ホロヴィッツのスカルラッティ



週明け月曜日。事情あって仕事を休み野暮用少々。昼過ぎには帰宅してだらだらと過ごす。十月もきょうで終わり。ここへきて日々気温も下がり、いよいよ秋深し。夜は少し暖がほしくなるほどだ。じっくりブラームスの渋い室内楽でもと思うが、あまりシリアスな気分でもないなあと思いつつ音盤棚をサーチ。こんな盤を取り出した。


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ホロヴィッツ(1903-1989)が弾くドメニコ・スカルラッティ(1685-1757)のソナタ集。1964年の録音で、彼の盤歴あるいはスカルラッティの演奏を語るとき必ず登場する盤でもある。手持ちの盤は80年代初頭に買ったLPだが、もちろん現在もCDで入手できる。収録曲は以下の通り。現在出ているCDにはさらに数曲が追加されている。

side-A
1.ソナタ ニ長調L.424 / 2.ソナタ イ短調L.241 / 3.ソナタ ヘ長調L.188
4.ソナタ ヘ短調L.118 / 5.ソナタ ト長調L.349 / 6.ソナタ ニ長調L.465
side-B
1.ソナタ ホ長調L.21 / 2.ソナタ変ホ長調L.203 / 3.ソナタ ホ短調L.22
4.ソナタ ニ長調L.164 / 5.ソナタ ヘ短調L.187 / 6.ソナタ イ長調L.391

ホロヴィッツの熱心なファンでもなく、イタリアンバロックに特別な興味があるわけでもないので、この盤について多くを語る資格も知見もないのは我ながら残念…そう地団駄踏みたくなるくらいこの盤は曲も演奏も中々チャーミングだ。いずれの曲もスカルラッティが極めたチェンバロの魅力と可能性にあふれた作品群だが、19世紀的ヴィルティオーゾの系譜を受け継ぐホロヴィッツがモダンピアノを駆使し、ロマンティック様式ながら、どちらかといえば音色をモノトーンに抑えて淡々と弾いている。しかし時々見せる切れ味のいい技巧はさすがで、何とも軽妙かつ自在に音符を操っている感じがする。音が跳躍する曲、横に流れる曲、陽気でコミカルな曲、悲しみ湛えた叙情的な曲、それぞれに味わい深く、その作品の個性をよく伝えてくれる。

スカルラッティのソナタは昔からギター用の編曲譜がいくつか出ていて、ギター弾きにも馴染みの曲が多い。ぼくもときどき楽譜を広げて下手なりに楽しんでいるが、原曲が持つ鍵盤楽器での軽妙な味わいをギターで再現するには相当な技巧が求められ、中級程度のアマチュアでは中々歯が立たない。


L.33.1986年、60年ぶりに訪れたモスクワでのライヴ映像。巨人晩年の至芸というべきか。もちろん完全にロマンティックスタイル。ショパンかと思うほど(^^;


同じくL.23


ホロヴィッツの1986年モスクワ公演の模様

ギターデュオによるL.23の演奏。ギター2本ならば原曲のフレーズと和声を無理なく再現できる。



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タチアナ・ヴァシリエヴァ(Vc)来演 群馬交響楽団第523回定期演奏会



十月最後の週末。きのう土曜日は当地群馬交響楽団の定期演奏会へ。七月のブルックナー以来だから三ヶ月ぶりになる。


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ドヴォルザーク/チェロ協奏曲 ロ短調 作品104
 ―休憩―
ベートーヴェン/交響曲 第3番 変ホ長調 作品55 「英雄」
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チェロ:タチアナ・ヴァシリエヴァ
指揮:飯守泰次郎 管弦楽:群馬交響楽団
2016年10月29日(土)18:45~ 群馬音楽センター
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秋の陽射しもすっかり短くなり、会場の群馬音楽センターに着く頃にはすっかり日が暮れる。前日に電話予約しておいたチケットを受け取り、開場時刻を少し過ぎて席についたあとロビーで一服。コンビニサンドと缶コーヒーを小腹におさめる。都会の豪華ホールホワイエでチーズとシャンパンもいいが、築半世紀のレトロなロビーでひとりコンビニサンドもローカル色MAXで悪くない。

