お盆も終わって八月も後半へ。ぼくは暦通りで休みはなし。本日も業務に精励し、8時少し前に帰宅した。ひと息ついて、机まわりの片付けをしながら音盤棚と見回すうちの、この盤と目があったので取り出した。

高校時代からクラシックにどっぷり浸かった我が音楽道楽人生だが、クラシック以外の箸休めも歳を重ねるごとにメニュー拡大。日本の歌謡曲、それも80年代以前のものを好んで聴くようになった。手元には昭和歌謡のシングル盤が200枚程、LPアルバムも結構な数がある。さて、きょう取り出したのは写真の盤「エンカのチカラ」。十年程前にリリースされた企画盤。70年代のヒット曲を人気演歌歌手が歌っている。タイトルからしてケッコー、キテる。ジャケットにいたってはなんだかどうにでもなれという感じだ。収録曲は以下の通り。大御所が名を連ねている。
1.シクラメンのかほり / 都はるみ(布施明)
2.氷の世界 / ちあきなおみ(井上陽水)
3.神田川 / 島倉千代子(かぐや姫)
4.時には母のない子のように/ 美空ひばり(カルメン・マキ)
5.想い出まくら / 森昌子(小坂恭子)
6.わかれうた / 伍代夏子(中島みゆき)
7.わたしの城下町 / 大川栄策(小柳ルミ子)
8.硝子坂 / 長山洋子(高田みづえ)
9.夢先案内人 / 香西かおり(山口百恵)
10.ペッパー警部 / 石川さゆり(ピンク・レディー)
11.思秋期 / 坂本冬美(岩崎宏美)
12.季節の中で / 新沼謙治(松山千春)
13.いとしのエリー / 八代亜紀(サザンオールスターズ)
ジャケットの帯に「やっぱり、うまい。演歌歌手ならではの正確なピッチ、唸るコブシ…」とある。確かにうまい。どの曲もオリジナルの雰囲気を残しながらも、声質・歌唱の妙で聴かせてくれる。アレンジも丁寧になされている。
都はるみの「シクラメンのかおり」、これなどは何となく想像がつくし、実際想定の範囲内ではあるのだが、フレーズの歌い分け、細かなニュアンスの表出など、やはりうまいなあと感じる。「わたしの城下町」を大川栄策が歌ったら台無しだろうと思いきや、これが中々いい。太目のハイトーンで歌い上げ、どっしりとした立派な曲に変身だ。坂本冬美が歌う「思秋期」もやや濃い口の歌いっぷりだが、正確なピッチと伸びやかな声で楽しめる。中森明菜がカヴァーした「思秋期」とは違った味わいだ。びっくりたまげたは、石川さゆりの「ペッパー警部」。これはまずアレンジが秀逸。ファンキーでノリノリだ。もっとも歌だけ聴くとあまりリズムを意識せず丁寧に歌っている。八代亜紀の「いとしのエリー」は、笑ってしまうほど八代亜紀!…です(^^
手持ちの盤からアップした。
「わたしの城下町」大川栄策
「神田川」島倉千代子
「ペッパー警部」石川さゆり
「思秋期」坂本冬美
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ジュリアン・ブリームが亡くなった。 87歳だっだ。合掌
ぼくら世代にとってブリーム(1933-2020)は、アンドレス・セゴビア(1893-1987)によって開かれた現代クラシックギターの潮流を受け、よりモダンなスタイルによって、次の世代への良き橋渡しとしての役割を担っていたように感じる。おそらくきょうのギター弾きブログでは彼にまつわる思い出が綴られるに違いない。70年代初頭にクラシックギターを始めたぼくにとってもブリームは当時もっとも好ましく接したギター弾きだった。手元には彼の盤を何枚かあるが、きょうは彼の初期の盤を紐解いてみよう。写真の盤は以前、隣り町のギター指導者新井貞夫先生からお借りしたもの。そのとき聴いた印象を思い浮かべながら、彼を偲びたい。


