セルの<マーラー第6>



五月最後の週末日曜日。きょうも関東地方は軒並み30℃超えの暑い一日。風強く湿度が差程でもなかったためか、体感する暑さはきのう程ではなく、ホッとした。夕方を過ぎて陽射しも傾いた頃になって、きのうに続きトワイライト音盤タイム。先日届いたセルの盤から、もっとも注目していた一枚を取り出した。


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マーラーの交響曲第6番イ短調<悲劇的>。今回リリースされた盤は第4番とのカップリングで、それぞれがCD1枚に収められている。第6番はセル唯一の録音で、1967年10月にクリーヴランド管の本拠地セヴェランスホールで行われた演奏会のライヴ録音。ライナーノーツによると同年10月12、14、15日と、この曲が三回演奏され、この演奏はおそらく12日か14日のものとのこと。クリーヴランド管にとっても、そのときがこの曲の初演だったそうだ。

マーラーの第6交響曲は今でこそ録音はもちろん実演でもしばしば演奏されるが、60年代以前はマーラー直系のメンゲルベルクやワルター、クレンペラーなども録音を残していないほど演奏頻度は少なかった。そんな中、マーラー録音の少ないセルがこの曲を選んだのはどんな理由があったのだろうか。前述のようにクリーヴランド管としてまだ演奏していなかったということは大きい理由かもしれない。それと音楽として<悲劇的>のタイトル通りのストイックな雰囲気と堅固な構成感がセルの美意識にマッチしたのではないかと思う。

第1楽章冒頭からやや遅めのテンポで始まる。聴きなれたセッション録音のセルとは響きがかなり異なり、分厚い低弦群と打楽器群の強打がこの曲の重々しい曲想を際立たせる。対照的に優しく穏やかなフレーズになるとクリーヴランド管の木管群がピタリと整ったピッチとアーティキュレーションで美しく歌い、聴いていて惚れ惚れするほどだ。第2楽章スケルツォも第1楽章の印象をそのまま引継ぎ、この二つの楽章をセットとする当時の通例に従っているようだ。美しい第3楽章アンダンテも過度に歌い過ぎないところがセルらしい。多くのマーラー指揮者なら、アウフタクトを持つフレーズでは、そのアウフタクトからタメを作ってやや引きずるように次の小節頭に入るだろうが、セルはそうしない。ごくわずかにルバートをかけるものの、それはほとんど自然の呼吸の域を出ず、フレーズはもたれずスムースに流れていく。

ライヴ録音の制約もあって、録音の音質はセッション録音ほどの明瞭度は持たず、左右の広がりもやや乏しい。しかし、全体としては低音域が厚く、この曲で活躍する打楽器軍の迫力も十分だ。終楽章は圧倒的なエネルギー感に満ち、次々と繰り出されて終わることのないマーラーの分厚いスコアの響きが続く。ライブだけあって、全編にみなぎるエネルギー感と緊張感が素晴らしい。セルに鍛えられたクリーヴランド管の響きもまったく弛緩することなく、熱くなる終楽章でもアンサンブルは極上だ。終楽章の最後、一旦静寂になったあとに奏されるイ短調主和音の強烈な一撃には、思わず声をあげてしまうほど驚いてしまった。

セルのマーラー録音は4番、6番、10番のみ。先の通り、セルの美意識からしてそれは必然だったかもしれないが、せめて第5番をさらの残して欲しかったというのが正直な気持ちだ。


この盤の音源。全4楽章。



アバド&ルツェルン祝祭管による2006年のライヴ。ルツェルン祝祭管はザビーネ・マイヤー(CL)、ナターリヤ・グートマン(Vc)他豪華メンバー。第4楽章、例のハンマー一撃は1時間5分50秒過ぎと1時間10分30秒過ぎ。中間楽章は2003年にマーラー協会が宣言した通り、第2楽章アンダンテ、第3楽章スケルツォの順。