さて当夜は指揮者に飯守泰次郎(1940-)、独奏チェロにタチアナ・ヴァシリエヴァ(1977-)を迎え、ドヴォルザークのチェロ協とベートーヴェンの英雄という、休憩はさんで前後半がっぷり四つの重量級プログラム。例によって音楽評論家;渡辺和彦氏のプレトークのあと、定刻の18時45分に客電がおちて開演となった。

すっかりワグナー振りのイメージが強くなった飯守泰次郎氏。ドヴォルザークの協奏曲でも当然重厚な音楽作りを目指すかと予想していたが、やはりその通り。オケ編成も後半の英雄と同じ弦楽14型(14-12-10-8-7)で厚い布陣。第1楽章冒頭から色濃い音楽を繰り広げる。これでテンポが遅いと時に鈍重な展開になりかねないが、当夜はドヴォルザークもベートーヴェンも、20世紀の標準モダンオケとしてはやや速めのテンポ設定で、厚い響きと合わせて音楽の推進力に力がこもる。一方チェロのタチアナ・ヴァシリエヴァは当夜の印象ではゴリゴリと力で押すタイプではなく、音楽全体のプロポーションを整え、無理のない音楽を展開するように感じた。もちろん1994年ミュンヘン国際コンクール第2位、宮田大が2009年に覇者となったロストロポーヴィチ国際チェロ・コンクールで2001年に第1位となった実力はいかんなく発揮され、難曲のこの曲を上から下までまったく不安げなところなく弾き通す。 少々個性の異なる両人の演奏は、ソロ対伴奏という構図から離れ、まるでチェロ付きの交響曲のように豊かに響いた。飯守氏の積極的なオケコントロールは随所でチェロのソロに拮抗するフレーズをオケから引き出し、チェロと対話する木管群のフレーズ、弦楽群の隠されたアクセントなど、ぼく自身これまで幾度となく聴いてきたこの曲から多くの新たな発見を得た。

休憩のあとはベートーヴェンの英雄。こちらもドヴォルザーク同様のアプローチ。久々に聴く重厚なエロイカだった。ドヴォルザークもそうだったが、飯守氏は過度な弱音は避け、p指示はmp、mfはfくらいの印象を受ける。オケ全体の音量ディナーミクよりは、各パートごとのフレージングやアーティキュレーションに意を尽くし、分厚い音響とやや速めのテンポとでグイグイと音楽を引っ張っていく印象をもった。 それにしてもこの英雄交響曲、やはり稀代の名曲だ。第2交響曲までとほとんど変わらない古典的な2管編成ながら、コントラバスに独立した動きを与えたり、ホルンを1本追加してスケルツォで活躍させるといった斬新な試み、また第1楽章冒頭の主和音二つの叩きつけによる開始や、再現部にも第2の展開部ともいえるコーダをおく構成など、音楽そのものの斬新かつ緻密な組立てによって、それまでの古典交響曲とは一線を画す傑作となった。

これまでドヴォルザークの協奏曲も英雄も何度か実演に接しているが、当夜の演奏は、その色濃く分厚い響きと停滞しない推進力に満ちた曲の運び、そしていささか個性の異なるチェリストとの相乗効果など、管弦楽という形態がもつポテンシャルをあらためて印象付けた演奏会だった。


タチアナ・ヴァシリエヴァによるドヴォルザークの第2楽章。バックは香港のオケ。


タチアナ・ヴァシリエヴァが参加したブラームスのクラリネット三重奏曲イ短調第1楽章。



◆追伸◆
来日中のタチアナ・ヴァシリエヴァによる無伴奏作品(バッハ、コダーイ)のリサイタルが11月2日には東京文化会館で予定されている。


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ペペ・ロメロ ギターとピアノのための作品集



きょうの関東地方は時折り冷たい雨まじりで気温も低く、晩秋の訪れを感じさせる一日だった。今週もあたふたと終わり週末金曜日。ひと息ついて、もう日付が変わる時刻だが、渋茶を一杯やりながらこんな盤を取り出した。


