武満徹 ピアノ作品集



このところ梅雨末期のような不安定な天気。朝晩はしのぎやすくなったが、雨模様になると昼間はまだまだ蒸し暑い。
さて、早いもので八月も末。今週も鋭意業務に精励、週末金曜日を迎えた。ひと息ついて、このところ聴いていた武満ワールドの続きで、こんな盤を取り出した。


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福間洸太朗(1982-)が武満徹の主要なピアノ作品を弾いたナクソス盤。2006年録音。昨今の楽壇事情にはまったく疎いのだが、福間氏のHPによれば、現在はドイツと日本を行き来しながら活躍の様子。かなり広いレパートリーでCDも十数枚がリリースされているようだ。このナクソス盤はそんな赤丸急上昇中の彼が24歳のときの録音。


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武満徹の熱心な聴き手でもないぼくなどが語る資格はまったくないのだが、ときにこうして彼の作品に触れるのは、何と言うか、音楽の栄養バランスをとっているようなところがある。
第1曲の「ロマンス」、第2曲「二つのレント」と透明な武満サウンドが静かに部屋に広がる。1949年19歳のときの作品だというが、静寂からクライマックスへという武満初期作品の様式がすで出来上がっている。よく演奏される「フォー・アウェイ」、五十代になってからの「雨の樹素描」などを聴いていると、ピアノから解き放たれる音響としての音の粒と余韻によって、普段聴く音楽とはまったく別の空間が作られ、当然ながら聴く側のぼくらも普段聴きなれている西洋クラシック音楽の様式感から感じるものとは次元の異なる感覚で聴くことになる。そのあたりが「栄養バランスを取っている」という感覚を感じるゆえんだ。近年は彼の作品のうちポピュラリティーの強い曲ばかりが取り上げられているように感じる。それはそれで彼の一面で素晴らしい作品に違いないが、あまり口当たりのいいスイーツばかり食べているのもどうかなと思う。



「雨の樹素描」 2017年カザフスタンでのライヴと記されている。


武満19歳のときの作品「ロマンス」 内匠慧(たくみけい)という、福間氏より更にひと回り近く若いピアニストによる演奏。


こどものためのピアノ曲集より「微風」



福間氏のYOUTUBEチャンネルには楽曲解説もあって、中々興味深い。
https://www.youtube.com/user/SWausJapan/videos


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武満徹「ギターのための12の歌」



お盆を過ぎてから、朝晩は少しだけしのぎやすくなってきた。夜更けにギターを取り出し、少しはおさらいをしようかと、こんな楽譜を広げて、ひとしきり楽しんだ。


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武満徹「ギターのための12の曲」。1970年代後半に編まれたこの曲集は、当時親しまれていたポピュラーソングを、武満徹がこれ以上ないくらいロマンティックにアレンジしたものだ。現代音楽の旗手である彼の違った一面を残す貴重な曲集でもある。70年代には確か全音のピースで出ていたと記憶している。現在はショット版が手に入る。12曲は以下の通り。

ロンドンデリーの歌(アイルランド民謡)、オーバー・ザ・レインボー(アーレン)、サマータイム(ガーシュイン)、早春賦(中田章)、失われた恋(コスマ)、星の世界(コンバース)、シークレット・ラヴ(フェイン)、ヒア・アンド・エヴリウェア、ミッシェル,ヘイ・ジュード、イエスタディ(レノン&マッカートニー)、インターナショナル(ドジェイテール)


ぼくら以上の世代には、いずれも聴き馴染んだ曲ばかりだ。しかし、そのポピュラリティーの高さとは裏腹に、アレンジされた譜面の難易度は高い。耳に心地いいそのサウンドから安易に手を付けたくなるのだが、古典派のようにお気軽に初見で楽しむようなわけにはいかない。

