モーツァルト:ピアノ協奏曲第26番ニ長調「戴冠式」
新たな時代の幕開け。おそらく音盤愛好家諸氏の多くが、何がしかの思いをもってこの日にあたっての盤を選び、プレイヤーにセットしているに違いない。そして選ばれた盤の中にきっとあるであろうこの曲の盤を取り出した。


モーツァルトのピアノ協奏曲第26番ニ長調「戴冠式」。取り出したのは、かつてモーツァルトの女王とも称されたイングリット・ヘブラー(1926-)の盤。ヴィトルド・ロヴィツキ指揮ロンドン交響楽団が伴奏を付けている。1967年録音。ヘブラーが40歳頃の録音。手持ちの盤は70年代終わりに2枚組で出たフィリップス録音のモーツァルトシリーズ中のもの。後期ピアノ協奏曲として第24番から27番までが入っている。
「戴冠式」という名がついていることで、大そう立派な曲をイメージする。実際明るく前向きな曲想、トランペットやティンパニも加わる華やかな管弦楽など、その名に相応しい体裁と言える。しかし、こうしてあらためて聴いてみると、そうした体裁と「戴冠式」という名からイメージするほど壮麗で輝かしい音響をもつ曲ではないように感じる。むしろ、どこかチャーミングで、穏やかで微笑ましい曲想に満ちている。そう感じるのは、このヘブラー盤の演奏だからに違いない。この曲の技巧的難易度がどれ程のものか寡聞にして不案内だが、ヘブラーの演奏を聴いている限り、技巧を凝らしそれを誇示するようなところは皆無。すべてが中庸でナチュラルだ。バックをつけるヴィトルド・ロヴィツキ指揮ロンドン交響楽団もやや小ぶりの編成をそのまま生かし、かつ決して騒がず穏やかにヘブラーのピアノをサポートしている。
前後の他のピアノ協奏曲に比して、この曲は少々単調で軽量とも言われるが、それを欠点ととらえて補おうとせず、ありのまま提示して無為を装いながら、結果としてこの曲の魅力を余すところなく表現したヘブラーに脱帽の演奏だ。
この録音のLP音源。
第27番第1楽章。ヘブラー1996年来日時N響との共演。指揮はクラウス・ペーター・フロール。なんと優雅なモーツァルト!
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