ベーム&VPOのブラームス



気付けば十月も中旬に。このところ当地北関東の朝晩は涼しさと日中の暑さが同居。この時期らしく寒暖の差が大きい。何をするにもいい季節。しかし、何もかにもするわけにもいかず、相変わらずせっせと働き、ダラダラと弛緩する日々。ダラダラのお供は美酒と美女。もとい渋茶と音盤。 まあ、どの道、地味な人生だなあ…。と、ぶつくさ言いながら今夜もアンプの灯を入れつつ音盤棚をサーチ。こんな盤を取り出した。


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変り映えなくブラームス。ベーム&ウィーンフィルによる70年代半ばのセッション録音。手持ちのLP全集セットは、20年近く前に中古レコード店のバーゲンで手に入れた。今夜はこの中から第4番ホ短調を取り出して聴いている。

この録音前後から晩年まで、日本での人気が異常ともいえるほど過熱したベーム(1894-1981)だが、人気に反して、さすがに晩年は緊張度が緩むときもあった。私見では、この盤の録音直前75年3月の来日はよかったが、その後80年代初頭になるまで繰り返した来日演奏は、よい印象はなかった。この盤、そしてこの盤に先立つ70年代初頭の同じVPOとのベートーヴェンは、ちょうどその移行期ともいえる録音で評価が分かれる。確かに、出来のいい欧州でのライヴを当時のFMで何度も聴いた経験があるぼくなども、スタジオ録音のベームに物足りなさを感じたものだった。しかし、聴き手のこっちも歳を取ったせいか、何も熱っぽいばかりがいい演奏というわけでもない、というくらいの常識を理解できるようになったからだろうか、このベーム&VPOによるプラ4も味わい深く聴けるようになった。

同じウィーンフィルと近い年代に録音したバーンスタインの盤に比べると、オケの音がずっと引き締まっているが、あまりキリキリしたところはなく、ゆったりしかし素朴に響く。メロディーの歌い口はベームの見かけ同様にややぶっきら棒でさえある。ひと言でいえば硬派な、しかし過ぎないブラームス。ニコリともしないその風情にこちらの心情感覚もマッチしてきたのか、その素っ気なさがいい具合にシミてくるのだ。第1番はBPOとの初期ステレオ盤がベストだろうが、4番のこのVPOのしみじみ具合は中々捨てがたい。それでいて第2楽章などは、ウィーンフィルが自発的にというか、居ても立ってもいられず、ヴィブラートたっぷりに歌ってしまうところも微笑ましい。

実は少し前から音盤の整理を始めている。あてもなく随分と集めてしまった音盤だが、これから先、健康寿命を前提に音楽を聴ける期間を仮に20年と想定し、手に負える数だけを残して整理しようと考えている。残したところで大した価値もないし、身辺で引き継ぐ見込みもなさそうだ。いっそのこと、ふた回りくらい若い世代の愛好家に丸ごと譲ってしまおうかとも考える。そんなこともあって、少しずつ知人に譲ったり(押し売りしたり…)し始めている。 大好きなブラームスの交響曲もワルター、ケンペ、バルビローリ、セル、ヨッフム、ボールト、アンセルメ、チェリビダッケ、ヴァント、バーンスタイン、カラヤン、ベーム、スウィトナー、インバル…と全集盤があるが、最近はいろいろな演奏に触れたいという気持ちが失せてきたこともあって、1セットか2セットを残せば十分と考えている。そんな中、このベーム盤は万事中庸をいく表現から、残すべき1セットの筆頭にあるのだが、さて、どうしたものか…


この盤の音源。


1978年ザルツブルグでのライヴ。オケはVPO。スタジオ録音に比べると燃焼度三割アップという趣きの演奏だ。



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チェリビダッケのワグナー管弦楽曲集



早いもので九月も下旬。月末進行、上期末進行というわけでもないが、本日もせっせと業務に精励。今週は少々やっかいな案件をかかえていたが、それも蹴散らし(^^;、安堵の週末金曜日。ひと息ついて何日かぶりでアンプの灯を入れ、こんな盤を取り出した。


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チェリビダッケ&ミュンヘンフィルによるワグナーアルバム。ミュンヘンフィルの本拠地ミュンヘン・ガスタイクでの1993年ライヴ録音。収録曲は以下の通り。

