レナータ・タラゴ(G)



今どきのギタリストはだれもかれも上手い。曲によって様式感を使い分けるし、妙な解釈をすることも少ない。一方で他のジャンル同様、グローバル化によりお国柄や伝統をベースにした解釈や音色、味わいは希薄になりがちだ。かつては忌み嫌っていた、そうした少し古めのスタイルを最近になって妙に懐かしく感じることがある。きょうもそんな気分でこの盤を取り出した。


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レナータ・タラゴ(1927-2006)。ぼくらより少し年上のギターファンには懐かしい名前だろうか。1927年スペイン生まれ。この盤は1963年リリースの国内盤で、可愛らしいジャケットデザインも60年代当時を忍ばせる。もう1枚の彼女の盤と合わせてリサイクルショップのジャンク箱から救出してきた。A面にはミラン、ナルバエス、ムダーラといったスペインのビウエラ曲が並び、それと少し珍しいフェランディエーレの古典的な小品も2曲入っている。B面はすべてフェルナンド・ソルの作品で、メヌエットと練習曲、そして魔笛バリエーションで終わっている。

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タラゴのギターは多分この時期、60年代のスペインギタリストの典型ではないかと思わせる弾きぶりで、曲によっては様式感を逸脱した自由な解釈もみせる。同じソルでも、メヌエットではソルの古典的な様式をしっかり踏んで端整な演奏をしているのだが、魔笛バリエーションになると一変、かなり自由なテンポの変化や強弱設定があって、少々面食らう。主題をゆったり弾いたかと思うと、最後の二つの変奏は破綻寸前の猛スピードで突っ走っていく。同じソルにもかかわらず、魔笛でこれだけ奔放な解釈をするには何か訳があったのだろう。伝統的な古典様式と思われる魔笛バリエーションに、スパニッシュな要素を感じたのかもしれない。 ビウエラ曲も、ミランではきっちりしたインテンポ、和音もオンビートで弾いているが、ナルバエスやムダーラではかなりテンポを揺らす。ムダーラの有名な「ルドビーコのハープを模した幻想曲」ではこの曲を弾くときにしばしば使われるカンパネラ奏法はまったく使わず、テンポの変化だけでこの曲の幻想的な雰囲気を出そうしている。そしてまたフェランディエーレの佳曲メヌエットとコントラダンサ・デ・ロス・クルターコスでは、しっかりした古典的な雰囲気を聴かせてくれる。

70年代以降、日本では彼女の音信はあまり聞かれなくなった。ぼくの記憶の中にも印象の薄い奏者だったが、こうして残されたレコードで彼女を聴くと、現代のインターナショナルな奏者にはない個性を感じて中々味わい深い。


フェルナンド・ソル「魔笛の主題による変奏曲」。演奏スタイルには賛否あるだろう。後半の爆走ぶりに驚く


ソルのメヌエットOP.22 こちらは古典様式を踏まえた折り目正しい演奏。


フェレンディエーレ「メヌエットとコントラダンサ・デ・ロス・クルターコス」



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ヘスス・ゴンザレス・モイーノ(g)の10吋盤


創刊直後の現代ギター誌を紐解いていて思い出した盤があったので取り出した。


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ヘスス・ゴンザレス・モイーノ(1929-)の弾くギター名曲集。ゴンザレス・モイーノは60年代から70年代にかけてクラシックギターの通信教育で名をはせた東京音楽アカデミーの教材レコードでぼくら以上のオールドファンにお馴染みのギタリストだ。当時マドリッド国立音楽院に留学していた小原安正との交流から日本への紹介が始まり1958年、64年、70年と来日している。この盤は最初の来日(1958年=昭和33年)の際に時間を割いて録音されたもの。このときの来日では全国で27回の演奏会が開かれたようだ。当時はまだ流通していた10インチ盤LPで収録曲は以下の通り。録音はモノラル。

Side1
 ロマンス(禁じられた遊び)
 アメリアの誓い、商人の娘(カタロニア民謡・リョベート編)
 入り江のざわめき(アルベニス)
 ビート(アスピアス編)
Side2
 二つのメヌエット(ラモー)
 組曲ニ短調(ヴィセー)
 主題と変奏(ヘンデル)
 アストリアス(アルベニス)

