J.ヨアヒム ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品11


10月最後の週末金曜日の夜。あすから三連休、そして11月。早いなあ…。早いなあといえば、11月は誕生月。還暦を迎える。冗談だろう…と言いたいが、マジでロクジュウだどさ。まったくもう、こんなはずじゃなかったなあ。
…とぶつくさ言いながら7時半過ぎに帰宅。ひと息ついて数日ぶりにアンプの灯を入れ、音盤棚を探っていたら、こんな盤を見つけた。


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ヨーゼフ・ヨアヒム作曲のヴァイオリン協奏曲ニ短調作品11。アーロン・ロサンドというアメリカ生まれのヴァイオリニストがソロをとり、ジークフリート・ケーラー指揮ルクセンブルク放送管弦楽団がバックを付けている。1971年12月録音。手持ちの盤は1972年にワーナーパイオニアから出たVOXレーベルの盤。10年ほど前にネットで箱外したLPの中に入っていた1枚。

ヨアヒムはあらためて説明するまでもなく、ブラームスをはじめいくつかのヴァイオリン協奏曲の初演者として、また多くのヴァイオリン協奏曲の献呈を受けたり、カデンツァを書いた演奏家として、つとに有名だ。19世紀のど真ん中を数十年間に渡って君臨した偉大な音楽家といってよい。作曲家としては三つのヴァイオリン協奏曲他を残したが、そのほとんどは今日演奏されることは稀だ。この盤の二短調の協奏曲(第2番と称される)はそんな作曲家としてのヨアヒムの作品の中では比較的メジャーな位置にあるようだ。
<ハンガリー風>という副題が付いていて、全編ハンガリー民謡、あるいはハンガリーのジプシー風のフレーズが使われている。第1楽章は曲の過半を占める大きな楽章で、ここではジプシー風フレーズと同時に、19世紀後半のロマンティシズムに満ちた、ときにブラームス風の響きも聴かせる作風を示す。ヴァイオリンの技巧的な音形が続くのはもちろんだ。第2楽章は切々たるロマンツァ。第3楽章はアラ・ツィンガラ=ジプシー風と記されたアレグロで、耳馴染みのいいラプソディックなフレーズが続く。重音奏法を駆使したヴァイオリンパートは門外漢が聴いても、その技巧的な難しさが想像できる。
今日ほとんど演奏されることがないということかも分かる通り、曲も構成、モチーフの展開、多彩な和声感といった面ではイマイチの感が否めないが、19世紀当時に一世を風びしたヴィルティオーゾの世界を垣間見るものとして、聴いてみる価値があるだろう。


この盤の音源で第3楽章。



全曲。



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フルート、チェロ、ギターで遊ぶ P.J..Porro <Grand Trio extrait de Mozart>


18世紀後半から19世紀初頭のフランスで、ギタリスト、作編曲家、出版事業者として活躍したピエール・ジャン・ポッロ(1750–1831)。先日、彼がモーツァルトの名曲、ホ短調のヴァイオリンソナタK.304をヴァイオリン・チェロ・ギターのトリオに編曲した<Grand Trio extrait de Mozart>を合わせる機会があった。この曲は旧友Y氏から紹介され、以前記事の中でも触れたもの。その記事を見た知り合いのフルート吹きから、ちょっと遊ばない?と誘いがあり、いつものチェロ相方も入れて三人で合わせることになった。 曲目にある「モーツァルトによる」という付記から、原曲の主題を使った変奏曲かと想像していたのだが、何のことはない、まんまモーツァルトの原曲。ヴァイオリンの主旋律とピアノ伴奏をうまく三つの楽器に割り振ってトリオ編成の室内楽に仕立てたものだ。


Pierre-Jean_Porro_after_Robert_Lefèvre


ヴァイオリンとフルートは高音系のメロディー楽器ということで、しばしば互いに代役を演じることがある。今回はそのままフルートで吹くには、調性上、頻繁に出てくるHの音が出せないことから、知人は手持ちのH管フルートを整備に出して臨むことになった。チェロは問題なし。ギターパートは、ギターまたは当時流行していたリラとの指定がある。雰囲気を楽しむため、19世紀ギターを持参しようとも思ったのが、ちょっとした事情があって、通常のモダン楽器を使うことにした。