この盤はブリーム初期録音の2枚組でバッハの組曲他を弾いている。1967年発売の盤で豪華な見開きジャケット。松田二郎(晃演)が紹介文を、京本輔矩が曲目解説を書いている。しかも収録曲の楽譜が載っているあたりに、当時のギター音楽への姿勢と意気込みを感じる。収録曲はバッハのシャコンヌ、組曲ホ短調からサラバンドとブーレ、前奏曲・フーガ・アレグロなど、ヴィラ・ローボスの5つの前奏曲、トゥリーナのタレガ賛歌、モレノ・トローバのソナチネ、いくつかのソルの作品など収められている。残念ながらこの盤には録音に関する詳細な記載がないが、他の資料などからして、いずれも50年代後半から60年代初頭の録音、シャコンヌはモノラルなので1956年録音の音源と思われる。
録音当時20代後半から30代前半だったブリームだが、バッハはいずれも落ち着いた運びで、後年の印象とはやや異なる。テンポは決して急がず、かつ正確なビートにのって弾いている。ギター的な崩しや方言とも言えるような表現はほとんどない。後年、やや主情的な歌い回しや、フレーズの切り替えで見得を切るようなところが出てくるブリームだが、この盤のバッハではそれを感じない。中ではニ長調で弾かれる前奏曲・フーガ・アレグロがいい。前奏曲は明るさに満ち、弾いていても気持ちのいい曲だが、ブリームはやや押さえ気味に淡々と弾き進めている。フーガもしかりでテンポは安定していて、とかくギター弾きの弱点と言われる拍節感もしっかりしている。アレグロでは一転して闊達な表情を見せるが急がずに進む。現代の若いテクニシャンならもっと快速調で飛ばすところだろうが、アレグロとはいえ勢いで弾き急がず、一つ一つの音の丁寧に弾き進める若きブリームはやはり中々のものだ。1960年前後のギター界を想像すると、こうした普遍的なバッハ解釈は革新的だったに違いない。
多くのギター弾きに感銘と指針を与えてくれたマエストロ。ご冥福をお祈りします。
BWV1001のフーガを弾いている動画を貼っておく。いつ頃の演奏だろうか。90年代、交通事故に遭う前頃だろうか。弾いている楽器はロマニリョス。ロゼッタのアラベスク模様からそれと分かる。以前、ブリームがアランフェスの録音に使ったというロマニリョスを試奏したことがある。音量は控えめながらバランスよく、柔和な雰囲気をもった楽器だったのを思い出す。
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コロナ禍で万事様変わりの夏。お盆ウィークに入り、法事もZOOMでオンラインとか。どこまで変わるのか…。変わらないのは暑さばかりかな。そんな世情を横目で見ながら、暦通りに業務に精励。帰宅後、ひと息ついて、そういえばこのところ古典派保守本流を聴いていないなあと思い出し、こんな盤を取り出した。

ブロムシュテット(1927-)とシュターツカペレ・ドレスデンによるシューベルトの交響曲全集。手持ちの盤は2015年秋にキングレコードからリリースされた4枚組セット。ボックス帯には「ブロムシュテット米寿記念」と記されている。全8曲のうち今夜は第3番二長調D200の盤をプレイヤーにセット。1978年録音。
第1楽章はものものしく、ときに陰りも感じさせるアダージョ・マエストーソの序奏で始まる。主部に入ると一転、音楽は明瞭快活に進行。第2楽章アンダンテと第3楽章メヌエット(実態はスケルツォ風)もくったくのない明るさと躍動感に満ち、この作品が書かれた頃のシューベルトの作曲家としての好調さと意欲を感じる。とりわけ第3楽章は明快なアクセントがたびたび打ち込まれ、単調なメヌエット楽章とは一線を画している。終楽章はタランテラ風の勢いのある展開と色彩感にあふれる。当時のウィーンで流行っていたロッシーニに代表されるイタリア趣味とも、イタリア出身の師サリエリの影響ともいわれるが、ところどころ<ザ・グレート>の最終楽章を思わせるフレーズと和声が出てきて、やはりシューベルトらしさを実感する楽章だ。
今年93歳になるブロムシュテット。この録音当時、すでに50歳の充実した時期にあたり、音楽は若々しさと熟した洗練とを併せもつ。いずれもシューベルトの音楽に似つかわしい。ドレスデンのオケの響きとそれを絶妙にとらえた当時のドイツシャルプラッテンの録音も素晴らしい。ブロムシュテットの解釈と録音会場のドレスデン・ルカ教会のアコースティックもあって、エネルギーバランスはいわゆる摩天楼型。低音から高音までスッキリと立ち上がり、解像度が高い。弦楽群は左右いっぱいに展開し、管楽器群の距離感も万全。うるさくならない程度の音量で聴くと目前に極上のオーケストラサウンドが展開し、音楽とオーディオの幸せなマッチングを実感できる。
この盤の音源。全楽章。
2011年に誕生した東京の社会人オーケストラ:オーケストラーダによる演奏。指揮は音楽監督の久保田昌一氏。
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久々にバッハのカンタータを聴く。
一昨日の日曜日が三位一体節後第9週にあたることから、この日に関わる曲としてこの盤を取り出した。

