久しぶりの楽器試奏ネタ。最近弾いたギター・シリーズ(そんなものあるのか? )。五月の業務が一段落した先日、都内での仕事を少々早めに切り上げ、夕方二日続きで池袋・要町からのぉ~上野・入谷と巡ってきた。以下、記憶が失せないうちに簡単に備忘を記しておこう。 要町GG社で弾いたのは以下の3本。 ドミンゴ・エステソ 1929年 ホセ・ルビオ 1992年 クリストファー・ディーン 1992年 お目当てはエステソ。事前情報では状態すこぶる良好とのことで、お持ち帰りとなったらどうしよう…などどあらぬ妄想をしながらGG社のエレベータに乗った。その日はGGサロンがイベント中ということ3階ショップで試奏。エステソは昨年までラミレス2世 が収まっていた湿度調整付きケースに鎮座していた。ケースから取り出してもらったエステソを慎重に受け取る。予想通りの軽さ。そして1929年作というのが信じられない状態の良さに驚く。どうやら塗装は塗り直してあるようだが、それを割り引いてもきれいだ。表板の変形もなくキズも少ない。胴内部もホコリの欠けらすら見当たらず、ラベルも新品の様。こんなオールド・スパニッシュは初めてだ。シープレスボディから放たれる音は実に軽く発音し、アタック音を伴なってポーンと立ち上がる。低音ウルフは当然低めでF以下。ドンと鳴るが、これも重量感は控えめ。高音域と音調を合わせたかのように軽く鳴る低音だ。高音域は12フレット越えのハイポジションまでストレスなく反応する。やはりサステインは短めで、立ち上がりのアタック音にエネルギーが集中する感じだ。いわゆるフラメンコギター風の鳴り方だろうが、全域で凹凸なく均一でストレスなく鳴る。デッドな空間でゆったりをメロディーを奏でようとすると、少し気分が乗らないかもしれないが、それにしても、楽器の物理的状態が素晴らしく、こういう音色が好みであれば価値ある一台だろう。 続いてみたルビオ、ディーンは大きなくくりで言えば同系列の楽器。いかにも60年代以降のモダン楽器という風体で剛性感のある作り。しっかりしたタッチで弾けば良く通る太い音で発音する。ルビオの方がやや鋭い高音を持っていたが、もしかすると弦がカーボンだったかもしれない。ちなにみルビオのラベルには修業時代のサイモン・アンブリッジのサインがあった。ポール・フィッシャーやカズオ・サトウのサインは見たことあるが、サイモン・アンブリッジのものは始めてだった。 翌日は上野アウラへ。こちらも久しぶりだ。日比谷線入谷駅で降り、国道4号線を少し北に行ったところで左折。アウラを訪れた海外製作家が興味を示したという江戸指物店 の横を過ぎると見慣れた看板が現れる。この日は事前に連絡しておいた以下の3本を拝見した(写真ではレンズ歪で大きさ・形がかなり変化してしまった)。 田邊雅啓 2022年作 サントスモデル箭内ショウイチ 2022年作 ハウザーモデル デイヴィッド・ホワイトマン 2013年作 トーレスモデル まずは田邊サントス。 実は少し前に田邊氏から「アウラに新作2本を納品した。HPには載せていないようだが、1本はすでに売れた。もう1本サントスモデルがまだ在庫していると思うので、時間あればぜひ試奏してインプレッションを聞かせてほしい」と聞いていた。 慎重にチューニングを確認し、ゆっくりと低音域のスケールから弾き始め、次第に高音域に移る。低音はドッシリとした重量感があり、胴共鳴だけの軽いボンッで終わらない。そして高音はカリカリッと鋭い立ち上がり。アタック音だけでなく十分なサステインも伴う。音質もピュアでメロディーがきれいに歌える。これはいい!思わず小声で叫んでしまった。 次に弾いた箭内ハウザーも大健闘だった。 田邊サントスから持ち替えると、一聴して全体的にややマイルド。低音ウルフはG辺りだが、あまり目立たない。高音は田邊サントスのようなカリカリ感は控えめだが、全体的にみたらバランス良好と感じた。