先週記事にしたブルックナー第5交響曲。その後も通勤車中でブルックナーをあれこれ聴いていたが、きょうはあらためてその中の一枚を取り出した。 アントン・ブルックナー(1824-1896)の交響曲第7番ホ長調。90年代後半に出て評判となった通称ミスターS氏ことスタニスラフ・スクロヴァチェフスキ(1923-2017 )とザールブリュッヘン放響(現在の正式名称はザールブリュッケン・カイザースラウテルン・ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団…覚えられない!)による一連の録音の一つ。最終的には全集を完成させたが、手元には4番、5番、7番、8番がある。この第7番は1991年のライヴ録音。 こうしてじっくり聴くとやはり名曲そして素晴らしい演奏だ。マタチッチ、ヨッフム、ベイヌム、コンヴィチュニー、ワルター、カラヤン、ブロムシュテット他、手元にある第7番の名盤の中にあって十分に伍していける演奏だ。 ライヴ録音という制約はほとんど感じさせず、響きは美しく透明だ。各声部の動きもよくわかる。単純に演奏したらこんな風にはならないだろう。スコアをよく読み各パートのバランスを完璧に心得て、それをオケに徹底させている証拠だ。これをもって職人技というべきか。それでいて総体としての音楽はゆったり深く流れる。随所で聴かれる金管群のコラールなども遠近感がよく出たアンサンブル。ブルックナーがしばしば室内楽的といわれる側面を感じる演奏だ。 幼少期には神童と言われたスクロヴァチェフスキは60年代から活躍していたが、決してメジャーな存在ではなく、特に日本では90年代後半以降に知られる存在となり、N響や読響の指揮台にしばしば立つようになった。90歳を過ぎても飄々として指揮台に上がっていたが、6年前の2017年2月に93歳で亡くなった。 この盤の音源で全楽章。 お急ぎの方は、第1楽章の冒頭開始から5分50秒までと、第3楽章スケルツォ46分53秒から56分22秒だけでもどうぞ。VIDEO 2011年にBPOを振って絶賛されたときの演奏。当時87歳。ブルックナー第3番第4楽章スケルツォ。ほんのさわりだけ。VIDEO ■ にほんブログ村ランキングに参加中 ■ ■↓↓↓バナークリックにご協力を↓↓■にほんブログ村
きのうは立春。少し前からの寒波も峠を越した。日脚も伸びて、春の兆しも感じる。さて、週末日曜日。そんな春の訪れを音でも感じようと、この盤を取り出した。 リッカルド・ムーティの指揮するニューフィルハーモニア管弦楽団によるメンデルスゾーン(1809-1847)の交響曲第3番イ短調「スコットランド」。1975年録音。手元の盤は当時の国内初出盤。十数年程前に近所のリサイクルショップのジャンク箱から救済してきたもの。 リッカルド・ムーティ(1941-)の名を知ったのは、1975年にベームとウィーンフィルの来日に同行したときが初めてだった。多くの日本のクラシックファンにとっても、ベーム&ウィーンフィルをいう伝統の象徴のようなコンビに、よく知らないイタリア人の若造が付いて来て、やたらと張り切って指揮していた印象が残ったはずだ。一方でこの録音の少し前にはクレンペラーのあとを継いでニューフィルハーモニア管の首席指揮者(のちに音楽監督)になり、その後ムーティは予想以上に大成しメジャーオケを振って多くの録音を残した。この盤はそういう人気が出始めた頃の録音だ。この録音を聴くと、ムーティが万年青年然としたその風貌に似合わず、若い頃から曲によっては随分と落ち着いた演奏をしたいたことが分かる。 それだけ聴いてもこの曲の良さを堪能できる第1楽章の序奏は、この曲のベンチマークというべきペーター・マーク盤以上にじっくり構えたテンポで始まり、少々驚く。EMI録音の特性で、低音はしっかり入っているが強調感はなく、各声部はクリアかつしなやかで美しく響く。そして、この曲には珍しく提示部を繰り返している。トスカニーニ以来、イタリア人指揮者というと必ず、その徹底したカンタービレが代名詞のように言われる。