R・シュトラウス 交響詩<ドン・ファン>



連休明けの一週間が終了。業務少々ひっ迫であわただしく過ぎる。それでもサラリーマン人生ピークの五十代半ばのように夜討ち朝駆け、月月火水木金金ということもなく、万事ユルユル。まあ、四十年も働いているのだから、こんなもんでエエでしょう。…というわけで、さて週末夜半の音盤タイム。朝の移動時間にYOUTUBE音源で聴いたこんな盤を取り出した。


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リヒャルト・シュトラウスの交響詩<ドン・ファン>。ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団による1957年の録音。手持ちの盤は数年前にリリースされた同コンビの一連の録音中のもの。2枚組のセットで、このコンビが残したリヒャルト・シュトラウスのステレオ録音がすべて収められている。

<DISC1>
1.家庭交響曲作品23
2.ホルン協奏曲第1番変ホ長調作品11
3.交響詩「ドン・ファン」作品20
<DISC2>
4.交響詩「死と変容」作品24
5.交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」作品28
6.交響詩「ドン・キホーテ」作品35

【ソロ】3.マイロン・ブルーム(ホルン) 6.ピエール・フルニエ(チェロ)、エイブラハム・スカーニック(ヴィオラ)、ラファエル・ドゥルイアン(ヴァイオリン)

交響詩という名の通り、モテ男ドン・ファンの行状が様々なテーマで表現される。適当な解説書を手元において聴けば、なるほどなるほどということになるが、前置きなしで聴いても、リヒャルト・シュトラウスの作品の中にあっては小規模ということもあって、十数分があっという間に過ぎる。学生時代に初めてリヒャルト・シュトラウスを聴いて面白いと感じたのもこの曲だった。

そのキャリアおいてリヒャルト・シュトラウスと少なからず関係のあったセル。鍛え上げた手兵クリーヴランド管との演奏は相変わらず精緻極まるもの。冒頭から速めのテンポでグイグイ進むがラフなところがまったくない。弦楽群が主役をとってメロディーを奏でる裏で細かなパッセージを奏でる木管群も一糸乱れぬアンサンブルの見事さに驚く。軸足古典寄りの解釈で、まるで少し時代をさかのぼったベルリオーズの序曲のように響く。後期ロマン派の濃厚なロマンティシズムとは対極の演奏だが、リヒャルト・シュトラウスが書いたスコアの隅々まで聴くには好適な演奏だ。


この盤の音源。


カラヤン&ベルリンフィル@1957年来日公演。画像は古いモノクロだが音声はステレオで録られている。以前この映像を復刻したとき(確か2000年前後だったか)NHKの番組で、画像と音声の同期を取る作業が大変だったと紹介されていた。セルとは異なり、官能的ともいえる濃い目のロマンティックな解釈を聴かせる。6分半過ぎから美しいオーボエソロを聴かせるのはローター・コッホ。コンサートマスターはミシェル・シュヴァルベですかね。



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ジョン・ウィリアムス 日本デビュー盤



先日のジョン・ウィリアムスの記事に続きで、こんな盤を取り出した。


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1963年キングレコード発売のジョン・ウィリアムスのLP。収録曲は以下の通り。トローバとポンセという、当時の盤としては中々玄人好みの選曲だ。

 ソナチネ、夜想曲、カスティリャ組曲(以上トローバ)
 ワルツ、主題と変奏・終曲、12の前奏曲(以上ポンセ)

ジョンというとCBSのイメージがあるが、CBSと契約したのは1964年で(先日の記事に書いた盤がCBS最初の録音)、それ以前の録音がウェストミンスター他から出されている。ジョンのファンサイトにあるディスコグラフィによればこの盤は1961年の録音で、彼の3枚目のアルバムにあたる。先年リリースされたボックスセットも、CBS及びCBSソニーでの録音を集めたもので、それ以前の盤は含まれていないようだ。このキング盤はおそらく日本での最初のアルバムだろう。そしてこのレコードが出た1963年にジョンは初来日している。

