エルマンのクライスラー
例年はちょうど今頃の4月第1週あたりに満開を迎える当地の桜も、今年はもうすっかり散ってしまった。2週間以上好天続き。そういえば、知人の新作ギターが乾燥の影響でちょっとしたトラブルに見舞われたとのこと。4月、5月は意外に乾燥するようで、ぼくも以前この時期に横板にクラックが入った経験がある。要注意だ。
さて、週半ばの木曜日。明日からはいよいよ五郎君再登場。いろいろ気ぜわしくもある新年度スタートだが、忙中閑あり。ちょっとノスタルジックなこんな盤を取り出した。

オールドファン、それもぼくらアラカン世代のひと回りがふた回り上の世代には懐かしいミッシャ・エルマン(1891-1967)。たまたまネットを覗いていたら、きょう4月5日はエルマンの命日だそうだ。19世紀末生まれでSP時代からの盤歴を持つエルマンの録音はCD時代になってからは中々入手が難しかった。このクライスラー小品集は10年程前、日本コロンビアのヴィンテージシリーズとして廉価盤で復刻されたときに手に入れた。収録曲は以下の通り、クライスラーのお馴染みの曲が少し珍しい曲も含めて収められている。録音は1960年と最晩年の1966年。
愛の喜び/スラヴ舞曲 作品72の2/美しきロスマリン/
ジプシーの女/ベートーヴェンの主題によるロンディーノ/
ウィーン奇想曲/グラナドスの様式によるマラゲーニャ/
コレッリの主題による変奏曲/マルティーニの様式による 「祈る女」/
ボッケリーニの様式によるアレグレット/フランクールの様式によるシチリアーノとリゴードン/
スラヴ舞曲 作品46の1/プニャーニの形式による前奏曲とアレグロ/
マルティーニの様式によるアンダンティーノ/クープランの様式による 『才たけた貴婦人』/
スラヴ幻想曲 ロ短調
エルマンの名でまず語られるのは<エルマン・トーン>と称されたその特徴的な音色だ。太く、甘く、たっぷりとした音、ちょっと鼻にかかったような、周波数レンジの狭いSP盤のような印象さえある特徴的なもの…そんなイメージだろうか。ヴァイオリンに関してはまったく不案内なので、その秘密を語ることは出来ないのだが、楽器そのものや楽器細部の調整、弦や弓の選択、そしてボーイングの力加減や左手の押弦、そうしたものが合わさって出てくるものだろう。時代からしてもクラシックギターにおけるセゴヴィア・トーンと状況は似ているかもしれない。
しかしこの盤で聴ける音色は60年代のステレオ録音であることも手伝って、そうした先入観なしで耳を傾ければ、それほどオールドファッションという感じはない。再生装置の傾向もあるだろうが、意外にも音はシャープかつ繊細だ。もちろん音は太く豊かに響き、ヴィブラートのかけ具合も現代のスタンダードよりたっぷりしているが、いかにも古いなあというほどではない。もっともエルマンの真骨頂はSP時代までで、晩年は技術的にも衰えがあって万全ではないというのが定説でもある。
演奏のスタイルは19世紀的要素を持ち合わせた、ロマンティックに寄った解釈だが、甘くはあっても歌いまわしは中々繊細で、こってり厚化粧で全体に反応が鈍くて、という感じはまったくない。クライスラーの小品にはぴったりだ。また、晩年の録音というこもあって、速いテンポで鮮やかに弾き切るというものではないため、全体にゆっくりしたテンポを取っているが、それが曲を深く見据えることにもつながり、一つの味わいになっている。昨今ではこうした際立った個性の音色を持つ奏者は、どの楽器でも少なくなってしまった。
この盤の音源で、クライスラーの<フランクールの様式によるシチリアーノとリゴードン>
<美しきロスマリン>を弾くエルマン。この盤の録音と同時期1962年のものとのこと。
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