さらにしばらく弾いていると耳が慣れてきたのか、マイルドな高音も反応よくレスポンスし音量も十分。低音もそれほど強靭でもふっくらでもないが、全体バランスの中では必要十分なエネルギーで不足はない。工作精度もぼくのような素人目には十分精緻に見えるし、磨き過ぎない落ち着いた塗装の具合も非常にいい雰囲気だ。これで上代30万は破格値。そう断言できる。 続いてホワイトマントーレス。 2013年作。松の表板、シープレスの横裏共に色白。その外観通りのイメージで、軽い発音でポンポンと鳴る。反応良く音量もある。低音ウルフはE付近だが、やはり軽い共鳴音主体の音で、重量感や強さはない。この辺りが同じ低いレゾナンスを持ちながら印象の異なる田邊サントスとの違いだ。高音もやや短めのサステインでコンコンと良く鳴る。表板はかなり薄いのか、高音域のいくつかの音に凸凹があって均一性は今一つ。ホワイトマンの楽器はこれまで何本か所有したり、試奏したりしたが、ときに工作精度の甘さが気になることがあった。しかし、この個体は良く出来ていて、眉をしかめるような所はなかった。弦高他細かなセッティングも良好。もしかしたら後から手が入っているのかも知れない。 この日、アウラのショーケースには他にも尾野薫の新作他も鎮座。コロナ禍以降、室内遊戯系のビジネスは活発のようで、対応してくれた吉田さんの話ではギターもよく売れてるとのこと。しかも海外からのネット注文もしばしばあり、日本の製作家を指名買いするケースも珍しくないとのこと。ここ十数年、日本の製作家のレベルはとても上がり、海外製と何ら遜色ないと感じる。特にアウラお抱えの伝統工法を受け継ぐ面々 の作品は、いずれを選んでも後悔はないだろうと思う。 コロナ禍も改善傾向が続き、あらたな懸念はあるものの、世間もようやく明るさを取り戻しつつある。楽器店の営業担当の話でも総じてよい状況が続いているとのこと。久々の楽器試奏も、限られた時間ではあったが、そんな雰囲気を感じつつ楽しいひとときを過ごすことが出来た。例によって、試奏の御礼にと買った弦と楽譜を手に帰途につく。 梅雨入り前の初夏の昼下がり。楽しいひとときだった。 う~ん、それにしても田邊サントス、良かったなあ!オーダーしちゃおうかな… 益田正洋氏アウラの在庫総ざらい!VIDEO チーム・アウラの合作KEBONY材ギター VIDEO ■ にほんブログ村ランキングに参加中 ■ ■↓↓↓バナークリックにご協力を↓↓■にほんブログ村
「与太さん、あす在宅ですか? 近くまで行く予定があるので… ちょっとお見せしたものもあるし…」と先日、ギター製作家の田邊さんより連絡が有り、久々に拙宅でお会いした。 田邊雅啓氏とはかれこれ二十年の付き合いになるが、いつ会っても本当にナイスガイだ。ギター製作への熱意、フランクでやさしい性格と物腰、そもそもカッコいいし…一度会うと誰でも彼のファンになるに違いない。このブログでも何度も彼のことを絶賛しているが、「与太さんのブログをみたという方からの注文や修理の依頼も何度もありますよ」とのこと。ややこしい修理ばかり持ち込まれては迷惑かとも思うが、彼の製作・修理の技術と真摯な取り組みには、いくらでも賛辞を並べたくなる。足利市の田邊工房から拙宅までは車で一時間程。この日は田邊さんが拙宅近くでの所用を済ませたあと来宅。穏やかな陽射しが差し込む休日の午後、ひとしきりギター談議を楽しんだ。 現在製作中のギターについて、さらにそのあと予定している製作分についての構想など、相変わらず研究熱心。最近は以前ぼくも一緒に検分させてもらったトーレス や、その少し前にアウラに入荷したロベール・ブーシェのトーレスモデル 辺りにヒントを得ているとのことだった。尽きない話が一段落したところで彼が、「与太さん、これ見て下さいな」といって一冊の本を取り出した。 