冷たい雨にたたられた九月最後の土曜日。
二晩あけて、チャイコフスキーの続き(しつこいかな…)。今夜取り出したのはこの盤。

2007年チャイコフスキーコンクールの覇者:神尾真由子の弾くチャイコフスキー;ヴァイオリン協奏曲ニ長調。話題にのぼる若い演奏家を追いかける気力も情報量もないので、神尾真由子の名前はもちろん知っていたが音を聴くのはこの盤が初めてだった。2年前に当地へ来演した際、実演にも接した。2010年6月の録音で、クルト・ザンデルリンク(1912-2011)の長男:トーマス・ザンデルリンク(1942-)が指揮するイギリスの名門ハレ管弦楽団が伴奏を付けている。
第1楽章序奏部のオケは随分と静かに入り、幾分控えめに曲が進む。神尾真由子のソロは録音の録り方もあるのか、極めて透明度が高く緊張感のある音だ。主部に入ってもテンポはやや遅めの設定。オケの鳴りも抑え気味で、その上を彼女のソロがやや細身に感じる音色で、しかしメロディーの歌い方はじっくりたっぷりと弾き進める。オーケストラはやや控え目ながら横方向、奥行きとも広がりのある録音で美しく録られ、その中に神尾真由子のソロが透明度の高い音で浮かびあがる。ちょっと独特の雰囲気のある録音だが、20分かかる第1楽章を半分ほど聴いた頃、この盤の響きに馴染んできた。マンチェスターにあるBBCのスタジオで録音されたとライナーノーツにあるが、このスタジオライブを聴いているイメージだ。
彼女は6歳のときにこの曲に出会い、特に第2楽章に心ひかれたという。その第2楽章は第1楽章以上にカンタービレが効いている。かなり積極的に強弱を付け、ヴィブラートなどもかなりたっぷりかける場面もあるのだが、音色の透明度が高いので決して厚化粧には聴こえず、好感が持てる歌いっぷりだ。第3楽章はこれまでの抑え気味の表現を打ち破るように快速に弾き進めるが、勢いに任せてラフになるところはない。もちろん技巧的にはまったく破綻はなく、透明感あふれる音色もそのままだ。トーマス・ザンデルリンクのオーケストラコントロールはここでも決して大声を立てないので、オケの響きに埋もれがちのソロ・ヴァイオリンの細かなパッセージもよく聴こえてくる、見通しのよい演奏だ。
こうして聴き進めてみるとこの演奏は、神尾真由子という若く勢いのある演奏家がその若さと勢いをぶつけたという演奏ではなく、むしろチャイコフスキーコンクールから3年を経て冷静に見つめ、この曲のもつ華麗で豪奢な雰囲気を一旦横において、じっくりと歌い込んだという印象が強い。指揮者のトーマス・ザンデルリンクもそうした姿勢を後押しするかのように、熱っぽさよりは広がりと余裕のある伴奏を付けているように感じる。
この録音のメイキングビデオ。
近影
この盤の音源。プロコフィエフも入っている。
第3楽章。2007年10月のライヴ@サントリーホール。チャイコフスキーコンクールが同年6月だったので、凱旋公演というところだろうか。原田幸一郎指揮日本フィルのバック。
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都内での仕事を少し早く切り上げ、こんなイベントへ。



今年で29回目となる高崎音楽祭。今夜は…寺井尚子クインテット・熱帯ジャズ楽団with渡辺真知子…という、一晩で三度美味しいノリノリのコンサートでありましたよ。
近年の映像だと思うが、今夜の真知子嬢は熱帯ジャズ楽団のラテンアレンジをバックに遥かにカッコよかった。還暦オーヴァーと思えない若さ!
今夜の尚子姉さんはミニスカにあらず。黒のロングドレスでありました(^^;
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オークレール、ムローヴァときて、勢い止まらず。今夜もまたチャイコフスキーを聴こう。取り出したのはこの盤だ。