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今や大御所の風格となったぺぺ・ロメロがフォルテ・ピアノを弾くウィルヘルム・ヘルヴェックと組んで、19世紀古典ギター黄金期の室内楽作品を弾いている。ぺぺが使っているギターはアントニオ・デ・トーレス1856年作とライナーノーツに記されている。1981年の録音。収録曲は以下の通り。

◇フェルディナンド・カルリ
 ソナタ イ長調 Op.21 no.1
   1. Moderato 2. Adagio 3. Rondo
◇アントン・ディアベリ
 グランド・ソナタ・ブリリアンテ ニ短調 Op.102
   1. Adagio-Allegro 2. Adagio 3. Allegro
 ソナチネ イ長調 Op.68
   1. Andante sostenuto 2. Rondo
◇フェルディナンド・カルリ
 ソナタ ニ長調 Op.,21 no.2
   1. Moderato 2. Thema con variazioni 3. Allegretto

ここに収録されている曲には使用楽譜に関していくつかの問題がある。旧友Y氏の指摘によると、カルリはオリジナルではなくハインリッヒ・アルバートの編曲(ツインメルマン社社刊)、 ディアベッリも本来の姿ではなく、ベーレントが4楽章パストラールを丸ごとカットしたもの(ボーテ&ボック社刊)とのこと。原典からかなり大きな改編(楽章が一つ無くなっているといった)がなされているにもかかわらず、使用した楽譜の出典が記されていないことは少々問題だ。この盤が録音された当時のギター界の状況を反映しているともいえる。今なら弾く側も音盤製作側も、もう少し気を使うだろう。そのことは横に置くとして…

曲は19世紀初頭の簡素な古典様式からなるもので、カルリ(1770-1841)の曲もこうしてアンサンブル版になると、その楽天的な曲想にいくらか重みが加わって鑑賞に値する曲になる。ディアベリ(1781-1858)の2曲はカルリに比べより感興に富んでいて、ピアノパートもカルリの曲より充実している。もっとも同時期のウィーン古典派大御所とは比べるべくもないが…

父セレドニオから受け継いだという名器トーレス(この楽器についてはこちらに詳細がある)を操るペペ・ロメロは技巧の切れもよく、同時に無理をしない弾きぶり。フォルテピアノとのバランスも良好だ。録音上の操作で音量のバランスを取ったり、ギターをより明瞭にピックアップしたりという作為がほとんど感じられない自然な音で収録されている。古典から初期ロマン派の端整な様式感をもった曲想にもマッチしている。こうした古典期の合わせ物はただ聴くよりも、やはり弾いて楽しみたい。この盤のいずれの曲も機会があれば合わせてみたいものだ。


アントン・ディアベリのソナタOp.102 第1楽章。


19世紀当時、市中のサロンで繰り広げられたギターをピアノのデュオの雰囲気はこんな感じではなかったかと思わせる音源。メルツ<フォルテピアノとギターのための歌劇「リゴレット」の主題によるディヴェルティメント>作品60.



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バッハ カンタータ<われらが神は堅き砦>BWV80



このところ気温の上下が激しい。きのうは晩秋の趣き、そしてきょうは25℃超えの夏日。ほどなく十月も終わるというのに、夏日はないだろうと思うが、北海道からは雪の便りだというから、やはり日本も広い。 さて、きょうは少し早く帰宅。ひと息ついてまだ時間も早いので、ほぼ一年ぶりにこの盤を取り出した。

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バッハのカンタータ<われらが神は堅き砦>BWV80。実は今朝のNHKFM<古楽の楽しみ>でこの曲を取り上げていたこともあって、そういえばと思い出した。手持ちの盤は例によって爆安ブリリアントクラシックスのバッハ全集ボックスの1枚。ネーデルランド・バッハ・コレギウムによる演奏。フリーデマン・バッハが付け加えた打楽器とトランペット等は除かれた編成で演奏されている。ちょうど一年前にも記事に書いているの再掲しておく。