例のオルフェオマガジン のCamino Verdeから出ている「34 Classical Guitars in Life Size」という本 。本というよりは写真集といった方がいいかもしれない。トーレス以降の20世紀クラシックギターの名器34本について、その原寸大の写真や裏板、ロゼッタの拡大写真などが、楽器ごとに一枚の大判用紙に印刷されている。オルフェオ誌同様、BMW等欧州高級車撮影の仕事していたというAlberto Martinez氏による原寸大の写真は迫力満点だ。ロゼッタもここまで拡大すると、名工達が意匠と技術をつぎ込んで造作をする様子が目に浮かんでくる。 マヌエル・ラミレス、トーレス、ガルシア、ハウザー、ベラスケス…名器の数々。日本製は河野1967年が仲間入り。 エルナンデス・イ・アグアドは1969年♯392が載っている。手持ちの1973年♯443 を並べてみた。 この本、Camino Verde社のサイト では190ユーロ、米GSIでは250ドル。もしかしたらアウラ辺りで在庫しているかもしれない。名器34本の実物大のリアルでクオリティの高い写真を目の当たりにすると、三万円程の価格は格安と感じるが、どうだろう。 こちらは姉妹編「34 Iconic Guitars in Life Size」VIDEO 同 撮影の様子VIDEO ■ にほんブログ村ランキングに参加中 ■ ■↓↓↓バナークリックにご協力を↓↓■にほんブログ村
かねてより気になっていた件の確認を試みた。 90年代後半頃からだろうか、古楽器奏者や19世紀ギター愛好者が、細めの弦を物色する中、釣り糸に目を付け市販の弦の代わりに使うという試みが広まっていた。ぼくがギターを再開した2000年代初頭、ネットで様々な情報を見る中でそうしたトレンドにも触れ、いずれトライしてみようと思っていた。 このところ19世紀ギターに触れる機会は減ってしまったが、通常のモダンギター用の弦として、3弦だけフロロカーボン製の弦(サバレス:アリアンス)を張ることが多い。3弦以外には通常のナイロン製の弦を使うものの、やはり3弦だけはナイロン弦で問題になりやすい音のボケやサステインの短さを補う手段としてカーボン弦のメリットを感じる。もちろん楽器によっては2弦や1弦との音色差が気になることもあって、実際には3弦をカーボン弦に替えるかどうかはケースバイケースだ。そして3弦だけ単品でカーボン弦を用意しようと思ってショップのサイトをみると、この3弦1本の価格が400円近くすることに気付く。そこで登場するのが釣り糸だ。 カーボン(フロロカーボン)弦の先駆者サバレス社アリアンスのフィラメントが化学メーカー:クレハ(呉羽化学)から供給されていることはほとんど公知の事実で、ならばクレハの釣り糸からゲージを選んで…ということになる。同社のフロロカーボン製釣り糸は「シーガー」という商品名で様々な仕様がナインナップされている。今回はその中から「シーガープレミアム万鮪 」というシリーズを選んだ。理由は3弦に相当するゲージがあることと、程々の長さの商品があること。サバレス・アリアンスの3弦ノーマルテンションのゲージが0.84㎜ というころから、このシーガープレミアム万鮪の26号がジャストフィット、しかも30m巻という商品があるので、トライアル及び当面の使用にはちょうどお手頃ということになった。近所の上州屋へゴー!でもよかったが、ちょうど他の買い物のあったのでアマゾンに注文。翌日には到着してさっそく確認となった。 左:シーガー 右:アリアンス 結論を急ごう… 音の違いはまったく分からない。少し前に手に入れた茶位ギター を使い、その2弦と3弦の位置にサバレス:アリアンスの3弦とシーガー釣り糸26号をそれぞれ張って比較した。厳密には2弦と3弦の位置に違いによる差異があるだろうが、ひとまず無視。見た目の違いは、シーガーが完全透明なのに対しアリアンスがやや乳白色。手触りは同じ。