弦の張替え


一部地域で豪雨。当地群馬は集中豪雨こそないが、このところ連日雷雨に見舞われている。上州名物かかあ天下と空っ風というが、雷もまた名物の一つだ。初夏から夏を通じて、よく夕立が発生する。ひと雨あったあとは、気温が下がり過ごしやすくなるはずだし、子供の時分の記憶では確かにそうだったが、昨今は夕立のあと、かえって湿度が上がって蒸し暑く感じる。温暖化による変化か、こちらの身体感度の変化か。さて昨日の記事に対していくつかのコメントやメールをいただき、感謝。今回は公開せずに個別に返信いたしたく…


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数日前の夜、所在無くボーッとしている時間を使ってギターの弦を交換した。ギターをはじめ弦楽器の弦は消耗品の一つであると同時に、楽器から出る音を決める重要な要素でもあって、その選択は悩ましくも楽しい。ヴァイオリン族の弦と違って、主として化学繊維で出来ているクラシックギターの弦は価格も安く、専門店の通販を利用すれば大体1セットが千円程度で買える。最近は新素材を標榜したもの、かつてのガット弦を模した素材のものなど選択肢も広がりつつあり、手元にも写真の通り何種類かの買い置きがある。
今回はメインの田邊雅啓作のギターに、イタリアの弦メーカー;アクイーラ社が出している『アルケミア』という、ガット弦の音色を追及したものを選らんでみた。素材はナイロンを基本にしているようだが、ガット弦を模していることから『ナイルガット』という商標が付されている。
高音弦は通常の透明なナイロン弦と違って白色で、少しざらついた手触りがある。低音弦は同じくナイルガット素材のフィラメントに純銀の巻き線が施してある。純銀素材のため表面が酸化して所々少し黒ずんでいる。巻き線はかなり細く左手によるノイズも少なく感じる。張ってから二晩ほどおいて落ち着いたところで音を確かめてみた。
少し古い時代の音を追及した製品とのことで音量感が控えめかと思っていたが、そんなことはなく、音は全域でよく鳴っている。低音は一般の弦とさほど印象は変わらないが、高音弦はかなり特徴的な音色だ。ガット弦のイメージからは、音のエッジが落ちた少々寝ぼけた音を想像していたが、田邊ギターに張った限りでまったく正反対で、音の立ち上がりが速く、反応がすこぶる良い。といってカーボンファイバ弦のように金属的な音ではなく、少し鼻づまり気味のくすんだ表情があって、このあたりがガット弦を模したというナイルガット素材の個性のようだ。きのう、きょうとこの弦を張った状態でバロック、古典、ロマン派、近代以降といろいろ弾いてみた。やはり19世紀のロマン派までの作品と相性がいいように感じた。近代以降の作品で少し厚化粧の音楽を目指そうとすると、いささか淡白に過ぎる印象だ。このアクイーラ社の弦は10年ほど前に発売され、一般のナイロン弦と比べて数倍する値段と共に話題になった。もちろん楽器との相性次第ではあるが、弦の音色を楽しみたいというときは試してみる価値があるだろう。

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Not マイ・ギター <その2> ホセ・ラミレス2世 1935年作


先日の記事で紹介したスウェーデン・リュートに続き、きょうはスペインギターの伝統を背負って立つ、ホセラミレス工房の二代目、ホセ・ラミレス2世のギターを紹介したい。これも旧友Y所有のもので、しばらく前から借りてポロポロと弾いている。

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ラミレスについてぼくが改めて紹介する必要もないだろう。スペイン、中でもマドリッド派と称する系譜の中心を引き継ぐ家系であり工房である。特にラミレス3世になった1960年代以降、伝統的な製作手法に様々革新的試みを加えて、コンサート使用に耐えるギターの量産化に成功した。その結果、それまでとは比較にならない数量のギターを作り、世界中に広めた。ぼくもその時代の典型的なラミレスを昨年手に入れ、その音を楽しんでいる。きょう紹介するのは、その3世の先代、ホセ・ラミレス2世のギターだ。

ラベルには製作年1935年とある。戦前日本に数台のラミレス2世が初めて輸入されたと記録にあるのだが、そのうちの1本と思われる。弦長は655mm。表板はスプルース。横・裏板はウォールナットだろうか。手にして最初の印象が『軽い』。音は反応がよく澄んだ高音と、楽器全体が鳴り響くような低いウルフトーンを伴った低音がよくマッチングしている。そして年月を経た楽器のみが持つ、独特の深みと無理のない鳴り方が素晴らしい。軽く作られ、軽やかに音が立ち上がり、楽器全体が自然に鳴る…こうした音の傾向は、サントスをはじめ、古い時代のスペイン名器が持つ特徴だろう。どんな曲を弾いても力まずに弾け、簡単なエチュードと弾いていも、音色の妙で楽しませてくれる。このラミレス2世を弾いたあと、息子の3世時代のラミレスと手に取ると、これが同じギターかと思うほど、まったく異なる印象を受ける。こういう楽器を一度弾くと、今の時代の新しい、しかも新品の楽器に魅力を感じなくなってしまう。ヴァイオリンの名器は300年を経た今をピークに鳴っているが、ギターもやはり年月を積み重ね、40年以上を経過する頃から、材料が程よく枯れて、反応がよくかつ深みのある音が出てくるように感じる。こんな楽器を1本、手元に置きたいものだ。


