久しぶりにバッハのカンタータを聴く。 今度の週末にあたる復活祭前第9主日(七旬節の主日)のために作られたバッハのカンタータ第144番<おのがものを取りて行け>BWV144。例によってブリリアント版全集中の一枚。ライプツィッヒ時代の1724年の作品。以下の6曲から成る。 第1曲 合唱『おのがものを取りて、行け』(Nimm, was dein ist, und gehe hin) 第2曲 アリア『憤るなかれ、愛しきキリストよ』(Murre nicht, lieber Christ) 第3曲 コラール『神なし給う御業こそいと善けれ』(Was Gott tut, das ist wohlgetan) 第4曲 レチタティーヴォ『慎みの心持てる者』(Wo die Genügsamkeit regiert) 第5曲 アリア『忠実なれ』(Genügsamkeit) 第6曲 コラール『わが神の御心のままに』(Was mein Gott will, das g'scheh allzeit) 重苦しいフーガによる冒頭のコラールに始まり、第2曲アルトの歌うアリアも、扱うテキストの内容 を反映してか、通奏低音が常にうごめき、どこか落ち着かない雰囲気が続きながら、第3曲のコラールでようやく穏やかなに安らぐ。テノールのレチタティーボをはさんで、第5曲はオーボエ・ダ・モーレのオブリガードを伴ったソプラノの美しいアリア。終曲コラールの最後はピカルディ三度で穏やかに終止する。 演奏機会の少ない曲らしいが、弦楽と通奏低音それとオーボエという構成で、渋い響きに満ちた曲想は素晴しい。 シュトゥットガルトのシュティフト教会に属する団体Stiftsbarock Stuttgartによる演奏。VIDEO エリー・アメリンクが歌う第5曲のアリア。VIDEO ■ にほんブログ村ランキングに参加中 ■ ■↓↓↓バナークリックにご協力を↓↓■にほんブログ村
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立春から暖かい日が続いていたが、きのうから寒波到来。きょう土曜日も終日陽射しなく底冷えのする一日。雪の予報も出ていたが、当地では降雪なく終わる。野暮用から帰り、暗く垂れこめる空を眺めながらの音盤タイム。前回のBWV1041を受け、続けてバッハの協奏曲。こんな盤を取り出した。 グールドのピアノ、バーンスタイン指揮コロンビア交響楽団の伴奏によるバッハのピアノ(チェンバロ)協奏曲第1番ニ短調BWV1052。冒頭のシンコペーションを伴ったモチーフからして、バッハのチェンバロ協奏曲の中でも一頭抜きん出た名曲だ。 グールドとバーンスタインというと、例のブラームスの協奏曲での一件が有名だが、バーンスタインももちろんグールドの才能を認めていて、バッハのこの協奏曲の他にも、ベートーヴェンの協奏曲では第2、3、4番で指揮を取っている。1957年録音で、グールドの盤歴でも初期のものにあたる。最初のゴールドベルクが1955年録音。次いでベートーヴェンの後期ソナタ集が出て、その次がこのバッハの第1番とベートーヴェンの第2協奏曲のカップリングがリリースされた。手持ちの盤は例のボックスセット中の一枚。 この当時、革新的だったグールドのバッハ演奏ではあるが、こうして協奏曲を聴くと、やはりグールドひとりの音楽ではないことを実感する。バーンスタイン指揮のコロンビア響(実態はニューヨークフィル他の混成オケ)の響きは重々しく、モノラルの録音とも相まってニ短調の調性に相応しい陰影に富む。軽い明るさなどとは無縁だ。またバーンスタインの資質もあってフレーズはやや粘り気味で、グールドの飛翔するバッハのイメージとはかなり異なる。グールドの方もバーンスタインのバックを受けて、いつになく重厚かつ一音一音エネルギーに満ちた弾きぶりだ。60年も前の演奏。時代といってしまえばそれまでのことなのだが、さすがのグールドもバーンスタインが相手では協調路線となったのか。もっともグールドの演奏の本質にはロマンティックな要素も強く、こうした演奏様式も彼の一面であるのだろうけど… 長きに渡って放映されたテレビ番組での、この盤と同じ組み合わせによる演奏。まずバーンスタインのレクチャー(素の楽譜からどう解釈して曲を構成するかの簡単な一例)があって演奏が始まる。VIDEO トレヴァー・ピノックとイングリッシュコンソートによる演奏。この曲の現代のスタンダードかな。VIDEO 楽譜付き音源(左:ソロ 右:オケ)VIDEO ■ にほんブログ村ランキングに参加中 ■ ■↓↓↓バナークリックにご協力を↓↓■にほんブログ村