先日の記事にも書いた通り、クラシックギターを始めた70年代初頭の高校生の頃、ジョンの演奏がすこぶる気に入っていた時期がある。自在極まるセゴヴィアや時々妙なアーティキュレーションを繰り出すイエペスに馴染めなかったのだ。ジョンは正確無比できっちり型に収まる演奏という印象で、何よりもその正確さが十代にぼくには魅力だった。この盤はジョンの最も初期のものの一つで、セゴヴィアからプリンス・オブ・ギターの名を冠されていた時期だ。今聴くとさぞやつまらない演奏ではないかと予想しながら針を落としたのだが、見事に裏切られた。

トローバもポンセも、無論正確でおよそミステイクなどとは無縁の弾きっぷりだが、味気ないという印象はない。少なくても当時よくあったラテン系奏者の拍節感のない歌いまわしより余程好感が持てる。普遍的なヨーロッパの音楽を感じさせる弾きぶりだ。録音当時の楽器はおそらくエルナンデス・イ・アグアドであったと思うが、録音された音は不要なエコーも少なくギターの素の音が聴こえ、低音もたっぷりとし高音は妙な甘さはなくすっきりしている。当時寵愛を受けていたセゴヴィアからの影響も随所に感じられる。フレーズが切り替わったときの音色変化、和音の弾き方、ちょっとした見得の切り方など、セゴヴィアの録音を彷彿とさせる箇所かいくつかあった。もちろん音色そのものと音楽の拍節感がまったく違うので、全体の印象は対極にあるように感じる。


1971年に作られたドキュメンタリー。スカルラッティ、アルベニス、ポンセ、ザグレラスなどポピュラーな曲を弾いている。この当時の愛器はエルナンデス・イ・アグアド。


モレノ・トローバの<夜想曲>。 70年代までのジョンの盤は手元にいくつかあるが、80年代以降はぼく自身がギターから離れていたこともあってよく知らない。この音源も再録のもの。取り上げた盤の演奏とはかなり印象が異なる。



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セルのブルックナー第3



連休明けの月曜日。休み疲れもものかは、本日も産業立国日本のため業務に精励。7時過ぎに帰宅した。雨夜の品定め、もとい音盤定め。こんな盤を取り出した。


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ジョージ・セル&クリーヴランド管弦楽団によるブルックナーの交響曲第3番ニ短調。1966年同コンビの本拠地セヴェランスホールでのセッション録音。手持ちの盤は数年前にこのコンビの録音がまとめて再リリースされたときのもので、第8番ハ短調とカップリングされた2枚組。8番は以前からLPで保有していたが、第3番はこの盤でようやく接した。1889年第3稿ノヴァーク版による演奏。

ブルックナーの交響曲に接したのは大学時代の70年代半ば。最初に聴いたのはお約束通り第4番だったと思うが、ブルックナーに心酔し、それこそ寝ても覚めての状態になったのは第5番や第8番を知ってからだったように記憶している。4・5・7・8・9番と親しみ、ついで第6番。やや遅れてこの第3番といった順序だった。20代にいやというほど聴いたためか、昨今取り出す機会が少なくなった。取り分け第3番を聴くのは久々だ。

あらためのこの曲を通して聴くと、第1楽章などはその規模の大きさに比して、素材の熟成がいま一つで、散漫な印象を禁じ得ない。展開するようでしない、盛り上がるようで盛り上がらない…そんな感じは他のブルックナー作品にもままあることだが(そこが魅力でもあるのだが…)、この曲の特に第1楽章は、どうなるどうなると思っているうちに終盤を迎える感がある。この曲の熱心なファンからすれば「聴く耳持たぬ与太ごときに何が分かるか…」と言われそうだ。まあ、それももっともだろう。 第2楽章は冒頭から美しいフレーズが展開する。第3楽章の旋回フレーズは、テンポを伸ばしたらレントラーになりそうで(イ長調に転じるトリオはまさにレントラー感MAX)、オーストリアのローカル風情に通じる感がある。