実際このムーティ34歳のときの録音も、ヴァイオリンやチェロなど弦楽群がメロディーをとるときの歌いっぷりは中々だ。特に第3楽章のアダージョはことのほか美しく、真にアダージョらしく、かつ粘らず、おそらく手持ちの盤の中では白眉ではないだろうか。久々にこの盤を聴いてムーティのその後の人気ぶりを再認識した。 それにしてもムーティも今年82歳…こちらも歳を取るはずだ。 この録音の音源。第1楽章。VIDEO 同 第3楽章アダージョ。第1楽章がスコットランドの荒涼とした大地を思わせるものだとしたら、この緩徐楽章にはかすかな春の訪れを感じる。VIDEO ■ にほんブログ村ランキングに参加中 ■ ■↓↓↓バナークリックにご協力を↓↓■にほんブログ村
クラシック音楽に親しむようになってから半世紀。その間、最も多く聴いた交響曲はといえば間違いなくベートーヴェンだろう。貧乏学生時代に何とかやりくりして最初に集めたレコードはベートーヴェンの交響曲だった。しかし近年、ベートーヴェンの交響曲をあまり聴かなくなった。ハイドンやシューベルト、メンデルスゾーンあたりを聴く機会が多い。学生時代にあれほど聴いたブルックナーやマーラーを鳴らすことも少なくなった。そんなことを思いながら、さて週末金曜日。実は少し前から通勤車中で「英雄」を聴いていたこともあって、今夜は久々に懐かしい盤を取り出した。 ピエール・モントゥー(1875-1964)がアムステルダムコンセルトへボウ管を指揮した1962年の録音。手持ちの盤は70年代半ばに出ていたフィリップス系廉価盤レーベル:フォンタナの一枚。このジャケットを懐かしむ同年代の輩は多いだろう。ナポレオンのアルプス越えの雄姿もこの盤で目に焼き付いた。 学生時代に初めて「英雄」のレコードを買おうかと思い品定めをした際、リハーサル風景が収録されているという理由でこの盤を選んだ。もちろん廉価盤という条件は大前提だ。今にして思えば、結果的にいい盤を選んだなあと思う。久々に聴いてこの盤の素晴らしさにあらためて感服した。 第1楽章冒頭の二つの和音。コンサートで指揮者の棒を見ているときは、最初の和音に続いて二つ目の和音が鳴るタイミングは当然分かる。しかしレコードやCDで聴いていると、その二つ目の和音のタイミングがわからない。自分なりのテンポ感で聴いたときにピタリとくる演奏とそうでないものがある。久しぶりに聴いたこのモントゥー盤はそれがピタリときた。その二つの和音のあと、主題の提示は少し遅めのテンポかなあと思っていると、まもなくテンポが少し上がってきて、以降はいい感じのテンポになる。弦セクション、管セクションともにアクセントやスフォルツァンドの処理が実にスマートで、音楽が生き生きとよく流れる。全体を通して、しなやかによく歌う。当時のモントクーは最晩年の87歳だったが、まったく年齢を感じさせない。モントゥーは晩年までテンポが遅くならず、すべてが明快だったと聞くがが、この録音を聴くと納得する。 弦楽群は対向配置を取っていて、第2主題などは1stヴァイオリンから2ndヴァイオリン、そして木管群へと受け継がれていくのがよく分かる。これは配置と録音だけではなく、モントゥーとコンセルトヘボウの面々がそれぞれのパートの音量バランスやボウイングなど巧みにコントロールしているからに違いない。展開部の盛り上がりやコーダに向かう終結部でも各パートがよく分離し、力ずくの混濁感は皆無。それでいて迫力にも不足はない。 第2楽章も久々にじっくり聴くと感動的な楽章だ。終盤のフーガはジワジワと盛り上がり、そのピークを承知していながら、やはり鳥肌物だ。この盤に収録されているリハーサル風景は第2楽章のもので、冒頭の装飾音付の合わせにかなり時間を使っている。後半の楽章も相変わらずコンセルトヘボウの巧さに耳がいく。武骨さとは無縁で流麗に流れる音楽だが、あいまいなところがない。各パートの出入りや分離が明快だ。加えてテンポ感覚が実にいい。少なくてもぼくにはベストのタイミングで次から次へと音が出てくる。