ジャケット写真をみると楽器はフレタのようだ。50年代中庸にマドリッド国立音楽院で共にデ・ラ・マーサに師事した小原安正が書いているライナーノーツにもあるように、セゴビアの影響を曲想にも音そのものにも感じる。小原氏が現地で最初の授業を受けた際、際立って鮮やかに弾く学生に会ったという。その学生がゴンザレスだった由。以降、二人の交流は続き、ゴンザレスを日本へ紹介するにまで至った。

演奏は当時としては至極真っ当なもので、そのころスペイン系ギタリストにときどき見られた酔っ払いのような拍節感は少ない。確かにこのまま教材用のレコードになりそうな演奏だ。カタロニア民謡などは昨今聴かれる演奏より速めのテンポであっさりと弾いていて興味深い。アストリアスなども切れのいい技巧でサッと弾いていて好感が持てる。

ネットを探ってみたら2年前92歳のゴンザレスの健在ぶりを伝える記事が出てきた(ブラウザの自動翻訳でどうぞ)。
2021年7月
https://www.lanzadigital.com/provincia/jesus-gonzalez-mohino-de-pastor-de-ovejas-a-uno-de-los-mejores-guitarristas-de-su-generacion/
2021年9月
https://www.daimiel.es/es/noticias/sociedad/el-prestigioso-guitarrista-jesus-gonzalez-mohino-se-reencuentra-con-daimiel-su



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この盤の音源。前述の収録曲全8曲が聴ける。


東京音楽アカデミーの宣伝・紹介用レコード。ゴンザレスのアメリアの誓いが少しだけ聴ける。



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現代ギター誌を読む_#6_1968年1~3月号



現代ギター誌のバックナンバーを振り返るシリーズ。きょうはその第6回目。創刊の翌年1968年の1~3月号を開くことにした。


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1968年・昭和43年をキーワードで振り返ると…三億円事件、小笠原諸島日本返還、大学紛争、「巨人の星」、「三百六十五歩のマーチ」「恋の季節」、「黒部の太陽」、「2001年宇宙の旅」、メキシコオリンピック、 <物故>円谷幸吉、ヨゼフ・カイルベルト、ウェス・モンゴメリー、万城目正 <誕生>葉加瀬太郎、舞の海、桑田真澄、川井郁子…そして世をあげてグループサウンズの全盛期だった。


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さて創刊から順調に紙面を増やし発行部数の伸ばしつつあった現代ギター誌。年明けの1月号には前年秋に催されたエポックメイキングな二つの演奏会評がのっている。一つは渡辺範彦(1947-2004)、もう一つはレヒーノ・サインツ・デ・ラ・マーサ(1896-1981)だ。

渡辺範彦は当時まだ二十歳になったばかり。従来の日本人ギタリストの多くにみられた技術的なミスがほとんどないことが大いに注目され話題となった。複雑な運指でのビリつき、速いスケールでのミスタッチ等、他のクラシカルな楽器の演奏会では滅多にないような基本的な技量不足に起因するミスが、当時のギター演奏会では日常茶飯事だった。そんなギター界の常識が渡辺範彦の演奏によってようやく変わろうとした時期だった。本号での評価も、ようやくギターで奏でられる音が「安心して」楽しめるものになったと記されている。

もうひとりのデ・ラ・マーサはスペインの伝統技法を伝える第一人者として、演奏家・指導者両面ですでに知られる存在だった。当時70歳だったデ・ラ・マーサは前年1967年10月末に来日して9回の演奏会を開き、さらに公開レッスンも行った。1967年11月24日には大町陽一郎指揮東京フィルをバックにアランフェス協奏曲を弾いている。 気風、恰好など典型的なスペイン人で端正さと激しさと併せもち、常に正統の継承者としての格式と誇張のない音楽表現をもっていたと記されている。デ・ラ・マーサの奏でる音楽は写真でみる彼の風貌そのものだったのだろう。


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創刊号から続いている銘器紹介では以下の3本のギターが取り上げられている。

 ルネ・ラコート(1848年・足立直子所有)
 サントス・エルナンデス(1930年・小原安正所有)
 ロベール・ブーシェ(1960年・小原祐公所有)