セルとクリーヴランド管の演奏はいつもながらの精緻極まるもの。ヴァイオリン群が歌う旋律のピッチやボウイングが実によく整っていて、とかく肥大しがちなブルックナーの音楽がまるで室内楽のように響く。録音もかつてたくさん出ていた同コンビの廉価盤LPの印象とはまったく異なり、十分良質に改善されている。


この盤の音源。美しい第2楽章は20分13秒から。


この盤の録音と同時期。ウィーンフィルとのライヴ。



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ジョン・ウィリアムス(G)のCBS初期録音



好天続くゴールデンウィーク。きのうに比べ気温も上がって気持ちによい夜。こんな盤を取り出した。


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70年代初頭、高校時代に買ったジョン・ウィリアムス(1941-)の盤。ジャケットはオリジナル初出時のものとは異なると思うが、内容は彼のCBSへの最初の録音(1964年)そのものだ。収録曲は以下の通り。

<A>
J.S.バッハ/組曲第4番ホ長調 BWV1006
<B>
アルベニス/セヴィーリヤ
タレガ/アルハンブラ宮殿の思い出
トゥリーナ/ファンダンギーリョ、ソレアレス、ラファガ
カタルーニャ民謡/アメリアの遺言
ポンセ/スケルツィーノ・メヒカーノ
ザグレラス/蜂雀

この盤はともかくよく聴いた。それこそ盤が擦り切れるほどといっていい。当時聴いていた装置もろくなものではなかったし、扱いもぞんざいだったのだろう、さすがに盤も傷みがあってあちこちでノイズが混じる。

この時期の(その後もか?)ジョンの演奏は面白みに欠けるというのが通説のようだが、当時ぼくにとってセゴヴィアはスペイン訛りの酔っ払いのようだったし、ブリームは色気とコブシ出し過ぎと思い、物差しで計ったようなジョンの演奏は新鮮かつ絶対的に感じられた。久々の針を下ろしてみたが、印象は昔と変わらなかった。録音のせいだろうか、ジョンのギター(当時の使用楽器はエルナンデス・イ・アグアド)はやや硬質ながらクリアかつ美しい音で録られていて、その正確無比な曲の運びと相まって、生真面目で誠実な印象を受ける。

A面のバッハの組曲は冒頭の<プレリュード>から粒の揃った音で淀みなく音が流れる。ゆっくりしたテンポの<ルール>では、今聴くともう少し深い呼吸がほしいところだ。当時そのあたりが面白みに欠けるという評判につながったのかもしれない。しかし今聴いてもそう思うが、根拠なく恣意的にテンポを揺らした妙な演奏が多かった当時のギター演奏にあって、こうした正確さは貴重だったし、組曲を通して聴いてみて、どの舞曲もよく考えられたアーティキュレーションで原曲のヴァイオリン版に慣れた耳にもまったく違和感なく楽しめる。 B面にはお馴染みの小品が入っている。当時ジョンの演奏でスケルツィーノ・メヒカーノや雀蜂を知った輩も多かったろう。ぼくもそのくちだ。アルベニスのセヴィーリャを聴き、何てカッコいいんだと思って楽譜を手に入れて弾こうとしたらまったく歯が立たなかった記憶がある。

60年代後半から70年代前半にかけて、ジョンは次々にギター名曲の録音を重ね、そのいずれもが従来のギター演奏とは一線を画す折り目正しい演奏だった。一時期ジョンの活動は方向転換もするが、その後再びクラシカルな世界に戻り、70歳を過ぎた数年前に引退を宣言した。


BBC制作のドキュメンタリー。ソロあり、様々な顔ぶれとの交流あり…ジョン・ウィリアムスファンならずともギター弾きには興味深い構成。1時間ほどの番組最後はアルベニスの<セヴィーリャ>で当時(70年代初頭と思われる)の愛器イグナシオ・フレタを華麗に鳴らして終わっている。



