石原俊著 『音楽がもっと楽しくなるオーディオ「粋道」入門』



石原俊著『音楽がもっと楽しくなるオーディオ粋道入門』(河出書房新社2005年)。
十年前に出た本だが、ときどき見返している。


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ちょっとしたオーディオファンなら石原俊(1957-)の名はご存じのことだろう。この本が出る少し前からオーディオや音楽関係の雑誌にしばしば登場するようになった。オーディオ評論家という肩書が真っ先に付されるだろうが、オーディオ機器や音楽そのものに加え、背景になる文化やライフスタイルにも目配せしながら、適確かつバランスのとれたコメントをする。またオーディオ機器やCD、カメラ等のレヴューの他、バーンスタインやラヴェルに関する翻訳本も手掛けている。この本は同氏の著作『いい音が聴きたい -実用以上マニア未満のオーディオ入門』(岩波アクティブ新書2002年)の続編として書かれたもので、出版された直後、出張先の本屋で見つけ、帰途車中の暇つぶしにと買い求めた。

この本はオーディオ機器のおすすめ指南書ではあるのだが、実際の機器ハードウェアの選定にあたって、聴く音楽の時代性、編成、内容についてかなり仔細に考察した上で、聴く音楽と聴く道具であるオーディオ機器の関係について書いているところがユニークかつ説得力に富む。例えば冒頭の章では、様々な楽器からなる大編成でダイナミックレンジの広い曲としてマーラーの<復活>が取り上げられ、曲の背景を述べたあと、具体的に楽曲のある箇所の弦や管の響きを取り上げ、そうした響きを聴くためのチョイスとして、解像度とダイナミクスに優れたアヴァロン社のシンボル2という当時の同社エントリーモデルを紹介、試聴インプレッションを記している(最近、ぼくがアヴァロン社のスピーカーに変えた裏には、この本の影響がある)。以降、取り上げられているシステムは…デスクトップのPCでヴェルディのオペラを見るための小型スピーカーとしてALRジョーダン社のエントリーS、古典的な響きでワグナーを聴くためにタンノイ社のスピーカー:サンドリンガム、モーツァルト<魔笛>での人物描写を忠実かつ中立的に表現するためのアンプとしてアキエフェーズのプリメインアンプE-212、濃厚なロマンティシズムを醸すブラームスの第一交響曲を聴くアンプとしてマッキントッシュMA-6500…といった具合だ。だからオーディオ機器と一緒に取り上げられている音楽そのものを知らないと、この本を読む楽しみは半減する。同時に本のタイトル通り、それぞれの音楽をそれぞれの機器で聴くことにまつわるスタイルや心意気を<粋道>として述べている。例えば、ミニマムながら極めてクオリティの高いスタックスのヘッドフォンシステムの項では、こんな風に結んでいる。少々スノッブな感じを持つかもしれないが、単なる、それも提灯記事のようなレヴューよりは、よほどイマジネーションに富んでいて、気持ちがいい。

―― 平日の昼下がりに、ぽかんとあいた時間ができる。夜はコンサートに行く予定。それまでの時間をどう使おうか。そうだ。コンサートの曲目の「予習」をしておこう。書庫からCDとスコアを取り出してくる。スタックスのヘッドフォンのスイッチを入れる。…中略…ヘッドフォンシステムとの上質な時間が流れていく。やがて「予習」が終わる。シャワーを浴びる。スーツとシャツを身に付け、ネクタイを結ぶ。コンサート会場へと赴く。…中略…そんな音楽とオーディオの付き合いができたら、それは、かなり粋なことだと、私は思う。 ――

安直な商品紹介本と思いながら手にしたのだが、十年に渡ってこの本をしばしば見返し、それに耐えうるというのは中々だと思う。その理由の一つが、具体的な商品はモデルチェンジしているものの、取り上げたメーカーがいずれも長い歴史を持ち、後継機種が存在し、現在まで商品コンセプトを変えずに生き延びているということがある。そのため現時点でも購入にあたっての指南書として有効なのだ。雑誌では一般的なオーディオ機器のレヴューや導入指南のたぐいも、商品サイクルの関係もあって、長期間流通することを前提とした単行本にはなりにくい。そんな中にあって、この本が十年に渡って版を重ねているのは貴重だ。とはいえ、初版から十年を数えることを考えると、その後のデジタルオーディオの環境変化や、アナログレコード復権等を勘案した続編を期待したいところだ。


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