ビゼー 交響曲ハ長調



三寒四温。次第に春らしくなってきた。今夜は音盤タイムも明るい気分にしようと、この盤を取り出した。


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ジョルジュ・ビゼー(1838-1875)の交響曲ハ長調。アンセルメ&OSRによる例のボックスセット中、フランス音楽編のDisk19に収められている。収録曲は以下の通り。1960年5月録音。

・ビゼー:交響曲ハ長調
・ビゼー:子供の遊び Op.22
・ビゼー:「美しきパースの娘」組曲
・オッフェンバック:序曲「天国と地獄」
・オッフェンバック:序曲「美しきエレーヌ」
・エロルド:序曲「ザンパ」

オペラや劇音楽で有名なビゼー。交響曲は三曲書いたとされるが、現存して演奏されるのは、もっぱらこのハ長調の交響曲。ビゼー17歳のときの習作ということだが、初演はビゼー没後60年近く経った1930年。意外にもあのワインガルトナー指揮で行われたそうだ。

作曲年は1855年ということなので、時代としてはロマン派も中期から後期にかかろうかという時期。しかし、この曲の作風は17歳の習作ということもあってか、形式はしっかり古典様式にのっとり、和声や曲想も初期ロマン派風。メンデルスゾーンの雰囲気を感じるところもある。冒頭第1楽章は序奏なしの溌剌としてリズミカルな主題が立ち上がり、弦の刻む推進力にのって生き生きと進む。副主題では好対照にオーボエが伸びやかに歌う。第2楽章はイ短調に転じる。弦楽群のピチカートにのってソロをとるオーボエが印象的だ。中盤にはフーガも挿入されている。第3楽章のスケルツォも型通りながら、堂々かつ伸びやかな曲想。終楽章は単純なロンドではなく、立派なソナタ形式をとり、無窮動風の弦楽による第1主題に続き、その後も弦と管いずれもが生き生きとしたフレーズを交錯させ、飽きさせない。

アンセルメ&OSRのこの盤は、これまで聴いたこのコンビの録音に中でも印象的な一枚。ディナーミクの細かなコントロールが絶妙。やや薄めの弦楽群のテクスチャもむしろ奏功し、シルキータッチの旋律を奏でて実に美しい。録音も奥行き広がりとも豊かで、木管群が後方から響く。アンセルメ&OSRの真骨頂はフランス物の中でもラベルやドビュッシーなど近代作品だろうが、この曲やこの盤に収録されている明快でメロディアスなフランス物でもいい味で聴かせていて、申し分がない。


この盤の音源。全4楽章


スコア付き音源。ぼくら素人でも追いやすいシンプルかつ美しいスコア。


トルコのビルケント大学が1993年に設立したというプロフェッショナルオケによる全曲。
第2楽章11:00~第3楽章21:30~第4楽章27:15~



★★追伸★★
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スウィトナー&SKBのブルックナー第五



令和五年如月。程々に働き、夜7時過ぎに帰宅した。相変わらずの日常。ひと息ついて、部屋の片付けをしながらBGM代わりに、この盤を取り出した。


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ブルックナーの交響曲第5番。オトマール・スウィトナー(1922-2010)とベルリン歌劇場管弦楽団(シュターツカペレ・ベルリンSKB)による1990年1月の録音。手持ちの盤は10年程前にキングレコードから廉価盤でリリースされたときのもの。同コンビによるブルックナーは1986年の第8番以降順次録音がなされ、1、4、7、そしてこの5番まで進んだところでスウィトナーの病気により中断。折からの東西ドイツ統合、SKBシェフ交代(スウィトナー⇒バレンボイム)もあって、結局全曲録音には至らなかった。