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数年前、その中からジョセフ・コスマの「失われた恋」を少しさらり、mixi仲間の発表会で弾いたことがある。ジョセフ・コスマと言われてもピンと来ないかもしれないが、フランスの映画音楽の大家で、あの「枯葉」の作曲者だ。「失われた恋」の原曲に親しんだことはなかったが、一聴して誰もが感じるであろうノスタルジーにあふれた曲。その題名通り、切々と哀愁せまるメロディーに、弾いているうちに気分もどんどん滅入ってくるのだが、それも音楽だ。

「失われた恋」


鈴木大介の弾く「イエスタデイ」


全12曲の楽譜付き音源



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武満徹 ギター作品集成



先回聴いた武満徹作品の続きで、こんな盤を取り出した。


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鈴木大介(1974-)が弾く武満徹のギター作品集。1996年フォンテック録音。手持ちの盤は2005年にミドルプライスで出た再発盤。以下の曲が収録されている。

 森のなかで/ギターのための12の歌/フォリオス/不良少年/
 ヒロシマという名の少年/エキノクス/すべては薄明の中で/ラスト・ワルツ

先回の記事にも書いた通り、武満徹(1930-1996)は言うまでもなく日本の前衛音楽の旗手として活躍し、「世界のタケミツ」として高く評価された。ぼくも学生時代に初期の代表作である「弦楽のためのレクイエム」や「地平線のドーリア」などを幾度となく聴き、その静寂感や調和感、透明な響きにひかれた記憶がある。そうした前衛的な作品を発表する一方で、美しくメロディアスな調性音楽にも多くの傑作を残した。また武満徹は生涯ギターを愛し、貴重なギター曲も残している。この盤からも彼の多様な音楽のエッセンスと同時に、ギターへの愛着も感じ取とることが出来る。

最晩年に作られた「森のなかで」はそのタイトル通り、北米にある美しい大、小の森のなかで感じ、考えたこと、また行動を共にした人々の懐かしい想い出を描いたものだ、と武満徹がライナーノーツに記している。ほのかな調性感を伴いながら、ときに神秘的、ときにノスタルジックにギターの美しい余韻が響く。
70年代半ばに発表された「ギターのための12の歌」は、当時広く世界や日本で愛され歌われていたポピュラーソングを編曲したもので、ビートルズのイエスタデイやミッシェルなども収められている。いずれも限りなく美しい和声に彩られていて、静寂と安らぎと慰安に満ちたアレンジだ。112曲目に革命歌「インターナショナル」が入っているのも、時代と彼の人生の背景によるものか。ショット版の楽譜が手に入るが、びっしりと書き込まれた楽譜はいずれも難易度は高く、優雅なハーモニーを奏でるのはアマチュア中級では難しい。

鈴木大介の演奏は、武満自身が彼を格別に評価したこともあって、いずれもギターの美しい音色と武満作品の透明な響きが表出されたよい演奏だ。クレジットによれば、長らく彼の愛器になっている今井勇一作のギター他、ダニエル・フレドリッシュ、マルセロ・バルベロ・イーホなどの名器が使われている。秩父ミューズパークの自然で美しいアコースティックをとらえた優秀な録音と相まって、静かに深く武満ワールドにひたれるアルバムだ。


「エキノクス」 荘村清志のデビュー25周年を記念し1993年に作られた。
スコア付き音源はこちら⇒https://youtu.be/x0ZkDz1lRR4


映画「不良少年」の主題曲。演奏会版として佐藤紀雄によりギター二重奏用に編曲された。


鈴木大介によるギター独奏版「他人の顔」。この盤には収録されていない。ヤマハでのステージということで、鈴木氏も開発段階で関わった同社のGCシリーズの楽器が使われている(ヘッド形状からGC-82かGC-71と思われる)。



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武満徹作品集



早いもので八月も下旬。今週の関東地方は暑さ程々ながら、大気の状態不安定で連日の雷雨。これを過ぎたら秋に…というにはまだ気が早いだろうか。 さて、週末土曜日。夕方から夜にかけて野暮用外出。夜半近くになって、ひと息つき、こんな盤を取り出した。