 「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕前奏曲
 ジークフリート牧歌
 「神々の黄昏」よりジークフリートの葬送行進曲
 「タンホイザー」序曲

冒頭収録された拍手に続くマイスタージンガーから、巨大なスケール感と音響の透明性に圧倒される演奏だ。生前チェリビダッケはレコード録音を嫌っていたわけだが、その理由の一つが実演で繰り広げられる音響イメージ、特にホールの響きや副次的に発生する倍音の響きも含めた音響の広がりが録音では再現できないということだった。70年代の初来日で読響を指揮した際、オケのチューニングから各部のバランスまで徹底的に練習を重ねて団員がねを上げたというエピソードも、そうした彼の音楽哲学によるものだった。

このワグナーアルバムを聴くと、スケールの大きさというのは、音の大きさでも、アタックの強烈さでもないと納得する。マイスタージンガーしかりタンホイザーしかり。各声部のピュアな響きを確保し、それを重ねていくことで重層的かつ透明な響きを確立していくことでスケールの大きな音楽が目前に広がる。その一方で、ジークフリートの葬送行進曲では、そうした透明な響きに葬送の音楽という特殊性からだろうが、ときに音が割るほどの凄みも見せる。いずれもチェリビダッケの晩年の音楽美学が十全に繰り広げられる名演だ。


この盤のタンホイザー序曲。15分過ぎからのエンディングには圧倒される。このテンポと緊張感で演奏するには、オケに要求される体力と集中力も並大抵ではないだろう。


マイスタージンガー第一幕前奏曲。ミュンヘンフィルの本拠地ガスタイクのホール。80年代中庸の映像と思われる。晩年の演奏は、更にこの路線が徹底されている。



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セルのブラームス



秋の音楽といえば何だろう…ぼくの場合最初に思い浮かぶのはやはりブラームスだ。彼の故郷北ドイツの港町ハンブルグの街に枯葉が舞い、陽射しのない空に低く冷たい雲が垂れ込める。鬱々としたメロディー、歌い過ぎないロマンティシズム、渋さ極まる和声。嗚呼、ブラームス…(^^;


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…というわけで、枯葉舞う季節にはいささか気が早いのだが、秋の先取り。久々にこの盤を取り出した。 ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団によるブラームスの交響曲全集。数年前にCBSソニーからリマスタリングされて再発されたのを期に手に入れたもの。録音時期は1966~1967年。


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先ほどから第4番ホ短調を聴いている。
いきなり結論めいてナンだが、演奏はいずれも期待に違わず素晴らしい。まずテンポ設定がいい。「標準」といってもまったく個人的な感覚だが、その標準よりもわずかに遅めのテンポ設定。しかも大きなフレーズの切替ポイントでかなり大胆にテンポを落とすところもある。セルは19世紀的ロマンティシズムに根ざした演奏様式とは無縁というのが通説だが、こうして聴くとやはりその伝統を背負っていることを感じる。遅めのテンポだと全体としての響きが渾然一体となって重くなりがちだが、そこはさずがにセル。響きの透明度が高く、各パートの存在が手に取るように分かる。これこそがセルの真骨頂だろうか。もちろん録音の影響もあるが、そうした響きを目指して演奏し、録音技術陣もそれを最善の形で残そうとした結果だ。

セルのトレーニングを受けて鉄壁を誇ったクリーヴランド管弦楽団のアンサンブルも申し分ない。1stヴァイオリンがメロディーをとると、まるでひとすじの絹糸のようにメロディーが歌われる。そのメロディーをヴィオラとチェロが引き継ぐといったフレーズなど、こういうパート間の受渡しがあったのかとあらためて気付かされる。特に緩徐楽章での演奏にそうした美点が顕著に現れ、あらためてその美しさに心打たれた。管楽器の扱いは弦楽群とのバランスを取り調和を図っている一方で、ブラームスの曲でしばしば重要な役割を果たすホルンパートなどは、時にオッと思うほどの強奏を聴かせる。 周到に組立てられた展開、個々のフレーズの扱い、精緻かつ明晰な各パートの動き、そうしたもののベースの上に成り立つブラームスらしい音響と情緒の現れなど、秋色のブラームスにふさわしい名演だ。