音が出始めていきなり驚く。第1楽章冒頭、低弦群のピチカートのテンポが速い。思い入れもなくスイスイと歩みを進める。これには少々拍子抜けだ。この曲を半世紀近く前にケンペとミュンヘンフィルの盤で知り、馴染んだ耳には、この第1楽章のピチカートはもっと意味深く弾いてもらいたい。もちろんゆったりとしたテンポがほしい。主部に入っても音楽は横へ横へとスムースに流れていく。縦に杭を打ち込んでいくようなスタイルではない。気になったので手持ちの盤のいくつかについて、第1楽章の演奏時間を調べてみた。

スウィトナー&SKB     18分41秒
マタチッチ&チェコフィル 19分25秒
ケンペ&MPO        20分56秒
チェリビダッケ&MPO    23分21秒

やはり最速だ。音響として軽くはないし、SKBは極上のバランスで素晴らしい音を録音会場のイエス・キリスト教会に響かせている。ただ、いささか食い足らない。アダージョ指定の第2楽章も速めのテンポに変わりなく、音楽はもたれることなく先へ先へと進む。続く第3楽章スケルツォもさぞ急速調かと思うと、ここは中庸で落ち着いた運びとなる。そしてこの曲の聴きどころ最終楽章。クライマックスの二重フーガへの道のりも速め速めに進んでいく。繰り返すが、オケの音響は素晴らしく、管楽器群のバランスも良好で不足感はない。思い起こせばスウィトナーはそういうタイプではない。総じてこのブルックナーは、第5番と聞いて連想するような、壮大なゴシック建築を築き上げていくような演奏ではなく、テンポをかなり自在に動かしつつも美しくスムースに流れるブルックナー。時代を少し遡った古典期から初期ロマン期に軸足を置いた演奏と感じる。ケンペ盤やチェリビダッケ盤の対極ともいえる演奏として価値ある録音だ。


この盤の音源。全4楽章



以下のサイトに、この録音の少し前に録られたブラームス「ハンガリー舞曲」録音にまつわる話と晩年のスウィトナーの様子を伝える話が載っている。
http://columbia.jp/kono1mai/075suitner.html


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シベリウス交響曲第5番変ホ長調



懲りもせず、引き続き「5」しばりの音盤探索。きょう取り出しのはこの盤だ。


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シベリウスの交響曲第5番変ホ長調。ブラームスやチャイコフスキーに加え、シベリウスも得意にしていたクルト・ザンデルリンク(1912-2011)が旧東独のベルリン交響楽団(現ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団)を振った全集セット中の一枚。このセットには7つの交響曲の他、主要な交響詩が5曲収録されている。1976年ベルリンイエスキリスト教会での録音。十年程前、ブリリアントの激安ボックスセットで出た際に買い求めた。

ぼく自身は熱心なシベリウスフアンというわけではなく、聴きかじった曲といえば、いくつかの交響曲と管弦楽曲、有名なヴァイオリン協奏曲、それとピアノの小品程度だろうか。このセットも入手直後に何枚か聴いたが、その後はほとんど手付かずのままだった。今夜久しぶりの第5番を取り出した。第5番はもっともポピュラーな第2番に次いで演奏機会も多く、人気の曲だろう。

第1楽章冒頭から聴く者を引き付ける魅力的な響きで始まる。ホルンがまさに北欧の澄んだ空と深い森をイメージするように静かに響き、程なく、そのゆったりとした空気の中に、やや鋭い響きの木管群が呼応する。この冒頭の魅力的なフレーズだけでも、この曲を聴く価値があると言っても言い過ぎではない。大自然の息吹き、大地の力強さ、森の静けさとざわめき…そうしたものが渾然一体となってシンフォニックに響き渡る。まことにスケールの大きな楽章だ。 歌謡性に富んだ主題とその変奏で綴られる素朴で美しい第2楽章をはさんで、萌えいずるようなエネルギーを感じる第3楽章の充実した響き。冒頭少ししたあたりで出るゆったりとした主題、そしてエンディング数分間の大団円は第2番のクライマックスに勝るとも劣らない。