五嶋みどり(1971-)によるチャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調。アバド( 1933-2014)指揮ベルリンフィルのバック。1995年3月ベルリンでのライヴ録音。ショスタコーヴィッチのヴァイオリン協奏曲とカップリングされている。
五嶋みどりは十年程前に2回ほど実演に接した。シベリウスとブラームス。こうべを下げて自らの出す音に集中する様が印象的だった。そして聴こえてくる音楽も一聴すると線が細いように感じるものの、彼女の集中力が音に込められたような切実な響きで、固唾をのんで聴いたことを思い出す。
このチャイコフスキーも出だしたからやや抑え気味の音量で始まり、否が応でも聴く側から曲に歩み寄るようになる。第1楽章がこれほど抒情的に奏される演奏も珍しいのではないだろうか。どこまでも正確な音程、控えめなヴィブラート、ヴァイオリンそのものが歌っているかのような表情の豊かさ、録音当時まだ二十代前半であることが信じられない程だ。
ベルリンフィルの本拠地フィルハーモニーでのライヴ録音だが、ソロはクリアに録られている。オケパートは立派だが、やや明るめの音色であることと、アバド流と言ったらいいか、少々前のめりのアインザッツとがぼく自身は気になる。少し渋めのオケのバックだったらどうだったろう…
この盤の音源となったと思われる1995年のライヴ演奏とドキュメンタリー。統一後まだ間もないベルリンの様子に始まり、オケとのリハーサルの様子などがあり本番の演奏が始まる(27分過ぎから)。 二十数年前とはいえ、こんな元気だったアバドも、もういない。
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三連休明け。九月も下旬。公私とも諸課題有りの日々だが、とまれ本日も終了。夜半近くなって渋茶で一服。きのうのオークレールのチャイコフスキーで思い出し、こんな盤を取り出した。

ヴィクトリア・ムローヴァ(1959-)のチャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調。小澤征爾指揮ボストン交響楽団のバック。1985年の録音。手持の盤は十数年間に廉価盤で出たときのもの。マリナー&アカデミー室内管弦楽団とのメンデルスゾーンとカップリングされている。1981年のシベリウス国際コンクール、1982年のチャイコフスキー国際コンクールと連覇し、華々しくデビューを飾った頃の録音ということになる。
録音当時まだ20代前半。しかし音楽は落ち着き払っていて、第1楽章も静けさを感じる程に抒情的。音色が美しく、力を込めてG線でメロディーを取るようなところでも、弓がしなるほどの強奏はしていないのだろう、音の余裕がある。コーガンの弟子と知って聴くと、確かにコーガンの古武士のような弾きぶりが女性であるムローヴァにも重なってくる。もちろん後年のピリオドスタイルを取り入れる前の演奏で、ヴィブラートも節度をもって付加され、また昨今の若手ほど音の線の細さを感じさせない。小澤&ボストン響のバックもムローヴァのそうした美点をそがず、終始落ち着いたサポートで好感がもてる。第3楽章は快速調で技巧のキレも文句なしだが、決して美しさの許容範囲を出ることはない。この曲に華麗でエキサイティングな展開を求める向きには、少々食い足らないかもしれないが、この曲の持つ一つの側面を見事に具現化した演奏だ。
この盤のLP音源。
マキシム・ショスタコーヴィッチ(ドミトリイの息子)指揮ロンドンフィルとの演奏。この盤と同時期1985年のものと思われる。
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三連休最終日。朝は空一面雲で覆われていたが、程なく晴れてきて初秋の好日に。久々に明るい時間のリスニング。音盤棚を見回し、こんな盤が目にとまり取り出した。

ミシェル・オークレール(1924-2005)の弾くチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲ニ長調。昔から名盤の誉れ高い盤で70年代には廉価盤で出ていたが、LP初期盤などはプレミア価格の盤。手持ちの盤は十数年前に出た廉価盤CDで、お約束の通りメンデルスゾーンとのカップリング。ロベルト・ワグナー指揮インスブルック交響楽団のバック。1963年録音。
フランス流儀といえばいいのだろうか、第1楽章冒頭から繊細さといい意味での軽みのある演奏。濃厚なロシアン・ロマンティシズムとは無縁の弾きぶりだ。やや速めのテンポでフレーズは粘らずに歌う。第2楽章も弱音効果をよく効かしながらあっさりと弾き進めるが音色はきわめて美しい。第3楽章は速めのテンポで、切れのいい技巧もみせて颯爽としている。この盤を聴くとチャイコフスキーのこの曲もロシア風ばかりでない、高貴で薫り高い曲だと再認識する。
この録音のあとまもなく、手の故障から引退してしまったことが悔やまれる。70年から90年代までしばしば来日して桐朋でマスタークラスを開いていたが2005年に亡くなった。
オークレール20代のときの録音。1950年のモノラル録音だが少し位相を操作しているようだ。クルト・ヴォス指揮オーストリア響。
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よく晴れた週末土曜日。気温も上昇して久々の真夏日30℃超え。昼前から野暮用外出し、夕方近くに帰宅した。夜半近くになって一服。こんな盤を取り出した