第4番の第2楽章。4分10秒からの副主題の提示、そして9分10秒から同主題の再提示と盛り上がる展開はこの楽章この曲のもっとも素晴らしいフレーズの一つだ。



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アンセルメ&OSRのウェーバー



関東地方はきょうも不安定な天気。夜になってからかなり強い雨。昼間は気温も上昇して蒸し暑い一日だった。お盆も終わって八月も下旬。あっという間に年末だなあ…アッ、気が早すぎるか(^^; さて、週明け月曜日。可もなく不可もない一日が終了。エアコンONで部屋も涼しくなったところで音盤タイム。懲りずにアンセルメ盤の検分を継続。


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やはり気になるアンセルメのドイツ物。取り出したのは、カール・マリア・フォン・ウェーバーの作品を収めた一枚。アンセルメのボックスセット<その他欧州編>の中のDisk31。収録曲は以下の通り。

ウェーバー:『魔弾の射手』序曲
ウェーバー:『プレチオーザ』序曲
ウェーバー:『幽霊の支配者』序曲
ウェーバー:『オベロン』序曲
ウェーバー:『オイリアンテ』序曲
ウェーバー:『アブ・ハッサン』序曲
ウェーバー:祝典序曲
ウェーバー:ファゴット協奏曲ヘ長調 Op.75

ウェーバーはベートーヴェンとほぼ同時代を生きた作曲家。のちのワグナーにつながるドイツオペラの秀作を多く残したことで知られる。しかし、現代ではそのオペラの上演機会は少なく、もっぱらこの盤に収められたような序曲やクラリネット協奏曲などが取り上げられる。知名度の比して演奏機会の少ない作曲家の一人ではないかと思う。実際、ぼくの手元にあるウェーバーの盤も序曲集とクラリネット協奏曲だけだ。しかし、その序曲群が実にいい!取り分け「オベロン序曲」は独墺系管弦楽作品の中でも最も好んで聴く曲の一つだ。ウェーバーならではのホルンを伴った序奏の開始。弦楽群が歌う美しいモチーフ。序奏が消え入るように終わろうとするときの突然のトゥッティ。そして急速な主部へ。いかにも劇的で心沸き立つ展開だ。主部は古典様式そのもののソナタ形式。明確な二つの主題と短いながらも息をもつかせぬ展開部はいつ聴いても感動する。

アンセルメとスイスロマンド管によるこの録音はいずれの曲も古典的造形と速めのテンポ設定。いつもながらの明瞭なパートバランスもあって、スッキリとした印象だ。もっとゴツゴツした肌合いを好む向きには少々軽量級かもしれないが、こうして自宅のオーディオセットで聴いている限り、ぼく自身はまったく不足感はなく、充実した響き。アンセルメのドイツ物を色眼鏡でみるのはもう止めるべきだと感じる。

この盤には当時のOSR首席バスーン奏者アンリ・エレールによるウェーバーのバスーン協奏曲も入っている。こちらも古典的な作風に加えて、初期ロマン派らしい息吹も感じる佳曲。今日バスーン(ファゴット)協奏曲というとモーツァルトかこのウェーバーの二択になるのだろうが、モーツァルトに劣らずバスーンの魅力を伝えてくれる。


アンセルメ&OSRによる<オベロン序曲>。残念ながらこの音源の音質はオリジナルCDに遠く及ばない。


この盤のバスーン協奏曲の第1楽章。


OSRを並んでスイスを代表するオーケストラ:チューリッヒ・トーンハレでバスーン首席奏者を務めるマティアス・ラッツによるバスーン協奏曲の演奏。バックはシモン・ボリヴァル管。



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アンセルメのブラームス



きょうは昨日ほどではない程々の暑さながら湿度高く、仕事の帰途、いつも以上の疲労感でなんだかヘロヘロ。帰宅後、ぬるめの湯につかってようやくひと息ついた。幸い明日から三連休。少々散らかっていた部屋の片付けをしたところで音盤タイム。引き続きアンセルメ&OSR盤の検分。


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本命フランス編・ロシア編も気になるが、今夜もまた<その他欧州編>のボックスを開けた。先日の記事でベートーヴェンの第1・第3について書いたが、すでにベートーヴェンは半分ほど聴き終えた。さて、次には何を…と考え、独墺系の山をひと通り見渡そうかと、ブラームスを聴くことにした。このセットに収められているブラームスは以下の4枚。