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武満徹(1930-1996)とも親交の深かった岩城宏之(1932-2006)と、その岩城宏之が創設から関わったオーケストラアンサンブル金沢:OEKによる<夢千代日記・波の盆>と題された一枚。十数年程前、大学時代の同窓会で金沢を訪れたとき、老舗レコード店<山蓄>で買い求めた(山蓄はその後閉店)。以前も記事に書いている盤。収録曲は以下の通り。

(1) 海へ2
(2) ア・ウェイ・ア・ローン2~弦楽オーケストラのための
(3) 雨ぞふる~室内オーケストラのための
(4) トゥリー・ライン~室内オーケストラのための
(5) 訓練と休息の音楽~「ホゼ・トーレス」より
(6) 葬送の音楽~「黒い雨」より
(7) ワルツ~「他人の顔」より
(8) 波の盆~オーケストラのための
(9) 夢千代日記

武満徹というと、ぼくら世代には<弦楽のためのレクイエム><地平線のドーリア>そして<ノヴェンバー・ステップス>といった初期傑作群の印象が強い。緊張と平穏、不安と安堵、そうしたものを切り詰められた精緻な音で表現したそれらの作品群は、武満徹の代名詞だった。一方で彼は百を超える映画音楽を書き、その中で彼らしい現代風の音楽と同時に、ポピュラリティの濃い作品も多く残した。

この盤で取り上げているのは主に80年代以降に書かれた作品。アルトフルートの落ち着いた音色が美しい<海へ>は、元々アルトフルートとギターのために書かれ、のちに弦楽合奏版<海へII>となった。<ア・ウェイ・アローン><雨ぞふる>共々、武満らしい透明感あふれる抒情的な響きに満ちている。映画「他人の顔」のノスタルジックなワルツ、<波の盆>は実相寺昭雄が監督したドラマの中で使われた悲しいほど美しい抒情歌だ。吉永小百合の演じたNHKのドラマ「夢千代日記」の音楽はしっかり記憶に残っている。<波の盆><夢千代日記>は、ギタリストで現代音楽にも精通し幾多の武満作品の初演も行った佐藤紀雄が編曲および発掘した楽譜で演奏されている。

昨今も武満徹の人気は高いと思われるが、どちらかというと、後期の調性感と歌謡性の色濃い作品ばかりが取り上げられるような気がする。それを悪いとは思わないが、やはり初期の作品あっての彼であり、後期の作品にも初期作品にあった音の透明感は変らずに存在することを認識した上で、取り上げてほしいと感じる。


<波の盆>


<夢千代日記>
以前書いた記事のためにぼくが撮った写真がバックに使われていて驚いた。


映画「他人の顔」から<ワルツ>
安部公房の原作は大昔に読んだ記憶があるが、映画は観たことがない。平幹二郎、仲代達也、京マチ子、村松英子…昭和ど真ん中。画面をクリックすると「動画を再生できません。この動画は YouTube でご覧ください」と出るので、そのまま下線部分をクリックすればYOUTUBEへ飛んで再生が始まる。


同曲。若き日の前田美波里(当時18歳)による歌唱。



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フランク交響曲ニ短調



週半ばの木曜日。暑さもあって、ゆっくり音楽を聴く気分でもないのだが、食傷気味の音盤タイムに敢えての重い選曲をと考え、こんな盤を取り出した。


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セザール・フランク(1822-1890)の交響曲ニ短調。シャルル・ミュンシュ指揮ボストン交響楽団の演奏。1957年録音。手持ちの盤は70年代初頭に日本ビクターから出ていたRCA系廉価盤の一枚。ぼくら世代にはお馴染みのジャケットだ。
フランクのこの曲に初めて触れたのは学生時代の70年代半ば。FMで何度か聴き、その後ロンドンレーベルの廉価盤で出ていたフルトヴェングラーとウィーンフィルによる盤を手に入れた。当時は随分と聴いた記憶があるが、その後新しい盤を買うこともなく、またこの曲の持つ独特の暗さにあまり馴染めず、好んで聴く曲ではなくなった。このミュンシュ盤も、もう聴かないからという知人から譲り受け、その後もずっと棚の中で眠っていた。この曲をきちんと通して聴くのも本当に久しぶり。