ブーシェは河野賢氏が渡世の際に松田二郎(松田晃演)に依頼して入手、その後小原祐公に渡ったとのこと。小原祐公は長谷川きよしが12歳のときにクラシックギターを習い始めた際の師匠だ。 サントス・エルナンデスは来日したデ・ラ・マーサが持参した2本を小原安正氏が譲り受けたものと記されている。またラコートは武井守成所有だったものを武井の死後、二女の足立直子が引き継いだものだそうだ。そのあたりの様子が以下のDigital_Guitar_Archiveリンク内にある足立直子による「武井文庫の記憶を辿って」という一文に記されている。

https://www.digitalguitararchive.com/2020/06/the-takei-music-library/

ラコートに関するくだりを抜き出すとこんな具合だ。
…その部屋は三方が窓で、明るい居心地の良い部屋でした。畳の上にあぐらをかいて、すうすうと風に吹かれながら、ラコートを片手に、父は作曲をしておりました。ワイシャツの胸もとから、肋骨の浮く胸を覗かせて、フンフンと鼻歌のように口ずさみながら、ギターを爪弾いていました。…
…父の死後、当時のOSTの理事であられた松谷五郎、島 韮信、兼藤栄氏らの手によって、武井文庫の整理が始められました。当時、まだ私は、その隣室で伏せっていた状態でしたが、ともかく、すべてを運び出すということになり、私の枕もとには、ラコートと、手書きのギター曲集一冊が残されたのでした。父の購入した楽器と譜面台など、すべてを当時のOSTに差し上げるということで、我が家の中から武井文庫は消えたのでした。…

その後このラコートは足立直子氏からさらに親族へ引き継がれ、今年4月には長谷川郁夫氏によってこの楽器が演奏されたようだ。
https://zushi-hayama.keizai.biz/headline/713/


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デ・ラ・マーサの演奏。1951年(昭和26年)


同 1974年



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モレノ=トローバ 「セギディーリャへの賛歌」



例の「ランキングバナークリックよろしく!」の件はその後ほどなく失速。以前のペースに戻ってしまった。まあ、そういうものだと観念いたしましょう。 さて、きょうも全国トップクラスの暑さが続く当地。夜半前の少し遅い夕涼みにこんな盤を取り出した。


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近代スペインの作曲家モレノ・トローバ(1891-1982)のギターと管弦楽のための作品「セギディーリャへの賛歌」。この盤のジャケットには老紳士とギターを抱えた若者が写っている。若者はアンヘル・ロメロ、そして老紳士は作曲者モレノ・トローバその人だ。この盤は1982年に91歳で亡くなったトローバが亡くなる前年1981年に自ら指揮棒をとって録音された。ギターのアンヘル・ロメロ(1956-)は有名なロメロファミリーの一番年若の末弟。兄のぺぺ・ロメロ(1944-)と共に今も活躍している。この盤には「セギディーリャへの賛歌」の他に、テデスコのギター協奏曲第1番が収録されている。こちらもトローバが指揮をしている。オーケストラは共にイギリス室内管弦楽団。

「セギディーリャへの賛歌」は3つの楽章からなる。第1楽章と第3楽章が取り分けスペイン情緒にあふれている。題名になっているセギディーリャのリズムとスパニッシュな和声に彩られ中々楽しい。第2楽章はトローバの得意とする抒情的な歌に満ちていて、ひんやりとした夜の空気が支配する。アンヘル・ロメロは録音当時30代前半。切れ味のある技巧で、特に1楽章、3楽章では随所に出てくるフラメンコ風のパッセージを華麗に弾きこなしている。トローバの指揮とイギリス室内管弦楽団のバックも安定していて、情熱的かつ抒情的な曲想をやや控え目に支えていて好ましい。トローバ得意のサルスエラの音楽で心得た、肩の凝らないスペイン風情の聴かせどころに溢れ、夏の夜に聴くにふさわしい佳曲だ。


