本邦初お目見え セバスチャン・ステンツェル作ギター
「与太さん、例の楽器が入ったので見に来ませんか」
恵比寿のクラシックギター専門店「カリス」の店主T氏からメール。昨年秋にお邪魔した際、「近々ドイツの珍しい楽器が入荷予定なので、入ったら連絡します」と話の出ていた楽器がようやく届いたらしい。他にちょっと気になった楽器があったこともあり、きょう都内での仕事を早々に切り上げてさっそくお邪魔することにした。


ドイツ在住のセバスチャン・ステンツェルという製作家の手になる最新作。なんでも日本には今回初めて上陸したらしい。すでに欧州や米国(例のGSI)そして中国には紹介されているとのこと。ぼくも今回初めて聴く名前だった。ウェブサイトをみると相応のキャリアもあるし、ウードの製作でも有名のようだ。 表板はスプルースの色白美人。横裏はハカランダで裏板センターにメイプルの化粧が施されている。ロゼッタやヘッドのモザイクにも程々の装飾。全体に工作精度は高く、細部まで入念に仕上げられている。弦長650ミリで、ボディサイズ・重量とも中庸。ネックはVジョイント。表板のブレイシングは6本の扇形とのこと。6本というのはちょっと珍しいが、総じてオーソドクスに作られているうようだ。
店主Tさんが調弦しているときから、並々ならぬ音圧で店内に音が響く。手に取ってそろそろと弾き始める。低い方から高い方までひと通り音出ししてみると、どの音域も軽いタッチではじけるように鳴る。手元での響きも豊かで、少し響きが過多かなと感じたが、3メートル程離れて聴いていた店主Tさん曰く、明快な輪郭をもった音が飛んでくるとのこと。響きが多過ぎて、和音が団子になったり、音のつながりが不明瞭になったりということは無さそうだ。強いタッチにもリニアに音圧が上がっていく。一方で、タッチの軽重に関わらず軽く発音することと、手元での響きが豊かなことから、タッチによる音色の変化が少し付けにくいかなと感じた。もっともこれはぼくの技量の未熟さゆえが主因だろうが、今風のよく鳴るギターには共通した特徴ともいえる。総じて軽いタッチでも強い音圧が確保できることから、アルアイレ主体のタッチで運動性を重視し、音色の機微よりは音量のダイナミクスで曲を作る、現代風の演奏形態にはジャストミートの楽器だと感じた。また他の楽器とのアンサンブルでも威力を発揮しそうだ。大音量といっても、サイモン・マーティーのように楽器重量が通常の倍近くあったり、あるいはダブルトップの、音量はあるがやや単調な音色に違和感を感じる向きにも、基本構造がオーソドクスなこの楽器は受け入れられやすいかと思う。
右=ステンツェル 左=シャルバトケ 奥=レオナ

さて本邦初入荷のギターに続いて弾いたのは、以前から気になってはいたものの出会うことがなかった、やはりドイツの製作家:ローランド・シャルバトケのギター。プロにも愛好者が多いと聞く。今回弾いたのは1999年作のもの。表板スプルースと横裏ハカランダ。特注と思われるロジャースのペグがヘッドに埋め込まれるようにセットされている。そして特徴的なヘッドデザインでシャルバトケ作と分かる。 先のステンツェルと弾いたあとにこのシャルバトケを弾くと、なんともホッとする音だ。低音域も高音域も音量は十分あるが、全体にスッキリとした鳴りと響き。特に高音の透明感ある音色ときれいに収束するサステインは実に美しく、タッチによる音色変化も付けやすい。最近弾いた中でもトップクラスの美しい音のギターだった。
長居は禁物と思いながら、ちらっと眼に入ったりスリムボディーの楽器も弾かせてもらった。80年代中庸の企画物とでもいうべきトーレスモデル:レオナギター。当時の日本の製作家数名によるトーレスレプリカの競作。今回のものは1983年中出治作のもの。レオナはこれまで何度か出会って弾いたこともあるが、今回のものは状態もよく30年を経て枯れた音色も中々魅力的だった。板厚薄く重量も軽いことから、19世紀ギターに近いような鳴り方で、ポンとはじけて短めのサステインで収束する。音量感も手元では十分にある。この楽器でコンクールに出ようというようなものではないが、座右において古典やタレガあたりの小品を楽しむには好適の楽器だと感じた。
性格の異なるギターを3本弾いたあと、恵比寿駅で買い求めて手土産に持参した御門屋の揚げ饅頭を頬張りながら店主Tさん&奥様としばし歓談。平日の昼下がりということもあって他に来店客はなく小一時間、静かに試奏の儀 in 恵比寿を楽しみ店をあとにした。
ステンツェル2017年作@米国ギター販売店GSI。
ローランド・シャルバトケ2005年作
製作家セバスチャン・ステンツェル
製作家ローランド・シャルバトケ
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