本邦初お目見え セバスチャン・ステンツェル作ギター



「与太さん、例の楽器が入ったので見に来ませんか」
恵比寿のクラシックギター専門店「カリス」の店主T氏からメール。昨年秋にお邪魔した際、「近々ドイツの珍しい楽器が入荷予定なので、入ったら連絡します」と話の出ていた楽器がようやく届いたらしい。他にちょっと気になった楽器があったこともあり、きょう都内での仕事を早々に切り上げてさっそくお邪魔することにした。


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ドイツ在住のセバスチャン・ステンツェルという製作家の手になる最新作。なんでも日本には今回初めて上陸したらしい。すでに欧州や米国(例のGSI)そして中国には紹介されているとのこと。ぼくも今回初めて聴く名前だった。ウェブサイトをみると相応のキャリアもあるし、ウードの製作でも有名のようだ。 表板はスプルースの色白美人。横裏はハカランダで裏板センターにメイプルの化粧が施されている。ロゼッタやヘッドのモザイクにも程々の装飾。全体に工作精度は高く、細部まで入念に仕上げられている。弦長650ミリで、ボディサイズ・重量とも中庸。ネックはVジョイント。表板のブレイシングは6本の扇形とのこと。6本というのはちょっと珍しいが、総じてオーソドクスに作られているうようだ。

店主Tさんが調弦しているときから、並々ならぬ音圧で店内に音が響く。手に取ってそろそろと弾き始める。低い方から高い方までひと通り音出ししてみると、どの音域も軽いタッチではじけるように鳴る。手元での響きも豊かで、少し響きが過多かなと感じたが、3メートル程離れて聴いていた店主Tさん曰く、明快な輪郭をもった音が飛んでくるとのこと。響きが多過ぎて、和音が団子になったり、音のつながりが不明瞭になったりということは無さそうだ。強いタッチにもリニアに音圧が上がっていく。一方で、タッチの軽重に関わらず軽く発音することと、手元での響きが豊かなことから、タッチによる音色の変化が少し付けにくいかなと感じた。もっともこれはぼくの技量の未熟さゆえが主因だろうが、今風のよく鳴るギターには共通した特徴ともいえる。総じて軽いタッチでも強い音圧が確保できることから、アルアイレ主体のタッチで運動性を重視し、音色の機微よりは音量のダイナミクスで曲を作る、現代風の演奏形態にはジャストミートの楽器だと感じた。また他の楽器とのアンサンブルでも威力を発揮しそうだ。大音量といっても、サイモン・マーティーのように楽器重量が通常の倍近くあったり、あるいはダブルトップの、音量はあるがやや単調な音色に違和感を感じる向きにも、基本構造がオーソドクスなこの楽器は受け入れられやすいかと思う。


右=ステンツェル 左=シュバルトケ 奥=レオナ
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さて本邦初入荷のギターに続いて弾いたのは、以前から気になってはいたものの出会うことがなかった、やはりドイツの製作家:ローランド・シュバルトケのギター。プロにも愛好者が多いと聞く。今回弾いたのは1999年作のもの。表板スプルースと横裏ハカランダ。特注と思われるロジャースのペグがヘッドに埋め込まれるようにセットされている。そして特徴的なヘッドデザインでシュバルトケ作と分かる。 先のステンツェルと弾いたあとにこのシュバルトケを弾くと、なんともホッとする音だ。低音域も高音域も音量は十分あるが、全体にスッキリとした鳴りと響き。特に高音の透明感ある音色ときれいに収束するサステインは実に美しく、タッチによる音色変化も付けやすい。最近弾いた中でもトップクラスの美しい音のギターだった。

