「4減1増」…当地の議員定数問題で…なんて話ではなく、手持ちのギターの話。
かねてより終活に向けて手持ちの品々を漸減させようと思案し、その対象のうち最も課題の多いギターの整理に着手した。まあ、コレクター的視点で言えば5本や10本、物の数ではないわけだが、真っ当な市民感覚ではやはり問題だ。そこで昨年秋、意を決して4本を放出。委託販売をお願いした店がネットには載せずにすでに2本が売済みとなった。残る2本も全力営業中の様子。1本は苦戦しそうだが、いずれ4減が実現する見込みだ。しかし話はそれで終わらない。4減はいいとして1増って…



悪いことに?!手持ちの2本が想定より高値で売れてしまった。こと道楽に関しては宵越しの金を持ってはいけない。そう思っているところへ、某販売店サイトにあがった1本のギターが目にとまった。ハウザー3世1990年作。サイトの紹介文曰く…
「…通常のセゴビアモデルでは設置されている2本のクロージングバー(ボトム部で扇状力木の先端を受けとめるようにハの字型に配置される)がなく、扇状力木がボトム近くまで伸びています。レゾナンスもハウザーとしては低めのF~F#に設定されています…」
「…低いレゾナンス設定ゆえのどっしりとした重心感覚を備えており、太い低音からきりっとしたシャープな高音へと繋がってゆくバランス感はこの時期の3世ならでは。またやはりスペイン的でロマンティックなニュアンスを豊富に含んだ音色も大変に魅力的…」
いかん、いかん、これはいかんやつじゃないか、放っておけないだろ…というわけで早速試奏に赴き、そして即決。1増ってハウザーしかも2本目の…マジか! そう自問しながらも心は決まり手持ち4本の放出転じて1増となった次第。自宅で手持ちのハウザー2006年と比べるとキャラクターはかなり異なる。音の均一性、凝縮感は2006年作に分があるが、今回手に入れた1990年はよりスパニッシュで開放的。レゾナンスがF~F#と低く、ボディーも軽め。高音はカリカリと明瞭に立ち上がる。こんな3世は初めて。まるで50年代の2世か、それ以前の1世を思わせる雰囲気だ。前所有者によりかなり弾き込まれているようで、少々キズはあるが音は文句なしに素晴らしい。材料もいつもながらのハウザー。表板の目はつんでいるし、横裏は板目の真正ハカランダだろうか。ネックや指板の状態、ナットやサドルのセッティングも当面そのままで行けそうだ。 4減転じて1増…まあ、3減は間違いないので、ひとまずこれで良しをしよう。ひとまずは…
逆光の中、ゆるゆると音出し確認。
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忙中閑あり。仕事の追われているだの何だとといいながら先日、都内での仕事を早めに切り上げ、上野下谷の六弦聖地アウラへGo!となった。

