小澤の第九



先回のクリュイタンスの盤で、わが第九魂に火が付いた…というわけでもないが、どうも第九を聴き出すとひと晩では気が済まず、思い出したようにアレコレ手持ちの盤に手が伸びる。今夜もそんな気分に押されて、この盤を取り出した。


201811_Ozawa_LVB9.jpg


ひと時代、いやふた時代前の小澤の第九。
この盤には少々思い出がある。かれこれ40年以上前、大学1年の年末。サークル仲間の女子から、第九のレコードを買おうと思うのだけれど、与太君お薦めある?と聞かれ、すかさず推したのがこの盤だった。当時すでにフルトヴェングラーのバイロイト盤も、ベームやカラヤンも聴いてはいたが、おそらくその頃、小澤がボストンシンフォニーのシェフとして名を上げ人気赤丸上昇中だったことから、発売したばかりのこの盤を推したのだろう。ついでに言うと、その女子のことを心中憎からず思っていたこともあって、ぼくの学生時代の数少ない、甘酸っぱい思い出になっている。手持ちの盤は、その甘酸っぱい思い出を思い起こそうかと、十数年前に出張先大阪梅田の中古レコード店で遭遇した際に手に入れた。確かワンコイン程度の値札が付いていた。

さてこの盤。オケは当時小澤が度々客演していたロンドンのニューフィルハーモニア管弦楽団。合唱はアンブロジアン・シンガーズ。1974年2月録音。ジャケット帯には<燃える>小澤の第九と記されている。
第1楽章は真面目すぎるくらい真面目で正統的。テンポは標準的で16分を要している。オヤと思う表現はほとんどなく、演奏のダイナミクスも<燃える>というタイトルほどには加熱せず、整然としたバランスのいい合奏が続く。第2楽章は前の楽章と比べるとずっと闊達。テンポをかなり落とすトリオをはさんだ主部は、第1楽章の冷静さから転じてモルト・ヴィヴァーチェの指示らしい熱気を感じさせる。第3楽章は15分30秒を要し、最初の主題の提示もゆっくりそして静けさに支配された丁寧な表現で美しい。変奏に入ってからも、弦楽群の歌いっぷりが素晴らしくいい。ぼく自身、第3楽章はこの盤の白眉だと感じる。第4楽章も実に堅実かつ立派な響き。独唱陣、合唱とも、声楽にはまったく無知なぼくもその素晴らしさだけはよく分かる。アナログ技術完成期の蘭フィリップス録音の音質も万全で、どの楽章も各パートの分離がよく、響きに透明感があって、各声部の動きがよく分かる。

この2枚組の初出LP盤では、第4面にリハーサル風景が25分近く収録されている。小澤の若々しい声。明快な英語でオケに指示を出し、修正を加えていく。白眉といった第3楽章では、ヴァイオリン群のフレーズを繰り返し練習していて、その都度、メロディーの中の一音一音に細かな指示を出している。このEナチュラルは少し長く、このFは軽く、このフレーズのクレッシェンドでテンポが速くなっていはいけない、といった具合だ。練習風景の最後、小澤からオケへの感謝の言葉で終わっている。当時の(そして今になっても引きずっている)彼のイメージが、ジャケット帯に<燃える>の文字を入れさせたのだろうが、決して熱気と汗で押している演奏ではなく、英国の優秀なオケから伝統的でオーソドクスな響きを引き出したよい演奏だと思う。


この盤の音源。第3楽章


第1楽章
https://youtu.be/AoeYtv_D0IA

第2楽章
https://youtu.be/jEaSsih7Trg

第4楽章
https://youtu.be/8eyoRElH-aI



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