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数日前の通勤車中で聴いたバッハのヴァイオリン協奏曲で思い出し、こんな盤を取り出した。 諏訪内晶子の弾き振りによるバッハ;ヴァイオリン協奏曲集。2006年録音。収録曲はヴァイオリン協奏曲第1番と第2番、二台ヴァイオリンのための協奏曲、そしてヴァイオリンとオーボエのための協奏曲。いずれもバッハ器楽曲中の名作だ。以前も何度か記事に取り上げたはずだ。手元にはこの曲の盤として、古いオイストラフやシェリング、グリュミオー他もあるが、近年はもっぱらこの盤を手に取ることが多い。 ピアノやヴァイオリンの<弾き振り>はバロックから古典期までの曲ではよくあるスタイルだ。とはいえこのバッハの曲で独奏パートが休みの間、終始オケを実際に指揮しているわけではなく、曲作りを彼女が主導し、具体的な指示や演奏時のアインザッツを彼女が行なっているということだろう。従ってこの演奏は独奏部分とオケ部分合せて曲全体として諏訪内流に仕上がっているものと思う。オーケストラは80年代初頭に当時の若手腕利きを集めて指揮者アバドによって設立されたヨーロッパ室内管弦楽団が受けもっている。 先ほどから第1番イ短調を聴いている。一聴して流麗な演奏。独奏者もオケもモダン楽器を使いながらも、多分にピリオド奏法に近い弾き方をとっている。わずかなヴィブラート、音の立ち上がりに際しては深いアクセントはおかずに速いボウイングで音をスッと立ち上げ、また音価も短めにとって、スッと終わらせている。その結果生じる音符と音符の間を埋め合わせるようテンポはやや速めになる。 では清涼飲料水のようなさらりとした演奏かというと、これがそうでもない。全体的な印象としては、ピリオドスタイルを取り入れているといっても軸足はオーソドクスでマイルドな印象。テンポも決しては速すぎない。加えて諏訪内の指示とオケの性格とが相まってか、独奏・オケ部とも各声部の動きと対比が闊達だ。ほんの2小節程度のフレーズであっても、その中でのディナーミクを大きく変化させているし、各声部の絡み合いもそれぞれが積極的に仕掛けていて緊張感を高めている。特にチェロ・コントラバスの低弦群が実に表情豊かで、曲全体が生き生きと躍動している。このあたりはチェロやコントラバスの基音までしっかり再生されないと印象が異なってくるだろう。オーディオ装置は音楽を聴く単なる手段ではあるが、その再生能力次第で演奏者の意図がきちんと分かるかどうかのサンプルのような演奏であり録音だ。この盤では低音域の処理が上手く行なわれているためか、そう大掛かりな装置でなくてもまずまずの音で楽しめる。しばらく前からの愛器アヴァロンで聴くと、低弦群の表情、ヴァイオリンのボウイングのニュアンス、演奏者の息遣い、音楽を楽しみ理解するために必要な情報が漏らさず、デフォルメせずに再現される。 バッハのヴァイオリン協奏曲はいずれも素晴らしい。対位法を駆使してモチーフが各声部で絡み合う様、ホ長調の第2番を除き短調を取ったことによる深い情緒表現など、何度聴いても飽きない名曲だ。 手持の盤から第1楽章をアップしてみた。VIDEO 楽譜付き音源。もう少しゆっくりやってくれたら、初見練習兼ねてギターで追いかけるのだが…(^^;VIDEO ■ にほんブログ村ランキングに参加中 ■ ■↓↓↓バナークリックにご協力を↓↓■にほんブログ村