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由紀さおり<手紙>



連休ど真ん中。これといった用事もなく、こんな盤でダラダラと和んでおります。


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由紀さおりデビュー以来の曲から選ばれた16曲が収録されているベスト盤。この手のベスト盤・全曲集のたぐいは懐かし系の歌手や演歌・歌謡曲歌手にはお馴染みで、数年おきにリリースされる。手持ちのこの盤は2012年発売のもの。収録曲は以下の通り。手元には新旧取り混ぜて彼女の盤が何枚かあるが、これまでのヒット曲をまとめて聴くにはうってつけのまさにベスト盤だ。

1. 夜明けのスキャット
2. 手紙
3. 生きがい
4. ルームライト(室内灯)
5. 恋文
6. 挽歌
7. う・ふ・ふ
8. 天使のスキャット
9. タ・ヤ・タン
10. TOKYOワルツ
11. この愛を永遠に
12. ゆらゆら
13. 男ともだち
14. 両国橋
15. スイートワルツの流れる川に
16. この世の果てまでそばにいて

数年前にピンク・マルティーニとの共演で突然時の人となった彼女だが、どっこいぼくは相当前から彼女のファンだ。安田姉妹デュエット時代は早くソロに戻って王道歌謡曲を歌ってくれないかと念じていたものだ。願いかなって、2014年には60~70年代の歌謡曲を集めたカヴァーアルバム<VOICE>がリリースされ、翌年には<VOICEII>が続いた。

さてこのベスト盤。初期のヒット曲<手紙>や<生きがい>は一聴するなり気分は70年代前半の高校時代にワープする。クラシックを聴き始め、ビートルズはそろそろ店じまい、ディープパープルやツェッペリンがリアルタイムでラジオから流れていた時代。一方で、ニキビ面で由紀さおりの透明感ある歌声に聴き惚れていたものだ。70年代後半から80年代の<挽歌><う・ふ・ふ><男ともだち><両国橋>といった軽快な歌謡調も彼女はうまい。最近テレビでの露出も多いが、なんと今年秋には古希を迎える。まだまだ歌声は衰えず。色白美肌も健在かと(^^ ますますの活躍を祈りたい。


<手紙> 近年は少し崩して歌っている。


<挽歌>@1974 バックはダン池田とニューブリード!


こちらもお忘れなく。



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ヤニグロの<ドン・キホーテ>



関東地方は昨晩からきょうにかけて低気圧&前線が通過。雨が上がったあと、昼過ぎからは強風が吹き抜けた。夜半を過ぎてだいぶ気温が下がってきた。熱い渋茶を淹れ、きのうの続きというわけではないが、こんな盤を取り出した。


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フリッツ・ライナー&シカゴ響によるR・シュトラウスの交響詩「ドン・キホーテ」。アントニオ・ヤニグロがソロを取っている。録音は1959年。手持の盤は数年前にSACD/CDのハイブリッド盤として出たもの。隣り町のタワーレコードのワゴンで投げ売られていた。同じくR・シュトラウスの「ドン・ファン」とのカップリング。

この盤、もちろんヤニグロのチェロを激賞したいのだが、それ以前にまずライナー&CSOによる<RCAリヴィング・ステレオ>の面目躍如たる素晴らしいサウンドに圧倒される。ブックレットによると、このCDに収録されている「ドン・ファン」は1954年の録音で、ライナー&CSOとしての最初期のレコーディング。もちろんオリジナルのステレオ録音で、このときライナーは対向配置を取ったとある。そして5年後の「ドン・キホーテ」では左から右にかけて高音群から低音群へと並ぶ、現代的な配置を取ったと書いてある。つまりはストコフスキーよろしく、より音響的な効果を狙ったのだろう。実際マスタリングでもそれを意識したかのように、左右いっぱいにステレオプレゼンスが広がる。今日的な感覚では多少作為的と言えなくもないが、各楽器群の分離、オーケストラ全体のプレゼンス共に素晴らしいし、コントラバスのピチカートも深々と響く。