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新日本フィル室内楽シリーズ#92 @すみだトリフォニー



週明け月曜日の昨日、都内での仕事を夕方までに終える。時計をみるとまだ夕方5時だ。こんなときサラリーマン同胞の常としてはガード下で一杯となるのだろうが、幸か不幸かぼくはまったく下戸の不調法。周囲に女子がいれば、季節柄、千疋屋で極上フルーツにでも誘いたいところだが、そんな企画も有り得ない。仕方なく、自分の手の内にある選択肢から、新日本フィルメンバーによる室内楽のコンサートに足を運ぶことにした。実は少し前、チェロ&フルート両刀使いの知人から「近々室内楽の演奏会があって行くつもりだ。たまたま与太さんがブログ記事に書いた曲が2曲とも取り上げられるぞ。」との情報を受け取っていたのだ。知人にメールすると、6時に錦糸町駅で待ち合わせようか、という段取りになった。


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JR錦糸町駅横のテナントビルで腹ごしらえ。エレベータからはスカイツリーが間近に迫る。知人と<健康ねた>プラス<弦楽器調弦における平均律と純正調のずれ>という程々に道楽オタクなオッサン会話を楽しみつつ、鯖塩焼き定食を完食して準備完了。歩いて程ない会場のすみだトリフォニーへ向かった。240名ほど収容の小ホールは7割の入り。団員によるプレトークがあって、定刻7時30分に客電が落ち団員登場となった。曲目は以下の通り。

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テレマン/4つのヴァイオリンのための協奏曲から
   ト長調TWV40:201 ハ長調TWV40:203 ニ長調TWV40:202
ブラームス/弦楽五重奏曲第2番ト長調op.111
 一休憩-
メンデルスゾーン/弦楽八重奏曲変ホ長調op.20
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崔文洙、佐々木絵理子、古日山倫世、松崎千鶴[ヴァイオリン]
高橋正人、脇屋冴子[ヴィオラ]
森澤泰、スティーヴン・フィナティ[チェロ]
2015年5月25日すみだトリフォニー小ホール
===========================

この演奏会に行こうと思ったのは他でもない、ブラームス弦五メンデルゾーン弦八が一晩で楽しめるからだ。弦楽四重奏はレギュラーの団体もあって、しばしば聴く機会があるだろうが、そこから編成を拡大した室内楽、しかもこの2曲の組み合わせとなると貴重な機会だろう。

最初のテレマンはオケや鍵盤楽器の伴奏なしのヴァイオリン4本だけによる協奏曲。今回演奏された3曲はいずれも<緩・急・緩・急>の4楽章からなる。高音パートだけの編成だが、冒頭から不協和音のぶつかり合いで始まったり、4本のヴァイオリンが互いに競ったり合わせたりと、変化に富んでいて飽きさせない。第1ヴァイオリンの崔文洙(チェ・ムンス)さん以外の三名は妙齢女性奏者でドレスも目に鮮やか。音響も視覚も華やかなプロローグとなった。
ついでブラームスの弦五第2番は少し前にブログ記事にも書いて、このところ何度か聴いている曲。ブラームス晩年の作品ながら、同時期の間奏曲や歌曲などにみられる枯淡の境地とは少し趣きを異にする。第1楽章冒頭から力強さあふれる展開。詠嘆調の第2楽章。ラプソディックな第3楽章と続き、終楽章では明るさも増す。Vn2・Va2・Vc1という編成からしても音響はやや高域寄りになって、同じブラームスの弦楽六重奏曲とは随分と異なる。またこの曲は室内楽にあって異例ともいえるほどVaが大活躍する。そしてVcも負けずに忙しく弓を運ぶ。聴いている側も音だけではなく視覚的にも手に汗握る展開だ。

休憩をはさんでメンデルスゾーン。ブラームスから一転、若やいだ明るいロマンティシズムに包まれる。演奏時間の半分を占める第1楽章は、何度聴いてもこれが16歳の青年の作とは信じがたい。提示部が繰り返えされて展開部へ。あえて言えばこの展開部が少々弱いと言えなくもないが、寡聞ながらこの頃初期ロマン派の作品は展開部がそれほど重くないケースも少なくないように感じる。それはともかく、八重奏という編成を駆使した構成はもちろん聴き応え十分だ。いかにもメンデルスゾーンらしい第3楽章のスケルツォに続く第4楽章がまた素晴らしい。テクニカルにも奏者の技量が最大限に発揮されるようなフレーズが展開する。緊張感を維持しつつコーダに入ってスリリングに全曲を終えた。