フランクがこの曲を書いたのは晩年66歳のとき。当時、独墺系に比べ歴史的に交響曲作品の少ないフランスにあって、ベルリオーズやサン・サーンスの成功を得て、それに続く作品を目指していたそうだ。フランス人ではあるがドイツ語圏の影響が強いベルギー生まれであること、またオルガン曲や教会音楽を多く作ってきたことから、ドイツ系のバッハ、ベートーヴェン、ワグナーらの作品からも大きな影響を受け、循環形式の名作といわれるこの交響曲もドイツ風の響きが色濃い。初めてこの曲に親しんだ頃、その重々しい響きから、フランス人作曲家というイメージにつながらなかった記憶がある。

指揮者のミュンシュ(1891-1968)もフランス人ではあるが、当時ドイツ領だったアルザス地方に生まれ、フランス系作品のみならずドイツ系作品でもボストン響やパリ管と名演を残した。晩年になってもエネルギッシュな演奏スタイルは変らず、テンポも落ちなかった。この盤の演奏も第一楽章の序奏こそ意味深長に始まるが、主部に入ると一転、速めのテンポと短いフレージングでグイグイと進む。響きのバランスは弦楽群を主体にした重厚なもので、後年のパリ管とのブラームス1番を彷彿とさせる。ハープに導かれてイングリッシュホルンが歌う第2楽章もほぼインテンポでもたれることなく進む。そしてここでも厚みのある弦楽群が音楽の重心を低めにキープする。終楽章は一転して大きな起伏を伴って表情豊かに歌う弦楽群、そして終盤ではそれまで秘めていたエネルギーを解き放つようにオケの咆哮が響き渡る。独特の暗さにあまり馴染めずなどと書いたが、こうして聴いてみるとやはり名曲。巧みに仕組まれた循環形式により、終楽章に向けて全曲が収斂する見事さは、ワグナーやブルックナーに通じるところもあり、深い感銘を受ける。 手持ちのこの古いLP盤でも強音部で少々音が混濁することを除けば、全体のバランスと響きの基調はよく再現されるが、最新のCD盤など、どんな音がするのか聴いてみたいものだ。


この盤(RCAリビングステレオ盤LP)の音源。。 左右チャンネルが逆のような…


エマニュエル・クリヴィヌ指揮と同氏が音楽監督が務めるフランス国立管弦楽団によるライヴ。フランスのオケにとっては御国物をいう感慨があるのだろうか。



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シューベルト:ピアノ五重奏曲<ます>



お盆休みも終わり、仕事の気分は今年後半戦に。本日もボチボチ業務に精励。ホドホドに切り上げ、いつもの時刻に帰宅した。夜半の音盤タイム。久しぶりにシューベルトの室内楽でも聴こうかと思い、こんな盤を取り出した。


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アルフレッド・ブレンデル(1931-)とクリーヴランド四重奏団による演奏。録音は1976年。かつてこのジャケットは実によく目にした。<ます>のレコードというと必ずといってよいほどこの盤が取り上げられたものだ。当時46歳だったブレンデルを囲んでメンバーのリラックスした表情が印象的だ。現在も同じジャケットで販売されている。クラシックの世界ではオリジナルジャケットの扱いがジャズなどに比べて重視されないことが多い中、異例ともいえる。それだけこのジャケットの印象はよく、演奏内容共々パッケージとしての完成度が高かったのだろう。録音もアナログ最後期の優秀なもので、コントラバスの強調感もなく、コンパクトな室内楽の雰囲気を保ったまま明瞭に録られている。