(田邊三兄弟:左から…ハウザーモデル、アルカンヘルモデル。サントスモデル)
少し前にギター製作家田邊雅啓氏より連絡があり、サントスモデルの新作が出来たので試奏しますか?とのお誘い。あいにくぼくの都合が付かず、工房へお邪魔するタイミングを逸し、結局先日、納品先のアウラにて試奏となった。折しもアウラには現在、田邊氏の以下の3本を在庫していて、それらを比較試奏することが出来た。印象がホットなうちに備忘を記しておこう。
(1)サントス・モデル 2022年新作
(2)アルカンヘル・モデル 2022年新作
(3)ハウザー1世・モデル 2018年中古
(1)サントス・モデル 2022年新作
先週末に入荷したばかりの新作。きょう現在まだアウラHPにも出ていない。田邊氏のサントスモデルは数年前に初号機が出来たとき以来、何度か弾いている。今年5月にも新作を弾き、非常に好印象だった。今回の作品も出来上がった直後に田邊氏より連絡があって「とてもいい感じに出来上がった。特に6弦は過去最高かも」との自信あふれるメッセージが届いていた。
さて、実際に弾いてみると…田邊氏自身が自ら絶賛していた低音はもちろんだが、高音もカリッと立ち上がり、音量・サステインも十分。ちょっと鳴り過ぎか?と思う程、開放的にカーンと音が抜けてくる。5月に弾いた前作より更に良くなっている。低音のボディレゾナンスはF#付近。6弦5フレット以下の量感は十分だ。低音レゾナンスのオクターブ上、5弦9フレットF#がデッドトーン気味になるのは宿命ながら、タッチで対応できるレベルで問題ない。簡単な曲を少し弾いてみると、低音・高音のバランス良く、いきなり音楽的に響いて驚いた。これまで見た田邊サントスはいずれも極めてレベルの高い出来上がり。首をかしげたくなるところは皆無。これなら店在庫、注文とも安心してチョイス出来るだろう。
(2)アルカンヘル・モデル 2022年新作
このアルカンヘルモデルは今年9月に行われたイーストエンド国際ギターフェスティバル出品作。弾き比べコンサートでは、あのホルヘ・カバジェロが弾いている。ぼくはフェスティバルには行けなかったのだが、イベント終了後、楽器が田邊工房に戻ってきた際にうまくタイミングが合って工房にお邪魔して弾くことが出来た。
この作品は田邊氏が1985年製アルカンヘルを横に置きながら製作したもので、そのオリジナル個体の色合いがよく反映されている。サントスモデルを弾いたあとだと、マイルドで落ち着いた感じを受ける。軽いタッチで楽々鳴る楽器ではなく、スイートスポットを探るように慎重に弾き進めると、深みのある音が出てくる。そういう意味ではやや通好みかもしれない。おそらく何年か弾き込んで音がこなれてくると素晴らしい楽器になるに違いない。
(3)ハウザー1世・モデル 2018年中古
このハウザーモデルは性格こそ異なるが、サントスモデルと並んで好印象だった。低音ウルフはやや高めながら6弦ローポジ全体に十分なボリュームがあり、不足感なし。高音はサントスモデル並みに反応良く、音量・サステインとも十分だった。その上で全体としてはサントスモデルよりクラシカルな雰囲気。2018年作でわずか4年経過ながら、指板や表板の感じから前所有者はかなり弾き込んでいたようで、全体に音がこなれていて発音がスムースだった。表板の塗装もやや濃い目で適度な焼け具合もあり、ビンテージ風の味わい。少々キズが多いからか価格は44万円。これは超お買い得だろう。
この日は上記田邊三兄弟の他にもいくつか興味深いギターを拝見した。しかし、あえて言おう。田邊サントスモデルを越えて興味を引くギターはなかった。田邊氏の自信作だけのことはある。近日中にアウラHPに出るだろうが、もはやそのときにはSOLDになっている可能性も高そうだ。
上記の田邊ギター:アルカンヘルモデル2022年
上記の田邊ギター:ハウザーモデル2018年 録音レベルが少々小さいのが残念
横裏メイプルの田邊ギター2012年
クロサワ楽器在庫(現在は無し)の田邊ハウザー2018
マイ田邊ギター:ロマニリョスモデル2004年
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先週末の日曜日、少し前のハウザーに続きオルディゲス作のギターを取り出し、久しぶりに弦を交換した。

オルディゲスを手に入れたのは2014年。前後して何本かのオルディゲスを弾いた中で、一昨年閉店したカリス@恵比寿で出会ったのが2008年作の個体。音は一度で気に入った。いくつか細かい箇所で気になるところがあって、その後少々手を入れ、現在はベストな状態になっている。これまでごくノーマルなナイロン弦を張っていたが、少し個性を変えてみようと思い立ち、今回はアクイーラ社のアラバストロ弦を張ることにした。
ギター弾きにとって弦の選択は楽しくもあり悩ましくもある。楽器そのものと比べたら無視できる程の価格で(ヴァイオリン属に比べるとずっと安い)かなりの種類の弦が手に入ることもあって、あれこれ試したくなる。ぼくもそのくちではあるが、実際のところは「素材が同じなら、どれを選んでもそう変わらない」という印象をもっている(某著名プロ奏者も同じようなことを言っていたなあ…)。 音の記憶は実に曖昧で、弦を張り替え、すなわち何分かの時間をおいて、記憶を頼りに微妙な音の違いを区別できる能力はぼくにはない。カーボン弦と釣り糸の比較をやったときのように、同じ楽器に比較すべき弦を並べて張って弾き比べないと分からない。オーディオの聴き比べに近い状況だ。もっとも客観的に白黒つけなけばならない話ではないし、本人が感じるままに気分よく納得して弾ければそれで事済む話なので、これ以上詮索するつもりもなく現在に至っている。 一方、素材が違う場合は、記憶にはっきり残るくらい音が変化するのはぼくにも分かるし、誰しも認めるだろう。通常のナイロン弦に対して、カーボンを配合したものや組成が違うものなどは、はっきりと判別がつく。