新日本フィルの弦楽セクションから、コンマス以下ベテランと新人交えたメンバーの弾きぶりは、見ているだけで練習の様子が分かるほど。フレーズを繰り返しつつ盛り上がってトゥッティを決める下りなどは、全員の身体の動きまで同期する。コンマス:崔さんの一頭抜きんでたアグレッシブな音、新人達の丁寧な弾きぶり、加えて印象的だったのは第2ヴァイオリン佐々木さん。メンデルスゾーンでは時に第1ヴァイオリンに寄ってハーモニーを合わせ、時にヴィオラと一緒に力強いフレーズを弾き、その度にアイコンタクトと身体のモーションで、つなぎ役としての第2ヴァイオリンの重要性がよく分かる弾きぶりだった。

地味な室内楽プログラムにも関わらず来場した200名ほどの聴衆からの拍手に応え、アンコールが演奏された。曲はショスタコーヴイツチ<弦楽八重奏のための2つの小品>から<スケルツォ>。ロマン派の薫り高いアンサンブルから一転して、テクニカルかつ緊張MAXの快演で大団円となった。
終演後、ロビーでワンコインパーティー。指揮者の上岡敏之氏の姿を見かけた。ぼくは先を急いで帰途に。この新日本フィル団員による室内楽シリーズ、7月には<短調のモーツアルト>と題された演奏会が予定されている(モーツァルト/弦楽四重奏曲第13番、ピアノ四重奏曲第1番、弦楽五重奏曲第4番)。魅力的なプログラム。少し先だが、こちらも時間を作って出向きたい。


メンデルスゾーンの弦楽八重奏曲。通称メンパチ。



ブラームスの弦五第2。



アンコールで演奏されたショスタコーヴィッチ<弦楽八重奏のための2つの小品>から<スケルツォ>。
初期の前衛的作品。エネルギー爆発!ハチャメチャかつ痛快・爽快!


前奏曲を含む全2曲はこちら


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HP-A7



今年始めにプチ大人買いしたヘッドホン、ゼンハイザーシュアがようやく本格稼動に至った。本格稼動などと少々大仰だが、物色していたヘッドフォンアンプを調達し、まともに聴けるようになったという次第。現用のアンプ、ラックスマンL-570にはヘッドフォン出力がなく、一時は改造か、スピーカ出力にドロップ抵抗を入れたアダプターを付けようか、手持ちの球で久々に自作しようか、とアレコレ思案していたのだが、結局出来合いのものを買うという安直な選択となった。


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手に入れたのはフォステクス社HP-A7。入力はデジタル4系統(USB1、同軸1、光2)、アナログ1系統。デジタル系統の対応周波数は、同軸192KHz、他96KHzまで。出力はヘッドフォン標準プラグ2系統とRCA1系統。RCA出力は固定と可変を選べる。また2系統のヘッドフォン出力はゲイン設定が異なっている。デジタル出力も光1系統(S/PIF)がついている。2010年の発売から数年が経っていて、すでに主力機種としては次のモデルHP-A8にバトンタッチしている。スペックとしては現時点では平凡だし、最近流行りのDSD再生にも非対応。総じてデジタル系統の充実を図りながらも、アナログ系統も十分配慮されている印象。当初アナログ入力専用のものを探したが適当なものがなく、また音の評価についてネットでは随分とネガティブなコメントも散見されたが、中身を見る限り丁寧に作られ、パーツも程々に厳選されている様子だったので手を打つことにした。