長居は禁物と思いながら、ちらっと眼に入ったりスリムボディーの楽器も弾かせてもらった。80年代中庸の企画物とでもいうべきトーレスモデル:レオナギター。当時の日本の製作家数名によるトーレスレプリカの競作。今回のものは1983年中出治作のもの。レオナはこれまで何度か出会って弾いたこともあるが、今回のものは状態もよく30年を経て枯れた音色も中々魅力的だった。板厚薄く重量も軽いことから、19世紀ギターに近いような鳴り方で、ポンとはじけて短めのサステインで収束する。音量感も手元では十分にある。この楽器でコンクールに出ようというようなものではないが、座右において古典やタレガあたりの小品を楽しむには好適の楽器だと感じた。

性格の異なるギターを3本弾いたあと、恵比寿駅で買い求めて手土産に持参した御門屋の揚げ饅頭を頬張りながら店主Tさん&奥様としばし歓談。平日の昼下がりということもあって他に来店客はなく小一時間、静かに試奏の儀 in 恵比寿を楽しみ店をあとにした。


ステンツェル2017年作@米国ギター販売店GSI。


ローランド・シュバルトケ2005年作


製作家セバスチャン・ステンツェル


製作家ローランド・シュバルトケ



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最近弾いたギター 2018年年始編



きょうは都内での仕事を早めに切り上げ、知人と落ち合って上野入谷方面へゴー! 馴染みのギター専門店「アウラ」へお邪魔し、少々遅い年始挨拶方々気になる楽器をチェックしてきた。

試奏する知人
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アウラは昨年秋以来三ヵ月ぶり。地下鉄日比谷線入谷駅から歩くこと数分でアウラに到着。例によって奥の間へ通される。事前に電話を入れ、見たい楽器を連絡しておいたでのさっそく試奏となった。きょうは拝見したのは以下のギター。いずれも高水準の音。ネックの状態など健康状態も良好なものばかりで楽しく試奏した。中でも印象に残った楽器をいくつか挙げておく。

エドガー・メンヒ1世 1966年
ハウザー3世 2007年
ハウザー3世 1981年
バルベロ・イーホ 1997年
ショーン・ハンコック ハウザー1世モデル 2017年新作
ブライアン・コーエン ルビオモデル 1983年
尾野薫 ハウザー1世モデル 2005年 他

今回、事前にリクエストしたおいた筆頭がメンヒ1世のギター。メンヒ2世はよく見かけるが、1世それも60年代あるいはそれ以前のものは中々出くわさない。10年程前、神田明神方面にあったメンヒ1世の60年代のものが好印象で記憶に残っていた。そのときの記憶ではボディーは軽く出来ていて、ボディ共鳴(低音ウルフ)もF#辺りと低め。ハウザー1世や古いスパニッシュをほうふつとさせる音だった記憶がある。今回の1966年作はメンヒ1世には珍しく横裏板がハカランダ。重量もあって、かなりしっかりした作りの個体だった。しかし出てくる音は意外に軽い発音で、特に中高音は澄んだ音が抜け良く響き好印象だった。メンヒ2世のギターは仲間内で使用者がいるのでしばしば耳にするが、1世の時代とは異なる、より現代的で重厚な音だ。

ハウザー3世はいつもながら安定していて素晴らしい音。2007年作はぼくが使っている2006年作と近いこともあって、音の印象も似ている。低音も高音も太く鳴りながら、あいまいなところがない。また弾き手の手元の鳴りは控えめながら、数メートル離れた前方では実に明瞭に聴こえてくる。1981年作は3世作としては初期のもので、#48のシリアル番号が付されていた。まだ2世(1911ー1988)が存命中の時期で、3世のラベルながら父子共作の頃だったかもしれない。30年余を経ていることと、前所有者がよく弾き込んでいたことを伺わせ、2007年作と比べると明らかに音の抜けがよく、今回もっとも印象に残った1本だった。

尾野薫とショーン・ハンコックのハウザー1世モデルは共にやや軽めのボディーで、低音高音とも品位のある音で申し分なくよく鳴っていた。ブライアン・コーエンのルビオモデルは太めの男性的な音ながら、高音は明瞭に発音し、660㎜の弦長も気にならなかった。