ルターの宗教改革記念日である1724年10月31日に際し作曲されたとされ、ルーテル派教会暦では10月31日を前にした日曜日を現在も記念日として礼拝を営むそうだ。ルーテル派のコラールとしてもっとも有名なものの一つである<われらが神は堅き砦=神はわがやぐら>が使われている。メンデルスゾーンの交響曲第5番<宗教改革>でも使われている有名なテーマだ。全8曲以下の構成。

 第1曲 合唱『われらが神は堅き砦』(Ein feste Burg ist unser Gott)
 第2曲 アリア『神より生まれし者はすべて』(Alles, was von Gott geboren)
 第3曲 レチタティーヴォ『思い見よ、神の子とせられし者よ』(Erwage doch, Kind Gottes)
 第4曲 アリア『来たれ、わが心の家に』(Komm in mein Herzenshaus)
 第5曲 コラール『悪魔が世に満ちて』(Komm in mein Herzenshaus)
 第6曲 レチタティーヴォ『さればキリストの旗の下に』(So stehe denn bei Christi blutbefarbten Fahne)
 第7曲 二重唱『幸いなるかな』(Wie selig ist der Leib)
 第8曲 コラール『世の人福音を蔑ろにせしとも』(Das Wort sie sollen lassen stahn)

第1曲冒頭からニ長調の壮大なコラールで開始される。声楽四声による大規模なカノンで、オルガンの重低音も加わって壮麗に響く。第2曲では弦楽の少しせわしない動きをバックに、ソプラノが例のコラール<神はわがやぐら>を歌い、バスがそれを支える。ソプラノにユニゾンで合わせるオーボエがなかなかよいアクセントになっている。第3曲、バスのレチタティーヴォに続き、第4曲ではロ短調に転じてオブリガート・チェロに導かれソプラノのアリアが美しく歌われる。第5曲のコラール<悪魔が世に満ちて>はめずらしく4声の斉唱(ユニゾン)で歌われ、戦いを象徴するかのようなオケパートのせわしない動きの中で、力強い神のユニゾンが響く。

ぼくは特定の宗教的背景を持たないので、このカンタータの元になっている<われらが神は堅き砦>のテキストそのものにはまったく不案内であるが、戦いと勝利への道が、全編を通して陽性の響きと共に描かれる。冒頭の壮麗なコラールに加え、オーボエやオーボエダカッチャのオブリガートが美しさを引き立てる、素晴らしい曲だ。
バッハは彼が過ごしたその土地土地で、教会歴にそった毎日曜のミサのためにカンタータを作曲していった。300年をへた今、それをたどるように毎週一曲ずつ、そのときの教会暦に沿ったカンタータを聴くという試みは多くのバッハファンがすでに行っているところだが、なるほど、バッハを聴く楽しみと意義、ここに極まれリというところだろうか。


以下は合唱団をおかず、各声部1名(OVPP=One_Voice_Per_Part)による小編成での演奏。躍動的で小編成ながらまったく不足感はない。録音状態もいい。ヘッドフォンで聴いていてもオルガンのペダル音とコントラバスの低音がしっかりと聴こえる。 冒頭からカノン風にテーマが引き継がれ1分14秒にコントラバスとオーボエが例のコラールを提示して全声部が合体する。ジェズアルド・コンソート・アムステルダムによる演奏。チェンバロを弾き振りしているのはピーターヤン・ベルダー。多くの古楽セッションにも参加しているベテランで、手持ちブリリアント盤バッハ全集にも顔を見せている。19分50秒から、オーボエダカッチャのオブリガートが美しい。


ヘルヴェッヘによる演奏。フリーデマン版を使用。冒頭からトランペットも加わり、より華やかな響きだ。



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川畠成道<美しき夕暮れ>



週明け月曜日。仕事帰りにちょいと寄り道。8時少しまわった頃に帰宅した。関東の秋も深まりつつあり、あす朝の気温は10℃を下回る予報。さて、季節の変わり目、風邪など背負い込まぬように早寝が肝心だが、少し時間があるなと、寝酒代わりにヴァイオリンの小品集を取り出した。