アクイーラ社の弦は従来のナイロン弦やカーボン入り素材と異なる素材を使った弦が何種類かラインナップされている。これまで同社のアルケミア、ペルラ、アンブラを使ったことがあるが、それぞれが中々個性的で明らかに弦で音が変わるという実感をもつものが多い。今回のアラバストロもそうした違いが実感できる弦の一つだ。 これまで張っていたナイロン弦に比べ、アラバストロを張ったオルゲディスは、この楽器が範としたハウザー1世が作られた時代の響きを感じさせる。全体に反応よく軽快に音が立ち上がり、よく鳴る。同社のペルラほどではないが、通常のナイロン弦に比べるを少し余韻は短めのようで、タッチのアタックにエネルギーがのる。音の反応はいいが、カリカリした音色ではなく、ペルラほどではないものの、やはり少し古風な響きだ。もっとも張り替え直後ゆえ、このあと初期の伸びが落ち着き、馴染んでくると、また変化するだろう。
アクイーラ社の弦が日本に入ってきたのは20年程前と記憶している。当初はその価格の高さに驚いたものだが、その後バリエーションの拡充や価格改定もあって、現在は他のメーカーとさほど変わらない価格設定になっている。一般的なナイロン弦やカーボン入り素材から変化を求めるにはいい選択かと思う。
オルディゲスで弾いた音源から4曲ピックアップした再生リスト。弦は通常のナイロン弦です。
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このところギターを弾こうと思って取り出す楽器と言えば、本家アグアドや少し前に手に入れた江崎アグアド、加えて時々田邊ロマニというローテーションが多かった。そもそも練習時間そのものがしれたものなので、手持ちに楽器の中にはローテーションに組み入れられないギターも何本かある。最近ちょっと偏り過ぎたかなあ…と反省し、先週末はハウザーを取り出し、久々に弦交換と相成った。


さて何を張ろうかと悩み半分楽しみ半分。手持ちのストックから選んだのは、随分前に手に入れながらずっと放置状態だったドーガル社のディアマンテ・レギュラーテンション。一昨年同じくドーガル社のマエストラーレ弦をラミレスに張ったことがあった。マエストラーレ弦はかなり個性の強い弦で、楽器や弾き手で評価が分かれる。今回取り出したディアマンテ弦は、より伝統的な弦の響きに近いという触れ込みだ。素材は通常のナイロンにカーボン成分を加えたもので、昨今流行りのカーボン弦と伝統的なナイロン弦の中間的性格ということになっている。見た目は透明のナイロン弦そのもの。太さも通常のナイロン弦に近い。手にした感触はやや剛性が強く、ナイロン弦のしなやかさとは違う。張替えは特段変わることなく、いつも通りの作法でハウザーにセットし、ひと晩おいて伸びを修正しつつ弾いてみた。

いつ見ても惚れ惚れする表板!