いずれ劣らぬよい楽器を囲んで、また鎌田社長のフレンドリーな対応もあって、いつながらの楽しい一時間。そして、これもいつもながら、試奏の礼代わりに知人は弦を、ぼくはナクソス盤のCDを1枚買い求めて店をあとにした。


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オルディゲス メンテナンスから戻る



愛器オルディゲスがメンテナンスからから戻ってきた。
手に入れてから3年が経つゲルハルト・オルディゲスのギター。以前からネックのわずかな順反りが気になっていて、少し前にこの楽器を購入した恵比寿の販売店に相談を持ちかけた。


R0014268 (560x560) R0014265 (560x560)

取り外したフレット
R0014269 (560x560) R0014270 (560x560)


ネックの順方向の反りに対する考え方や感じ方は人それぞれで、一定範囲であれば許容範囲とされるし、弦のビリ付きへの対応から必要な要素でもある。ぼくは人一倍、いや人三十倍くらいネックの状態に神経質なこともあって、オルディゲスギターのわずかな反りが気になっていた。12フレットでの弦高は6弦側、1弦側とも標準寸法以下で問題ないのだが、ネックが7フレット辺りからわずかに起きているため、3~7フレット辺りの弦高さが少し高い。店主には「おそらく許容範囲だとは思うが、何か手があれば少しでも改善したい」と伝えた。

ネック反りの修正方法はいくつかあって、加熱プレスするアイロン方式がもっとも簡便だが、時間経過と共に戻ってしまう場合が多い。指板の厚さに余裕があれば、削りなおしてフレットを打ち直す方法が確実。ぼくのオルディゲスに関しては黒檀指板の厚さがやや薄いためその方法が使えない。実際のメンテナンスをお願いする製作家のネジメさんから「この程度の反りは許容範囲ではあるが、フレットの打ち直しだけでもいくらか改善できるかもしれない」とのコメントがあり、それではとフレットの打ち直しを依頼した。フレットの指板への打ち込み部分の形もいろいろとあるようで、やや太目の足をもつ材料を打ち込み、それで指板表面を順反りとは逆方向に押し広げるという手法だ。

当初予定よりも早く完了の連絡。きょう都内での仕事の帰りに立ち寄り、受け取ってきた。さすがは第一人者ネジメ氏熟練の技。以前の状態よりもずっとよくなっていて、ネックフェチのぼくにもほとんど気にならない程度に修正された。フレットの打ち込み具合もオリジナルの状態よりカッチリとしていて見るからに気持ちがいい。帰宅後、ゆっくりと調弦をして少し弾いてみたが、併せてお願いしていたサドルの新規作成と相まってか、音の密度が上がった(ような気がする)。 これでまた気持ちよくオルディゲスと付き合えそうだ。

<追伸>
きょう恵比寿の店で楽器を受け取り、居合わせた別の客と店主をはさんで二言三言おしゃべり。しばらくするとのその男性客から「あのぉ、六弦…ブログやっている与太さんですか?」と声をかけられた。びっくりしたなあ、もうぉ(^^! 世間もギターの世界も狭いことをあらためて認識した。声をかけられたのが楽器店でよかった…(^^


オルディゲスと、ステファン・ニチカという製作家の新作試奏。弾き手に少々難有りだが…


与太playsオルディゲス(^^;



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最近弾いたギター 2017年秋<続々>



先日都内での仕事のあと、夕方から知人と銀座で会うことになった。仕事が昼で片付いたこともあって(強制終了ということですね…)、ゆっくり昼飯を食べたあと、約束の時間までギターショップを覗くことにした。この秋三回目の巡回パトロール(一回目二回目)。今回は御茶ノ水・銀座方面の2店にお邪魔した。記憶が失せないうちに備忘として記しておこう。

―御茶ノ水A店―
桜井PCモデル・特別仕様品
川田一高 ワッフルバー&レイズドフィンガー
パコ・サンチャゴ・マリン1992年
奥清秀トーレスモデル
―銀座B店―
ヤマハGC-70C/GC-71
ラミレス・センテナリオ