ごく自然体でスコアに忠実な演奏のようだが、細かなところまで配慮が行き届いている。 あらためてネットでこの盤についてサーチしてみると、ぼくの想像以上に評価が高く、あちこちで絶賛の嵐。一時期はCDが廃盤でプレミアムが付いたと聞いて驚いた。久々のモントゥーのエロイカ。けだし名演でありました。 この盤の全曲。 第1楽章終盤、例のトランペットは<ほぼ>原典通り。第2楽章のフーガは22分3秒から。右手から聴こえてくる2ndヴァイオリンから始まり、ティンパニを伴った低弦群の入り22分41秒で最初の身震い。ホルンの強奏23分9秒で2回目の身震い。ついで23分22秒ティンパニの一撃で更に身震い。そして23分39秒から緊張MAXだ。 YouTubeにはこの録音の音源がいくつかアップされているが、この音源が一番すっきりとしていて、ぼくには聴きやすい。VIDEO この盤に入っていた第2楽章リハーサルの音源。VIDEO 「英雄」の時代あれこれ。 人気の「厳選クラシックちゃんねる」VIDEO ■ にほんブログ村ランキングに参加中 ■ ■↓↓↓バナークリックにご協力を↓↓■にほんブログ村
三連休最後の月曜日。日中これといった用事もなく、アンプの灯を入れ五番しばりの音盤選び。冬の陽射しが差し込む道楽部屋で久しぶりにフルボリュームで聴こうと、この盤を取り出した。 クラウス・テンシュテット(1926-1998)がロンドンフィルと1984年に来日した際の大阪でのコンサートライヴ盤。この盤には1984年4月13日大阪フェスティバルホールでの演奏曲目、モーツァルト交響曲第35番ニ長調「ハフナー」とマーラー交響曲第5番嬰ハ短調の2曲がそのまま2枚のディスクに収められている。 冒頭のトランペットは音量・抑揚ともやや押さえた表現で始まる。そしてその後に続く異様ともいえるスローテンポの葬送マーチ。大声を張り上げることなく、しかし極度の緊張感が音楽を支配する。室内楽的に精緻なアンサンブルと各声部を丁寧に扱いながら、しかし緊張感ゆえの秘めたスケールが伝わってくる。第4楽章アダージェットも過度の感情移入は少なく、やや抑えた表情と弱音のコントロールが美しい。マーラーというととかくスケール感にばかりフォーカスされるが、少なくても第5交響曲については純器楽構成の伝統的な管弦楽として、丁寧に曲を運ぶことが大事だと気付かされる。 1984年はテンシュテットがロンドンフィルの音楽監督に就いた翌年にあたる。まだ病魔が表面化する前の来日記録でもある。手元にはスタジオセッションの彼のマーラー全集もあるが、それとは一線を画す緊張MAXの名演だ。 この盤の音源。VIDEO 同じコンビによる同曲第2楽章冒頭。1988年ライヴ@ロンドンフェスティバルホール。VIDEO ■ にほんブログ村ランキングに参加中 ■ ■↓↓↓バナークリックにご協力を↓↓■にほんブログ村
このところ聴いているアンチェル&チェコフィル。今夜はこの盤を取り出した。 カレル・アンチェルとチェコフィルによるブラームス交響曲第1番ハ短調。悲劇的序曲が一緒に収められている。これも十年ちょっと前にスプラフォン・ヴィンテージ・シリーズで出た廉価盤の中の一枚。1962から63年にかけての録音。 アンチェルを続けて聴き直して思うのだが、彼の基本的姿勢は音楽の骨格をしっかりとらえ、過度な贅肉は付けずにスッキリした造形で曲を進める。その典型は先日記事にした管弦楽名曲集などを聴くとよく分かる。一方で、ブラームスともなるとその基本路線にほどよいロマンティシズムがのる。もちろん贅肉は付かないのだが、音の密度が増し重量感が加わってくる。この盤の第1番も同様だ。 第1楽章の序奏から悠然としたテンポで曲は始まる。彼のイメージからするともう少し速いテンポを予想するが見事に裏切られ、重厚なドイツ本流の音楽が流れてくる。冒頭の序奏フレーズがティンパニーの52打目で終わると音楽は木管群に受け渡される。最初に出るオーボエ、続くフルート、いずれもしみじみとして味わい深い。主部に入ってもテンポは遅めで堂々たる歩む。