特徴的なのはやはりモノフィラメントの高音弦。キラキラした倍音成分は少なく、全体として基本が太くしっかり鳴る。弾いている手元ではあまり音量感もなく、音色も地味に感じたが、楽器を身体の正面にセットし、腕を伸ばしてタッチに気を付けながら単音を弾いてみると、抱えて弾いている印象とは違って、エネルギーのある音が楽器から飛び出してくる感じで、音量感も十分。太い音色に変わりはないが、よく通る音でサステインも十分に感じられる。もっともその辺りは弦というよりは楽器の性格が支配的だろう。結果として楽器と弦のマッチングとしては、双方が同傾向の音色感をもった組み合わせといえるかもしれない。まだ張り替え直後ということもあって、弦の張りは少し強めに感じるが、しばらく弾いて馴染むうちに、緊張が少しほぐれ、音色も倍音がのるようになって印象が変わってくるかもしれない。これから練習ローテンションに加えて、少しずつ様子をみていくことにしよう。
以下はこのハウザーで弾いた音源。佐藤弘和「小シシリエンヌ」とカルカッシ25の練習曲から始めの方の3曲。4曲続けて再生される(…はずです)。シシリエンヌは当時楽譜を手にした直後で、あまりにたどたどしく恥ずかしい。カルカッシは拙宅の中でもっとも響きのある玄関ホール(というほどの広さではないが)で弾いたもの。
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7月末の某日。ギターを担いで浜松の江崎ギター工房まで行ってきた。
少し前に手に入れた40年前のヤマハ製ギターGC-30B。本家アグアドと瓜二つのその音が気に入り、このところ毎日のように取り出して弾いていたのだが、素人目には特に不具合はないようにみえるものの、いくつかの音でデッド、ピークが感じられ、もしかするとブレーシングの緩み等も考えられるかなと思い、生みの親である江崎氏にみてもらおうと思い立った。以前も書いた通り、この楽器の当時の製作担当で、2007年にヤマハ退職後は個人製作家として活躍しているのが他ならぬ江崎秀行氏。江崎氏の自宅兼工房は浜松市中心部から少し離れた住宅地にある。

普段と同じ時間に家を出て、東京発9時過ぎのひかりに乗車。浜松までは1時間半。浜松は仕事で過去数回訪れて以来、十数年ぶり。駅前周辺の様相はさすがの70万人都市だ。JR浜松駅に隣接する遠州鉄道に乗り継いで15分。江崎ギター工房最寄り駅「積志(せきし)」に到着。出迎えに来てくれた江崎氏の車に同乗し近くの餃子レストランへ。モヤシのせの浜松餃子を初体験。昼を少し回って浜松医大近くの工房へ到着した。
挨拶もそこそこに早速楽器をみてもらう。1980年製で相応のキズはあるし、前所有者は中々の弾き手だったのだろう、指板も全域に使い込んだ痕跡があるものの、ネックの状態やサドルのセッティングも良好。総じて状態は健全で修理の必要はないでしょうとのこと。何か気になることは?と聞かれ、高音弦の開放と1フレット押弦時の音色差が気になると告げると早速ナット溝をチェック。ヤスリを取り出し溝を調整。加えて経年による裏板のスレやくすみを磨いてきれいにしてくれた。
低音の出方に話が及ぶと、ウルフを測ってみましょうと、自作と思われる簡易治具を取り出した。小型スピーカーをアクチュエータとしてギターのサドル部分に取り付け、想定されるウルフトーン近くの周波数を送り込み、ギターが発する音のピークからウルフトーンの音程を探すというもの。簡素ながら理にかなった方法だ。持参したGC-30BはGとF#のちょうど中間付近にピークが出た。江崎氏はそれをみて「驚くほど低いですね」と言う。現在の江崎ギターの設定はG#とAの間に設定しているそうだ。昨今の多くのギター同様、低音と高音のバランスや音の立ち上がり等を勘案してウルフトーンを高めにとる設計思想のようだ。
ウルフトーン(胴共鳴の音程)を決めるファクターのうち大きな要素の一つが表板の厚さ。板厚を測るツールでGC-30Bを測ったところ2.0ミリ程度とかなり薄くことがわかり、これにも驚いていた。江崎氏がヤマハでGCシリーズを作っていた40年前の当時は、ウルフトーンや板厚の正確な測定手段もなく、現代のようにウルフトーンが楽器のキャラクターを支配するという考えもなかったそうだ。