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立春を過ぎ、きのうきょうとコートを薄手のものに着替えて出勤。ぼちぼち寒さもピークアウトか… さて、本日も業務に精励。七時を少し過ぎて帰宅。ひと息ついて夜半のリラックス。今夜はジャズ。 ソニー・スティット(ts:1924-1982)のアルバム<Tune-up!>。二十年程前に会社のジャズ好きオジサンから薦められて聴いてみた。ぼくがサックスに期待する音や曲の運びがそのまま出てきて一度でファンになった。1972年録音。確か御茶ノ水ディスクユニオンで手に入れた。手元に彼のLP・CD取り合わせて何枚かあるが、このTune-Up!は彼のアルバムの中でももっとも知られた1枚だ。バリー・ハリス(p)、サム・ジョーンズ(b)、アラン・ドウソン(ds)がバックをかためる。収録曲は以下の通り。定番曲が並ぶ。 1. Tune-Up 2. I Can't Get Started 3. Idaho 4. Just Friends 5. Blues for Prez and Bird 6. Groovin' High 7. I Got Rhythm よく通るアルトサックスの音色、バラードでの歌心やアップテンポでのよどみなくメロディアスなフレーズ、いずれも心地よい。この盤をかけると冒頭のタイトルチューン:Tune-up!のフレーズがほとばしるように方寸の我が道楽部屋に満ちる。取り分け日本との結びつきが深かったソニー・スティット。病苦を抱えた状態で最後のツアーとして1982年7月に北海道を訪れたものの、まともに吹けないまま帰国。その直後に帰らぬ人となった。 <Tune-up!>VIDEO <Just Friends>VIDEO ■ にほんブログ村ランキングに参加中 ■ ■↓↓↓バナークリックにご協力を↓↓■にほんブログ村
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月があらたまって最初の週末。小春日和の穏やかな日曜日。朝から野暮用外出で、夕方近くに帰宅した。一日出歩くと、わけもなく疲れるのはやはり加齢ゆえか。夜半前のひととき、書架の整理。きのうの記事の続きもあって、懐かしい楽譜を取り出した。 60年代から70年代にクラシックギター愛好家にはよく知られた、好楽社から出版されていた楽譜ピース。高校1年の終わり頃からクラシックギターを弾き始め、あれこれ新しい曲に触れたい一心だった頃に手に入れたもの。記憶ではもっとたくさんあったような気がしていたが、手持ちのものを並べてみると、大した数ではなかった。もしかすると別の書架の片隅にまだ埋もれているかもしれない。 ぼくら世代のギター愛好家で、この<好楽社ギターピース>のお世話にならなかった人はいないだろう。それくらいポピュラーな存在だった。全国津々浦々の楽器店や書店の楽譜コーナーには必ずこのピースのためのコーナーが設けられていた。色違いの表紙で表される価格ランクも安いものは50円、100円といった具合で、田舎の高校生の小遣いでも気軽に買えるものだった。またそのレパートリーも19世紀古典ギター隆盛期のソル、ジュリアーニ、カルリ等の定番に始まり、アルベニス、グラナドスなどのギター編曲物の定番曲、更には日本の童謡、唱歌からフラメンコまで、ありとあらゆるジャンルがこれでもかという程リストされていた。手持のものの裏表紙をみると、その数は数百を超えている。 もちろん選曲、編曲、校訂など玉石混交で、版権のあやしいものも含まれている様子だった。編者に国藤和枝、中林淳真、玖島隆明ほかの名を連ねていたのも、版権のカモフラージュが目的だったと聞いたこともある。あるとき、当時の住所、神田三崎町1-8と書かれてた同社を訪れたところ、事務机が3つだけ並んでいたごく小さな事務所で、全国の愛好家に知れ渡った同社の名と、その事務所の規模の違いに唖然としたと聞いたことがある。 