田邊トーレス検分
このところ業務ひっ迫につき中々時間が取れなかったのだが、間隙をぬって先週末の晩、足利市の田邊ギター工房へ行ってきた。

目的は他でもない、先般開かれた弦楽器フェアに出展したトーレスモデルの検分。田邊さんとは少し前から連絡を取り合い、展示を終えたあと一旦工房に引き上げるので、その時にでもということになっていた。先週末の夜、都内での仕事を少し早めに切り上げて帰宅。夕方6時過ぎに車で出発した。途中、高速も使って45分程で工房着。前回お邪魔したのは確かこの4月だったから、ほぼ半年ぶりだ。手持ち楽器の調整依頼もあったので、その用件を伝えたあとさっそく試奏となった。

今回のトーレスモデルは、この夏に田邊さんと一緒に検分したオリジナルのトーレスをベースにしている。オリジナルにあったトルナボスは付けていないが、それがマイナスにならないよう、その他の工夫で低音域の拡充に務めたようだ。サイズは採寸したトーレスを踏襲。トーレスとしては大型の部類に入るだろうが、現代の標準からするとやや小ぶりなボディーサイズだ。弦長は650㎜。表板はスプルース、裏板はハカランダを中央にしてマダガスカルローズで挟んだ3ピース。先回検分した例のトーレスも3ピース構成だった。
驚くべきは表板の板厚。ここで数字を明らかにするのは控えるが、えっ!と驚くほどの薄さだ。一般に20世紀以降のモダンギターの表面板は2.5㎜前後とすることが多い。やや厚めで3㎜、やや薄めで2㎜といったところだ。大雑把に言えば、20世紀前半までの楽器は薄めで2㎜程度あるいはそれ以下のものもある。今回の田邊トーレスモデルはその最も薄い部類といえるもの以上に薄い仕上げ状態。田邊さん曰く「客注じゃないので、思い切り攻めてみた(笑)」とのことだった。板厚を薄くすると単純に割れや変形のリスクを抱えることにつながる。一方で、かつて「割れないギターは鳴らない」と言われたように、反応よく音を出す条件でもあって、製作家としてはその狭間で腕を振るうことになる。
今回の作品も単純に薄さを追求したわけではなく、表板そのものも素性や力木の加工などに配慮しつつ、製作段階でのタッピングで音を確かめながら進行したようだ。結果として、低音レゾナンスはE付近と低く、6弦ローポジション全体で十分なボリューム感ある低音が得られている。低音増強のあおりを食らいそうな高音もまったく不安はなく、中高音は音量、サステインとも良好で低音と十分バランスの取れた鳴り方だった。もちろん、百年を経たトーレスと同じ鳴り方ではないが、深く沈み込みながらも弾力のある低音と、それに見合った反応の良い高音を兼ね備えた出色のトーレスモデル。「与太さん、これ傑作ですよ!」という田邊さんの自己評価にもまったく同意の一本だった。
先に記した今回の田邊トーレスが拠り所の一つとしたアントニオ,デ・トーレスによる演奏音源。ザグレラスの所有品だったというこのトーレスは、現存するトーレスの中でも間違いなくトップレベルの楽器。この個体をじっくり試奏できたことは本当に幸運だった。物理的な状態が極めてよく、音も素晴しかった。この録音からもトルナボスがもたらす深い低音が随所で響く。ぜひ良質なヘッドフォンで視聴のほどを。
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