ギターの点検をしてもらっている間、試奏用として工房に常備している楽器も弾かせてもらった。弾いたのは80万円の2機種(表板が松と杉、横裏板は共にマダガスカルローズ)と35万円の1機種(表板:松、横裏板はインドローズ)。いずれも楽器のキャラクターは同じで、価格差ほどの大きな違いは感じなかった。上位機種の方が幾分低音の量感があり、全体的に響きが豊かだったように思う。試奏したのが響きの良いリビングで、いずれも気持ちよく弾けた。ヘッドデザインにわずかなデザイン違いがあることと、塗装が「セラックフィニッシュ」と「全セラック塗装」の違いがあるが、これもパッと見は分からない。「セラックフィニッシュ」は下地としてウレタン塗装をした上にセラックを塗る、「全セラック塗装」は最初から最後までセラック使用という違い。全セラックの方が塗装膜を薄く仕上げられるので、より自由に表板が振動する…というのがうたい文句のようだが、仔細に検分しないと分からない。いずれにしても、現代のモダンギターとして正統派の音と作りで、強烈な個性を売り物にする楽器ではない。全域で均一に鳴り、工作の信頼度も高い。長く使っていくには結局こういう楽器がいいのだろうなあと、あらためて感じた。
これまで断片的に見知ったヤマハ時代やスペインでの修行時代の話も、あらためて興味深く伺った。ヤマハを定年退職して15年だそうだ。現在はギター製作のほか、地元愛好家の集いの取りまとめ、ブロアマ問わずギター愛の醸成が自身のテーマと語っていた。あまり時間を取ってもと思い、工房滞在は2時間程。尽きぬ話を切り上げ礼をいい、再び積志駅まで送ってもらって工房をあとにした。
江崎ギターの紹介。ナレーションは江崎さんご自身ですか?と聞いたら、いやプロにお願いしましたとのこと。
モデルNo.35G(松、杉)による演奏
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少し前に1980年作ヤマハGC-30Bを手に入れた。

左:GC-30B 右:本家アグアド

少々楽器に興味のあるクラシックギター愛好家ならば、このモデルについて説明は不要だろう。60年代終盤から本格的に始まったヤマハクラシックギターの頂点を成すグランドコンサートシリーズ。今日まで続くその歴史の中で、70年代から30年余に渡って中心的役割を果たしたのが、当時ヤマハ社員で現在は個人製作家として活躍している江崎秀行氏だ。
昭和49年・1974年、第一次オイルショックの影響続く頃、江崎氏が3年間の渡西(こちらでその歴史がみられる)を終えて帰国し、グラナダのフェレール工房に続く2年間のエルナンデス・イ・アグアド工房滞在で修得した技法によって、そのコピーといえる作品として上市したのがGC-30B。ヤマハオリジナル設計のGC-30A,GC-30Cと共に30万円の値付けで1974年に発売された。当時の30万は河野ギター他国内製作著名ブランドと同様の最高ランクの値付けだった。GC-30Bは江崎アグアドと呼ばれ当時から人気があり、クラシックギターではそれまで決してメジャーとは言えなかったヤマハを国内一流のブランドの一つに仕立て上げたモデルとなった。




