トゥーツ・シールマンス「Chez Toots」



三月に入って一気に春になった感あり。あと十日もすれば桜の便り。ついこの間までの酷寒が嘘のようだ。年度末納期の仕事も目途がつき、さて今夜はリラックスして、こんな盤を取り出した。


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数年前に94歳で亡くなったトゥーツ・シールマンス(1922-2016)のハーモニカ。1998年のリリースでヨーロッパテイストの曲を取り上げた「Chez Toots」というアルバム。「パリの空の下」「ムーラン・ルージュの歌」といったお馴染みの曲もあり、日本人好みのノスタルジック路線の盤だ。有体に言うなら<カフェに流れるおしゃれな音楽>というところ。セールス的にも好成績のアルバムらしい。ダイアナ・クラール、ダイアン・リーヴス、ジョニー・マチスといった大物がゲスト参加していて、一枚通して飽きさせずに聴かせる。たまには箸休めによろしでしょう。


2012年10月。シールマンス90歳。


90歳になってもこのくらい音楽を楽しめたら、さぞ楽しかろう。


この盤の音源。「Sous le ciel de Paris」



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チック・コリア「Return to Forever」



三月最初の週末日曜日。昼をはさんで道楽部屋の掃除。自治会事務仕事を片付けながら、久しぶりにこの盤を取り出した。


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1972年に録音され70年代のジャズ・フュージョン最大のヒット作となったチック・コリアのアルバム。あまりに有名な盤だし、ぼくら世代にはとりわけ懐かしくかつ見慣れたジャケットデザインだ。70年代半ばはちょうどぼくの学生時代、四畳半フォークに飽き足らない少しスノッブな音楽好きは、大体がジャズを聴いていた。当時のそうした連中の下宿に必ずあったレコードがこの「Return to Forever」だ。他によく見かけたアルバムといえば、ウェザー・レポートやキース・ジャレットの「ケルン・コンサート」あたりだったろうか。同時期にベストセラーになったリチャード・バック著「かもめのジョナサン」と記憶が重なる輩も多いだろう。

このアルバムのリリース元であるECMレーベルは「沈黙の次に美しい音」をコンセプトにしているという。コンテンポラリージャズの他にクラシック、特に現代音楽に積極的なドイツのレーベルだ。80年にアルヴォ・ペルトを広めたのもこのレーベルだった。
まったく予備知識なく、この盤をオーソドクスなジャズアルバムと思って聴くと少なからず驚くだろう。クラシックにそこそこ親しんだ人なら、明らかに現代音楽それもミニマルミュージックのアルバムと思うに違いない。コテコテのビバップはもう飽きた、その後の60年代フリージャズはやかましいだけだ…そう感じていた70年代初頭のリスナーに対するチック・コリアの回答がこの盤だということになるのだろう。収録曲は以下の通り。

 1.リターン・トゥ・フォーエヴァー
 2.クリスタル・サイレンス
 3.ホワット・ゲーム・シャル・ウィ・プレイ・トゥデイ
 4.サムタイム・アゴー~ラ・フィエスタ

アルバムタイトルにもなり、のちにバンド名にもなった第1曲<リターン・トゥ・フォーエヴァー>はそれこそミニマル風の静かな出だしで始まる。およそ5分間、単調な和声とリズムを繰り返しつつ次第に高揚。一旦頂点に達したのち再び冒頭の静けさに戻る。これをもう一度繰り返して12分間の曲が終わる。ジャズファンよりは近現代のクラシックファンの方がストレートにこの音楽を楽しめるに違いない。

チック・コリアが弾くフェンダー・ローズピアノの音も今聴くとレトロで独自の雰囲気があるし、スタンリー・クラークのベースもスリリングだ。ぼく自身は第3曲の<ワット・ゲーム・シャル・ウィ・プレイ・トゥデイ>だけがいやにポピュラリティが強く違和感を覚えるが、アルバムトータルとして傑出した盤であることにはまったく異論はない。このジャケットを眺めながら「沈黙の次に美しい音」に相応しいタイトルチューンを聴いていると、あす目覚めたらカモメになって、悩みながらも空を飛んでいてもいいかなと思ってしまう。


手持ちの盤からアップした。「Return to Forever」


同 「What Game Shall We Play Today」



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カシオペア「Hearty Notes」



寒さもピークアウト。退勤時刻の夕方5時前後も随分明るくなった。少々心和む木曜の夜。リラックスモードにどうかと、こんな盤を取り出した。


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カシオペア初のアコースティックアルバム「Hearty Notes」。1994年リリース。この「Hearty Notes」そして「Anserws」「Asian_Deamer」と、カシオペアはこの年一年で三枚のアルバムを作った。80年代半ばをピークに徐々に下火になりつつあったフュージョンそしてカシオペアだったが、90年代初頭はまだ大ホールでのライヴも打ち、アルバムリリースも積極的だった。このアルバム収録時のメンバーは、野呂一生(g)、向谷実(p)、鳴瀬喜博(b)、熊谷徳明(ds)。野呂一生も向谷実もまだ三十代だった。ぼくが一周遅れでカシオペアを聴き出したのもこの頃だ。

