新日本フィル:室内楽シリーズ#110
きのう7月12日の夜は、久しぶりにすみだトリフォニーへ。
都内での仕事が夕方までに終わる見込みだったので、昼前に新日本フィル事務局へ電話。当日券も余裕があるというので、それではと、仕事を終えたその足で錦糸町へ向かった。

新日本フィルの室内楽シリーズを聴くのは二年ぶり。これまでも面白そうなプログラムは何度かあったが、失念したり、タイミングが合わなかったりと、縁遠くなっていた。今回の演奏会は少し前に知り、そのプログラムに惹かれ、興味をもっていた。今回の主役はコントラバス。それもカルテットでイタリア協奏曲をやるというので、これは聴き逃せないと思っていたのだ。演奏曲目他、以下の通り。
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J.S.バッハ:イタリア協奏曲ヘ長調 BWV971(コントラバス四重奏、編曲:村松裕子)
J.S.バッハ:狩りのカンタータ BWV208より アリア「羊は安らかに草を食み」(コントラバス五重奏、編曲:渡邉玲雄)
―休憩―
J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲ト長調BWV988(弦楽三重奏、編曲:ツィンツィエフスキ)
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ヴァイオリン:松崎 千鶴 ヴィオラ:濵本 実加
コントラバス:竹田 勉、渡邉 玲雄、城 満太郎、片岡 夢児、村松 裕子
2017年7月12日(水) 19:15~ すみだトリフォニーホール・小ホール
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日頃、管弦楽を聴くとき、しばしばコントラバスパートの動きに耳がいく。低音フェチというわけではないが、オーケストラにおけるコントラバスは、その音響の根幹を成す。和声の基音を支えるのはもちろんだが、ルートをはずして三度や減七の構成音をピチカートでポンと響かせる場面や、オスティナートで曲の進行を支える場面など、他のパートを差し置いて、ヨシヨシと一人合点しながら聴く。そんなコントラバスが主役になってバッハをやるというから、これには大いに期待した。
まずはイタリア協奏曲。原曲はチェンバロでもピアノでも親しんでいて、バッハの鍵盤曲の中でもっとも好きな曲の一つだ。この曲は第1楽章最初のフレーズで全体の印象がかなりの確度で決まる。決然としたグールドの開始はその最たるものだ。さて、コントラバスの4本の響きやいかに…。
…う~ん、少々期待が大き過ぎたか…。冒頭の4小節でそんな印象を受けた。
コントラバスの音域のうち低い方、3弦C以下の音域での三度のハーモニーや動きの速いパッセージは、いくら上手く弾いても音響的には効果的でない、あるいはむしろ逆効果になる場合が多いように感じる。ハーモニーを構成する音自体の純度が下がるし、速いパッセージはゴソゴソと響くだけで、極端にいえば何を弾いているの分からないことがある。オーケストラではそういう響きが全体の音響に効果的に働いて、低音域の迫力につながることも多いが、一つひとつの構成音が命のカルテットではマイナス面が多いと感じた。
ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロなどとは違うヴィオール族をオリジンにもつコントラバスは、4度調弦であることや胴から出たネック部の音域などの制限からだろうか、中高音以上での速いパッセージは運動性、音程とも、想像以上に難しいのだろう。新日本フィルの4名の奏者はみな闊達な弾きぶりであったが、さすがに最高域でのコントロールは甘くなりがちだった。もっともそれは聴く方も折り込み済み。むしろ最低域での速いパッセージや和声の純度がポリフォニックな部分で足を引っ張ってしまう感じであった。それが証拠に、第2楽章や2曲目<狩のカンタータ>のアリアなどでは、抑え気味の伴奏パートと、中高音を駆使して歌うソロパートとのコントラストが明確で、4本のコントラバスが効果的に役割分担していて十分楽しめた。
さて、休憩をはさんで、弦楽三重奏によるゴルトベルク変奏曲。
ゴルトベルクの弦楽版はシトコヴェツキーによるものが有名で、手元にも彼が主宰した弦楽合奏版の音盤がある。三重奏版はヴァイオリン、ヴィオラ、チェロによるが、今回のものはチェロに代わってコントラバスが使われている。ヴィオラの音域からかなり離れたコントラバスがどんな風に響き、全体を支えるのか、そのあたりに興味がいく。
コントラバスアンサンブルの勇壮なステージから打って変わって、ヴァイオリンとヴィオラをもったドレス姿の女性奏者がステージに立つと、一気に華やいだ雰囲気に。 ゆっくりめのテンポで出だしのアリアが奏される。伸びやかなヴァイオリン、中声部を埋めるヴィオラの暖かい音色、そしてコントラバスはチェロの中低域あたり、コントラバスでは中高音あたりを中心とした音域を使い、程よい重量感で全体を支え、実にいい響き。出だしのワンフレーズで懸念も不安も払拭され、音楽に惹きこまれる。
例によって<三>を基調とするバッハ特有の修辞が込められた曲の構成は、3曲ごとにカノンを配してギアチェンジしている。音盤では何度も聴いている曲だが、これほど集中して聴くのは初めてだ。そして、各変奏曲に施された多様な和声と曲想にあらためて驚嘆した。弾き手にも相当な緊張感を強いるのだろう、途中何度もハンカチで汗を拭いながらの60分を超える熱演。そして、最後にアリアが回帰されたとき、聴き手、弾き手ともに心の中の安堵を感じたに違いない。
コントラバスアンサンブルという貴重な当夜の演奏会。イタリア協奏曲ではやや期待が過ぎた感があったが、果敢な試みにはブラヴォー!ゴルドベルク変奏曲のチェロ版三重奏に勝るとも劣らない効果的な出来栄えにもブラヴォー! 終演9時。緊張も解け、程よい疲労感の中、昼間の熱気がまだ残る道を錦糸町駅へと向かい、帰途についた。
シトコヴェツキー編の弦楽三重奏版(Vn、Va、Vc)によるゴルドベルク変奏曲。
今回演奏されたツィンツィエフスキー編(Vn、Va、Cb)による音源。今回の演奏会をプロデュースした新日本フィルのコントラバス奏者:城満太郎氏はツィンツィエフスキーと古くからの知り合いで、この編曲をツィンツィエフスキーから知らされたとのこと。今回の演奏がツィンツィエフスキー版の日本初演だろうとのこと。
これは番外。リコーダーを弦楽合奏によるイタリア協奏曲。
★★追伸★★
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