しかも各パートの入りのアインザッツが明確で縦の線も遅れずにビシッと合っているため、緊張感が保持される。第2楽章ではチェコフィルの弦楽群が美しく歌う。終楽章も第1楽章と同様の印象だ。終楽章ではテンポこそ中庸だが、各楽器群の明確な描き分けもあって重戦車が団子状態で突き進むという、この曲にありがちな印象は皆無。キリッと引き締まった造形で進み、中盤からややテンポを上げて次第に高揚感を煽っていく。コーダに入って終わりまでの1分間はいつ聴いても昂る音楽だ。アンチェルとチェコフィルは緊張感を保ち続けて最後の和音が鳴らし切る。併録されている悲劇的序曲も素晴しい出来栄えだ。もちろんこの曲自体の素晴らしさに感動するが、ここでも各パートのフレーズが明確に描き出され、ブラームス流の古典回帰とロマンティシズムの融合が見事だ。 この盤の音源。ブラームス交響曲第1番ハ短調全楽章VIDEO 同 「悲劇的序曲」VIDEO ■ にほんブログ村ランキングに参加中 ■ ■↓↓↓バナークリックにご協力を↓↓■にほんブログ村
きょうは文化の日で休日。のんびり散らかった道楽部屋の片付け。ついでにアンプの灯を入れ、先回の続きでこんな盤を取り出した。 アンドレ・クリュイタンス(1905ー1967)が指揮したベルリンフィルハーモニーよるベートーヴェン交響曲第8番ヘ長調。1957~1960年にベルリン:グリューネヴァルト教会でセッション録音された全集中の一枚。手持ちの盤は2000年頃に廉価盤ボックスでリリースされたときのもの。今もミッドプライスCD一枚の価格で入手可能だ。先回の第2番同様、70年代にはEMIセラフィムシリーズの廉価盤で出ていたので、ぼくら世代にはお馴染みの録音。 録音当時、ベルリンフィルはすでにカラヤンをシェフに迎えていた時期だが、ベルリンフィルの名刺代わりとでもいうべきベートーヴェン交響曲全集初のステレオ盤を、カラヤンに先がけて任されたのが仏系クリュイタンスというのは意外中の意外だ。いろいろ裏事情があったのかもしれないが、クリュイタンスのベートーヴェンチクルスは当時大そうな人気を博していたというから、必然でもあったのだろう。クリュイタンスはどちらかと言えば仏系文化の色濃いベルギー生まれながら、家庭環境ほかドイツ色の強い中で育ったそうだ。そうした事情もあってドイツ物との相性も良かったのに違いない。同じような仏系指揮者であるモントゥーやミュンシュもベートーヴェンやブラームスで名演を残している。 さてこのベートーヴェン第8番。何といっても重量級のベルリンフィルの響きと、それを生かしたクリュイタンスの大らかでスケールの大きな解釈が素晴らしい。この曲の演奏では多くの場合編成を少し小さくするが、この演奏では今どき聴けないフル編成。そして50年代末期の、まだフルトヴェングラー時代のメンバーの多くが残っていたベルリンフィルの音色は重厚そのものだ。しかし、その重量感をもってゴリゴリやらないところがクリュイタンス。大編成で低重心のオケが、遅めのテンポにのってしなやかに歌う。他の曲ではもっとハードな演奏を繰り広げるのだが、この第8番は方向性が違う。第1楽章4分の3拍子はAllegro vivace e con brioの指定だが、クリュイタンスはやや遅めのテンポを取り、穏やかかつ典雅に響く。EMIによる録音は同時期の独グラモフォンに比べ響きが明るく、中高音の解像度も高い。弦楽群が左右いっぱいに広がり、木管群はやや遠めに定位する。 第8番はベートーヴェンの九つの交響曲にあって規模こそ大きくはないが、そこに仕組まれたギミックは周到かつ巧妙だ。第1楽章の明るく屈託のない第1主題とややコミカルな第2主題はいささか脳天気な展開を予感させるが、展開部は短調に転じて畳み掛けるように突き進み、短いながらも隙がない。このクリュイタンス盤は二つの主題がゆったりと奏され、それがゆえに対照的な短調の展開部が劇的に迫ってくる。ベートーヴェンのこの第1楽章の展開も天才的だが、クリュイタンスの解釈もそれをよく生かしていて素晴らしい。 