ザンデルリンクはロマンティックな解釈をベースに極めてシンフォニックでスケール大きな演奏を展開する。録音も優秀だ。ぼくらが北欧フィンランドの作曲家シベリウスを聴いてイメージする響きそのもののような曲。同時に、自然の目覚め、かすかな春の訪れをも感じる曲でもあって、今の時期に聴くのに相応しい名曲だ。


この盤の音源。全4楽章


ユッカ・ペッカ・サロネン指揮ラハティ交響楽団による第5番全曲。ラハティはフィンランド南部の古い都市。指揮者のユッカ・ペッカ・サロネンの故郷でもある。2000年に完成した同市内のシベリウスホールでのライヴ。34分40秒過ぎからアンコールとして「鶴のいる情景」(Scene with Cranes)が演奏される。



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群馬交響楽団&ケク=チャン・リム チャイコフスキー交響曲第5番ヘ短調



令和五年にちなんだNo.5しばり。きょうはこの盤を取り出した。


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群馬交響楽団(群響:グンキョウ)によるチャイコフスキー交響曲第5番ヘ短調。指揮は1928年オランダ領ボルネオ生まれのインドネシア系中国人のケク=チャン・リム(Lim Kek-tjiang 林克昌1928-2017)。1981年5月の録音。

これは名演だ。群響がこれまでに残した録音の中で最も優れた録音の一つだと断言できる。久々に針を降ろしたが、あらためて唸ってしまった。 録音は井阪絃率いるカメラータ東京によって行われているが、当時の群響本拠地:群馬音楽センターではなく、隣り町渋川市にある渋川市民会館で収録された。群馬音楽センターは残響の少ない極めてデッドなホールで録音後処理でのエコー付加が欠かせない。この録音では渋川市民会館のナチュラルエコーが効いているのだろう、オケの音全体に適度で自然な残響が加わっている。弦と管の距離感も程よい具合だ。カメラータ東京技術陣はきっと慣れないホールでのマイクセッティングやミキシングに腐心したことだろうが、その結果は盤の出来に十分反映されている。

そして何より指揮者ケク=チャン・リムの曲作りには感服した。この曲を貫くほの暗さとロマンティシズム、そして終楽章の勝利。そのすべてがあるべき形で提示されている。全体にテンポ設定は遅く、第1楽章には17分近くをかけている。これはチェリビダッケの18分台には及ばないが、セルより3分遅く、ムラヴィンスキーより6分も遅い。遅いテンポを取ると一般には音楽の彫りが深くなり、一つ一つのフレーズが持つ意味合いがより明確に提示される。反面、オケのコンロトールが不十分だと緊張感や統一性に欠け、いろいろやっているが全体として何を言いたいのか不明といった演奏になることもしばしばだ。しかしこの盤では群響がケク=チャン・リムの彫りの深い音楽作りによく反応し、緊張感を維持している。ケク=チャン・リムはもともとヴァイオリニストで、著名なコンクールのファイナリストに残るほどの名手だったそうだ。そのせいか弦楽群のフレーズの作り方が巧みで、やや濃い口の歌わせ方だが、緊張と解決をうまくコントロールしている。何気ない第3楽章のワルツなども実に雰囲気があって、フレーズがフワッと浮き立ち、心地よく収束する。


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以前取り上げた豊田耕児と群響による古典と初期ロマン派の整った音楽作りはそれまでの群響とは一線を画するものであったが、ケク=チャン・リム指揮のこのチャイコフスキーは、更に一皮むけて深く濃いロマンティシズムをたっぷりと聴かせる力が群響にあることを示した名盤と言えるだろう。

よくぞこのLP盤音源をアップしてくれた。チャンネル主催者のブログにも、この曲の名演として紹介されている



ケク=チャン・リムは60年代には中国本土で様々な活躍をしたが文革のため西洋音楽が排除され、その後ときの周恩来の計らいもあってマカオに移ったそうだ。検索してみたら2000年代に入って、台湾の企業グループがスポンサーになって出来た長栄交響楽団の初代シェフに就いていることを知った。同団との演奏があったので貼っておく。

同じチャイコフスキーの5番



カヴァレリア・ルスティカーナ間奏曲。濃厚な味付けだが、よくコントロールされていて素晴らしい!