そんな好楽社のギターピースであったが、70年代半ばから新たなリリースもなくなり、いつしか流通からも消えていった。粗製乱造ともいえるそれまでのリリースと、一方で他社からより本格的なピースや曲集が出版されるようになったことも一因だったと思う。久々に眺めてみると印刷レイアウトなどは見やすく組まれていて、当時このピースで知った新しい曲のいくつかを懐かしく思い出す。 中には海外出版社から版権を得てリリースされたものもあった。この好楽社ピースで初めて触れたヴァイス(実はマヌエル・ポンセによる擬バロック風作品)の組曲イ短調は、好楽社がアブロニッツ編ベルベン社版の版権を得て1970年に出た(写真)。アルメニア出身のゴハー・ヴァルダニヤンというギタリストによる演奏。VIDEO ■ にほんブログ村ランキングに参加中 ■ ■↓↓↓バナークリックにご協力を↓↓■にほんブログ村
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少し間が空いたが、かつて親しんだ昭和のギター曲集をたどる記事の続き。きょう取り出したのはこれ。 昭和三十年代初頭に音楽之友社から出た<世界大音楽全集>。その中の器楽篇第71巻<ギター名曲集>。奥付けには昭和32年6月第1刷発行 昭和38年10月第3刷発行 ¥460とある。この全集の全容については寡聞にして不案内。70年代には当地のような地方の本屋や楽器屋にも置いてあり、80年代には新編が出たと記憶しているが、いつしか立ち消えになった。手元にはこの古い版のものが二、三冊ある。こうした全集にクラシックギター編が盛り込まれたこと自体、その頃のギターに対する受容の状況がうかがい知れる。戦後から昭和三十年代、四十年代と、ギターを他のクラシカルな楽器と同列に評価してもらおうという関係者の心意気があった時代であり、実際ギターもブームといえるほど売れたと聞く。もっともそうしたムーブメントとは裏腹に、初心者が門と叩く<街のギター教室>のレベルは悲惨な状況で、演歌ギターもクラシックギターも同列に扱われることも多かったし、多くのぼくら世代の愛好家は先生にもつかず独学も多かった。ぼく自身まさにその典型だ。 さてこの曲集。記憶が正しければクラシックギターを始めて程ない高校2年頃、市内の古本屋で買い求めたはずだ。帰宅後もろくろく勉強せずに松岡製のつるしのギターでせっせと音階練習に励んだ甲斐あってか、楽器をもって1年ほどした頃には初級から中級に差し掛かる曲をぼちぼちさらえるようになっていた。そんな折に手に入れたこの曲集は、コンパクトな装丁ながら充実した内容で大いに重宝した。 小倉俊氏による選曲は19世紀古典ギター黄金期の歴史をなぞるように選ばれている。モレッティ、カルリ、ソル、ジュリアーニに始まり、アグアド、カルカッシ、レニャーニ、フェランティ、メルツ、ブロカ、パガニーニ、コスト、カーノ、そしてレゴンディ、フェレール、タレガ、アルカスと進み、最後には唯一20世紀生まれの作曲家としてクラムスコイが取り上げられている。難易度もかなり幅広く選ばれているし、二重奏やヴァイオリン・フルートとのアンサンブル、シューベルトの歌曲の伴奏まである。あらためてその選曲の妙に感心する。 思えばアラビア風奇想曲も魔笛変奏曲も、ソル作品34の二重奏:アンクラージュマンも、みなこの曲集で初めて触れた。懐かしい曲集の一つだ。 これまで記事にした<昭和のギター曲集>は以下のリンクから。http://guitarandmylife.blog86.fc2.com/?q=昭和のギター曲集 この曲集に収めされているレゴンディの夜想曲(写真)VIDEO フェルナンド・ソルの二重奏作品34<アンクラージュマン>。 高校・大学と幾度となくその時々の友人と楽しんだ思い出深い曲だ。VIDEO ■ にほんブログ村ランキングに参加中 ■ ■↓↓↓バナークリックにご協力を↓↓■にほんブログ村
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