クーベリックの「幻想」
4月もきょうで終わり。Wikipediaを覗くと、きょう(地域によっては明日)は「ワルプルギスの夜」にあたるとあった。ヒトラーが1945年のきょう自殺を図ったのも、このワルプルギスの夜に合せてのことだった由。極東の日本それも関東ローカルの当地でワルプルギスもへったくれもないが、そういうものかと合点して、ワルプルギスの夜で思い出す、そして先回聴いたアルヘンタ盤にも触発されたこの曲を取り出した。

ベルリオーズの幻想交響曲。ラファエル・クーベリックと手兵;バイエルン放響による1981年のライヴ録音。2000年頃、当時相次いでリリースされたORFEOレーベルの輸入盤で手に入れたもの。古い話になるが、70年代後半から80年代初頭にかけてNHKFMではしばしばヨーロッパの放送局音源のライヴが流れていた(今も続いている)。まだ現役だったカラヤンやベーム、中堅のクーベリック、気鋭のインバルなどのライヴ録音をいやというほど聴いたものだ。それらをエアチェックした相当数のカセットテープも長い間手元にあったが、結局あらためて聴くことなく、後年処分した。この演奏もかすかな記憶によれば、FMで聴いたことがあったかもしれない。
さて、この幻想。クーベリックと幻想というのはちょっとイメージしづらい組み合わせだ。スタジオ録音はなかったはずだから、それだけでも貴重だし、演奏を聴くとさらにこの録音の貴重さと素晴らしさを認識する。当時の南ドイツの雄:バイエルン放響は、冒頭からアンサンブル、弦と管のバランスなど抜群の出来で、クーベリックの指示と思われる細かなアーティキュレーションを見事に弾き切っている。
前半二つの楽章はドイツ的といっていいほどの重量感に満ちているが、決して重過ぎず、音楽はよく流れる(第1楽章提示部は繰り返し有り)。オケはクーベリック得意の対向配置。ヘッドフォンで聴いていると左奥から低弦群のピチカートが静かに響いてくる。ヴァイオリン群の左右の展開も申し分なく、ミュンヘン・ヘラクレスザールの空間を感じさせる響きと共に、ヨーロッパのオーケストラ・ライヴの雰囲気を満喫できる。第3楽章はすべてのフレーズが意味深く奏される。とりわけ例の主題はゆっくりとしたテンポでじっくりと歌われる。木管群の遠近感もよくとらえられている。この曲の中でもっとも演奏時間の長いこの第3楽章の重要さをあらためて認識する演奏だ。
後半二つの楽章ではバイエルンの底力が遺憾なく発揮される。「断頭台への行進」そしてアヘンに冒され夢想する「ワルプルギスの夜」へ。金管群の咆哮、ここぞのタイミングで打ち込んでくるティンパニの強打、ホールを揺るがすように響き渡るグランカッサの一撃…そして最後の大団円では大胆なリタルランドで大見得を切る。まったく見事な演奏と録音だ。60年代から70年代、同じ独グラモフォンにあって、カラヤンやベームの影に隠れがちになり、万事中庸をいく中堅指揮者というレッテルを貼られていたクーベリックだが、こうした演奏を聴くにつけ、そうしたイメージはまったく作られたネガティブなイメージであることを認識する。夜のヘッドフォンリスニング。ボリュームを上げてオーケストラサウンドの醍醐味にひたった一枚であった。
この盤の音源。全4楽章。
ロイヤルコンセルトヘボウ管による全曲。指揮はダニエレ・ガッティ。2週間前にアップされた同団公式チャンネルのもの。
冒頭、自転車にのってこの曲の終楽章のフレーズ(この曲全体を貫く重要なモチーフ=イデー・フィックス)を口笛での吹きながら通りすぎたクラリネット奏者の話があり、曲は6分半過ぎから始まる。終楽章57分57秒から(その前57分37秒の予告を受け)口笛で吹いていたクラリネットのフレーズが始まる。
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