この盤のLP音源。「セギディーリャへの賛歌」全3楽章。オケの導入部のあと2分5秒過ぎからギターが入ってくる。テデスコのギター協奏曲も続く。


兄ぺぺ・ロメロによる2015年の演奏。より洗練された仕上りで録音もいい。



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現代ギター誌を読む_#5_1967年10~12月号



現代ギター誌のバックナンバーを振り返るシリーズ。先回の記事から少し間があいてしまったが、きょうはその5回目。創刊の年1967年の10~12月号を開くことにした。


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これまでの記事にも書いたように、この時期の国内のクラシックギター演奏家としてもっとも注目されていた一人が松田二郎(松田晃演1933- 2021)だ。1967年10月号ではその松田二郎がジョン・ウィリアムスのレッスンを受けていたときの様子が紹介されている。ジョンの住むアパートメントを一部屋借りて週に何度かのレッスンが続いた。セゴビアの高弟であったジョンだが、その解釈は独自であった由。また、難曲と思われる曲も初見でスラスラと弾き、2回目には暗譜で弾いていたというエピソードは、やはり天賦の才をうかがわせる。


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12月号には武井守成(1890-1949)に関する基本的情報が年譜と共に紹介されている。日本におけるクラシックギターの受容という面で武井守成の果たした役割は大きい。ギターと併せてマンドリンも習得し、合奏団(オルケストラ・シンフォニカ・タケイ)を作って精力的に活動した。名門出身で経済的にも恵まれていた環境も幸いした。海外から取り寄せた貴重な楽譜コレクションの多くを関東大震災で失ってしまったことは悔やまれるが、機関紙「マンドリンとギター」や単行本「マンドリン、ギター及び其オーケストラ」「マンドリン・ギター片影」などの出版はその後のギター・マンドリン界の規範となった。


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1967年11月号からは弦測定シリーズが始まっている。同年6月号から始まった柄多勇四郎氏による「ナイロン弦の研究」の続編ともいうべきもので、当時まだ河野ギター製作所に入ったばかりの桜井正樹氏とその後独立する杉山重光氏により弦の真円度の実測が行われている。マイクロメータにより弦の長さ方向90センチに渡り、2.5センチ毎にその径の最大値と最小値を計り、長さ方向での変化をみている。弦長さ方向での変化は音程に直接影響し、真円度は弦の不正振動に影響するという見解が示されている。今日みても妥当な視点だろう。このときの測定では、オーガスチンは真円度、弦長さ方向の変化ともにあまり良いとは言えず、コンセルティステは真円度は測定個体によってバラつきはあったものの、弦な長さ方向の変化は比較的均一という結果だった。


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この年1967年、現代ギター誌発行人でもある河野賢氏製作のギターがベルギーで開かれた国際ギター製作コンクールで金賞を受賞した。河野賢氏(1926-1998)は当時まだ40歳になったばかり。すでに十名近い職工を抱えて製作所を経営し、現代ギター社の運営にも関わりつつ、充実した日々を過ごしていたのではないだろうか。写真に写っている製作所の面々に中には、その後独立して製作家となったメンバーもいる(写真後列右から三人目は松村雅亘氏)。 銘器紹介の項では、アントニオ・エミリオ・パスカル1938年、ホセ・ヤコピ1966年、ホセ・ラミレス1957年が取り上げられている。


武井守成作曲の「落ち葉の精」 小原安正による演奏。武井守成は作曲もこなし、ギターやマンドリンの独奏・合奏曲を多く残した。


武井守成作曲「行く春」 マンドリンとギターをイタリアから持ち帰り、本邦での普及に務めた比留間賢八の子、比留間きぬ子(1915-2002)による演奏。



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現代ギター誌を読む_#4_1967年7~9月号



半世紀以上の歴史をもつクラシックギター専門誌「現代ギター」を紐解くシリーズ。先回までの続きとして、1967年7月号から三ヶ月分をまとめて振り返る。


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当時のギターブームそしてクラシックギター専門誌という背景を受け、4月の創刊以降、事業は順調だったようで、半年を待たずにページ数は創刊号の60ページから80ページ程に増えている。執筆陣にも山根銀二、角倉一郎とクラシック音楽界の重鎮が新たに加わり、啓蒙的な記事を書いている。おそらく現代では少々教条的に過ぎると言われそうな内容だが、当時のこの雑誌の意気込みが繁栄されたものだろう。


