ワレフスカ(Vc)のドヴォルザーク



二月最後の週末土曜日。このところコンチェルトが続く音盤タイム。きょうはこの盤を取り出した。


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クリスチャン・ワレフスカ(1945-)の弾くドヴォルザークのチェロ協奏曲ニ短調。十数年前にタワーレコードの企画盤としてリリースされたもの。ワレフスカが70年代に録音したチェロ協奏曲がまとまって復刻され収められている。

ワレフスカのこと知ったのは十数年前来日の際、その演奏会の模様を仕事帰りの車中で聴いたのがきっかけだった。カーステレオの貧弱な音からも、その素晴らしさはよく分かった。その後、来日時の演奏がCD化され、前後してこの復刻盤がリリースされた。その後も何度か来日した際に、ぜひ実演に接したいと思いながらかなわなかった。きょうは5枚組のこのアルバムからドヴォルザークの協奏曲をプレイヤーにセットした。1971年1月ロンドンでの録音。アレキサンダー・ギブソン指揮ロンドンフィルハーモニーがバックを務める。

やや鼻にかかったような音色とたっぷりとヴィブラートを効かせた歌いっぷり、フレーズの合間にふと入れるわずかな拍節の区切り…。何とも個性的な音色と歌い口だ。冒頭の長い序奏のあとに出るソロを一聴して、そう感じた。ライナーノーツによれば、ピアティゴルスキーに師事し、若い頃にはアメリカのデュプレと称されたワレフスカのチェロは、現代の視点からみると古いスタイルに属するそうだ。確かに70年代以降のモダンスタイルはもっと輝かしい音色と朗々とした音量が主流になったのだろう。それと比べるとワレフスカの演奏がそう言われるのも無理はない。しかし、今こうして聴くと、その個性的かつ魅力的な音色と豊かな歌は他に変えがたい。人気のピークに南米に移り住み、以来メジャーシーンからは離れ、多くの音楽ファンから半ば忘れ去られた存在になっていたことがむしろ幸いしたのかもしれない。A・ギブソン&LPOも彼女の個性に合せるかのように、節度あるバックを付けていて申し分ない。フォルテシモでも決して大声を上げず、ワレフスカのソロと共に、この曲の持つ懐かしい歌を存分に聴かせてくれる。


この盤の音源。第1楽章の後半、展開部からのエンディングまで。バックの映像も中々興味深い。40秒付近に一緒に映っているのはギターのセゴビア。彼女にエスコートされご満悦の様子。2分40秒過ぎ、横に立っているのはイッセルシュテットだ。


同 全4楽章


2010年来日時の演奏からアディオス・ノニーノ。左手の指が伸びた押弦の形が独自だという。ピアノはワレフスカの多くのステージで伴奏を務める福原彰美



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R・シュトラウス 二重小協奏曲ヘ長調



きょうは天皇誕生日。ちょっとした資料作成の野暮用あって終日PCに向かって過ごす。昼過ぎになり、キーボードを打つ手が少々疲れたところで一服。こんな盤を取り出した。


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リヒャルト・シュトラウス(1864-1949)のクラリネットとファゴットのための二重小協奏曲ヘ長調。正しくは「弦楽オーケストラとハープを伴ったクラリネットとファゴットのための二重小協奏曲」。マンフレート・ヴァイスのクラリネット 、ウォルフガング・リープシャーのファゴット。1975年録音。ルドルフ・ケンペ(1910-1976)指揮ドレスデン国立歌劇場管(SKD)によるリヒャルト・シュトラウス管弦楽全曲集ボックスセット中の一枚だ。

この作品はオーボエ協奏曲同様、モーツァルト回帰がより色濃くなったR・シュトラウス最晩年の作品。1946年作のオーボエ協奏曲より更に一年後の1947年に作られた。編成が変わっていて、ソロをとるクラリネットとファゴット、弦楽五部にハープが加わり、さらに弦楽五重奏が指定されている。構成は古典協奏曲の定石にのっとった急・緩・急の三つの楽章が切れ目なく演奏される。

第1楽章の短い導入部。始まってすぐに近代作品とわかる転調を含みながらも、どこかドヴォルザークの室内楽のようなフレーズが響き、クラリネットが穏やかなモチーフを奏する。ファゴットが入るあたりから音楽は活気を帯び始めるが、主題とその展開を経てクライマックスという型通りの進行はない。常にクラリネットとファゴットが対話をするかのように曲が進む。この曲が当初標題音楽として構想され、それぞれの独奏楽器にキャラクターを設定しようと考えていたと知り、なるほどと合点。それぞれの楽器の個性もあってか、なにやらヤンチャな子供(クラリネット)と、それをたしなめる大人(ファゴット)という趣きだ。ファゴットが活躍する第二楽章をへて、終楽章は再び対話路線の展開。この楽章はR・シュトラウスの著名な交響詩群でしばしば聴かれるような近代的和声感と、精緻な管弦楽の響きも加わり、単なるモーツァルト回帰でないことを感じることができる。