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Not マイ・ギター <その1> スウェーデン・リュート アルフレッド・ブルック1933年作

きょう日曜日、来週の川越でのイベントに備えて、旧友Y氏と二重奏の練習を予定していたのだが、Y氏が風邪でダウン。大事と取って練習は取りやめにした。初見で合わせて曲を決めてから、まだ1度しか合わせていない。本番までにもう1回は合わせたいところだ。来週のどこかで夜、時間を作って何とかしようかということになった。
さて、きょうはその旧友Yからしばし借りている楽器の中から少々珍しい楽器を紹介する。写真の楽器がそれだ。


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Swedish Lute;スウェーデン・リュートで通じるらしい。スウェーデンに伝統的に普及した楽器のようで、形はルネサンスやバロック期のヨーロッパで広まったリュートのようでもあり、シターンやイングリッシュギターのようでもある。この楽器は旧友Y氏がebayのオークションでスウェーデンの持ち主から入手した由。ラベルにはアルフレッド・ブルックという名が入っていて、ネットで調べると、20世紀初頭のスウェーデンでは、ひとかどの製作家であったようだ。製作年は1933年とある。6本の弦はリュートと違ってすべて単弦で、2本のバス弦を持っている。リュートのような軽い材質ではなく、横・裏板ともしっかりした作りで、ずっしりと重い。つまりこの楽器はヨーロッパの伝統的なリュートの亜流というよりは、シターンの流れを汲み、スウェーデンで独自の発展を遂げた楽器のようだ。多分、伝統的な宮廷楽器としてのリュートではなく、市井の人々や吟遊詩人がかなで、あるいは歌の伴奏に使ったのだろう。この楽器の延長として、スウェーデンのギタリスト;ヨラン・セルシェルの11弦ギターがあると考えると、すべて合点がいく。

音は、リュート風の高音と、かなりしっかりした低音が合体した感じで、試しにバッハの組曲などをポロポロと弾いてみたが、透明感のある音色と、しっかり作られた胴の響きや余韻など、独自の雰囲気がある。北欧の静かな気配、張り詰めた空気感、それでいってアットホームな雰囲気、そんなイメージが浮かんでくる楽器だ。ネットに以下の演奏サンプルがあったので聴いてみていただきたい。


■英国のギター修理製作家のサイト。修理で扱ったスウェーデン・リュートの記載と演奏動画がある。ここに出ている楽器は、図らずも同じアルフレッド・ブルック作の楽器だ。
http://www.guitarrepairsuk.com/swedish_lute.htm

Swedish Lute from The Kings Of Lounge on Vimeo.




■YouTubeでSwedishLuteで検索したところ出てきたもの。





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マイ・ギター <その6> ジェローム・チボヴィーユ・ラミー 1900年頃


きょうも朝から真夏の陽射し全開。午前中わずかな時間だったが、家の周りの草取りをしたら、とんでもなく大汗をかいてしまった。シャワーを浴びて冷たいものを飲んで一服。まあ、これも夏の風情でしょうかね。
さて、きょうは久々にギターネタを・・・
19世紀時代に使われたギターのレプリカについては、以前記事に書いた。故水原洋氏作のレプリカはよく出来ていて、古典期のギターはこんな風だったのかと楽しませてくれた。一方で、次第に当時のオリジナル楽器も手にしたいとも思うようになり、物色していたのだが、さる五月の連休にふとしたことで19世紀末のオリジナル楽器を入手することになった。


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フランスはミルクールに当時あった、Jerome Thibouville-Lamy社(通称ラミー)のギターだ。ミルクールは、イタリアのクレモナ、旧西独のミッテンヴァルト、旧東独のマルクノイキルヒェンと並ぶ、フランスの弦楽器の生産地だ。J.T.Lamy社は当時弦楽器を中心に様々な楽器を生産販売していた一大メーカー。現代のヤマハのような会社と思えばいいだろう。今でも同社の弓や弦楽器備品類はオールドフレンチの入門用として人気があるようだ。最近J.T.Lamy社の当時カタログをネットで見つけた。それによるとぼくが入手したこのタイプは、1902年のカタログにリストされている。同社の工場は1960年代後半にはほとんど閉鎖されたが、現在もロンドンに営業拠点があり、楽器ケースやアクセサリー等を販売しているらしい。