この曲は本来、各変奏曲とその描写とを楽しむ曲だ。それには何かテキストを横において、CDのトラック番号を追いながら聴く方がいいだろう。チェロはドン・キホーテのモチーフをつかさどるが、この盤ではあまりチェロをクローズアップするような録り方はしておらず、あくまでオーケストラサウンド全体の中に位置付けている感じだ。それでも名手ヤニグロの聴き所はあちこちあるが、やはり終曲<ドン・キホーテの死>出だしのカンタービレは感動的だ。


終曲<ドン・キホーテの死>。チェロアンサンブルのバック。


同曲。ヨーヨー・マとエッシャンバッハ&フィラデルフィア管


この盤の音源。全曲。YOUTUBE上にどのようなオーディオフォーマットでアップされているか定かでないが、この録音の素性の良さは十分わかる。コメント欄には各変奏の開始時間も記されている。チェロのソロが取り分け美しい終曲は37分13秒から。



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きょうが命日 ドヴォルザークとヤニグロ



戌年皐月。月が改まって日経文化欄の私の履歴書は4月いっぱい続いた「ジャパネットたかた」高田明元社長の編が終わり、きょうからインドネシアの財界人モフタル・リアディが登場。林真理子の連載小説は主人公の一人が京都で茶会を開く段になった。そんな中、業務は少々ひっ迫。きょうもせっせと働いて7時を少し回って帰宅した。何気なくPCを覗いていたら、きょうが忌日の人物の中にアントニン・ドヴォルザーク(1841-1904)とチェロのアントニオ・ヤニグロ(1918-1989)の名前を見つけ、それではと、こんな盤を取り出した。


201805_Dean_Dixon_1941.jpg  201805_Janigro_AD.jpg


写真の盤は今なら中古レコード店の軒先にある百円コーナーで雨ざらしになっているような、70年代に山ほど出回った廉価盤シリーズの一つ。ぼくの最も敬愛するチェリストの一人であるアントニオ・ヤニグロがソロを取り、ハイドンとドヴォルザークの協奏曲を弾いている。このうちドヴォルザークの伴奏を付けているのは、黒人指揮者ディーン・ディクソン指揮のウィーン国立歌劇場管弦楽団(≒ウィーンフィルハーモニー)。 ディーン・ディクソン(写真)は1915年に生まれ1976年に世を去った。1968年には来日してN響を振り、田中希代子との録音も残している。高校生の時分、ときどきFMで流れる曲の解説で彼の名前を聞いた記憶はあるが、レコードはこの1枚が手元にあるだけだ。

ドヴォルザークの協奏曲では相変わらずヤニグロが素晴らしい。オケは録音が少々貧弱ということもあって、いささか精彩を欠く。本当のステレオ録音か少々あやしく、耳の悪いぼくなどは擬似ステレオだと言われれば、そうかなと…と思っていたら、やはりオリジナルはモノラル録音のようだ。それでも音楽の運びそのものは真っ当で、この曲のノスタルジックなところ、高揚感、聴かせどころは心得ていて過不足ない。

クラシック音楽畑の黒人演奏家は少ない。誰かとたずねられて名前を挙げられるの数人だ。女性歌手のジェシー・ノーマン、キャスリン・バトル、ピアニストのアンドレ・ワッツ。すぐに思いつくのはこのくらいだ。指揮者にいたってはディーン・ディクソンしか知らない。最近でこそ米国のオーケストラであれば黒人の団員も珍しくなくなったが、他の分野に比して明らかに少ないだろう。半世紀以上前の音楽界で黒人指揮者の彼がどのような扱いを受け、取り上げられ方をしたか想像に難くない。残された少ない彼の演奏を聴いていると、見たことのないその指揮姿が何故か目に浮かんでくる。


この盤のLP音源。ディーン・ディクソン指揮ウィーン国立歌劇場管とヤニグロのチェロ。ドヴォルザークのVc協奏曲・第1楽章。オリジナルのモノラル構成。動画のコメント欄に録音データは1953年とあるが、1955年あるいは1958年とされている資料もある。詳しい方がいらっしゃれば、教えていただきたい。



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プロフィール

マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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