マタチッチのベートーヴェン
梅雨空続く関東地方。六月最後の週末土曜日。降ったりやんだりの一日。午後から旧友来。ひとしきり歓談。楽しく過ごす。さて夜半前の音盤タイム。湿気っぽい空気を吹き払おうと、こんな盤を取り出した。


ロヴロ・フォン・マタチッチ(1899-1985)とチェコフィルによるベートーヴェン交響曲第3番変ホ長調<英雄>。1959年3月プラハ・ルドルフフィヌム(芸術家の家)での録音。1899年生まれのマタッチがちょうど60歳のときのもの。スラヴ・オペラと来日して以来、日本でも知られる存在になったマタチッチだが、この録音はそれ以前のもの。手持ちの盤は日本コロンビアの廉価盤シリーズ:クレスト1000の一枚。かつてLP時代にも廉価盤で何度かリリースされていたが縁がなく、十数年前に同シリーズで再発された際に手に入れた。マタチッチとチェコフィルはこの頃から70年代にかけて、ブルックナー・チャイコフスキーなどいくつかの盤を残した。この盤もその中の一枚。録音も60年代後半のものに劣らず素晴らしくいい。オケの分離、低弦群の充実した響き等、申し分ない。
指揮者には晩年になってテンポが遅くなるタイプと若い頃と変らないタイプがいる。前者の代表はチェリビダッケやバーンスタイン、後者ではヴァントやこのマタチッチあたりだろうか。冒頭から音楽はよく流れ、第1楽章を15分6秒で通している。しかし性急さはない。快速調のセル&クリーヴランドが14分54秒だから、それとほとんど変らないことになるが、聴いている感じでは10秒の違い以上の落ち着いた運びに感じる。チェコフィルの弦がしなやかに歌い、木管はややひなびた音で応える。晩年のブルックナーのような剛直さや豪放さとはだいぶイメージが違う。時折り繰り出されるティンパンの強打や金管の咆哮に、マタチッチらしいやや古い時代の様式ともいうべき表現を聴いて、ニヤリとしてしまう。
第2楽章もチェコフィルの弦楽群が素晴らしい響きを聴かせる。ゆったりとした構えの歌いっぷりで、音の起伏も大きなフレージングでとらえている。聴かせどころのフーガのスケール感も十分だ。第3、4楽章は意外にも軽快ささえ感じる。そう思いながらあらためて第4楽章を聴くと、元々この楽章は中々チャーミングな響きで作られているなあと合点した。リズムの妙、時折り響く素朴な木管の歌、しみじみとした弦に響き…。主題のオリジンがバレエ音楽「プロメテウスの創造物」であることから考えても、この楽章は明るく未来的であって不思議ではない。年に何度か聴きたくなる「英雄」。けだし名曲。
この盤の音源。全4楽章。
マタチッチ最後の来日1984年3月N響との第7番。手刀スタイルの指揮ぶり、N響の面々、みな懐かしい昭和の光景。マタチッチはこの演奏の翌年1985年1月に亡くなった。
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