GC-30Bの存在はもちろん発売当時の70年代から知っていて、十数年前にギターを再開した際に欲しいと思っていた。しかしもともと生産数が少ないこともあって中古も少なく、出ても当時の定価以上ですぐに売れてしまうという状態で中々出会いがなかった。その後1973年作の本家アグアドを手に入れたこともあって、縁がないなあと忘れかけていたのだが、ひと月ほど前に大阪の販売店で1980年作の中古が出たのをみつけ、ふとかつての思いが頭をもたげた。以前から付き合いのある楽器店だったので、送ってもらって自宅試奏でもよかったのだが、久しぶりにイコかと、大阪茨木まで出向いて試奏。弾き始めて30秒で即決した。
大阪滞在1時間余でギターを背負ってトンボ返り。帰宅して本家アグアドと比べて驚いた。大きさ、プロポーション、ネックの感触など物理的条件はもちろんながら、音そのものも驚くほどそっくりだった。本家の方が6弦のボリューム感がやや豊かだが、それも僅差。クリアな高音はほどんど区別が付かない。何より目指す音の方向が完全に一致している。やや大きめのボディーから繰り出される音は、本家同様ゆったり大らかに響く。十分な音量はあるが、昨今のコンサート向きモダンギターのように剛性感に勝り、強いタッチと共にエネルギーのある発音をする楽器とは基本から異なる感じがする。トーレス以降、マヌエル・ラミレスやサントス・エルナンデスといったオールドスパニッシュがもつキャラクター、60年代以降今日まで続くモダンギターのキャラクター、ちょうどその二つをつなぐのがエルナンデス・イ・アグアドのギターだというのがぼくの印象だが、江崎アグアドにはそのキャラクターがしっかり備わっている。
世にアグアドモデルと称するギターはいくつかある。エルナンデス・イ・アグアド工房で修行したとされる日本の製作家も何人かいる。しかし、修行の期間、受け継いだ技法と精神、その後の製作実績等を考えると、ヤマハ時代の江崎氏が担当したGC-30B(及びその後型番を変えたGC-61)は、エルナンデス・イ・アグアドのもっとも正統かつ忠実な後継の一つだと、ぼくは思う。
手に入れた個体による音源。販売店HPでこの動画が公開される前に、すでにぼくが手を上げていてHOLDになっていた(^^
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久しぶりの楽器試奏ネタ。最近弾いたギター・シリーズ(そんなものあるのか?)。五月の業務が一段落した先日、都内での仕事を少々早めに切り上げ、夕方二日続きで池袋・要町からのぉ~上野・入谷と巡ってきた。以下、記憶が失せないうちに簡単に備忘を記しておこう。

要町GG社で弾いたのは以下の3本。
ドミンゴ・エステソ 1929年
ホセ・ルビオ 1992年
クリストファー・ディーン 1992年
お目当てはエステソ。事前情報では状態すこぶる良好とのことで、お持ち帰りとなったらどうしよう…などどあらぬ妄想をしながらGG社のエレベータに乗った。その日はGGサロンがイベント中ということ3階ショップで試奏。エステソは昨年までラミレス2世が収まっていた湿度調整付きケースに鎮座していた。ケースから取り出してもらったエステソを慎重に受け取る。予想通りの軽さ。そして1929年作というのが信じられない状態の良さに驚く。どうやら塗装は塗り直してあるようだが、それを割り引いてもきれいだ。表板の変形もなくキズも少ない。胴内部もホコリの欠けらすら見当たらず、ラベルも新品の様。こんなオールド・スパニッシュは初めてだ。シープレスボディから放たれる音は実に軽く発音し、アタック音を伴なってポーンと立ち上がる。低音ウルフは当然低めでF以下。ドンと鳴るが、これも重量感は控えめ。高音域と音調を合わせたかのように軽く鳴る低音だ。高音域は12フレット越えのハイポジションまでストレスなく反応する。やはりサステインは短めで、立ち上がりのアタック音にエネルギーが集中する感じだ。いわゆるフラメンコギター風の鳴り方だろうが、全域で凹凸なく均一でストレスなく鳴る。デッドな空間でゆったりをメロディーを奏でようとすると、少し気分が乗らないかもしれないが、それにしても、楽器の物理的状態が素晴らしく、こういう音色が好みであれば価値ある一台だろう。
続いてみたルビオ、ディーンは大きなくくりで言えば同系列の楽器。いかにも60年代以降のモダン楽器という風体で剛性感のある作り。しっかりしたタッチで弾けば良く通る太い音で発音する。ルビオの方がやや鋭い高音を持っていたが、もしかすると弦がカーボンだったかもしれない。ちなにみルビオのラベルには修業時代のサイモン・アンブリッジのサインがあった。ポール・フィッシャーやカズオ・サトウのサインは見たことあるが、サイモン・アンブリッジのものは始めてだった。