一旦調弦してから時間をおいた後の伸び具合(音程の下がり具合)も同じだった。音程精度も、12フレットのハーモニクスと実音の確認では双方ともほとんど一致していてまったく問題なし。呆気ないほど「アリアンスは、まんま、シーガー釣り糸」とあらためて合点した。これで単品300円超の3弦を注文することなく、30m巻≒30本分2300円也で当面の需要は賄えることになった。30本分はそれでも多いので知り合いのギター弾きに「使ってミン!」と送りつけようと思っている。そして次は、一般ナイロン弦のリプレイスとして東レ「銀鱗」 にトライしてみようと考えている。 比較を録音してみた。フロロカーボン製のギター弦と同じ素材の釣り糸の比較。 サバレス:アリアンス (3弦0.84㎜)vs クレハ:シーガー(26号0.84㎜) それぞれを2弦・3弦の位置に張った。A≒440Hz 弦長650㎜ 同じ音形を2回、最初にアリアンス次にシーガーの順で弾いている。最後の方でわずかにビビりが聞こえるは駒側の弦末端が未処理だったため(スミマセン)。 弦を張り替えて比較というのは、オーディオの比較試聴同様あてにならないと感じている。音の記憶は曖昧だ。瞬時に切り替えないと…ということで、同じ楽器に比較する2本を張ることにした次第。VIDEO ■ にほんブログ村ランキングに参加中 ■ ■↓↓↓バナークリックにご協力を↓↓■にほんブログ村
手元にある楽器のうち、パコ・サンチャゴ・マリン の弦が替え時となった。そこで、以前他のギターに使ったことのあるアクイーラ社のペルラ弦を久しぶりに試してみることにした。 アクイーラ社のギター弦が日本で販売されるようになったのは二十年程前だろうか。一般のナイロン弦と比べ数倍する価格が話題になった。その後値下げがあったり、反対に他の弦が少しずつ値上がりしたこともあって、以前に比べると敷居が低くなった。今回張ったペルラは他社の弦を比べてもほとんど変わりない価格が設定されている。写真のように特徴的な高音弦は植物性由来のバイオナイロンという素材で(ごく最近また素材は少し変ったらしい)、見た目はナイルガットと見分けが付かないような乳白色。低音弦は一般の銀メッキとさほど変らない外観だ。 やはり特徴的なのは高音の音色だ。同じアクイーラ社のナイルガットを使ったアルケミア弦のガット弦を模したざらっとした手触りと、その感触をそのまま音にしたようなカリッとした高次倍音を含む音に比べると、ペルラ弦の手触りは一般のナイロン弦ほどではないが、ほぼ滑らかで爪のノイズもほとんど入らず、モノトーンかつ太い音色を持っている。昨今流行りのやや金属的な響きの対極といったらいいだろう。落ち着いていて、サステインは短めな古風な響き。ただ音量感は十分あってよく鳴っている。低音も高音の音色と合わせるように落ち着いた音色。人によっては何となく古臭い、鳴りが悪いと感じる向きもあるかもしれない。ぼく自身の低音のイメージは、和声の成り立ちを支える重要な土台。金属的にビーンと鳴る高次倍音の多い音よりは基音成分が太くゆったり鳴ってほしい。その点このペルラの低音弦は120点をあげたい。もちろん楽器との相性もあるので一概に結論付けられないが、パコ・サンチャゴ・マリンがもつ明るくかつ音量感のある性格に少し落ち着きを与える感じで、いいマッチングだ。しいて言えば3弦にもう少しサステインがほしいところ。対策として3弦のみ一般のナイロン弦に(カーボン弦だと音色の差が大き過ぎるだろう)替えるといいかもしれない。高音・低音共、張って間もない時期で、これからもう少し伸びが進むとテンションも下がり、本来の音色がより明確になってきそうで楽しみだ。 下手くそな演奏録音で弦の音の違いなど分かるわけではないが、チョイと宅録。佐藤弘和「素朴な歌」の楽譜を久しぶりに開いて弾いてみた。繰り返しは省略です。VIDEO ■ にほんブログ村ランキングに参加中 ■ ■↓↓↓バナークリックにご協力を↓↓■にほんブログ村