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ブロムシュテット&SKD シューベルト交響曲第5番変ロ長調



年が明けて一週間。年始四日から仕事で都内へ出向いたが、新幹線も東京駅も大そうな人出だった。完全にコロナ禍以前のレベル。多くの人がキャリーケースを引いている。帰省や観光か…。来週からは少し落ち着きを取り戻すだろうか。 さて、週末土曜日。夜半前の五番しばり。今夜はこの盤を取り出した。


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ブロムシュテットとドレスデン国立歌劇場管弦楽団(シュターツカペレ・ドレスデン:SKD)によるシューベルト交響曲のセットから第5番変ロ長調。1980年、ドレスデン・聖ルカ教会での録音。HMVのサイトでは「ドイツ・シャルプラッテン本来の優秀録音が蘇ったと評判になったハイパー・リマスタリングによる廉価ボックスの登場。オリジナル・アナログ・マスター・テープ本来の音の情報が、間接音除去やイコライジングによって損なわれることなく忠実に再現されており、ドイツの名門シュターツカペレ・ドレスデン全盛期のサウンドをアナログ完成期の名録音で楽しむことができます。」…との口上がうたわれている。70年代終盤から80年代初頭のアナログ最後期の音の記録でもある。

第5番はシューベルトの交響曲の中では「ザ・グレイト」と並んで好きな曲の筆頭。かなり劇的な作風の第4番から一転、トランペットやティンパニ、クラリネットも省いた小編成で、穏やかな古典的たたずまいに満ちている。モーツァルトの第29番シンフォニーに相通じる雰囲気がある。ブロムシュテットはテンポを中庸に取り、この曲のそうした雰囲気にマッチした曲の運び。同時にマスの響きの雰囲気だけではなく、各声部が交錯する様などは明瞭に提示するなど、実に好ましい。


この盤の音源。第5番全4楽章。


グールドの弾く第1楽章冒頭



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マタチッチ&チェコフィル チャイコフスキー交響曲第5番ヘ短調



年明け。さて何を聴こうかと音盤棚を見回す。未聴の盤も随分あるなあと思いながらも、ここ何年か取り出す盤を絞られてきた。いずれサンデー毎日状態になったらボチボチ聴こうを思っているが、どうなるのかと、しばし沈黙…。 我に返って気を取り直し、令和五年にちなんでナンバー5で行こうかと、こんな盤を取り出した。


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ロヴロ・フォン・マタチッチ( 1899-1985)とチェコフィルハーモニー管弦楽団による1960年の録音。70年代には廉価盤で出ていたマタチッチとチェコフィルの演奏やその後のNHK響との演奏他いくつかの盤が以前、日本コロンビアから復刻された。手元に十年程前に手に入れた盤がいくつかあるが、きょう取り出したチャイコフスキーの5番もその中の一枚。

第1楽章の序奏は物々しく始めることが多いが、この盤では思いのほかあっさりと進む。過度な表情付けはないが、よく聴くとフレーズの緊張・解決に沿ってわずかに音の重みに変化を付けている。主部に入ってからも速めのテンポでもたれず進む。主題の切り替わりで僅かにテンポを揺らしたり、展開部ではせき込むようなアチェルランドを過度にならない範囲で効かせ、効果を上げている。チェコフィルの弦楽器群の音は潤いに満ちていて、フォルテッシモでも余裕を持った柔らかな響きをキープしていて美しい。管楽器群も鋭く響くようなところはなく弦楽群とよく調和している。

第2楽章のホルンのソロや、ときどき金管群やホルンが聴かせるヴィブラートがこの時期のロシア・東欧系オケの特色を感じさせる。料理の仕方次第で様々に変化するチャイコフスキーだが、この演奏は過度な演出を避けながらもスラヴ的感興にも不足のない、そして往時のチェコフィルの音を堪能出来る素晴らしいアルバムだ。