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2007年春発売の川畠成道のアルバム。60年代にカラヤン&ベルリンフィル他、独グラモフォンの名録音の収録に度々使われたベルリン・イエスキリスト教会で録音された。だいぶ前に一度記事にしているので再掲しておく。滅多にレギュラープライスの新譜や話題の盤を手にすることはないのだが、この盤は数年前たまたま駅前の大手スーパー閉店セールで半額の赤札が付いて、他のいくつかの盤と一緒にレジに持っていった。。収録曲は以下の通り。ヨーロッパの中心から少し離れたスラヴやジプシー由来の音楽、フランス近代や映画音楽など、中々考えられた小品集。

•美しき夕暮れ(ドビュッシー)
•ユモレスク(ドヴォルザーク)
•ルーマニア民族舞曲(バルトーク)
  棒踊り/腰帯踊り/足踏み踊り/角笛踊り/ルーマニア風ポルカ/速い踊り
•剣の舞(ハチャトゥリアン)
•熊蜂の飛行(リムスキー=コルサコフ)
•ニーグン(ブロッホ)
•白鳥(サン=サーンス)
•スペイン風セレナーデ(シャミナード)
•ギターレ(モシュコフスキー)
•ツィガーヌ(ラヴェル)
•ハンガリー舞曲NO.7(ブラームス)
•ただ憧れを知る者のみが(チャイコフスキー)
•アヴェ・マリア(カッチーニ)
•ひばり(デニィーク)
•ひまわり(マンシーニ)

雑誌を眺めながらオーディオのボリュームを少し絞り気味にしてプレイヤーのスタートボタンを押すと、アルバムタイトルになっているドビュッシーの<美しき夕暮れ>が、ハッと耳をひく音色で流れてきた。録音の調整具合もあるのだろうが、ぼくのセットで聴く限り、丸みを帯びた、やや鼻が詰まったような懐かしくも美しい音色だ。ドビュッシーのこの曲に実に相応しく、思わず雑誌から目を離し、しばしスピーカーに耳を寄せて聴き入ってしまった。20曲に及ぶ収録曲。技巧的な曲と豊かな歌にあふれる曲と入り混じっているが違和感は感じない。全体を不思議な静寂と抑制が支配しているように感じる。バルトークのルーマニア民族舞曲では力強いボウイングで民族的な雰囲気をよく出しているが、決して荒っぽく叫んではいない。シャミナードのスペイン風セレナードとモシュコフスキーのギターレなどは軽やかかつ穏やかな仕上がりだ。

こうしたポピュラー小品は弾き手のセンスがそのまま出る。キャッチーなメロディーにあふれる小品群は安易に弾いてもそれなりに聴き手を楽しませるが、少し身を入れて聴くとそうした演奏はすぐに馬脚をのぞかせ、およそ鑑賞に耐えない。この盤ではそうした危惧は皆無だが、惜しむらくは伴奏を付けているロデリック・チャドウィックのピアノが録音バランスのためか、少々デリカシーに欠けるときがある。もう少し控え目であってほしかった。川畠成道のヴァイオリンはどの曲にも真剣、真面目、誠実に取り組んでいる様子が独自の美しい音色を通して伝わってくる。夕映えを面に受けたジャケット写真の印象そのままの、自然で心にしみるアルバムだ。


フォーレ<夢のあとに> 歌曲版、チェロ版、それぞれにいいが、控えめなヴァイオリンで奏するとこの曲のはかなさがよく出るに思う。


2012年9月の演奏。横浜で活動する音大OGオケの演奏会。
モーツァルトのVn協奏曲第5番から第1楽章。




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SACD vs CD



十月も下旬。陽射し程々ながら穏やかな週末。昼をはさんで少々時間があったのでオーディオセットのスイッチを入れ、そういえばと思い出し、先日知人から借りた音盤を取り出した。


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先回の記事に書いた東京コレギウム・ムジクムの演奏会。その案内を届けてくれた知人が一緒に持参してくれたのが、五嶋みどりと今井信子によるモーツァルトのドッペル<ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲ニ長調>。そのSACD盤。なんでも知人のそのまた知人がダブり買いをしてしまったのでと譲り受けたとのこと。しかし知人がSACD用の装置がなく、与太さんよかったら聴いてみる?…となった次第。 この演奏は以前から愛聴盤のひとつ。演奏内容はもちろん、録音も素晴らしくいい。手持ちの盤は当然CD盤で、同じ演奏をSACDと聴き比べるのは興味あるところだ。