つい先日ギターを一本買った。もう楽器を増やすのはやめようと思っていたのだが、何となくピンとくるものがあったのと、遊びで買える価格だったこともあって、つい… 手に入れたのは茶位幸信1974年作。表板スプルース。横裏板インディアンローズウッド。指板は黒檀。弦長650㎜。ペグは60~70年代の楽器によくある39㎜ピッチ。塗装は薄塗りのラッカー。当時の定価8万円のモデル。ちょうど私が大学に入学した年のもので、サークルでもこのクラスの茶位ギターを何人も使っていた懐かしいブランドだ。大学1年の年末、サークル内の発表会でタレガのアラビア風奇想曲を弾くことになり、高校時代から使っていた松岡ギターでは冴えないので、同期の仲間から茶位ギター借りて演奏した思い出もある。先日、大阪・茨木六弦堂にこのギターが出ているのを見つけ、そんな懐かしさもあって店主南里さんに連絡し送ってもらった。 1974年当時といえば前年のオイルショック以降のインフレが激しい時期で、物価も給料も年率20パーセント以上上昇していた。当時8万円の定価は大卒初任給より少し高いくらいに相当する。物価水準、使用材料等からみると現在の30万クラスの楽器ということになるだろうか。 茶位幸信氏は元々ヴァイオリン等の弦楽器を製作していたのだが、60年代からのギターブームもあって次第にギター製作へシフト、特に70年から80年代には創業者の茶位幸信氏と何名かの職工とが家内制手工業レベルの小工場でかなりの数を作っていた。完全な個人製作家とは少し業態を異にし、学生にも手の届く価格のスチューデントモデルに位置付けられるものも製作していた。ギターデュオのゴンチチが使っていることでも知られている。製作本数も多いので現在でも中古の出物はしばしば見かける。 送られてきた個体は製作から40数年を経ているにしてはキズ少なく、ネックや指板、ボディーや表板、塗装の状態もおおむね良好で、どうやら前所有者はあまり弾いておらず、かつ保存状態もよかったようだ。肝心の音は実はあまり期待していなかったのだが、予想を裏切る好印象。高音はやや硬質ながら張りのある音で良く鳴り、低音はやや腰高(レゾナンスはG♯~A)ながら音量や伸びも十分。全体のバランスも良好だ。到着した直後は、あらゆる音域での音の均一性という点ではやや難があるかなと感じていたのだが、数日弾いているうちに楽器が永い眠りから目覚めてきたのか、全域でスムースに発音するようになった。音にもう一段品位が欲しい感じだが、その辺がこのクラスの楽器としての限界だろうか。仔細に点検するといくつか手を入れたい箇所もあるが、それにしてもおおよそ不満のない音で、十分いい買い物だったと自己満足している。 手に入れた茶位ギターの音の確認。フェルナンド・ソルの練習曲作品60の4(下の楽譜)。単音のやさしい練習曲ということになっているが、ハ短調の調性感と単音ながら豊かな和声を感じさせる佳曲だ。例によって楽譜を広げてさっと弾いただけなので、肝心なところでミス散見。機会があればあらためて… (楽譜はこちら )VIDEO ■ にほんブログ村ランキングに参加中 ■ ■↓↓↓バナークリックにご協力を↓↓■にほんブログ村
「与太さん、例のギターのメンテナンスが完了したので、よかったら見に来ませんか」 現代ギター社営業担当K氏より連絡有り。ハイハイ、行きますよ!と過日、都内での仕事を早めに切り上げ、池袋・要町へと急いだ。 古びたケースから取り出したのは、ホセ・ラミレス2世(1885-1957)1935年作のギター。思わず「おおっ!」と声をあげた。弾き傷と年月によるエイジングとで見事に時を刻み込んだスプルースの表板。美しい板目が神々しくさえあるハカランダの裏板。古色蒼然とした風貌から放たれるオーラが尋常ではない。音を出す前からギターが勝手に何かを奏でそうな気配。