手元においてじっくり聴いてみた限り、音質についての文句はない。比較対象もないのでそれ以上のコメントもないが、手持ちのゼンハイザーHP800やソニーCD900は十分ドライブ可能。音の傾向としては、よくポータブルヘッドフォンアンプで見受けられるような低音での作為感がなく、きわめて引き締まった低音を繰り出す。少々量感が少ないかなあと感じる程だが、分解能はすこぶる良好で、タンノイ:スターリングのややボケた低音に比べる対照的。これが本来ソースに入っていたバランスなのかと合点している。中高域も同様で分解能はいい。最近手に入れたセルのCDを何枚か聴いて、セルのうなり声や弦楽群の微妙なアインザッツが聴こえてくる。

レコードとCDの再生はアンプL-570のRECOUTから本機のアナログ入力に接続し、PCからは本機USB入力に接続という、ごく基本的なセットアップ。CDプレイヤーとのデジタル接続は未確認。そうでなくてもオーディオセットの裏側は配線ジャングルと化しているし、CDプレイヤーとはアナログ接続でも特段の不満はないので、当面この状態でいくつもりだ。


フォステクス担当者によるHP-A7の紹介。コメントの内容はぼくが実際に聴いてみた印象と同じだ。



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UV



週明け二日間せっせと業務に精励。きょうは少々息切れして定時過ぎほどほどで退勤。8時少し前に帰宅した。今朝はそれほどでもなかったが、このところ晴れた日の朝、勤務先までのわずかな屋外歩行の間の紫外線が強烈で、出勤してしばらくの間、目が痛くなるほど。以前はこんなことはなかったのだが、昨年あたりから自覚するようになった。それはイカン、と最近使っているのが写真の眼鏡だ。


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UV…とくれば845というのは一部の真空管オーディオマニアだけ。UV(=紫外線)とくれば、きょうびUVケアだ。この眼鏡は紫外線を受けるとしばらくして色が付き、サングラスに変身。紫外線がなくなるとまた普通の透明な眼鏡に戻る、という仕掛け。だいぶ昔からあったと記憶しているが、昨今は性能向上しつつ価格も下がったということで、昨年一つ作ってみた。

写真の比較で様子が分かるだろうか。左側は日に当てた直後。右側は数分後の様子だ。完全なサングラスほど暗くはならないが、紫外線は十分にカットしてくれるらしい。室内ではほとんど紫外線の反応はないので、レンズは限りなく透明になる。但し、普通のレンズからみるとわずかだか色が付いている状態だ。この眼鏡をかけて、外に出たり、室内に入ったりしてみると、傍目には随分とレンズの色が変っているようだが、かけているぼく自身はあまり変化に気付かない。その落差を感じないのは使い勝手としては好都合だ。

外ではサングラスをかけたいが、ビジネスの場でサングラスというのも都合が悪い。とはいえ、サングラスと普通の眼鏡の両方を持ち歩いくのは面倒だ。そんなとき、この眼鏡なら対応できる。実際、ビジネスマンの間でもこの手の眼鏡が流行っていると、先日テレビで伝えていた。

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目だけではなく、この季節の外出時には日焼け止めも付けた方がいい。色白は七難隠すというが、日焼け防止は見かけだけの問題ではなく、また女性ばかりでなく男性にも必須だそうだ。現代医学の常識としては、皮膚癌や白内障の誘発、皮膚免疫力までも低下まで、紫外線リスクは予想以上に大きいそうだ。この歳になって見かけもなにもあったものではないが、UV対応眼鏡とSPF50のニベア・サンプロテクトウォータージェルは中年男のマストアイテムだ。


その名も<紫外線>というアイドルポップスの秘曲。作詞:松本隆/作曲:筒美京平の強力布陣で80年代半ばにCBSソニーからデヴューした沢田玉恵という歌手(動画はこちらで)が歌った。



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大阪ハインリッヒ・シュッツ室内合唱団



穏やかな日曜も終わり、明日からまた仕事という晩。近所の鰻屋でたらふく食べて帰宅。丸太のような腹を抱えながらひと休みしつつ、PCを開いた。このところブログランキングはまったく冴えず、1位はおろか、3位転落の日もある始末。日々のアクセス数はほとんど変っていないのだが、毎日バナーをクリックしてもらうというのは中々難しい。もっとも記事も毎日更新しているわけではないし、内容も場当たりの備忘録なので、まあ仕方ない。どうかみなさま、引き続きヨロシクです。