この盤の音源。第1、第2楽章。 冒頭、序奏なしで明朗な第1主題が奏される。0分50秒:チャーミングな第2主題が出る(1分10秒まで)。その後1分35秒と1分48秒に印象的なヘミオラによる経過句。2分20秒:繰り返しにより冒頭へ(ソナタ形式提示部の繰り返し)。4分40秒から展開部へのブリッジ。4分56秒:この曲で初めての短調和声がチラっと出るが、すぐに否定される。5分12秒再び短調の和音を導入される。今度は長調に戻らず、そのまま5分30秒から展開部の核心へ。第1主題のリズム音形が短調で低弦群で奏される。4分の3拍子の第2拍目にアクセントを打ち込みながら、ベートーヴェンらしい展開が続く。6分00秒から執拗な繰り返しで緊張MAXへ。そのまま盛り上がって6分30秒に長調の第1主題へ高らかに回帰する。以降再現部へ。VIDEO この盤の音源。全楽章VIDEO 高関健指揮・群馬交響楽団による第1楽章。1995年ライヴ録音。手持ちの盤からアップした。VIDEO ■ にほんブログ村ランキングに参加中 ■ ■↓↓↓バナークリックにご協力を↓↓■にほんブログ村
月があたらまって令和四年霜月十一月。あれあれと思っているうちに、今年も残すところ二ヶ月となった。相変わらず業務そこそこ多忙。先月もヒヤヒヤもので何とか乗り切った。きょうも程々に仕事をし、夜7時からの町内自治会の会合に滑り込みセーフで出席。8時半を回った頃に帰宅した。アクセス数だだ下がりの本ブログ。めげずに今夜も更新。少し前に聴いたワルターのベートーヴェン で思い出し、そのうち聴こうと思っていたこの盤を取り出した。 アンドレ・クリュイタンス(1905-1967)とベルリンフィルによるベートーヴェンの交響曲第2番ニ長調。手元にはこのコンビによるCD盤全集もあるが、今夜は半世紀前の懐かしい盤を取り出した。アラカン世代以上にはお馴染みのEMI音源セラフィムシリーズシリーズ。このシリーズは70年代に何度かジャケットを変えてリリースされた。クリュイタンスとベルリンフィルのベートーヴェン、バルビローリとウィーンフィルのブラームスなど、魅力的なラインナップだった。惜しむらくは緑色のジャケットだけが廉価盤のチープさを物語っている。このコンビによるベートーヴェン交響曲全集は1957年から60年にかけてベルリンのグリューネヴァルト教会で録音された。当時グラモフォンがベルリン・イエスキリスト教会をしばしば使ったの対し、EMIはグリューネヴァルト教会でのセッションが多かったと聞く。 それにしてもこの盤で聴けるベルリンフィルの音は素晴らしい。弦楽群の分厚く重い響きはベートーヴェンに相応しく音楽のそこここにウェイトをのせてくれる。それでいてEMIの録音ポリシーもあってか、中高音のしなやかさも兼ね備えて美しく歌う。木管も金管もやや遠くに定位し、弦楽群とブレンドした響きが部屋に満ちる。ベルギー生まれのクリュイタンスは仏系指揮者ということになっているが、幼少期には父からドイツ語やゲルマン文化の薫陶を受けたという。この録音当時、クリュイタンスのベートーヴェンチクルスは大そうな人気であったというし、仏系指揮者としては初めてバイロイトにも登場している。そんなクリュイタンスがベルリンフィルをしなやかに歌わせ、ときに熱くドライブする。まだカラヤン色に染まる前のベルリンフィルは低弦群のアインザッツが遅め、かつ深く響く。この演奏がもし独グラモフォンでなされていたら、いささかもたれ気味の響きになっていたかもしれないが、EMIの録音はヴァイオリン群の中高域など、現代的視点でみると少々歪やざらつきがあるものの、総じてしなやかかつ解像度が高く、それが深い低弦群の響きにうまくのって素晴らしい響きを形成している。 この盤の音源。とりわけ美しい第2楽章は12分52秒から。VIDEO 高関健指揮群馬交響楽団による第2楽章。手持ちの盤からアップしたもの。VIDEO ■ にほんブログ村ランキングに参加中 ■ ■↓↓↓バナークリックにご協力を↓↓■にほんブログ村