Disc10
ブラームス:交響曲第1番ハ短調 Op.68
ブラームス:交響曲第3番ヘ長調 Op.90
Disc11
ブラームス:交響曲第2番ニ長調 Op.73
ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲 Op.56a
ブラームス:悲劇的序曲 Op.81
Disc12
ブラームス:交響曲第4番ホ短調 Op.98
ブラームス:大学祝典序曲 Op.80
ブラームス:悲歌 Op.82
ブラームス:アルト・ラプソディ Op.53
 ヘレン・ワッツ(コントラルト)
 スイス・ロマンド放送合唱団・ローザンヌ・プロ・アルテ合唱団
Disc13
ブラームス:ドイツ・レクィエム Op.45
 アグネス・ギーベル(ソプラノ)
 ヘルマン・プライ(バリトン)
 スイス・ロマンド放送合唱団・ローザンヌ・プロ・アルテ合唱団

交響曲・序曲は1963年9月、声楽入りの3曲は1965年10月の録音。今夜はこのうちDisk10をプレイヤーにセットした。

アンセルメ&スイスロマンド管というと必ず引き合いに出されるのが、このコンビ唯一の来日となった1968年の公演。それまでレコードでその素晴らしい音楽に触れていた愛好家が、実際のコンサートで聴いたこのコンビにいささかがっかりしとという逸話だ。いわく、あれは録音マジックだったのか、いわく、学生オケ並み…ある音楽評論がそんなネガティブな論評をしたとされ、今日まで言い伝えられている。また、彼らの本命はフランス・ロシアの色彩的な管弦楽曲であり、独墺系の曲には相応しくないとの声も、その後長く続いた。一方で90年代になってこのコンビのベートーヴェンやブラームスがCDリリースされた際、予想以上の関心を集め、実際のセールスも好調だったと、ものの本に記されている。もっとも、ここでまたこんな話を書くから、また引き継がれるのかもしれないが…

あまり愉快ではないそんな話を思い起こしながらのブラームス第1…
ラックスマンL-570のボリュームノブを11時頃に合わせ、CDプレイヤーD-500のプレイボタンを押す。冒頭のトゥッティに身構えていると、予想を上回る量感のオケサウンドが押し寄せて、思わず声を上げそうになった。テンポは中庸ないしやや遅め。ほとんど緩急を付けずにインテンポで進む序奏。これまで聴いたベートーヴェンより幾分くすんだ響きで、おそらく管楽群の響きを抑え気味にコントロールしているのだろう。それにしても量感豊かで堂々した開始に驚いた。主部に入っても、テンポをほとんど動かさない。強弱のディナーミクもあまり変化がない(そもそも、この曲のスコアをみると、慣習的演奏のテンポやディナーミクを変えている箇所で、実際は楽譜に何の指示もないことが多い)。 そして、ところどころでソロをとる木管群がややひなびた音で響く。へートーヴェンやハイドンでは、パッと飛びぬけるようなソロの音色だったものが、このブラームスでは明らかに異なる。

総じて、演出臭さがまったくなく、練習初日、ひとまず通してみようか、というときの感じに近い。もちろんアンセルメの指示や注文があり、リハーサルを経てのセッション録音だと思うが、それほどガチガチに細部まで決め、周到にチェックをし、という演奏には思えない。録音の日付まで確認できないのだが、おらそらく英デッカの注文もあって、せっせと録音を重ねていた頃のこのコンビの姿を反映しているように感じる。それをもって、細部の詰めの甘さ(細部のアンサンブルや木管群の音程など)を指摘することも出来るだろうが、それより、このコンビの素の姿がそのまま出た、のびのびした曲の運びを良しとしたい。第2楽章は弦楽群がよく歌うが、抑制が効いていて持ち味の明るさと軽快さがアダにならないよう配慮しているかのようだ。第3楽章もよくある演奏にように速めのテンポでせわしなく動くことなく牧歌的。終楽章はそれまでの楽章と少し異なり、テンポ・ディナーミクともに動きが見られる。弦楽群も木管やホルンも音に明るさを増してのびのびと歌い、堂々としたコーダに向かって勝利を謳歌する。