鮒にはじまり鮒に終わるのごとく、R・シュトラウスの場合はモーツァルトにはじまりモーツァルトに終わるの生涯であったが、18歳のときの作品ホルン協奏曲第1番、そして最晩年のオーボエ協奏曲とこの二重小協奏曲は、この作曲家の個性を知る上でも必聴の作品だ。


この盤の音源。全楽章。


ケルン放響(WDR響)による2014年の演奏。



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クレンペラー&バレンボイムのベートーヴェン



二月も下旬。寒暖繰り返しながら次第に春の気配。年度末締め切りの業務が中々タイトで、ここに及んで冷や汗続きの自転車操業が続いている。この歳になって何だかなあという感じだが、まあ完全リタイアするまでは仕方ない。勤め人の宿命だ。さて、今更の愚痴はおいておくとして…今夜の「盤ご飯」はこれ。数年ぶりに取り出した。


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ダニエル・バレンボイム(1942-)がオットー・クレンペラー(1885-1973)と組んで録音したベートーヴェンのピアノ協奏曲全集。1967~68年録音。手持ちの盤はクレンペラー&(ニュー)フィルハーモニア管による同じベートーヴェンの交響曲全曲とパッケージされたもの。ピアノ協奏曲全5曲と合唱が入る作品80の幻想曲、交響曲の方は全9曲の他、序曲が数曲と大フーガ(作品133のアレンジ)が収録されている。2000年頃、EMIのボックスセットが大量に出たときのもの。以前あった隣り町のタワーレコードのワゴンセールで買い求めた。今夜は第3番ハ短調を取り出して聴いている。

ピアノ協奏曲だからピアノが主役なのだろうが、その前にまずクレンペラー指揮ニュー・フィルハーモニア管の奏でるオケパートに耳がひきつけられる。対向配置のオケの響きはおそろしく透明で、大編成にも関わらず音の混濁がまったくない。左右に配された第1、第2ヴァイオリンの掛け合い、左奥から意味深く響くコントラバス、それらにのって明瞭な木管群が適度な距離感で中央奥に広がる。過剰なエコーがのらないEMIアビー・ロード第1スタジオでのセッションの様子が目に浮かぶようだ。

クレンペラーの解釈は遅めのテンポではあるが、オケの音響が清涼であるがゆえに鈍重さはない。またフォルテも余裕を残して響かせるためか、うるささを感じない。第3番が始まってバレンボイムのソロが出てくるまでのオケの序奏だけで完全に脱帽ものの素晴らしさだ。録音当時まだ二十代のバレンボイムはクレンペラーの指示だろうか、ほとんどインテンポを崩さず楷書の趣き。音色も透明感に満ちている。巷間の評価でものちの再(再々)録音よりも、このクレンペラーとの録音を推す向きが多いのもうなづける。録音当時すでに巨匠の域だったクレンペラー。そしてその胸を借りて、若いながら落ち着いた弾きぶりのバレンボイム。ピアノだけ考えるとおそらくもっと達者な弾き手はいるだろうが、それを補って余りあるオケパートの素晴らしさが光る名演だ。十分現役の録音状態共々、今もってこの曲の代表的録音といっていいだろう。


手持ちの盤からアップした。ピアノ協奏曲第3番ハ短調・第1楽章


第3番ハ短調。手兵シュターツカペレベルリンを弾き振りするバレンボイム。2005年バレンボイム65歳の誕生日の演奏。
!マークが出るが、「YouTubeで見る」をクリックすればOK。



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ストラヴィンスキー ヴァイオリン協奏曲ニ長調



二月半ばの週末日曜日。午前中から少々野暮用。昼過ぎになって一服。久々に明るい時間の音盤タイム。こんな盤を取り出した。


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イツァーク・パールマン(1945-)が小澤征爾&ボストン交響楽団と組んだベルクとストラヴィンスキーのヴァイオリン協奏曲。この盤は店頭で買い求めたわけではなく、かなり前にネットで知り合った方から数百枚を激安箱買いしたデッドストック盤の中に混じっていたもの。1978年、小澤もパールマンも最も勢いがあった時期の録音。今夜はB面に入っているストラヴィンスキーに針を下ろす。