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ところで先日知人から、「与太さん、合唱はどう? これ聴いてみない?」と、1枚のCDを渡された。
当間修一氏率いる大阪ハインリッヒ・シュッツ合唱団(現大阪コレギウム・ムジクム合唱団)が1998年にドイツに演奏旅行した際のライヴ録音盤。収録曲は以下の通り。

 ・シュッツ/言葉は肉体となり、私達の内に宿った
 ・J.S.バッハ/前奏曲とフーガ ハ長調 BWV.545(オルガン独奏/松原晴美)
 ・ジョスカン・デ・プレ/アヴェ・マリア
 ・ラッスス/私の魂は死ぬほどに苦しい
 ・バード/アヴェ・ヴェルム・コルプス
 ・ブルックナー/アヴェ・マリア
 ・プーランク/アヴェ・ヴェルム・コルプス
 ・ペルト/マニフィカート
 ・プレストン/アレルヤ (オルガン)
 ・ブリテン/聖セシリア賛歌
 ・柴田南雄/追分節考
 ・ブラームス/別れのうた

団の名に冠しているシュッツ他、ジョスカン・デ・プレ、バード等15、6世紀の作品から、後期ロマン派のブルックナー、ブラームス、そしてプーランク。更にはペルトやブリテンに至るまで、数百年に渡る合唱曲の流れを一度に俯瞰するような内容。加えて現代日本の作品として、柴田南雄の作品が収められている。演奏はドイツ国内にある8ヶ所の教会で行われ、古いものでは12、3世紀のロマネスク様式の教会、またアルヴォ・ペルトの<マニフィカート>は同曲が初演されたベルリン・ドームで録られている。

いくつかの宗教曲をさわり程度に聴きかじる程の知見しかないぼくには、このアルバムの真価を聴き取る素養は皆無で、駄文を連ねるのははばかられる。もちろん、70年代からNHKFM<バロック音楽の楽しみ>でバロック期やそれ以前ルネサンス期の音楽を耳にしてはきたが、合唱曲に関してはそれ以上の感心を抱かずにこれまできたからだ。このアルバムで数百年の時間軸を通して、こうした合唱曲を聴いてみると、その年月の長さに比して、音楽の本質的な変化はほとんどないように感じる。やはり宗教曲という枠組みがあるからだろう。誤解を恐れずにいえば、アヴェ・マリアはジョスカン・デ・プレでもブルックナーでもアヴェ・マリアだし、アヴェ・ヴェルム・コルプスもしかりだ。時代は違っても、その音楽がもたらす響きの目指すところに、大きな違いは感じられない。もっともプリミティブかつ鍛錬の度合いがそのまま音に現われる合唱という形態と、教会という場、そして宗教的背景を語るテキストの三つが合わさったこれらの作品を聴くとき、人の心に去来するイメージは普遍的であるように感じるのだ。


知人からは同団の演奏会の案内もいただいた。来週5月24日に東京:浜離宮朝日ホールで、また来月6月28日には本拠地大阪いずみホールで<千原英喜と宮沢賢治>と題された演奏会が予定されている。こちらは日本の現代音楽。こうした音楽を前にすると、19世紀一辺倒から、少しは様々な時代へ耳を傾けるべきかなあとも感じる。

千原英喜/文語詩稿〈祭日〉(詩:宮沢賢治)。



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カール=ハインツ・シュッツ(FL)来演


久しぶりに群馬交響楽団(群響=グンキョウ)の演奏会へ。今シーズン第1回目、第508回定期演奏会。指揮に尾高忠明、フルート独奏にウィーンフィル首席奏者カール=ハインツ・シュッツが来演。以下のプログラムが演奏された。なお当夜の演奏会は当地「富岡製糸場と絹産業遺産群」の世界遺産登録記念として開催された。フルート協奏曲を書いた尾高尚忠は、富岡製糸場初代場長、尾高惇忠の孫(系譜には渋沢栄一も)、そして当夜の指揮者:尾高忠明は曾孫にあたる。