アレクサンドル・ボロディン(1833-1887)の交響曲第2番。キリル・コンドラシン(1914-1981)指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団による1980年のライヴ録音。手持ちの盤は、毎度お馴染みネット経由激安箱買いの中の1枚。1984年発売の文字がある。コンドラシン(写真)は1981年3月に急逝。西側に出てコンセルトヘボウの指揮者となり、まさにこれからの時期だった。幸いその頃のライヴ録音がいくつかリリースされた。この盤はその中の1枚。プロコフィエフの交響曲第3番ハ短調とカップリングされている。
ボロディンというと、もっとも知られるのは交響詩<中央アジアの平原にて>、それと2曲の弦楽四重奏あたりだろうか。交響曲は3曲書いていて(第3番は未完)、この盤の2番は中でももっとも知名度が高い。ロシア国内ではチャイコフスキーについで愛好されていると、ライナーノーツに書かれている。
第1楽章の冒頭はおどろおどろしいモチーフで始まるが、美しい第2主題が出ると、いかにもボロディンという世界に入っていく。交響曲という、いわゆる絶対音楽という形式によっているためか、民族的なモチーフだけに頼る安易さはないが、それでも第3楽章などはそうした色合いが強い。第2楽章スケルツォや第3楽章からアタッカで続く終楽章もリズムの扱いが際立ち、その合間をぬって民族的なモチーフが顔をのぞかせる。
コンドラシンとコンセルトヘボウ管による演奏は、このオケの上質で美しい音をよく伝えるもので、いわゆるロシア風のワイルドとは無縁。そして美しくスケールも大きい。アナログ最後期のフィリップス録音も秀逸だ。このコンビによるライヴ盤が手元に何枚かあるので、また折に触れて聴くことにしよう。
この盤の音源。
カレル・マーク・チチョンがこの盤と同じオケ、ロイヤルコンセルトヘボウ管を振った演奏。
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きのうからの雨が上がったが、気温は低く肌寒い。夜更けのこの時間ということもあって、音楽で少々暖を取りたい気分になり、こんな盤を取り出した

リムスキー・コルサコフ( 1844-1908)の交響組曲<シェエラザード>。エルネスト・アンセルメ(1883-1969)指揮スイスロマンド管弦楽団のDECCA盤。1960年録音。手持ちの盤は1963年の国内初出盤と思われるもので、ボロディンのダッタン人の踊りと合唱がカップリングされている。例によって10年程前、頻繁に大阪出張が続いていた頃、梅田阪急東通りの端っこにある名曲堂の60年代盤コーナーで手に入れた。アンセルメはこの曲を得意にしていたらしく、SP時代から計4回録音している。この1960年録音はその最後のもの。スイスロマンドとDECCAに入れた多くのステレオ盤に中でも名盤の誉れが高い。例のボックスセットもあるが、今夜はこのLPを聴く。
このコンビの演奏になると、どうしてもその録音の素晴らしさに話がいく。50年代半ばからセッションを重ねたアンセルメとOSRのDECCAステレオ録音は、まずその鮮烈な音質と広がりのあるステレオプレゼンスに驚く。1960年録音のこの盤は、すでにDECCAサウンドが完成された時期のもので、半世紀前のプレスの盤にも関わらず、素晴らしい音質が広がる。
この曲は特別に思い入れのある曲ではないし、こうして聴くのも随分久しぶりだ。しかし、聴き出すと40分超えの全4楽章を一気に聴いてしまう。4つの楽章の主題がいずれも印象的だし、さらのそれらの主題が色彩豊かな管弦楽で目の前いっぱいに広がる。アンセルメ&OSRの演奏はDECCAマジックと称されるその録音技術にも支えられこの曲に相応しい演奏を展開する。後年このコンビが来日して実演に接した日本の好事家連中からは、レコードで聴き親しんだ音と実演との落差に失望の声が多く上がったというが、録音マジックだけでこれほどの演奏が出来るはずもない。冒頭そして終楽章で繰り返される金管群が奏する主題の鮮烈かつ重量感あふれる音、木管群の華麗な吹きぶり、いずれもめざましい。ノスタルジックでエキゾチックで…秋の夜長に相応しい。
この盤(LP)の音源。第1~3楽章。
同CD音源。全楽章。
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