翌日は上野アウラへ。こちらも久しぶりだ。日比谷線入谷駅で降り、国道4号線を少し北に行ったところで左折。アウラを訪れた海外製作家が興味を示したという江戸指物店の横を過ぎると見慣れた看板が現れる。この日は事前に連絡しておいた以下の3本を拝見した(写真ではレンズ歪で大きさ・形がかなり変化してしまった)。
田邊雅啓 2022年作 サントスモデル
箭内ショウイチ 2022年作 ハウザーモデル
デイヴィッド・ホワイトマン 2013年作 トーレスモデル
まずは田邊サントス。
実は少し前に田邊氏から「アウラに新作2本を納品した。HPには載せていないようだが、1本はすでに売れた。もう1本サントスモデルがまだ在庫していると思うので、時間あればぜひ試奏してインプレッションを聞かせてほしい」と聞いていた。 慎重にチューニングを確認し、ゆっくりと低音域のスケールから弾き始め、次第に高音域に移る。低音はドッシリとした重量感があり、胴共鳴だけの軽いボンッで終わらない。そして高音はカリカリッと鋭い立ち上がり。アタック音だけでなく十分なサステインも伴う。音質もピュアでメロディーがきれいに歌える。これはいい!思わず小声で叫んでしまった。
次に弾いた箭内ハウザーも大健闘だった。
田邊サントスから持ち替えると、一聴して全体的にややマイルド。低音ウルフはG辺りだが、あまり目立たない。高音は田邊サントスのようなカリカリ感は控えめだが、全体的にみたらバランス良好と感じた。さらにしばらく弾いていると耳が慣れてきたのか、マイルドな高音も反応よくレスポンスし音量も十分。低音もそれほど強靭でもふっくらでもないが、全体バランスの中では必要十分なエネルギーで不足はない。工作精度もぼくのような素人目には十分精緻に見えるし、磨き過ぎない落ち着いた塗装の具合も非常にいい雰囲気だ。これで上代30万は破格値。そう断言できる。
続いてホワイトマントーレス。
2013年作。松の表板、シープレスの横裏共に色白。その外観通りのイメージで、軽い発音でポンポンと鳴る。反応良く音量もある。低音ウルフはE付近だが、やはり軽い共鳴音主体の音で、重量感や強さはない。この辺りが同じ低いレゾナンスを持ちながら印象の異なる田邊サントスとの違いだ。高音もやや短めのサステインでコンコンと良く鳴る。表板はかなり薄いのか、高音域のいくつかの音に凸凹があって均一性は今一つ。ホワイトマンの楽器はこれまで何本か所有したり、試奏したりしたが、ときに工作精度の甘さが気になることがあった。しかし、この個体は良く出来ていて、眉をしかめるような所はなかった。弦高他細かなセッティングも良好。もしかしたら後から手が入っているのかも知れない。
この日、アウラのショーケースには他にも尾野薫の新作他も鎮座。コロナ禍以降、室内遊戯系のビジネスは活発のようで、対応してくれた吉田さんの話ではギターもよく売れてるとのこと。しかも海外からのネット注文もしばしばあり、日本の製作家を指名買いするケースも珍しくないとのこと。ここ十数年、日本の製作家のレベルはとても上がり、海外製と何ら遜色ないと感じる。特にアウラお抱えの伝統工法を受け継ぐ面々の作品は、いずれを選んでも後悔はないだろうと思う。
コロナ禍も改善傾向が続き、あらたな懸念はあるものの、世間もようやく明るさを取り戻しつつある。楽器店の営業担当の話でも総じてよい状況が続いているとのこと。久々の楽器試奏も、限られた時間ではあったが、そんな雰囲気を感じつつ楽しいひとときを過ごすことが出来た。例によって、試奏の御礼にと買った弦と楽譜を手に帰途につく。 梅雨入り前の初夏の昼下がり。楽しいひとときだった。 う~ん、それにしても田邊サントス、良かったなあ!オーダーしちゃおうかな…
益田正洋氏アウラの在庫総ざらい!
チーム・アウラの合作KEBONY材ギター
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