 ブリテン/歌劇《ピーター・グライムズ》より「4つの海の間奏曲」作品33a
 尾高尚忠/フルート協奏曲 作品30b
 ラフマニノフ/交響曲 第1番ニ短調 作品13


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当日券を買う予定もあって定刻より少し早く会場の群馬音楽センターへ。初夏の夕べ、濃さを増した緑の中に建つ群馬音楽センターの佇まいが美しい。このホールはアントニン・レーモンドによる設計。第一次大戦後、帝国ホテル設計施工の助手としてフランツ・ロイド・ライトと共に来日。以降、多くの傑作建築を残した。群馬音楽センターはそのレーモンドの代表作であり、モダニズム建築の傑作といわれる。築50年を経て、設備や音響の面をみれば、その後作られたホールに劣ることは否めないが、一方で、歴史を重ねてきたものだけが持つ存在感を近年より強く感じる。

やや玄人好みと思われるプログラムにも関わらず、1900名収容のホールは8、9割の入り。いつも通り、音楽評論家:渡辺和彦氏のプレトークののち、定刻18時45分に客電が落ちてチューニングが始まった。きょうのプログラムのうち、手元に音盤があるのはラフマニノフの1番と尾高尚忠のフルート協奏曲だけ。しかもラフマニノフは以前箱買いしたLPの中に混じっていたもので、針を通した記憶がないという情けなさ。もちろんブリテン<4つの海の間奏曲>も初めて接する。

退屈するかなと危惧していたが、そこは定期にのるだけのことはある曲。ブリテンもラフマニノフもその良さを実感した。ブリテンのピーター・グライムス自体に不案内ではあるが、この4つの間奏曲は、第1曲『夜明け』、第2曲『日曜の朝』、第3曲『月光』、第4曲『嵐』から成り、その標題を意識に入れてから聴くと、音楽の様相がよく分かる。ヴァイオリン群の印象的な高音域でのフレーズで始まり、それを受けるような金管群のコラール風のフレーズとが対比されながら進む第1曲『夜明け』。以降も近代的和声感と時折り出てくる英国調の歌謡的フレーズとを織り交ぜつつ、色彩的な管弦楽の響きを楽しんだ。

当夜の指揮者:尾高忠明氏の父に当たる尾高尚忠(1911-1951)のフルート協奏曲は、数からフルート協奏曲あるいは邦人作品全般の中でも名曲の誉れが高い。古典派以降に限ると意外に少ないフルート協奏曲の中にあって貴重かつ価値ある協奏曲で、海外のフルーティストの間でも人気が高いそうだ。手元にある80年代初頭に出たLP盤に吉田雅夫のソロによる録音が入っていて以前よく聴いた。今夜久々に聴いて、その美しいメロディーとコンパクトながらよく出来た構成を名手カール=ハインツ・シュッツの演奏で楽しんだ。フルートの音色感を語るほどの知見はないが、カール=ハインツ・シュッツの音は実に柔らかく落ち着いた響きで、フルートでぼくらがイメージする華麗できらびやかな音とは一線を画すもの。アンコールに奏されたイベール<無伴奏フルートのための小品>でも弱音のコントロールが印象的で、柔らかな音色を生かした穏やかな吹きぶりが素晴らしかった。

休憩をはさんでラフマニノフの第1交響曲。この曲は初演(1897)で大失敗して、その後陽の目を見ない日が続き、ラフマニノフの死後になって、ようやく演奏されるようになったという。近年では人気の第2番より高評価を下す人もいるそうだ。ぼくも手元にレコードがありながら、まともに聴くのは今回が初めてだった。ロマンティックな曲想あふれる第2番に比べると、硬派といってもいい曲想。それでもしばしば現われる弦楽群の厚いメロディーや全体を通して流れるロマンティシズムはやはりラフマニノフだ。山台最後列に並ぶ多彩な打楽器も加わった大編成管弦楽の魅力を存分に発揮する大団円に大きな拍手がわいた。