この盤の音源。全4楽章


1975年にN響を振って演奏した同じチャイコフスキー第5番の音源があったので貼っておこう。チェコフィルとの録音から15年を経てテンポはわずかに遅めになっているが、もたれるような感じはまったくなく、推進力に富む。40年前の録音だが、すでにアナログ録音の完成期。やや残響に乏しいNHKホールながら、コントラバスの最低音までしっかりとらえられている。


第4楽章の中間部聴き比べ。9名の指揮者が登場する。


#0:00 ヘルベルト・フォン・カラヤン / ベルリンフィル
#2:55 ズデニェク・マーツァル / チェコフィル
#5:37 リッカルド・シャイー / ウィーンフィル
#8:12 リッカルド・ムーティ / フィラデルフィア管
#10:45 チェリビダッケ / メルボルンフィル
#13:55 アバド / シカゴ響
#16:35 デュトワ / モントリオール響
#19:12 スヴェトラーノフ / ロシア響
#21:33 ムラヴィンスキー / レニングラードフィルハーモニー管弦楽団


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チャイコフスキー交響曲第2番ハ短調「小ロシア」



音楽とその地域性や風土、季節性を強く感じるものとそうではないものとがある。ぼくの場合例えば、チャイコフスキーやシベリウスを聴くのは圧倒的に冬の期間が多い。あるいはブラームスの弦の主題を聴くと秋の深まりを感じる。そして今年も冬がやってきて、ぼちぼちチャイコフスキーの季節かなあ…と思いつつ、今夜はこんな盤を取り出した。


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モーリス・アブラヴァネル指揮ユタ交響楽団によるチャイコフスキー交響曲全集。70年代初頭の録音。6曲の交響曲の他、主要な管弦楽曲が5枚のCDに詰め込んである米ヴァンガードの廉価盤ボックスセット。かれこれ十数年前、今はもうない隣り町のタワーレコードで投げ売られていた。今夜はその中から第2交響曲ハ短調を取り出し、先ほどから少し大きめの音量で聴いている。

アブラヴァネル(1903-1993)とユタ交響楽団によるこの全集は中々個性的だ。まずマルチマイク方式と思われる録音が異様なほどリアル。オンマイクでとらえられた各パートの音が明瞭に分離する。このパートがこんな音形を奏でていたのかという発見が随所にある。わずかな音程の狂いやアインザッツの不揃いもはっきりと聴き取れてしまう。そういう意味では、ソファに深く腰かけて、ゆったりと遠めに展開するオーケストラサウンドを聴くという感じではない。むしとその対極だ。これがアメリカ的といえばいえなくもない。アブラヴァネルの解釈も基本はオーソドクスだが、フレーズはやや短めに切り上げて歯切れがいいし、各パートの出入りをはっきりと提示する。

第2番ハ短調「小ロシア」は後期の4、5、6番やそれらに次ぐ人気の第1番「冬の日の幻想」などに比べるといまひとつパッとしない。演奏時間は35分程と、楽曲としての規模もチャイコフスキーあるいは他の同時期の交響曲と比べるても小さい。ウクライナの旧称あるいは蔑称としての「小ロシア」の名が付いているように、第1楽章冒頭のホルンソロをはじめ、楽曲の主要主題にウクライナ民謡が使われている。少々盛り込みすぎで散漫な感を否めないが、アブラヴァネルの速めのテンポと粘らない解釈で案外気持ちよく聴ける。このアブラヴァネル盤は、この第2番ほか他の曲もチャイコフスキーの「最初の1枚」としては必ずしもお薦めしないが、すでに幾多の演奏でチャイコフスキーの交響曲のイメージが出来上がっている向きには、面白く聴ける演奏だと思う。


この盤の音源。アブラヴァネル&ユタ響の音源。



チャイコフスキーあれこれ



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プロフィール

マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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