まずは御茶ノ水A店。
桜井PCモデル特別仕様品は、横裏板に300年物のハカランダを使い、表板はドイツ松というもの。吟味された材料の効果か、通常モデルに比べて手元での響きが控えめでスッキリした印象。中高音は十分に芯のある音で鳴っていた。惜しむらくは低音の反応がやや鈍く重い。音量感は通常モデルとそれほど変わらない印象だが、ピュアで品位の高い高音はさすがに格上だった。川田一高は今風仕様のおかげで中高音がよく鳴るが、ダブルトップにありがちな特性として高音の透明感がやや乏しい。音量感は十分だが、音の品位としてはややランクが落ちる。音量と音質の両立はやはり難しい。パコ・サンチャゴ・マリンは知人の新作640mmが好印象だったので期待したが、音量感はそれほどでもなかった。製作年代の違い、個体差、あるいはその両方だろうか。どうやらパコ・サンチャゴ・マリンは640mmのショートスケールの方が評判良さそうだ。奥清秀トーレスモデルは横裏板にアフリカンブラックウッドを使ったもので珍しい。トーレスモデルとしては異例に重い楽器で、低音も高音もよく鳴っていたが、小型モデルらしい軽快さはない。

A店に小一時間お邪魔したあと、古瀬戸珈琲で一服。次なる銀座B店へ。
在庫していたラミレス・センテナリオは、同店が2011年にラミレス工房へ特注したもの。新品ながらやや年式が古いこともあってディスカウント中(430万円が280万円)。音量感はこの日弾いた中では一番。手元での響きが少々多すぎる感じもしたが、華やかでゴージャスな音は魅力的。但し少々派手な装飾と、安っぽく見えるウレタン塗装の厚塗りが残念。ヤマハGC-70/71は現在のヤマハの最高位モデル。70はヤマハオリジナル設計、71はサントスやハウザー1世を範にした、古いスパニッシュをイメージしたモデル。ぼく自身は低音がしっかりしている71の方が好みだった。ラミレス・センテナリオに比べると中高音の鳴りは少し控えめだが、よく整っていて、バランスも良好の優等生タイプ。価格はいずれも160万円と国内作品としては最高値レベル。その下のGC-82が見たかったが、この日は在庫なしだった。

…ということで、駆け足のインプレッション。言うまでのないことだが、こうした楽器の印象は、まったくぼく個人の感じ方と判断、しかもそのときの…でしかない。これほどあてにならないコメントはないと自分でも感じる。ほんの茶飲み話程度に受けてっていただれば幸いです。今回弾いた楽器の中から、「与太さん、好きなのを持って帰ってええよん!」と言われたら…一瞬悩んで答えは…ヤマハGC-71でありました(^^;


ヤマハのGC上位モデルは伝統的工法で作られている。


ヤマハGC-82Cを弾くベルタ・ロハス


GC-70と71によるデュオ。



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最近弾いたギター 2017年初秋<続>



二週間ほど前に、最近弾いたギターについて備忘を記したが、きょうはその続き。時と場所をあらため、今回は都内某所の馴染みの店(前回の巡回は、実は関東圏を脱出していた)。都内での仕事の帰りにうまく時間が取れたので、ついでに立ち寄った。まあ、どちらがついでか怪しいのはいつもの通りだが…。


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「与太です。コンチハ。きょう夕方お邪魔したいのですが、よろしいですか?」と昼過ぎに電話を入れ、「特にトーレスモデルを見たいので…」と付け加えておいた。とっかえひっかえ試奏したのは以下のギター。いずれもトーレスモデルを標榜する作品。例によって製作年など詳細データは伏せておく。