<4つの海の間奏曲>
ブリテンの生誕100年にあたった2013年プロムスでの演奏。サカリ・オラモ指揮BBC交響楽団。



尾高尚忠/フルート協奏曲。手持ちのLPと同じ音源。吉田雅夫のフルート。岩城宏之指揮NHK交響楽団。昭和36年録音。



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初夏はブラ2



五月も半ば。今週は台風一過のあと30℃超えの真夏日もあって、すっかり初夏だ。幸い湿度は低く、うんざりする夏の暑さには至らずホッとしている。一週間、そこそこ真面目に働いて週末金曜日。8時過ぎに帰宅してひと息つき、三日ぶりにアンプの灯を入れた。ここ何年か、初夏のこの時期に聴く定番曲とでもいうべきこの盤を取り出ことにした。


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ブラームス交響曲第2番ニ長調。手元にある十種は下らないこの曲の盤の中から、ベーム&ウィーンフィルのLP全集盤を引っ張り出した。1975年の録音。90年代終盤に御茶ノ水の中古レコード店で手に入れた。もうすっかりCD時代になりLP大放出期になっていた頃で、確か千数百円程だった。ふた昔前であれば、憧れの存在だったカートンボックス入りLP全集盤。今では中古店でも誰も見向きもしないだろう。

いつものLPリスニング時の音量レベルにアンプのボリュームをセットして静かに針を下ろす。かすかなトレースノイズに導かれて冒頭の低弦群によるD-A#-Dの主題が部屋に響く。レコード時代は、楽音がないときのトレースノイズが気にならないレベルというのが適正音量のひとつの目安だった。一方で、なるべく大きな音で迫力を感じたいことから、愛好家はオーディオセットの改善や、レコード盤のコンディション維持に腐心した。トレースノイズのないCDになってから、多くの音盤愛好家の視聴音量は確実に上昇した。つまりノイズがないことをいいことに、デカい音で聴くようになった。管弦楽はもちろん、リュートやチェンバロまで実際のイメージからかけ離れた音量で聴きがちだ。しかし、こうしてLPを聴くたびに適正音量の必要性をあらためて考える。日本の一般的住宅環境での適正音量はそう大きくない。

さてベーム&ウィーンフィルの盤。今更コメントも不要だろう。過去に何度か記事にもした。ひと言でいえば、楷書の味わい。PCのフォント設定でいえば、日本語の体裁として読みやすく見た目にも美しい<正楷書体><教科書体>といったところだろう。筆跡太からず細からず。姿勢を整え、襟を正し、崩れたところや表面的な見栄えから何か強く訴えるものはなく整然としている。そんな音楽だ。リズムは正確に刻まれ、メロディーは美しく自然に流れ、全体の響きは過不足ないバランスで響く。録音はやや硬質ともいえる引き締まった音質で、低音をたっぷりと響かせた同時代のカラヤン&BPOの音とはかなり違う。エンジニアは同じギュンター・ヘルマンスだが、録音会場の違い、そして何よりベームの音楽作りによるところが大きいだろう。カラヤンと比較しても意味のないことだが、フレーズをレガートにつなぎ、音に隙間がないカラヤン流とは対照的な音作りだ。このウィーンフィルとの録音に関しては、第1番はベルリンフィルとの旧録音がいい、4番ではもう少し詠嘆調に歌えないか、2番は70年代のライヴ盤がベストだ等々、必ずしも好評価ばかりではないことは承知している。しかし、40年以上もブラームスの交響曲を聴き、あれこれブツブツ言いながら様々な盤に触手を伸ばしてきて、ここに至って思うのだ。このベーム&VPO盤だけあればいいかなと。身辺整理して、ブラームスの交響曲を1セットだけ残しておくとしたら、このベーム&VPO盤かセル&クリーヴランド盤かというのが、目下の結論だ。


条件のいいベーム盤の音源が見当たらなかった。こちらはティーレマン&SKD。



終楽章コーダのトロンボーンとチューバのパート練習。



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プロフィール

マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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