CDはラックスマンのL-500に、SACDはデノンのDCD-1500にセットした。L-500は名器ながら20年以上前のもの。デノンのDCD-1500はエントリークラスで筋金入りのオーディオマニアからみればおもちゃレベルだろう。音盤の音質比較をするのに違うプレイヤーで、それもメーカーも世代も違う…そんなもの比較にも何にもならないだろうという突っ込みどころはいくらでもあるのは承知。もちろんCDもSACDもOKのDCD-1500で比べることは可能だが、ぼくの知覚能力ではディスクを入れ替えている間に音の記憶が薄れ、比較できる自信はない。というわけで、まあ、ちょっとしたお遊びレベル。そのあたりはどうかひとつ…。ちなみにアンプはこれまた古めのラックスマンL-570、スピーカは昨年入れ替えたアヴァロンECLIPSE

SACDが世に出てかなり年月が経ち、プレイヤーもSACD対応機種がほとんどではあるが、メディアとしてのSACDは一向に普及せず、一時は風前のともし火になった。近年、SACDのDSD形式がハイレゾやネット配信などとの相乗効果で息を吹き返しつつあるといった状況だ。理由はいろいろあるだろうが、CDフォーマットの限界は登場当初から議論されていたものの、現実的にはCDでも十分に高音質が楽しめるというのが最大の理由だろう。実際ぼくの手持ちに中にもSACD盤は10枚とない。とはいっても、知覚能力の高い人はその違いが十分感じ取れるだろうし、もうあとには戻れないというSACD派もいるだろう。もちろんマルチチャンネル再生となればSACDの独壇場だ。

さて結果はどうだったか。
両音盤をそれぞれプレイヤーにセットし、楽曲がほぼ同時進行となるようにプレイボタンを押した。
まずはL-500によるCDを聴く。二人の奏する名工グァルネリ作のヴァイオリンとヴィオラの音色がともかく美しい。五嶋みどりのヴァイオリンはいつもながら音程が完璧、かつボーイングも均一で安定していて、あまりに正確過ぎて一聴すると線が細いと感じるほどだ。今井信子のヴィオラもさすがに世界のトップ。五嶋みどりに劣らず正確なピッチで、滑らかで暖かいヴィオラの音が堪能できる。今井信子はこの曲を弾くに当たって、楽譜の指定に従い調弦を半音上げたスコルダトゥーラで演奏している。これによって、原調の変ホ長調がヴァイオリン族でも最も弾きやすく音の出やすいニ長調で記譜されることになる。事実ヴィオラの発する音も張りのある音色で、ヴァイオリンとの「対比」というより「調和」を感じさせる。エッシェンバッハ指揮のNDR響もドイツの伝統あるオーケストラの実力を感じさせる安定した響きと落ち着いた渋い音色で申し分ない。録音も、クリアに録られた二人のソロと前後左右に展開するオケのバランスがよく、目を閉じて聴くとステージイメージも十分想像できるほどだ。CDで聴いてこれといった不満を感じない。 次にアンプの入力をDCD-1500に切り替えてみる。入力切替えのリレー音に続いて一瞬のミュートが入ってからSACD盤からの音に切り替わる。…う~ん、違う!二人のソロがよりクリアになり、オケ部とのコントラストが明瞭になる。オケ部の各パートもCDよりも更によく分離する。低弦群なども、コントラバスの弾くトリルの一音一音がはっきりとわかるほど。全体の響きも前後左右そして上下方向まで一段と広がり豊かになる。これはいい!思わずニヤッとし、しばし聴き惚れてしまった。