 ジョン・レイ
 マルセリーノ・ロペス(3本)
 大西達郎
 パウリーノ・ベルナベ
 栗山大輔
 尾野薫

そもそも…トーレスモデルといっても、オリジナルのトーレスを簡単に検分することは出来ない。たまたまぼくは数年前に某所で静かな環境でゆっくり弾く機会があったので、多少の印象はもっているが、多くの場合は、こんなものかなと想像するか、録音に残された音でイメージを膨らませるしかない。製作家としても、忠実なコピーを意図するのか、トーレスという歴史的存在から何がしかをイメージしてそれを反映させるのかでは、当然アプローチが異なる。今回の十本近い作品も、そうした様々な意図が混在するものだった。

ジョン・レイはカナダ人ながらスペイン・グラナダで製作を続けている。最近はもっぱらトーレスモデルが有名で、今回みた作品も、外見・音ともに最もトーレスの時代を感じさせるもの。ひと言でいえば、雰囲気のある楽器だ。音も横裏メープルらしい、やや短めの余韻を伴ってコロコロと鳴る。胴はかなり薄いのだが、手元での音量感に不足はない。
ついでマルセリーノ・ロペス。たまたまだろうが、トーレスモデルが3本あって、うち2本は同じモデル。ここ数年の作品だが、仕上げのニスの色合いや作りの各所にアンティークな雰囲気が漂う。ボディーは小型ながら、横裏は中南米ローズ系で、しっかりとした作り。胴の内部で音が響く、19世紀ギターを思わせる鳴り方だった。
大西達郎の作品はトルナボス付き。それもあって、今回弾いた中ではもっとも低いウルフトーンをもち、ほぼ6弦開放Eに共鳴。例によってドーンと腹に響くところは、前回の記事に書いたシンプリシオを思わせる。もちろん当初からトルナボス付きで設計し、トーンバランスを考慮しているものだろうが、やはり音と響き全体が低域シフトするのか、中高音はやや線が細く、かつマイルドな印象だった。
栗山大輔と尾野薫の作品は、いずれも忠実なトーレスコピーというよりは、トーレスからイメージしたものを盛り込んだという雰囲気のギターと感じた。特に尾野氏の作品はかなりがっちりした作りで、音も余分な響きを排し、その代わりに、少し離れて聴くとパワフルな音が前に出てくる。手元での響きが心地良いジョン・レイやロペスの作品と好対照だった。

アントニオ・デ・トーレス(1817-1892)がモダンギター潮流を作った一人であることは確かだろうが、ヴァイオリン族と違って、きちんとした鑑定システムもないギターの世界。トーレス、トーレスと唱えてみても、アマチュア連中の空騒ぎ的なレベルでしかないかもしれない。まあ、それも楽しい道楽の世界ではあります。


トーレスが愛器の松田晃演の演奏。説得力ある音と解釈。


栗山大輔のトーレスモデルを弾くキム・ヨンテ氏。冒頭、ソルのエチュードではギターの音色より先に三度スケール(ダブルストップ)の鮮やかさに耳がいく。ソルのあとタンゴ・アン・スカイ、アルハンブラの思い出と続く。



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最近弾いたギター 2017年初秋



最近弾いたギターの印象。備忘を兼ねて記しておこう。
そもそも日々ろくろく弾きもしないのに、楽器についてあれこれ講釈するのは、まったくもって不本意なのだが、気になる楽器があると身体がムズムズしてくるのは、もはや性癖を通り越して病気かも知れない。しかし周辺には更なる重症患者もいるので、気を楽にして程々に病気と付き合っているのが現状だ。最後に楽器を買ったのは2014年秋のオルディゲス(あっ、こんなのもあったか)。その後、症状は落ち着いていたのだが、この春くらいから少々ソワソワが続いている。そんな中、久しぶりに楽器店を巡回。以下順不同にインプレッション他を。どこの店かを明かさない方がいいかなと思い、年式他詳細情報は伏せておく。もっとも、ちょっとネットをサーチすれば分かるだろうが…。