昨年みた絶品トーレス に勝るとも劣らない、すこぶる状態のいい個体だ。 85年の歴史を背負った楽器だが、この度細部にわたるメンテタンス・調整を受け、楽器の物理的状態はとてもいい。表板の割れ修理跡はしっかり補修されている。指板は交換されているようだが、ネック・フレットの状態含めて気持ちいいほど整っている。表板・横裏板ともセラックで軽くリフィニッシュしてあるが、もちろん厚化粧になっておらず、美観とエイジングが程よくミックスした理想的な状態だ。 弦長は648㎜。ナット幅は正確には測らなかったが、おそらく50㎜程度。比重の大きい横裏板のハカランダ材のためか、予想よりはしっかりとした重量感がある。とはいえ現代のギターに比べるとずっと軽量だ。糸巻はオリジナルのフステロ製39㎜ピッチが不調だったので交換。39㎜ピッチがもはや入手難とのことで、軸穴を埋め木し35㎜ピッチに直してある。 この楽器、かの中野二郎(1902-2000)の遺品であったものを御弟子さんが引き受け、事情あってこの度の放出になった由。大正から昭和、平成に至る日本のギター史を背負ってきた一人である中野二郎氏の遺品と聞いて、思わず来し方80年余に思いを馳せた。手元にある荒井史郎(1930-2019)著「ギターに魅せられて」にこんな記述がある。 …中野先生のお宅で私が(中野氏から借りて)レッスンに使用していたギターは、スペインのホセ・ラミレスII世1935年作だった…中略…昭和11年(1936)に名古屋の楽器店「景文堂」によって輸入されたホセ・ラミレスII世作ギターは各種類10本。中野二郎はじめ、弟子の小越達也、京都の貴家健而たちが、当時100円から300円で買い求めたと聞いている… 今回のこの楽器はこの10本の中の1本に違いない。そして驚くべきことに以前、旧友Y氏から借りてしばらく弾いていたラミレス2世 も同じく1935年。そのときもY氏から上記のような逸話を聞いていた。そのY氏のラミレス2世のラベルには「6」のスタンプが押されていて、今回のものには「10」が押されていた。かつて昭和11年に名古屋に到着したラミレス2世10本にうち2本に出会って実際に触れることが出来たのは、中々歴史的なことじゃないかと感じる。 ここまで歴史を背負った楽器。もはや音などどうでもいいという気分になったが、せっかくの機会、もちろんその音も楽しんだ。慎重に調弦をしてゆっくりと弾き出す。1930年代スペイン製と聞いただけで予想される音、マヌエル・ラミレス、サントス・エルナンデス、ドミンゴ・エステソ他いわゆる戦前のオールドスパニッシュのイメージそのもの。低音レゾナンスはF#辺にあって6弦ローポジション全域でふっくらと豊かな低音が響く。中高音も反応よくはじけるように鳴る。弦の張りは柔らかくビブラートもよくかかり、タレガの小品などを弾くと正にツボだ。すべての音が楽器全体から軽く立ち上がり空間に放たれる。 現代的視点であえてネガティブな点をあげつらうとすれば高音域でサステインが短めで、ポンと鳴ってすぐに収束するということくらいだろうか。もっともこれはこの当時の楽器全般がもつ個性といった方がいい。実際、試奏したときの部屋(現代ギター社GGサロン)は残響豊かで、音のサステインは部屋のアコースティックが受け持ってくれるという考えが成り立ち、弾いていて不足感はなかった。 この楽器、すでに「相応の」プライスタグも付けられ、現代ギター社GGショップ内の楽器コーナーに設置された湿度管理ケースに中に鎮座している。楽器の物理的状態、発音、自らが背負った歴史、そもそもラミレス2世ギターの個体が少ない…それらを勘案すれば、プライスタグの数字も納得の逸品だ。 エヴァ・ベネクが弾くラミレス2世1943年作。低音のウルフトーンが低く(おそらくF~F#)設定されていて、時折り6弦ローポジションの低音がドスンッと響く。そして高音は軽やか。この当時のラミレスは、まだ軽く作られ古いスパニッシュの味わいをもつ楽器だった。VIDEO ラミレス2世1949年作 この時代のギターはゴルペ板さえ気にならなければフラメンコ用・クラシック用と意識する必要はない。VIDEO ■ にほんブログ村ランキングに参加中 ■ ■↓↓↓バナークリックにご協力を↓↓■にほんブログ村