事前の予想では、ぼくの駄耳では違いに気付かないだろうと、(謙虚に)思っていたのだが、予想は一聴して覆された。何度もCDとSACDを行ったり来たりしたが、CDに切り替えるたびに音全体の解像度は下がるのを実感する。もっともそのままCDを聴き続けるとすぐに耳が慣れ、十分高音質に聴こえてくる。手持ちの盤をこれからSACDに買い替えるほど意気込みはないが、録音の良さにも魅力を感じて今後新しい盤を手に入れるようならばSACDを選択してみたいと思う。スピーカを含めた再生環境が音の広がりや空間再現性まで考慮できるレベルにあり、そうした要素をリスニングの対象として重視するなら価値有りというのが、きょうのところの結論だ。繰り返すが、プレイヤーが違うので、この違いが盤の違いとは断言出来ない。機会をみて同じCD盤を今回の二つのプレイヤーにそれぞれセットして、プレイヤー側の違いを確認してみたい。


この演奏の音源で第1楽章。何度聴いてもいい曲だなあ…。YouTube音源につき空間再現性云々は難しい。


同第2楽章。https://youtu.be/xOOftaGcsOs
同第3楽章。https://youtu.be/Uq1JtYHOC4o

モーツァルト作曲VnとVcのためのドッペル?!
ヨーヨーマがヴィオラパートを弾いている演奏。アイザック・スターンのヴァイオリン。



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東京コレギウム・ムジクム合唱団第6回定期演奏会


先日、知人から演奏会の案内が届いた。
東京コレギウム・ムジクム合唱団の定期演奏会がきたる11月6日にあるという。知人からは「与太さん、俗にまみれた日常を純粋なるハーモニーで清めてみてはどう?」とのお誘い。「ぼくが行けるかどうかわからないけど、ブログネタで紹介しておくよ」と、俗な返答をして案内を受け取った。


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東京コレギウム・ムジクム合唱団TCMCは、30名ほどのメンバーからなるアマチュア合唱団。1975年に大阪ハイリッヒ・シュッツ室内合唱団を創立し、ルネサンスから現代音楽まで広く活躍して高い評価を受けている当間修一氏が主宰している。なんでも当間氏による合唱講座に端を発して2010年に創立されたそうだ。 次第は以下の通り。ご都合つく方はぜひどうぞ。

日時:2016年11月06日(日)
開場:15:30 / 開演:16:00
会場:かつしかシンフォニーヒルズ アイリスホール
   (京成線青砥駅下車 徒歩5分/京成立石駅下車 徒歩7分)
指揮:当間修一 / ピアノ:小枝佳世
<演奏曲目>
◇I Would Be True
 The Gift Of Charity
 Jesus Child
 Distant Land
 永遠の花 A flower remembered (John Rutter)
◇Komm, Jesu, komm BWV 229
 来ませ、イエスよ、来ませ! (J.S.Bach)
◇無伴奏混声合唱のための ざんざんと降りしきる雨の空に (寺嶋陸也)
◇五つの混声合唱曲 飛行機よ (萩京子)

合唱にはとんと縁がなく、このプログラムで察しがつくのはバッハのモテト、それとジョン・ラターの作品くらい。案じた知人が貸してくれたCDを聴くといずれも耳に心地よく響く。
ジョン・ラターは以前人気曲<レクイエム>の盤を記事にしたが、そのイメージと重なるもの。<永遠の花>は東日本大震災のあと、東北における合唱の復興を支援する団体<Harmony for JAPAN>が日本でも人気の高いラターに委嘱して作られたという。 寺嶋陸也の<ざんざんと降りしきる雨の空に>もまた、震災で被災した須藤洋平氏の詩をテキストとしているそうだ。 萩京子の<飛行機よ>のテキストは寺山修司の作品。寺山修司について何も知らないに等しいぼくなどが印象を語るのはまったくもってはばかられるのだが、寺山修司と聞いてイメージする暗い小劇場と昭和の匂いからは遠く、どこか懐かしくも清々とした憧憬が目に浮かぶ。


一時間余の合唱コンサート。冒頭でジョン・ラター<永遠の花>が歌われ、以降様々なフォーマットによる合唱の<今>が続く。


日本の日常の中で歌い継がれていきますように。


バッハのモテトBWV229。今回TCMCは8声のアカペラを二つに分けて対向配置で歌うとのこと。



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プロフィール

マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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