■ドミンゴ・エステソ■
松・シープレスのエステソ。表板・裏板ともクラック修理跡があるが適切に修理されていて問題なし。ネックや指板の状態もよかった。この時代の楽器らしく、軽いボディーと薄めの表板により低音ウルフトーンはF#辺り。低音がドンと鳴り、高音も木質系ながら反応よく、高音のハイポジションのつまりもなし。音量も十分。相場よりも少々低めの価格設定。シープレスというと現代的視点ではフラメンコギターをイメージしてしまうのか、横・裏がローズ系(いわゆる黒)になると、それだけで3割程価格アップする。音に関してはシープレスは決して悪くない。

■フランシスコ・シンプリシオ■
トルナボス付き。松・ローズ。店主が調弦しているときから、6弦開放のEがドーンと部屋に満ちてびっくり。ドンッ、だけでなくサステインもあって、ドーンと尾を引く。高音ハイポジションは全体にややつまり気味だが、トルナボスの響きがのって、曲を弾くとそれほど気にならないだろう。エステソと比べると男性的で豪放な音。全体に均一で整っていたエステソはとは好対照。委託品とのことで、持ち主がペグをピカピカの後藤に替えてあったり、横板と裏板が材質も違っていて、店主曰く、一度開けて裏板を張り替えているようだとのこと。私もそうみた。そのあたりもあってか価格も安めに設定してあった。

■矢木聡明ブーシェモデル■
初めてみる楽器。アマチュア製作コンクールで優勝経験もある愛知の方だそうだ。ブーシェモデルだけにこだわって作っているとのこと。細部まで丁寧に作られていて、特に指板の工作精度は素晴らしく、ほれぼれした。力のある低音と、太い高音で、全体にやや渋めの玄人好みながらいいギターだった。

■佐藤忠夫■
3本在庫してあった佐藤忠夫の作品中、松・メープルのモデルを試奏。特徴的なヘッドデザインが好みの分かれるところだろうか。他全体の工作精度はまずまず。ネックの状態もよい。音もメイプルらしく、少し短めの余韻を伴って、コロコロ・コンコンとよく鳴っていた。低音も十分で、20万円を切る価格は超お買い得と感じた。

■中野潤サントスモデル■
もっぱらトーレスモデルやハウザーモデルで知られる中野潤。サントスモデルは注文主からのオーダーもあって、ギター文化館コレクションにあるサントス・エルナンデスを参考にして作られたとのころ。かなりかっちり作られた印象の楽器。低音力強く、高音も立ち上がり鋭く、エネルギー感もあって良く鳴っていた。年月を経た本家サントスのような枯れた味わいはさすがに無理だが、出来たばかりのサントスかくやと思わせる。

■寺町誠MT-2■
国内中堅製作家という印象の寺町誠氏。それでも東京、名古屋、大阪の複数の販売店が常時在庫する背景には、コンスタントに良品を提供している実績あってのことだろうし、その音質や品質も好評だからに違いない。松・マダガスカルローズ(漆黒板目の良材)の新作を試奏。見かけのプロポーションがフレタ似であることから、もっと男性的な楽器かと思っていたが、それほどガチガチではなかった。低音のウルフはG辺りだが、それより低い音域も充実した鳴り。高音はどの音も均一に鳴り、エネルギー感、サステインとも十分。工作精度、音ともに良い楽器。価格も適正。このレベルの楽器を早い時期に手に入れて長く弾き込むというのは最良の選択の一つだろう。

■一柳マエストロモデル■
松・ハカランダの上位モデル。3年程経過した中古品だったが傷は少なく、ネック他楽器としての状態は良好。低音の充実ぶりは今回試奏した一連の楽器中トップかもしれない。どっしりと深く重く響く。中高音は低音側に引っ張られてか、ややマイルドな印象。太く穏やかな響き。こういうバランスが好みの人もいるだろう。