この曲が作られた時期のストラヴィンスキーは、新古典主義への傾倒も自ら転向宣言するほどになっていたという。曲想はその路線のもので、オーソドクスな構成、譜割りと拍節感に近現代の和声感を加えたもの。第1楽章は<トッカータ>と表記されているが、行進曲調のポルカといってもいいほどの軽妙な楽章。第2、第3は共に<アリア>の指示がある。第2楽章は跳躍を伴う旋律、一方の第3楽章は旋律の横の動きが多く、歌を感じる。特に第3楽章の調性、嬰へ短調は同じく♯3つを持つ関係調のイ長調と共にギター弾きには馴染みが深い。ギター曲でこの嬰へ短調に転じるときもそうだが、弦楽器におけるこの調性は厳粛で冷徹な感じを受ける。この第3楽章も同じだ。第4楽章はテンポを速めた技巧的な楽章だが、軽みと華やかさを帯びていて楽しい。

ぼく自身は20世紀の音楽のうち電子音楽さらに実験的な現代曲にはほとんど感度がないが、こうした新古典主義や後期ロマン派の結尾を受け継ぐような曲、あるいはベルクのように12音技法を使いながらも、どこか調性を感じさせる曲は好きだ。19世紀までの音楽とは脳内の刺激される部位が異なるようで面白い。

この盤の音源。全4楽章



コパチンスカヤ(1977-)による全曲。バックはアンドレス・オロスコ=エストラーダ(1977-)指揮hr交響楽団(旧フランクフルト放響)。



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カレル・アンチェル&チェコフィル ブラームスの第2&ドッペル



このところ秋晴れの好天が続いていたが、きょうは昼過ぎからやや下り坂。それでも気温高く穏やかな週末日曜日だった。昼をはさんで野暮用外出。三時前に戻って一服。アンプの灯を入れ、この盤を取り出した。


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この盤も十数年前に出た「スプラファン・ヴィンテージ・コレクション」と題したシリーズ中のもの。オリジナル志向には反するが、CDの長時間収録のメリットを生かして、交響曲第2番ニ長調に加えて、「ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲イ短調」(通称ドッペル)がカップリングされている。2番は1967年、ドッペルは1963年の録音だ。

ドッペルコンチェルトについては過去に何度か記事に書いた。ブラームスの楽曲の中でももっとも好きな曲の一つだ。いうまでもなくこの曲は、名手二人とブラームスの重厚かつ濃厚なロマンティシズムを表現できる指揮者&オケのコンビが必要だ。このアンチェル&チェコフィル盤でソロを取っているのは、ヴァイオリンがヨゼフ・スーク、チェロがアンドレ・ナヴァラ。チェコとフランスという珍しい組み合わせ。

出だしのオケのトッティから実に素晴らしい響きが展開する。これまで紹介したアンチェルの盤では、現代的な颯爽としたスタイルとキレ味のいい曲作りが印象的だったが、このブラームスは一転、濃厚なロマンティシズムを十全に表出している。フレーズはやや後ろ髪を引かれるかのようにネバり、音価もテヌート気味にたっぷりとキープしている。アクセントでのアインザッツも深く重い。正にこのドッペルに必要な要素をすべて盛り込んだような音楽作りだ。スークとナヴァラのソロはやや近めの音像でクリアに録られていて、冒頭オケのトッティのあと、ナヴァラのソロなどは少しボリュームを上げて聴くと目の前で弾く弓さばきが見えそうだ。

併録されているブラームスの第2番もやや遅めのテンポで進みながら、ブラームスらしい長いフレーズでの緊張と弛緩を繰り返しながら次第次第に熱を帯びていく。ドッペル同様この曲の録音も素晴らしく、終始チェコフィルの音が美しく録られている。とりわけ弦楽群はコントラバスの4弦の基音もしっかりと聴こえ申し分ない。

今回この盤を久々に取り出し、音楽の骨格と同時に細部まで聴こうとヘッドフォンで聞き耳を立ててみて、多くの新たな発見があった。現代とロマンティックの双方を演じ分けるアンチェルの多面性、そしてこれほど素晴らし演奏だったとは…。これまでしっかりと聴いていなかった己を恥じるばかりだ。


この盤の二重協奏曲全3楽章。



ブラームスの第2番全4楽章



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グールド&ストコフスキーの「皇帝」



深まる秋。当地近郊の街路樹も色付いて美しい。そして次第に気温も低下。今朝から通勤着をウールのジャケットに替えた。季節感を楽しめる貴重な時期だ。仕事は相変わらず自転車操業。きょうも程々に働き、溜息と共に退勤した。さて、ネクタイもといベルトを緩めて一服。アンプの灯を入れ、先日来聴いていたアンチェルで思い出した(下に貼ったYouTube音源参照)この盤を取り出した。