調弦が完了したところで、楽譜の確認かねて通してみると、特に問題なく最後までいく。私以外のお二人は、正統的なクラシックのレッスンを受け、かつ長いキャリアのあるハイアマチュア。こうした古典派の合わせ物はこれまでも山ほど経験しているに違いない。ギターのぼくは、二人の手馴れた合奏に便乗しているようなもの。それでも、モーツァルトの名曲の一つに数えられる原曲の雰囲気に緊張感も感じつつ、大いに楽しみながらギターパートを弾いた。楽譜を見てもらうと分かる通り、ギターパートの技術的難易度はそれほど高くなく、中上級レベルのアマチュアなら初見でも通せるレベル。ただ、ポッロの意図だと思うが、リラを意識した音形がところどころにあって、ギターで弾く場合は少し注意が必要だ。もちろん技術的な問題とは別に、曲全体の把握と細部の解釈、各楽器のバランスなど、いくらでも課題はある。今回は2時間ほどの合わせ練習だったが、合奏を楽しむことと同時に、そうした課題の確認も出来た。もう一度合わせる機会があれば、かなりうまく行くのではないかと安易にポジティブシンキングしている。

…というわけで、当日の演奏音源を貼っておく。
1時間ほど合わせの確認をしたあと、珈琲ブレイクをはさんで録音してみた。ところどころ動画やスナップショットもあり。YouTubeには海外のいくつかのグループの演奏がアップされているが、日本人のものはなし。本邦初演…ってことはないかな。ギターは実際も録音も少々音量不足(大きめのヘッドフォンなど、低音域も出る状態で聴くと、いくらかマシなバランスで聴ける)。ギターには不利な部屋のアコースティック(録音では盛大にリヴァーブがかかっているが、実際は完全デッド)もあるが、弾き方の問題も大きい。単純な音量だけでなく、タッチや音色、アーティキュレーションの工夫も必須。他の楽器とのアンサンブルにおける大きな課題を確認した次第。





◆モーツァルトの原曲はこちら◆


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渡邊茜(G)ミニコンサート

きのう、秋の好日日曜日。所用あって恵比寿のギターショップへ。折から店内でミニコンサートがあるというので、ことのついでに聴いてきた。 渡邊茜さんという、まだ若いギタリスト。いくつかの国内コンクールで入賞している。経歴は以下の通り(渡邊茜さんのブログより)。

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<渡邊茜>
3歳からピアノを始め、14歳より、干野宜大師に師事。
14歳でクラシックギターの音色に惹かれ習い始める。
現在は桐朋学園芸術短期大学にて佐藤紀雄師に師事。
学内演奏会、定期演奏会出演。これまでに森田綾乃、金庸太、宇高靖人、各師に師事。
GLC学生ギターコンクール第2位。日本ギターコンクール第3位
フォルマールギターオーディション最優勝を各受賞。
井桁典子師のサポーターズクラブにてサポートを受ける。
又、ソロの他にも、ヴァイオリンとギターのデュオ”Tone Breath"として
Kick back cafeなど、その他幅広く活動中。

プロフィールからすると、まだギターを始めて10年経っていない。ギターという楽器は技術的習得に関しては十代半ばから初めて数年でプロのレベルに達する人がいる。彼女はその例の一人かもしれない。今はプロフェッショナルとしての活動を始めたばかりというところのようだが、約30分ほどの時間で、以下の通り、本格的なコンサートレパートリーを披露してくれた。

1.マルボローの主題による変奏曲(ソル)
2.ノクターン(レゴンディ)
3.主題と変奏と終曲(ポンセ)

決して広いとはいえない店内に十数名の聴衆がぎっしりと座り、そのすぐ目の前、2メートルと離れていないところで演奏するという、プロとはいえ中々厳しい状況での演奏。しかも部屋の響きほとんどないデッドな会場。さすがに弾きにくそうで、いくつかのミステイクがあったが、まだ20代前半という若さと謙虚な雰囲気に好感を持った。今後の活躍に期待したい。