■パコ・サンチャゴ・マリン■
先日来宅した知人が使っていて、一気にファンになってしまったパコ・サンチャゴ・マリン。今回650mmと640mmの両方を試奏した。松・中南米ローズ。2本とも素晴らしくよく鳴る楽器だった。低音は強いウルフトーンは伴っていないが、6弦ローポジションまでしっかりエネルギー感がある。5弦の7~10フレット辺りのつまりも少ない。高音は先日の印象同様、立ち上がり鋭く、かつ明るくよく鳴り、実に気持ちがいい。


…と、初秋の巡回報告は以上の通り。秋は空気も乾き、楽器のコンディションも上向く季節だ。楽器は弾いてナンボ。さて、こんなろくでもない与太ブログなど書いていないで、練習に励みましょうかね。


フランシスコ・シンプリシオ1929


ドミンゴ・エステソ1930


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パコ・サンチャゴ・マリン作のギター



きのう土曜日、ギター製作家:田邊雅啓さんからの紹介ということで、お二方が拙宅にぼくの田邊ギターを試奏に来た。お一人は男性。もうひと方、一緒にギターアンサンブルを楽しんでいるというお仲間の女性。その男性がギター買い替えを検討していて田邊さんの楽器が候補になり、工房まで相談にいった由。たまたまその方が拙宅の近所ということもあって、田邉さんから私を紹介されたというもの。田邊さんの楽器の他、手持ちの楽器もお披露目して試奏してもらった。


20170909_YJ


ぼくの楽器の評価あれこれはここでは置くとして、ぼくが興味をもったのは、同行された女性が持参した楽器。その女性は高校の部活時代からのキャリアがあって、指さばきを見ただけで、中々の弾き手だと分かった。その方が持参した、昨年購入したというパコ・サンチャゴ・マリン作の楽器。これが素晴らしかった。新作の640mmで都内某ショップで試奏して、すぐにピンとくるものがあって決めたとのこと。

グラナダの名工:アントニオ・マリン(1933-)の甥っ子にあたるパコ・サンチャゴ・マリン(1948-)。マリン系列は明るく良く鳴るグラナダ系の代表格。アントニオの息子ホセ・マリン・プラスエロ(1960-)の楽器は一年間程使ったことがあった。明るい音でよく鳴る楽器だったが、やや軟調で、音そのもの少々飽きてしまったこともあって手放した。以前からサンチャゴ・マリンは本家のアントニオやホセとは異なる作風で、欧州で高く評価されているとの話は聞いたことがあり、十年近く前に一、二度は試奏したこともあったかと思うが、印象に残ったことはなかった。ところが、今回の楽器はとても印象的だった。

ともかく音が明るく、立ち上がりが速くてよく鳴る。低音も強いウルフを伴ったボンッという音ではないが、十分ボリュームがある。ホセ・マリンも同様に明るくよく鳴ったが、サンチャゴ・マリンは音にしっかりとした芯・核があり、浸透力のある強さと重量感も兼ね備えている。サンチャゴマリンを弾いたあと、オルディゲスやハウザー、田邊ロマニ等を手にすると、一様に眠たい音に聴こえ、愕然としたほど。もっとも私が聴く側に回って、それらの楽器を弾いてもらうと、手元の印象とはまた違って、手元では眠たい音(サンチャゴ・マリンに比較して)に聴こえた私のハウザー、ロマニ系の高音も十分前に出ていて太く響き、弾いているときに手元で感じるような差はなかった。あらためて、手元の鳴りと、聴き手への音の届き具合は相関しないものだと認識した。

三人で楽器の品定め。せっかくの機会だからと、持参してもらった三重奏の楽譜を開いて初見大会で楽しく過ごし、また機会があれば遊びましょうとお開きになった。初秋の午後の楽しいひとときだった。


例の海外販売店サイト。サンチャゴ・マリン2012年作を弾くイザベラ・セルダー。ウォルトン「五つのバガテル」から第1番


同 第4番


同 第5番



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プロフィール

マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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