ようやく秋めいてきて、空気も乾き出す頃。湿度に敏感なギターも夏の多湿から抜け出て、気持ちよく鳴るようになる。そしてそれに合わせて、弦も新しいものに張り替えようかという気分になってくる。弦の張替えは面倒だという輩もいるようだが、ぼくなどはギターにまつわるもっとも心おどる作業の一つだ。先日は手持ちの楽器のうち、ホセ・ラミレス1978年を取り出し、久々の弦替えとなった。 ラミレスにはオーソドクスなナイロン弦を張ることがほとんどだったが、今回は少し気分を替え、かねてトライしようと思っていた新しい弦を張ることにした。同時に、というより、話の順序としてはこちらが先なのだが、以前試した「なんちゃってトルナボス:O-Port」 をまた取り出し、弦替えとの合わせ技でラミレスに喝を入れ、音質改善を試みることにした。 樹脂製アタッチメント式のトルナボスについては以前の記事に詳しく書いた通りだ。元々音響エネルギーバランスが摩天楼型のラミレスから、何とかもう少し豊かな低音を得たいという難題に対する策としてO-Portに目を付けたのが数年前。結果としては、元々G#~A付近にあった低音のレゾナンスが一気にF~F#まで下がり、6弦ローポジション全域が豊かに鳴るようになったが、反面、高音域の減衰が大きく、ラミレス本来の艶やかな高音が失われてしまい、全体としては失うものの方が大きいという結論だった。今回このバランスを改善すべく、高音弦の鳴りの良さが評判のドーガル社(伊) の弦「マエストラーレ」を使ってみることにした。ドーガル社の弦といえば、ぼくはマンドリン用の弦としては認知していたが、近年ギター用の、しかも個性的な弦をラインナップして話題になっていた。さて、その首尾はいかに… マエストラーレ弦の高音弦3本は一般的な透明でなく、ブルーの着色が施されている。新素材ポリマーとの触れ込みだが、一般のナイロン弦に比べるとかなり硬い印象。実際に張ってみると、評判通りの太く大きく鳴る。よく鳴るといってもサバレス・アリアンス弦に代表される通称カーボン弦のような、やや甲高い鳴り方とは違い、基音が支配的で倍音(高調波成分)は少なめ。その結果先に記した通り、太い音という印象になる。もっともこれはO-Port有り状態でのマエストラーレ弦の印象。O-Port無しの素の状態ではまた異なるだろう。 O-Portによって失われた高音域の音圧のかなりの部分がマエストラーレ弦の鳴りの大きさで復活し、増強された低音域とのバランスも相当程度改善される。しかし残念ながら音色感に違和感が残る。ナイロン弦を付けたラミレスから得られる、十分なサステインと艶やかな音色はやはり得られない。摩天楼型エネルギーバランスで高音は華やかに鳴るラミレスのイメージが後退し、どっしりとした低音と太く鳴る高音から得られる落ち着きのある、まったく別の楽器になった感がある。樹脂製トルナボス、ブルーの高音弦、弦留めチップ…と中々の変態仕様。ラミレスとしてではなく、まったく見知らぬ新しいギターとして接すれば、これはこれでアリという印象だ。 O-portの素材は樹脂、しかも表面が細かな梨地仕上げになっていることが、高音域の減衰に影響しているのかもしれない。素材や大きさ(サウンドホール方向の深さ)などを吟味すれば、高音域の減衰は抑制可能ではないかと思う。いずれ機会をみて、更なる変態仕様をトライしてみよう。 ドーガル社の案内VIDEO ■ にほんブログ村ランキングに参加中 ■ ■↓↓↓バナークリックにご協力を↓↓■にほんブログ村