な和声で書かれている。ただ、この時代以降好まれた異国趣味が反映されていて、ボレロ、ポロネーズ、ロシア風といった指定が、全6曲の5つの楽章に付されているのが特徴的だ。

このレコードも以前ネットで激安箱買いした数百枚の中に混じっていたもの。そんなことでもなければ、フルート学習者でもないぼくが自ら選んで手にすることもなかったろう。作品の規模、難易度から、コンサート用プログラムにのることはほとんどないのだろうが、爽やかな休日の朝に聴くに相応しい中々チャーミングな作品だ。


全6曲の中ではもっとも規模の大きな第6番ハ長調(といっても8分ほど)。オリジナルのヴァイオリンによる演奏。近年しばしば来日しているイザベル・ファウスト(ヴァイオリン)&アレクサンドル・メルニコフ(ピアノ)というコンビ。


同第2番



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グールドの<イギリス組曲>


寒波が去って三月並みの暖かな一日。春の気配にはまだまだ早いが、夕方の日脚はひと頃よりだいぶのびた。きょうも業務に精励。7時ちょうどに帰宅。ひと息ついて、相も変わらず音盤タイム。こんな盤を取り出した。


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例のグールドのボックスセットから選んだバッハ;イギリス組曲。グールドのイギリス組曲はボックスセットを手に入れる前から通常リリース盤でよく聴いていた。グールドの盤歴の中では比較的遅い時期の録音で1977年に収録されている。ゴールドベルク変奏曲でデビューしてから二十年以上を経ているが、グールドのバッハに対するアプローチに大きな変化はない。すべてが明晰で、楽譜に書かれた音が解体され、そして再構築される。この盤はアナログ最終期ということもあって音も一層クリアで、彼の演奏の特質がよく明確に伝わってくる。しかしよく聴くと初期のパルティータの録音などに比べると、音楽表現の幅が少し控え目になっている。音の強弱、テンポ設定の緩急、アーティキュレションの扱い、そうした一つ一つを彼が頭に描いたイメージの一歩手前で指先をコントロールしているように感じる。

1932年生まれのグールドはこの盤の収録時には四十代半ば。いくらグールドの音楽が若くして完成されていたといえ、二十代の頃と違って当然だろう。これをして円熟というのかもしれないが、円熟がいいとも限らない。往々にして年齢を重ねるとテンポは遅くなり、音楽の味付けも濃くなる。グールドが50歳で亡くなる前、晩年のゴールドベルクの再録音でも分かるように、グールドもこの法則の例外ではなかった。若い頃の竹を割ったような演奏にリアリズムを感じることも多い。このイギリス組曲の録音は晩年のかなり大きな変化を前にした時期にあたり、壮年期の彼の比較的中庸な表現が聴ける盤だ。


第2番の音源。


第1番のブーレ。テープ編集風景。まさにアナログの世界。


◆全6曲の音源
https://youtu.be/UueQWNjv7_k



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ヤニグロのベートーヴェン



寒波到来の週末土曜日。関東地方は青空広がる冬晴れ。昼前から夕刻まで野暮用外出。昨年末納車となりながら、まともに乗る機会のなかったVWゴルフを駆って往復200キロ程の高速ドライブ。ようやくその感触を楽しんだ。動力性能、静粛性、乗り心地といった車の基本性能に加え、昨年のマイナーチェンジでアップデートされた運転支援システムの出来がすこぶる良好で、昨今話題になる自動運転はすぐそこまで来ていると実感するほど。高速巡行時の快適性と安全性は期待以上だった。いずれ機会があればあらためて紹介したいと思う。 さて、あすは日曜という週末の夜。ドライブ疲れを癒しつつ聴く今宵の一枚。こんな盤を取り出した。


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きのう記事にしたシューベルトのトリオでチェロを弾いていたアントニオ・ヤニグロ(1918-1989)。初めてその名前を聞いたときには中南米のどこかの国のプロレスラーかと思った(^^そのヤニグロが弾くベートーヴェン:チェロソナタ全曲を収めた2枚組アルバム。その中から第1番ヘ長調を聴く。イエルク・デムス(1928-)のピアノ。録音は半世紀前1964年ウィーン。

ベートーヴェンの5曲あるチェロソナタのうちでもっともポピュラーなのは第3番イ長調だが、マイ・フェイバリットはこの第1番ヘ長調だ。以前チェロ相方女子と話をしていた際、彼女も第1番が好きだと言っていた。第1番は二つの楽章から出来ているが、その第1楽章冒頭のアダージョ・ソステヌートの序奏が素晴らしい。荘重な雰囲気の中に美しい歌があふれる。この序奏だけでもこの曲を聴く価値があるだろう。主部に入ってまず気付くのはピアノパートの雄弁さだ。もちろん単純な伴奏音形に留まることはなく、しばしば主旋律を取り、チェロが脇役に回る。チェロとピアノの協奏ソナタと言ってもいいほどだ。ヤニグロのチェロは例によって高貴で美しく申し分ない。協奏的に合わせるピアノのデムスも全盛期だろう。古典的な折り目正しさを守りつつ、ロマンティックなフレーズも歌い過ぎず、終始品格の高い音楽に満ちている。ベートーヴェンというだけでエモーショナルな表現で押す演奏がありがちだが、そうした演奏とは一線を画す名演だと思う。


この盤の音源。第1番と第2番。


第1番の楽譜付き音源。ブレンデル親子による演奏とのこと。



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プロフィール

マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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