このギターはイギリス向けに輸出されたもののようで、リヴァプールの楽器商社アーチャー商会のラベルも残っている。楽器としては状態がよく、入手してからフレットのバリ取りとナットの作り直しをしたが、その他の不具合はなく、そのまま実戦使用可能な楽器だ。表板は上質なスプルース、横・裏板は美しいバーズアイメープル。黒檀ノブをあしらったオリジナルの糸巻きは精度もよく、チューニングも極めてスムースだ。ロゼッタには美しい螺鈿が施されている。
購入当初いささか鳴りが渋く、これは買い物を間違えたかと思ったのだが、その後時間をみてはポロポロ弾いていたところ、長い眠りから目覚め出したのか、よく鳴るようになってきた。弦長はフレンチとしては標準的な630mm。かなりしっかりした楽器で、現在もモダンギター用のプロアルテ;ライトテンション弦を張り、415Hzでチューニングしているが何の問題もなく、美しい音を奏でている。ラコートレプリカの、余韻の短いコロコロした鳴り方とは少し異なり、サステインも長めでモダンからの持ち替えでも違和感がない。来週の土曜日には川越でのイベントで、このラミーを使って旧友Y氏と19世紀時代の代表的ギター作曲家;ヨハン・カスパール・メルツの二重奏を演奏する予定だ。


■仏ミルクールの楽器メーカーのカタログは以下のサイトに多数。
このページの下の方にLamy社のものも。
http://www.luthiers-mirecourt.com/documentation.htm#pages_web
■以下のLamy社の1901年ギター・マンドリン系のカタログ
羊腸からガット(弦)を作っている挿絵などあって興味深い。
http://www.luthiers-mirecourt.com/thibouville1901_2.htm
■以下のLamy社の1901年弦楽器アクセサリー他のカタログ
http://www.luthiers-mirecourt.com/thibouville1901_1.htm


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セル&クリーヴランド管 ブラームス 交響曲第3番


きょう土曜日もも蒸し暑い一日だった。野暮用外出から戻り、日暮れて夕飯と風呂を済ませる。そして昨日に続けて、セルとクリーブランドを聴こう。
昨日の記事に登場してもらったA氏と話をしていて、ブラームスの交響曲は何番が好きかという話題になった。この手の問答はクラシックファンであれば楽しくかつ真剣な話題となるのだが、ブラームスのシンフォニーに関してはかなり答えにくい。何故なら4つの交響曲がいずれも素晴らしいからだ。このブログでも過去1番と4番については記事に書いた。では2番や3番が次点に落ちるのかと言われると、ちょっと待ってくれと言いたくなる。A氏も同様にどれもいいんだよなと言いつつ、あえて選べば3番だという。さもありなん。というわけで、今夜はセル&クリーヴランドによる、ブラームスの第3交響曲を聴くことにした。


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3番は渋好み、というのが一般的な世評だ。実際、3番はどの楽章も最後が静かに終わる。派手さはないし、劇的な場面もあるにはあるが、それがウリではない。しかし聴けば聴くほどの味わい深く、曲の隅々にまでロマン派でありながら古典的構成を重視したブラームスの本領が発揮されていると言ってもいいだろう。
セルとクリーヴランド管の演奏はいつもながら整ったアンサンブルとバランスで、ピチカートひとつにも神経が行き届いている。弦楽群は透明感が抜群で音がダンゴにならない。この曲で好きな箇所である第2楽章の終わり、切々と弦が歌うフレーズなど、このコンビならではの透明かつ芯のある音色とセルの熱情とが合さり、一層胸を打つ。映画音楽に使われた第3楽章でも、セルは途中弱音効果を生かしながら、ブラームスが書いたメロディーの中で最も美しいものの一つであるこの主題を大事に歌っていく。終楽章もこのコンビの良さが曲を支配している。激情的なフレーズも気合十分ながら、決して音が混濁せず、見通しがいい。セルとクリーヴランドの60年代の録音は、エピックというクラシックとしては少々マイナーなレーベルから出ていたこともあって、同時期の独グラモフォンなどと比べるとやや聴き劣りはすると言われていた。しかし70年代に廉価盤で再発された手持ちの盤(リサイクル店の100円コーナーで捕獲)では、コントラバスの最低音もしっかり入っているし、録音のわずかばかりの劣勢を完全に払拭しているもは、セルの解釈とオーケストラコントロールの賜物だろう。この盤にはハイドン・バリエーションも併録されているが、こちらは更にこのコンビによるオーケストラとしての機能性が前面に出て、素晴らしい演奏に仕上がっている。ハイドン・バリエーションは、聴くたびにその巧みな音楽の運びに感動する。

昨日の記事同様、セルの動画を探したが、ウィーンフィルを振り、グルダと合わせているベートーヴェンの皇帝があったので貼っておこう。クレジットには1966年収録とある。場所はお馴染み、ウィーンフィルの本拠地ムジークフェラインの大ホールだ。




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プロフィール

マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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