パコ・サンチャゴ・マリンのギター
事情あってパコ・サンチャゴ・マリンのギターを検分中。
ギター製作においてスペイン・グラナダ系譜の御大ともいうべきアントニオ・マリン(1933-)。その甥にあたるパコ・サンチャゴ・マリン(1948-)の近作。日本国内では御大のアントニオ・マリンとやはりその甥のホセ・マリンの知名度が高いが、海外での評価はむしろパコの方が高いとも聞く。実際、製作コンクールでの入賞暦も複数あるし、製作暦も50年に及ぶ。日本では商社の販売戦略もあってか、ショートスケール640㎜のモデルを中心に入荷しているようだが、評判は上々と聞く。一昨年拙宅に遊びにきた知人が持参したパコ・サンチャゴ・マリンの新作は、ショートスケールであることをまったく感じさせない鳴りの良さで驚いたことがある。検分中の楽器もやはり弦長640㎜。ナット部指板幅50㎜。表板スプルース、横裏板は中南米ローズウッド(マダガスカルローズかと)。ペグはロジャーズ製とのこと。
特徴的なヘッドデザインに他、サウンドホールにかかる19フレットが途切れずに通っていること、駒の両端がゆるく曲線に仕上げられていること…といったあたりが外見上の特徴。

細部の仕上げも良好。

640㎜ショートスケールは小型で弾きやすいというメリットがある反面、音響特性への懸念もゼロではない。しかし実際に弾いた感じでは、少なくても手元の鳴りはまったく遜色ないと感じた。楽器の胴サイズを実測してみると、意外にも大型の印象が強いラミレス3世と胴長さ以外はほとんど一緒だった。パコ・サンチャゴ・マリンは指板幅50㎜、ネック断面のU字状の肩を少し落とした感じで、ラミレスと同等のボディーサイズにも関わらず、すんなり身体に収まる。こうしてみるとラミレスが大きく感じる理由は、指板幅(ナット部で53~54㎜m)とU字状で厚めのネック形状に起因するようだ。
胴幅(上-中-下)
パコ・サンチャゴ・マリン:285-237-370
ホセ・ラミレス:283-237-370
胴長
パコ・サンチャゴ・マリン:482
ホセ・ラミレス:490
ラミレス3世(弦長664㎜)とのツーショット

ハウザー3世(弦長648㎜)とのツーショット

慎重に調弦を済ませて弾き出すと、一昨年知人のパコ・マリンを弾いたときの印象がよみがえってきた。低音から高音まで全域で音量感がたっぷりとしている。特に1弦ハイポジションは突き抜けるように、かつ強い音圧でよく鳴る。あえてあら捜しをすると、いくつかの音で強い発音後の余韻が短めに収束することくらいだろうか。だた、実際の曲を弾く上ではほとんど問題にならないだろう。また、一般には鳴りにくい3弦のハイポジションがすこぶるよく鳴り、サステインも良好。2弦と同等に感じるほどだ。低音共鳴音(ウルフ)はGとF#の間にあるが、6弦ローポジション全域でボリューム感十分。6弦開放、あるいはDに落とした場合も音量の低下はない。手元にある楽器の中では爆音系とされるサイモン・マーティーを除くいずれの楽器にも劣らない。
グラナダ系譜らしくというべきか、音質は高次の高調波を多く含み明るく、タッチに変化に対してもよく反応し、甘い音から鋭い音まで適応する。より深く低い低音共鳴と落ち着いた高音の音色をもつ系統の楽器の対極ともいえそうだ。加えて、何度か弾いたことのある同じグラナダ系譜のホセ・マリンなどと比べると、音の重量感、音圧の強さを感じる。このあたりが他のマリン系と異なる美点で、プロ奏者の使用楽器として、アントニオ・マリンやホセ・マリンよりも見かける頻度が高い要因かもしれない。
YOUTUBEで見かけたパコ・サンチャゴ・マリン使用の演奏三題。
アンドレア・ゴンザレス・カヴァレロによるマラッツ「スペインセレナーデ」
イザベア・ゼルダーによるウォルトン「バガテル第1番」。
ノラ・ブッシュマンによるヴィラロボス「前奏曲第5番」
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