収録された10曲すべてがアコースティック楽器(Eb除く)で演奏されている。野呂一生のギターはスチール弦のアコギ、あるいはナイロン弦のエレアコが使われている。いつもはエフェクタ全開のナルチョも、しっとりとしたベースラインで別人かと思う程だ。8曲のオリジナルに加え、すでに彼らの代表作として知られていた「Dazzring」「Magic Ray」がアコースティックヴァージョンで加えられている。夕暮れ時を思わせるジャケットデザインを眺めながら、アルバムタイトルそのままの心安らぐ42分を約束してくれる名盤だ。


この盤の音源。全10曲


この盤と同じメンバーによる「Dazzirng」アコースティック版@1993年



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Dimension「Third Dimension」



一月も下旬。今週前半はちょっと気の重い仕事が続いたが、何とか終了。月末に向けホッとひと息だ。移動の車中、そんな開放的気分も手伝って聴いていた曲で思い出し、帰宅後にこの盤を取り出した。


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インストゥルメンタルのフュージョンバンド:Dimensionの3枚目のアルバム。その名も「Third Dimension」。1994年録音。 Dimensionが結成されたのが1992年。80年代のフュージョンブームがすでに終息しつつあった時期にあたる。勝田一樹(sax)、増崎孝司(g)、小野塚晃(kb)が中心となり、青木智仁(b)、石川雅春(ds)らがサポートに加わった。80年代のカシオペヤやスクエアといった人気バンドもテクニカルなプレイを聴かせたが、売れっ子の常としてよりポピュラリティの強い楽曲が求められた面も否めない。Dimensionのメンバーはすでに80年代からポピュラーアーティストのバックやスタジオワークなどでその実力は折り紙付きの面々だったが、満を持して自分たちがやりたい音楽を目指した新しいバンドとしてDimensionを立ち上げた。

ぼくがインストゥルメンタルのフュージョンを聴き始めたのは、そのブームのピークがすでに終わっていた90年代に入ってから。カシオペヤやスクエアも一周遅れで聴いた。当時はまだインターネットは常用手段ではなくパソコン通信の時代。ニフティサーブのフュージョンのフォーラムに参加して情報を得ていたのを思い出す。Dimensionを知ったのもその頃だ。初めて手に取ったこのサードアルバムを聴いて文句なしにカッコいい音楽だを感じた。その後も新しいアルバムが出るたびに手に入れ、数枚が手元にある。テクニカルでありながらノリの良さがあり、アグレッシブながらキャッチ―なフレーズも出てくる。その辺りの塩梅が絶妙だった。仕事も多忙のピークだったその頃は毎夜残業で遅くなり、夜半近くなる帰途の車中でフルボリュームで聴いて憂さを晴らしていたのを思い出す。久しぶりに聴いてみたが、相変わらずカッコいい。同時に、熱っぽく聴いていたあの頃からすでに四半世紀も経つのかと唖然とする。


この盤の音源で「Lost in a Maze」 手持ちの盤からアップした。


同「Yellow Sunshine」


同「Fly into a Passion」



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中本マリ「アンフォゲッタブル」



月末納期の仕事も目途が立ち、休心。少し気をよくして帰宅した。さて12月半ばの週末金曜日。あすはこれといった用事もなく、今夜はリラックス。ついでにこんな盤を取り出した。


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中本マリのアルバム「アンフォゲッタブル」。
ぼくらの世代で思いつく70年代に活躍した日本の女性ジャズヴォーカルというと、笠井紀美子、伊藤君子そしてこの中本マリあたりだろうか。少し前の世代になるとマーサ三宅(古っ!)。もちろん江利チエミもペギー葉山もジャズシンガーのキャリアはあるし、美空ひばりのジャズスタンダードは中々のものだが、ここでは除外しておく。あるい80年代前半に元祖ネクタイ族のアイドルとして人気が出た阿川泰子や真利邑ケイ、秋本奈緒美の名前もあがってきそうだが、ぼくの感覚では、作られたアイドルとしては成功したのだろうが、およそジャズを歌える歌手という認識はない(そう言いつつ、写真のように手元に彼女らの盤があるのが、ちょいと恥ずかしい…)。中では中本マリはオーソドックスなジャズをドライブ感あふれる歌いっぷりで楽しませてくれた。「アンフォゲッタブル」は当時録音の良さでも知られたインディーズレーベルTBM(スリー・ブラインド・マイス)に録音した彼女のデビューアルバムだ。確か社会人になって給料日にはレコード屋へ行くことが楽しみであった頃に買った。