室内楽の基本形は弦楽四重奏だが、こうしてピアノが加わると俄然音楽が色彩豊かになる。この曲に関していえば、コントラバスが加わっている(Pf・Vn・Va・Vc・Cb)ことよりも、やはりピアノの印象が強い。特にこの曲の明るく穏やかな曲調にはピアノ良い面が表出する。加えて、重くなく渋すぎないブレンデルのピアノと、ジャケットの印象そのままの、メンバーの明るく楽しそうな様子が伝わってくる。特に第3楽章スケルツォと続く有名な第4楽章はその感が強く、聴いていて幸せな気分になってくる。

実はこの曲には想い出がある。ぼくの受験時代、当地ローカルテレビ局は受験シーズンになると大学合格者速報をテレビで流していて、その番組のBGMがこの<ます>だった。第4楽章をエンドレスで繰り返し、それにのせてその日の合格者氏名を読み上げていた。しかし高校3年の3月、アナウンサーはぼくの名前を読み上げず<ます>のメロディがだけが空しく流れた。そんなことがあって、この有名な<ます>の第4楽章は進んで聴く気分にならない曲の一つだった。あれから四十余年。さすがに心痛むほどの感傷はなく、むしろこの陽性の曲調が心地よく響く。まあ、歳も取ってみるものだ。


丁々発止と渡り合う天才達若き日の競演。パールマン、ズッカーマン、デュ・プレ、バレンボイム。コントラバスはメータ。冒頭ドキュメンタリー風のエピソードがあり、15分過ぎから本番。10分15秒過ぎにはチェロを弾くパールマンの姿も。パールマン…チェリストでもいけたのでは?。中ではデュ・プレの存在感が圧倒的。第4楽章28分30秒過ぎからの歌いっぷりなど、まるで後期ロマン派の楽曲を聴いている様。


スコア付き音源。



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ハイドン:ピアノソナタ第49番変ホ長調



世間のお盆休みモードもきょうで終了。ゆく夏を惜しみつつ…には少々気が早いが、何回目かの暑気払い。軽やかながら意味深い、こんな盤を取り出した。


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音楽を意識的に聴き始めてから半世紀近くになる。その間、音楽的嗜好にもいろいろと変化もあった。近年の変化の一つがハイドン。以前は古典派のドンにして交響曲の父くらいの、中学校の音楽教科書程度の認識しかなかった。もっとも今もそれ以上の知識は持ち合わせないだが、ハイドンの音楽がともかく面白くかつ心地いい。交響曲しかりピアノソナタしかりだ。
そんなことを思いつつ、例のグールドボックスからハイドンのピアノソナタの盤を取り出した。晩年に再録音することになる第3番(かつての通称)変ホ長調Hob.XVII:49。モーツァルトの10番のソナタK.330と前奏曲とフーガ:ハ長調K.394が一緒に入っている。1958年の録音。

革新的かつ見事なハイドン。おそらくこんな風に弾くピアニストは少なくても当時はいなかっただろう。乾いたノンレガートなタッチ、スタカート気味に切り詰めた音価。ぎっしり詰まった小さな音符が、まるで楽譜から解き放たれたように軽く宙に舞う。愛用のスタインウェイピアノがフォルテピアノのように響く。ある本に、分厚いサウンドとレガートからハイドンを解放した記念碑的演奏とあったが、まったくだ。当時はさぞエキセントリックに受け取られた演奏だろうが、あらためて聴くと音楽としてのフレージングは理にかなっているし、対位法的なフレーズでの各声部の明快さも見事。ハイドンが書いた楽譜、意図した響きがそのまま目の前に提示される。


この盤の音源。第1楽章。手持ちのCDに比べるとかなり音質劣化している。


同第2楽章。


園田高弘(1928-2004)の恰幅のいい巨匠風の演奏。第1楽章。この演奏の冒頭から40秒過ぎとグールドの30秒過ぎとを聴き比べると、左手の音形、右手のフレージングなど、明瞭度がまったく違うことがよく分かる。それぞれに味わい深く、どちらを選ぶかは好みの問題だ。



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プロフィール

マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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