数学者だったアンセルメ。音楽への思い断ち難く、指揮者に転じるべく助言を求めたのはベルリンのニキシュとワインガルトナー。最初のコンサートはベートーヴェンプロ。アンセルメ=フランス物という図式はいささか作られたイメージの側面も否定できない。


この盤の音源。交響曲第1番ハ短調の全曲。


同。悲劇的序曲。



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アンセルメのパリ・セット



台風一過で夏空広がる関東地方。梅雨明け以降、はっきりしない天気が続いていたが、少々遅れて夏本番到来。明日の予報は久々の猛暑日。まあ、でも程々に願いたい。さて、先週届いたアンセルメボックス。本命のフランス音楽集・ロシア音楽集を差し置いて、もっぱらその他欧州編<The Great European Tradition>を引き続き検分中。今夜はその中からこの盤を取り出した。


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ハイドンの交響曲を中心にした3枚。収録曲は以下の通り。
Disc15
ハイドン:交響曲第82番ハ長調『熊』
ハイドン:交響曲第83番ト短調『雌鶏』
ハイドン:交響曲第84番変ホ長調
Disc16
ハイドン:交響曲第85番変ロ長調『王妃』
ハイドン:交響曲第86番ニ長調
ハイドン:交響曲第87番イ長調
Disc17
ハイドン:交響曲第22番変ホ長調『哲学者』
ハイドン:交響曲第90番ハ長調
ハイドン:トランペット協奏曲変ホ長調 Hob.VIIe-1
 パオロ・ロンジノッティ(トランペット)
フンメル:トランペット協奏曲変ホ長調
 ミシェル・クヴィット(トランペット)

いわゆるパリ・セットと称される第82番から87番の交響曲が並ぶ。のちの傑作ロンドン・セット(ザロモン・セット)に比べると、幾分小規模ではあるが、いずれもハイドンの熟練の技が光り、標題が付された第82番ハ長調「熊」と第84番ト短調「めんどり」を含め、聴き応えのある曲が並ぶ。1957~1968年、いずれもスイスロマンド管本拠地ジュネーヴ・ヴィクトリアホール(写真右)でのセッション録音(交響曲は1965年)。きょうはこのうちDisk15をプレイヤーにセットした。

アンセルメのハイドン?…と色眼鏡で見る向きもあるかもしれないが、どっこい、これが立派なハイドン。スイスロマンドの明るく聞達な弦楽群と個性際立つ管楽群、60年代に入りステレオ収録技術に一段と磨きのかかった英デッカの録音。そしてそうした素材を素直かつ堂々と引っ張るアンセルメの棒。期待をはるかに上回る快演だ。
第82番「熊」は第1楽章冒頭から量感豊かに響く弦楽群と、その合間をぬって楚々としたフレーズを奏でる木管群とが、曲に明快なコントラスト与える。堂々としているが大げさにならず、チャーミングな表情もあって音楽が単調にならない。この演奏のあと、定評のある大指揮者と名門オケの演奏を聴いたが、すべてが曖昧模糊とし、早々にストップボタンと押してしまった。第2楽章もAllegrettoの指示通り。歌い過ぎず、もたれることなく進む。第3楽章のメヌエットは恰幅のいいグランドスタイル。続く第4楽章とのコントラストも明快となる。序奏なしの劇的なト短調フレーズで始まる第83番「めんどり」もハイドン交響曲の傑作の一つだろう。ここでもスイスロマンドの明快な響きが際立つ。また他の曲同様、弦楽群と管楽群とのコントラストが際立っていて、ハイドンはこれほど色彩的であったかと、感じ入ってしまうほどだ。

近年ハイドンの交響曲は人気で、その理由はピリオドスタイルによる復興という側面もあるだろうが、それ以上にやはり曲自体がいいからだろう。100曲以上を数える曲のいずれもが職人的な技法でそつなく書かれている。ぼく自身の嗜好もあるだろうが、モーツァルトの初期交響曲はほとんど聴くことがなくても、ハイドンはいずれも捨て難い。アンセルメのハイドンは今回のボックスセット以外に単独でも出ている様子。ロンドン・セットのあとに何かハイドンを聴こうかと考えている輩には、パリ・セットを、そしてアンセルメ盤をファーストチョイスとして推してもよいかなと思う。