CEC製ベルトドライブプレーヤーST930のスイッチを入れてアイドリング回転させること10分。メカがひと通り温まり、回転も安定したところで、オルトフォンSPU-Gの針を静かに下ろす。わずかなサーフィスノイズに導かれ、大沢保朗のピアノが短い導入フレーズを奏でる。続いて中本マリのタイム・アフター・タイムが部屋にあふれる。あっと思わず声が出るほどいい音だ。久々に針を落としてみて、あらためて鮮度の高い音に驚いた。録音は1973年9月。当時彼女はまだ二十代後半だったはずだが、随分と落ち着いた声と歌いっぷりだ。上州弁ネイティブのぼくには英語の発音はよく分からないが、世評では当時から彼女の発音は折り紙付だった。音程は文句無くいいし、ロングトーンの後半でかかるヴィブラートも彼女の持ち味で、いい感じだ。バックを固めるメンバーも当時の腕利き揃い。ギター横内章次の名前が懐かしい。しかし、今風のやたらとドライブをかけてノリノリの勢いだけで押してしまう演奏にはなっていないところが70年代的だろうか。クラシックもジャズも時代の様式感は大切だ。あくまでスタンダードをスタンダードの様式で弾き、歌っている。過不足なく安心して聴け、楽しめる。


この盤の音源で全曲。


「Lullaby of Birdland」 80年代前半かと


「Night and Day」 羽田健太郎他とのセッション。90年代初頭の演奏かな



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小曽根真「The Trio」



師走最初の週末日曜日。撮りためたサッカーW杯、恒例早明ラグビー…久しぶりにテレビにかじりついて過ごす。リビングの椅子に腰かけたまま数時間。少々痛くなった腰をさすりながら気分転換。音盤棚を見回し、こんな盤を取り出した。


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小曽根真が自身のトリオ名義でリリースした最初のアルバム。1997年小曽根真36歳のときの録音。ベースに北川潔、ドラムスにクレランス・ベン。スペシャルゲストとしてギターのジョン・スコフィールドが3曲に参加している。かなり以前からジャズに留まらず、クラシック分野での演奏も話題の彼だが、この盤はそうした彼のキャリアが本格化し始める頃の録音。

何とも雰囲気のいい盤だ。スウィンギーな曲も絶妙のバランス感覚の上に展開される。つまり、ノリと勢いだけでガンガン行くような演奏ではなく、知的なコントロール下に置かれているとでも言えばいいだろうか。バラードプレイもしかりで、甘ったるい情緒だけで終わらない。そう感じながらライナーノーツを読んでいたら、このアルバムの録音あたっては各パートの楽譜をかなり周到に書いた経緯が記されていた。ジャズの楽譜というとテーマとコード進行だけがざっと書かれていて、あとはその場の事前の打合せでゴー!というケースが多い中、異例とも言える。もちろん彼ほどのプレイヤーであればそうした展開もお手の物だろうが、そんな丁寧な手仕事ぶりをうかがわせる一面が、彼のその後と多方面での活躍につながっているように感じる。


この盤の音源「Tea for Three」


同 ジョン・スコフィールドのギターも聴けるバラード「home」


小曽根真クラシックを語るの巻



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木住野佳子「fairy tale」



今週前半、関東地方は冷たい雨に見舞われ、当県上越国境の山々も冠雪。平野部も冷え込んだ。辺りの樹々も色付き始め、秋本番だ。久しぶりに快晴だったきょう週半ばの水曜日。手を焼いていた案件が一つ片付き、束の間の休心。ネクタイ、もといベルトを緩めて、さて今夜はジャズだ。


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木住野佳子(P)の実質的なデヴューソロアルバム。1995年NY録音。収録曲は以下の通り。

1.ビューティフル・ラヴ
2.フェアリー・テイル
3.ジ・アイランド
4.いつか王子様が
5.ファンカレロ
6.星影のステラ
7.オンリー・トラスト・ユア・ハート
8.誓い
9.ラフィット'82
10.ゴーン
11.ウィズ・ア・リトル・ソング

お馴染みを通り越し、またかの声も聞こえてきそうな選曲。しかしジャズに限っていえば素材の曲は決定的な要素ではなく、料理の仕方こそが命。名演あって名曲なしと言われるほど。それほどプレイヤー次第で曲は生まれ変わる。この盤に聴くスタンダードの数々は、決して意表を付くような変身を遂げているわけではないが、「ピアノにもルージュを」というアルバムコンセプトのもと、見事に統一された心地よさに満ちている。そういわれてあらためてアルバムを手に取ってみると、ジャケット写真はモノクロームを背景に「fairy tale」の文字だけが赤く染め抜かれている。

彼女は桐朋学園で正統派のクラシックを修める以前からあちこちのロックやフュージョンのバンドに出入りしてはセッションを重ねていたという。天性の耳と勘の良さでデビュー前から知る人ぞ知る存在であったようだ。そんな才気あふれる彼女がNYの腕利きジャズメンをバックにくつろいだプレイを聴かせてくれる。特にエディ・ゴメスとマーク・ジョンソンのベースが雄弁で、抜群の録音と相まって、良質のヘッドフォンで聴くと50Hzを下回る深く静かに伸びるベースの基音が楽しめる。スムースジャズというほどユルみ切っているところはなく、適度に緊張が高まるプレイもあって飽きることがない。久しく新譜を聴いていないが、最近の彼女はどんな風なのかしらん。


このアルバムの第1曲「ビューティフル・ラヴ」


同 「アイランド」


同 「フェアリー・テイル」


彼女のオリジナル曲「Nostalgia」 39秒ほどのイントロののち、都会的でジャジーなスローボッサが続く。



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プロフィール

マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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