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グレン・グールド(1932-1982)の弾くベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番変ホ長調「皇帝」。1966年5月、ストコフスキー指揮のアメリカ交響楽団との協演。当時グールド34歳、ストコフスキー84歳。グールドはベートーヴェンのピアノ協奏曲を全曲録音しているが、ストコフスキーとはこの5番のみ。他はバーンスタインやゴルシュマンと合わせている。手持ちのLPはまだCBSがソニーの軍門に下る前、1966年の国内盤で発売元は日本コロンビアになっている。

「皇帝」というサブタイトル通り、この曲は堂々と恰幅よく演奏されるのが常だ。しかしグールドのアプローチはまったく異なり、何ともリリカルで繊細にこの曲を扱う。出だしからテンポを少々遅めに取り、ピアノに与えられたフレーズをともかく丁寧なタッチでいつくしむように弾いている。第2楽章のアダージョ・ウン・ポコ・モッソはもちろんだが、ロンドの第3楽章でさえ、ときに神秘的な静寂が支配する。テクニカルな面でまったく不安のないグールドだから速いパッセージも華麗に弾ききるのだが、力ずくのところがない。つまりフォルテシモさえも抒情的に扱っている。そして抒情的ではあるが主情的に弾き散らかしているわけでなく、音楽の骨格は古典的な様式感の上にしっかり乗っていて安定している。この演奏は「皇帝」という自信に満ちて堅固なイメージでなく、若き日の憧れに満ちた第5協奏曲だ。


この盤の音源。全3楽章


グールドが1970年に地元トロントのオーケストラと協演した第5協奏曲の第1楽章。指揮は先日来聴いていたチェコの名匠カレル・アンチェル(1908-1973)。アンチェルはチェコ事件を契機に米国へ亡命し、その後1969年に小澤征司の後任としてトロント響の指揮者となった。


同 第2・第3楽章



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モーツァルト 協奏交響曲 K.364



気付けば十月も下旬。相変わらず仕事は少々タイトで、秋の風情を楽しむ余裕に欠ける毎日だ。こんな風にあっという間に人生も終わるのかぁ、嗚呼。 さて、それはともかく…週明け月曜日。きょうも程々に頑張って業務に精励し、いつもの時刻に帰宅。今夜は少し前から聴こうと思っていたこの盤を取り出した。


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カール・ベーム(1894-1981)とベルリンフィルのメンバーによるモーツァルトの協奏交響曲K.364。手持ちの盤は70年代終盤に出ていたグラモフォンの廉価盤シリーズの一枚で、このヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲K.364と管楽器のための協奏交響曲K.297aとがカップリングされている。

カール・ベームといえば、ぼくら世代は70年代のウィーンフィルとのコンビで人気を博していた頃を思い出す。日本にもウィーンフィルと再三来日して万雷の拍手を受けた。それに先立つ60年代、ベームは当時カラヤンの手兵となっていたベルリンフィルとモーツァルトやシューベルトの交響曲などを録音している。60年代は契約の関係でウィーンフィルは英デッカとの録音が主体で、ベームと独グラモフォンへ録音することが出来なかったと何かで読んだ。70年代になってこの制約がなくなり、ベームはウィーンフィルとベートーベンやブラームスの交響曲全集を立て続けに録音する。このモーツァルトは60年代半ばの録音で、当時ベルリンフィルと進めていたモーツァルト交響曲全集録音の一貫として録られた。独奏を務めているのは、当時のベルリンフィル弦楽セクション第1奏者であったトーマス・ブランディス(ヴァイオリン)とジュスト・カッポーネ(ヴィオラ)である。

いつも通り、4グラムの針圧をかけたSPU-Gを静かに下ろす。わずかなスクラッチノイズに続いてベルリンフィルのトゥッティが響く。しっかりとした骨格が分かる響きが印象的だ。流麗、なめらか、美音、というキーワードには遠い。これがベームの個性であり、ベルリンフィルのベームに対する応答なのだろう。特に第2楽章は堂々とした展開でスケールが大きい。それでも同じコンビによるモーツァルトの交響曲録音に比べると、この盤は曲の性格からた柔和でしなやかな表情も感じさせる。

二人の独奏は、中音域がしっかり詰まった充実した音とベーム&ベルリンフィルのやや古風な曲の運びにマッチした弾きぶりが印象的で、単なる美しさだけを求める姿勢とは対極だ。特にジュスト・カッポーネのヴィオラはまるでチェロのように太く響く。第2楽章の憂いに満ちたメロディーとヴァイオリン・ヴィオラ両独奏パートの掛け合いには、この盤の二人のような音色がむしろ似つかわしいかもしれない。無骨ともいえるベームのスタイルも懐かしい一枚だ。


この盤の音源。全3楽章。


スイス北部アールガウ州に本拠地をおくアールガウ・フィルハーモニー管弦楽団による今年5月の演奏。



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プロフィール

マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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