この盤の音源で第82番ハ長調「熊」


第83番ト短調「めんどり」の第1楽章展開部の途中まで。LP音源。



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アンセルメのベートーヴェン第1・第3



八月になった。関東地方は相変わらずじめじめとした梅雨のような天気。盛夏には程遠し。きのうもきょうも気温は30℃を下回った。もっとも湿度はMAX。少し動くと汗だくになる。 さて、相変わらずの毎日ながら、本日も程々に業務遂行。七時ちょうどに帰宅した。ひと息ついて、数日ぶりに音盤タイム。前回の記事に書いたアンセルメのセットの検分を進めようと、この盤を取り出した。


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三つのボックスセットのうち<The Grat European Tradition>と名付けられたセット。フランス音楽集、ロシア音楽集はその名の通りのセットだが、この<The Grat European Tradition>はさしずめ<その他欧州編>とでもいうべきもの。バッハ、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームス等の独墺系の他、ファリャやアルベニスといったスペイン物や、レスピーギ、ロッシーニ、ショパン、シベリウス等を含む。今夜はその中から、このセットを手にしようと思ったきっかけの一つとなったベートーヴェンの交響曲集から第1番と第3番が入ったディスクを取り出した。第1番が1963年、第3番が1960年の録音。

フランス、ロシア物のスペシャリストというイメージが強いアンセルメとその手兵スイスロマンド管(OSR)だが、ドイツ物もいくつかの注目すべき録音を残している。ベートーヴェンとブラームスの交響曲全曲と序曲等はその代表。特にブラームスはアルトラプソディーとドイツレクイエムも残している。ベートーヴェン、ブラームス共、以前から様々な評価がある録音で、ぼくも少し前からYOUTUBEで聴いて興味をもっていたもの。今回ようやく正規の音盤で聴くことが出来た。

立派なベートーヴェン!それが最初の印象だ。
第1番ハ長調の第1楽章。下属調の属7和音で始まるという意表つく開始(ギター弾きっぽくコードネームで書くとC7⇒F⇒G7⇒Am⇒D7⇒G)に続く序奏は、実に悠然としたテンポで進む。やや薄めのテクスチャながら明朗な弦楽群、輝かしい木管群の調和。英デッカ自慢のクリアな録音とも相まって、重苦しくはないが堂々とした響き。アンセルメ&OSRへの好意的世評の多くに同様の記載がみられる。OSRの弦編成が具体的にどの程度であったか寡聞にして知らないが、録音セッションンでは12型程度であったものと推測する。それゆえに管楽器群の響きが優勢で、60年代初頭の演奏にも関わらず、何やら昨今のピリオドオケ風のバランスに聴こえるほどだ。響きは全体に軽めだが、録音はコントラバス基音の最低域までしっかり収められており、過不足ない。第2楽章は爽やかによく歌い、第3楽章はメヌエットの指定ながらスケルツォ的に快速調の演奏がほとんどの中、このコンビはよりメヌエットらしい優雅さを残していて珍しい。

第3番変ホ長調<英雄>も出だしの和音からして明朗で開放的な響き。第1楽章展開部に入ると、木管群と弦楽群のやり取りが、明快なコントラストによって見事に描き分けられる。通常なら弦も管もマスの響きで押してしまいがちだが、この演奏は豊富な色彩感とコントラストで進む。第2楽章葬送行進曲の中間部、フーガとなる箇所では通常テンポを落としてじわじわと盛り上げていく演奏が多いが、アンセルメはここでテンポをわずかに上げるという手法を採り、さらにその終盤ではトランペットの強奏が、まるで最後の審判を告げるかのように延々と鳴り続けて驚いた。

このコンビに対するネガティブな評価として、アンサンブル(縦の線の合い具合)や管楽器群の音程に対するコメントをよく見かける。確かに重箱の隅をつつくように耳をそばだてればそうした指摘も可能だろう。しかし今から半世紀以上前にこれだけコントラストが明瞭で、各パートの役割の面白さを実感できる演奏を実現していたことをもって、そうした指摘は十分帳消しに出来ると感じるのだがどうだろう。


この盤の音源で第1番ハ長調の全楽章。第1楽章提示部は繰り返し有り。


同じく第3番変ホ長調<英雄>の全楽章。第2楽章フーガは21分48秒から。そのあと23分55秒過ぎからも注目。トランペットの強奏に驚かないように!



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プロフィール

マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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