ラグビー早明戦 宿沢広朗


12月第1週の日曜日午後2時。ぼくはテレビの前に陣取り、チャンネルをNHK総合に合わせる。毎年この日この時間に関東大学ラグビー対抗戦の早稲田対明治の試合が行なわれる。もう何十年も続く年中行事だ。野球は早慶戦だが、ラグビーは何と言っても早明戦だ。今シーズンは全勝明治に対し早稲田と慶応が1敗で続き、きょうの早明戦の結果次第で優勝がどこに行くか混沌としている状態だった。試合が行われる午後2時から夕方まで外出していたため、録画しておいた試合をさきほど観た。結果は明治有利の事前の予想とは異なり、早稲田の快勝。早稲田の鋭い出足のディフェンスに明治が攻めあぐねた格好だ。ヨッシャー、早稲田勝利!そう、ぼくは早稲田ファンなのだ。

実はぼくは高校時代ラグビーをやっていた。今は当時の面影皆無の鈍重極まりない体形になり、誰も信じてくれない。1970年の夏、県内の高校生を集めて在京の大学ラグビー部のメンバーが指導するというイベントあって参加した。その中に早稲田のスクラムハーフ宿沢広朗がいた。のちに早稲田の監督、全日本の監督も務めることになる名ハーフバックだ。彼が出すパスを受ける練習になって、いつも通りの距離感でポジションを取ると、もっと離れろという。彼がいいというまで離れたら、それの距離は普段ぼく達が練習している距離の倍ほどになった。えっ、と思いながらも練習が始まると、彼はその長い距離から素晴らしくコントロールされたロングパスを送ってきた。あぁこれが早稲田宿沢のパスかと驚き、そして納得した。そのとき以来ぼくは早稲田ファンになったのだ。


朝日文庫「早稲田ラグビー」(1987年刊)  全日本のユニフォームを着た宿沢


受験期を迎え、志望校に早稲田と書きたかったのだが、理系志望にも関わらず、数学と物理が苦手だったぼくには、受験科目数が少ない私立理系はマッチしなかった。結局文系科目の多い地方国立大学工学部に滑り込むことになり、以来早稲田は「心の母校」となった。国立競技場でガールフレンドと早明ラグビーを観戦し、早稲田の勝利に酔いながら神宮の銀杏並木を歩くというのがぼくの夢だった。

夢は実現せず、ギターや音楽に夢中になってインドア志向になるに従い、スポーツとは縁遠くなった。しかしラグビー観戦、とりわけ12月第1週日曜の早明ラグビーだけは特別なイベントとなり、テレビの前で「心の母校」早稲田を応援することになる。以前は下馬評で「重戦車フォワードの明治が優勢、軽量の早稲田はタックルと展開で活路を見出せるか」といった早稲田劣勢の報道が常で、その報道通り、早稲田が明治のスクラムに苦しみながら捨て身のタックルと一瞬の隙をつく展開で辛勝するパターンが多かった。その後何世代かが代わり、早稲田のフォワードも強力になった。またルール変更もあって、以前と比べるとスピーディーな展開のスポーツになった。反面、背番号が見えなくなるほど汚れたユニフォームでスクラムやラックで長時間に渡ってぶつかり、押し合う重量感、悲壮感は少し薄れたように感じる。

40年前、早稲田がぼくの「心の母校」になるきっかけと作った宿沢広朗。埼玉県内の進学校である熊谷高校卒業の彼は成績も優秀で、早大政経学部を卒業後住友銀行に入行。仕事面でも成果を重ね専務役員となり、次期社長候補とも言われた。しかし2006年6月、当地群馬県の赤城山を登山中に心筋梗塞に襲われ、帰らぬ人となってしまった。毎年この時期になると早明ラグビーにエキサイトし、心の母校早稲田を想って青春回顧してきたが、ここ数年は宿沢氏のことを思い出す日にもなっている。

◇1987年雪の早明戦◇
YouTubeで検索すると沢山の早明ラグビーの動画があった。さすがに宿沢氏の現役時代の姿は見られなかったが、1987年伝説の「雪の早明戦」ロスタイムの攻防があったので貼っておこう。宿沢の再来とも言われた小柄なスクラムハーフ堀越、のちに早稲田やサントリーの監督を務める清宮、現・明大監督の吉田らの姿が観られる。10対7でリードされていた明治はゴール前のペナルティでもキックでゴールを狙わず徹底したフォワード戦に挑む。早稲田の必死のディフェンスそして勝利。今も記憶に残る素晴らしい試合だった。



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マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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