マルボローの主題による変奏曲(ソル)。18世紀フランスて流行った歌謡がテーマ。テーマから取った序奏から長調と短調を行き交う美しい和声に惹かれる。テーマが元気に出たあと、五つの変奏が続く。
渡邊茜さん自身の演奏。デジカメでの録音と思われ、残念ながら音の状態がよくない。アルベニスの<マラゲーニャ>に続いて、3分45秒からソルの<マルボロー>。



ノクターン(レゴンディ)。先日の記事にもちょこっと名前を出した19世紀のギターヴィルティオーゾ。この曲はそう多くはない彼の作品の中ではもっとも知られた代表作。



主題と変奏と終曲(ポンセ)。エストレリータの作曲として知られるメキシコの作曲家。セゴヴィアとの交流を通して、近代的なギター作品を残した。この曲も彼の代表作の一つ。但し、この曲には楽譜の問題が付きまとう。



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サイモン・マーティーのギター


諸事情あって、サイモン・マーティー(豪)作のギターを検分中。昨今、多くのステージプロに愛用されていて人気の楽器だ。表板:松、横・裏は中南米ローズウッド(アマゾンローズか)、弦長650mm。2006年作。表板に少し弾きキズがあるものの、楽器としての状態は申し分なし。
2年ほど前に一時借り受けてしばらく弾いたことがあるサイモン・マーティー。そのときの印象と今回の楽器は少々異なる。前回弾いたものは表板が杉、楽器としての個体差、当方の耳のコンディション、雑多な不確定要素もあってのことだが、今回の印象の方が遥かにいい。


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表板はオーソドクスな単板。裏板はアーチバック形状しで、センターで接がれている。今回内部写真を撮っていないが、ブレージングはサウンドホールから放射状に広がる形状で、ラティス型ではない。ブリッジはジョン・ギルバート(米)を模した形状、糸巻きもギルバート製だ。ボディーサイズは特に大きくはなく、例えば日本の河野ギターなどと同程度。但し、重量は裏板の違いでずっしりと重い。2キロは超えているだろう。
この楽器でとかく注目される音量は確かに大きい。しかし、流行りのダブルトップ+ラティスブレージングの鳴り方とは違っていて、オーソドクスなギターの音色を兼ね備えている。以前弾いたときは、すべての低音がウルフトーンと伴って響く印象があったが、今回のものはずっと音がしまっている。中高音共々、音量大小というよりは、エネルギーに満ちた鳴り方で、音の抜けが抜群にいい。低音のウルフトーンはほぼGだが、前後の6弦ローポジションはいずれも量感豊かに鳴る。5弦ハイポジションの音のつまりも少ない。高音のサステインも長く、やや倍音が多いものの、単音でメロディーを弾いて心地よく歌える。

前回借り受けて弾いてから、気になるギターではあったが、そうそう爆音を必要とすることもないし、やはり音色の魅力は20世紀前半までのスパニッシュテイストの軽い楽器に勝るものはないと思い、サイモン・マーティーほか、流行りの新コンセプトギターは視野外であった。しかし、昨年秋からチェロとのアンサンブルを始めるにいたり、こちらの気持ちと楽器の反応とがマッチしない局面を何度か経験し、今風の楽器も1本あってもいいかなと。そうはいっても、アナ・ヴィドヴィッチのコンサートの印象もあって、ダブル・トップ+ラティスブレーシングには引き続き懐疑的だった。そこへ今回のサイモン・マーティーの出現。思いのほかオーソドクスなギターの音色感を持っていて違和感がない。

現在、新品での日本入荷はほとんどなく、もっぱらプロの注文でいっぱいの様子。「何か下取りあれば高値で引き取る」との楽器店店主の甘いささやきもあって思案中だ。人生は短し。思案してばかりでも先に進まないなあ…


只今イチ押しのイリーナ・クリコヴァほか、サイモン・マーティーを愛用するプロは多い。
アナベル・モンテシノス




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プロフィール

マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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