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6月号から始まった柄多勇四郎氏による「ナイロン弦の研究」では、時間経過による弦の伸びを測定し、その特性と音色、また実際の張替えや安定に至るプロセスでの留意点を詳説している。単位時間当たりの伸びが大=軟質の弦、伸びの小=硬質の弦とし、前者の例としてオーガスチン、後者の例としてサバレスが挙げられている。音質もそうした物理特性を反映して、柔らかい音質のオーガスチン、硬めのサバレスという評価をしている。当時と比べて遥かに研究が進み、商品種類が豊富になった現代の視点でみれば、より多角的な評価が可能だろうが、当時としては中々力の入った考察だ。ちなみに広告欄にはオーガスチン、ラ・ベラ、コンセルティステ、サバレスなどの弦が見られる。また国産弦として、その後糸巻の世界的メーカーとなった当地群馬の後藤ガット製Percona弦の名もあって懐かしい。


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創刊号以来、紙面に登場している日本人ギタリストとしては松田二郎(松田晃演1933- 2021)が筆頭で、もっとも高い評価と期待の寄せられた存在だったようだ。また、当時まだ二十歳前の渡辺範彦(1947-2004)が佐藤豊彦(その後リュートに専念1943-)とジョイントリサイタルと開き、その後のソロ活動への第一歩を踏み出している。 ギターを含む室内楽に積極的に取り組んでいた石月一匡(1933-2003)の活躍もこの頃目立っている。石月氏は古典派全般の室内楽に通じ、その領域の作編曲にも力を注いだ。クラシックギター弾きといいながら、実はクラシカルな古典音楽、もっと具体的にいえば18世紀末から19世紀初頭のウィーン古典派に通じている人はプロアマ共に多くない。紙面でも「ギターの室内楽とその演奏」と題した連載を載せていて、他の楽器や弦楽合奏との合わせものレパートリーや演奏上の留意点など、今読んでも大いに示唆に富む内容になっている。


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創刊以来続いている銘器紹介では、パノルモ1843年、アントニオ・デ・トーレス1862年、ディオニシオ・グラシア・ヌニエス1953年が登場している。このヌニエスはアタウアルパ・ユパンキの愛器であったものを、この時期に出会いその後ユパンキの弟子となるソンコ・マージュ(荒川義男1935-)が譲り受けたもの。横裏板にアルミ材を使っているのが珍しい。また、「現代の名工」として創刊第2号の中出阪蔵に続き、加納実(加納木鳴1895-1972)が登場し、高橋功、中野二郎を交えて当時のギター製作事情を話している。ギター文化に縁の深い名古屋地区において、子息加納丈夫(加納木魂1939-)のその後の活躍共々記憶に残る製作家の一人だった。


石月一匡作曲のソナタ。古典様式そのもの。氏は室内楽でも同系統の曲を残している。


ソンコマージュの今 2023年2月



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トローバ…鋭意練習中!



モレノ=トローバの「ソナティナ」。その第一楽章をさらい始めてひと月程になる。


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60代終盤に至り、今更ながら初めてトライしたトローバのソナティナ。トータルでの練習時間は定かでないが、弾き始めてしばらくして、何とかモノになりそうな感触があったので練習を継続することにした。但し、左手人差し指の不調もあり、一部の音を省略したり運指も変えた。例えば…


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出だし2小節目にある低音のパッセージ。全曲を通してこの曲を印象付けるモチーフだが、これを指定通り5ポジションで取ると、ぼくの場合は右手小指の打音(ハンマリング)が十分にできないため、2ポジションに変更。


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es-f-aの和音で小指の拡張が十分にできないため変更。ここはes-fの響きが面白いところだが仕方なくfを省略した。6弦でfをとる版もあって、セゴビアも壮年期の演奏がes-f-aで、晩年の演奏では6弦f-es-aとしている。fを入れたい気持ちはわかるが、ここはes-fの2度の響きでないと本来の感興はないと感じる。


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そのあとC2で取る和音もちょっと弾きにくい。指の不調がなければそのまま弾きたいところだが、ひとまず妥協して内声のaを省略。最上声にメロディーのaがあるのであまり影響ないかと判断。これでC3となって左手は楽になる。


…と勝手な変更をしつつ3週間程練習を重ねた頃、まあまあ暗譜も出来たしと思ってスマホで録音。安全運転のテンポで通してみたが案の定、何箇所かで暗譜があやしくなって止まってしまった。その他、左手人差し指の痛みでセーハや押弦が緩くなったり、フレーズの途中にポジション移動が入ってしまったりと、ダメダメ連続のトライアル。練習途上のお粗末というこでご容赦の程を。



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プロフィール

マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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