三位一体節後第9日曜日にちなむカンタータはライプツィッヒ時代の三曲(BWV94,105,168)。例のブリリアント版バッハ全集からBWV105の収められた一枚を取り出した。「主よ、汝の下僕の審きにかかずらいたもうなかれ」あるいは「主よ、裁かないでください」といった題名が付される。曲は以下の6つの部分から成る。
第1曲 合唱 アダージョ‐アレグロ ト短調
第2曲 レチタティーヴォ(アルト)
第3曲 アリア(ソプラノ) 変ホ長調
第4曲 レチタティーヴォ(バス)
第5曲 アリア(テノール) 変ロ長調
第6曲 コラール(合唱) ト短調
冒頭第1曲の合唱から不安と悲劇性を感じさせる曲想が展開される。引きずるような通奏低音、<溜め息音形>の連続はまるで受難曲のようだ。後半はテンポを上げて素晴らしいフーガが続く。アルトのレチタティーヴォをはさんで、この曲の聴きどころともいえる第3曲ソプラノのアリア。オーボエのオブリガートを伴い、弦楽群が刻む細かな音形にのって、美しくもはかない旋律が歌われる。この曲では通奏低音は省かれて、高音域中心の音形であることが、美しい中にもどこか不安な表情を与える。第5曲は晴れやかなテノールのアリア。ヴァイオリンの装飾的な音形が印象的だ。そして終曲では再びト短調に戻って、荘重なコラールが歌われる。ここでもヴァイオリン群の音形が印象的で、冒頭16分音符の刻みであったものが8分3連音符となり、次第に音価を広げながら静かに曲を閉じる。不安と悲劇、厳粛と敬虔、そんなことを感じながらも、どこか心やすらぐ名曲だ。
ブリリアント版全集のピーター・ヤン・レーシンクとネザーランドバッハコレギウムによる演奏は、例によって合唱(特にボーイソプラノ)にやや難有りだが、彼の地の日常的なバッハ演奏として聴く分には不足はない。
百年の歴史をもつネザーランド・バッハ・ソサエティによる演奏。指揮しているのは同団の音楽監督だったヨス・ファン・フェルトホーフェン。現在は1stヴァイオリンを弾いている日本人の佐藤俊介が受け継いでいる。同団のYouTubeチャンネルには多くのバッハ演奏がアップされている。
第3曲ソプラノのアリア。バッハ作品の中でももっとも美しいアリアの一つといわれる。
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2012年に手に入れてからすでに8年が経つハウザーギター(2006年作♯588)。入手時の状態はほとんど新古品ともいえるもので傷は皆無。ネックや全体の状態もよいものだったが、唯一フレットの一部にわずかながら浮きが見られ気になっていた。どうしようかなあ、音に大きな不具合が出ているわけではないけど、気分下がるなあ…と思案。意を決して少し前にメンテナンスを施すことにした。

本来、楽器のメンテナンスは購入した店に話をすべきものだが、今回は購入店がアウラということもあって、同店専属とでもいうべき田邊さんに直接お願いすることにした。ひと月ほど前に工房へ持ち込み、フレットと弦高について相談をした上で、思い切って全フレットの交換をすることに決めた。 上の作業途中の写真の通り、フレットを抜いたあと、指板のわずかな凹凸を修正。気になっていた通り、指板の中央部分がわずかに凹んでいたようで、写真のように指板の周辺部が削られる状態だったようだ。あまり削り過ぎると指板が薄くなり、また弦高にも影響が出るなど、他の不具合を誘発しかねない。指板表面の状態を整え、フレットを交換し、サドルをわずかに下げ…その辺りを慎重に作業を進めてくれたようだ。「与太さん、メンテ完了しましたよ」との連絡をいただき、さっそく受け取りに行ってきた。



いつもながら完璧な仕上がり状態。指板やフレットの僅かなウネリは無くなり、サドルの調整で弦高も意図した通りに下がった。調弦をしてひと晩置き、音出し確認。弦高の下げ幅はわずかだったが、手にした印象は思いのほか以前と違っていて、低音・高音ともにテンションが随分と低くなったように感じる。以前はもう少し張り詰めた印象だったが、全体に力が抜け、右手タッチに対して弦が跳ね返してくるような感じがない。あるいは、弦チップを使って、弦とサドルの当たり角をもう少し鋭角にして気分を変えてもいいだろう。 一方、音そのものの印象はあまり変わりはない。相変わらず安心・安定のハウザー。派手さはなく、突出した個性もないが、すべてが好バランスで上質。バロック、古典、ロマン派からスペイン・ラテン物まで、いずれの様式に対しても破綻なく対応可能な感じがする。 今回メンテナンスを施したことで、今後もう手を入れる必要はないだろう。懐深いハウザーギター。これからも座右において楽しんでいこうと思う。
以前の宅録からハウザーを使ったものの再生リスト。カルカッシのエチュード、佐藤弘和氏の小品から。
https://www.youtube.com/playlist?list=PLjAvYRun0efPwS5vHIR9mQTcJUt9R_sFt
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関東地方は先週末に梅雨が明け、その後の連日の暑さに加え、収束どころか再燃のコロナ禍。開放的な夏とはならず、何となく息苦しい日が続いている。そんな中、本日も健気に業務に精励。8時少し前に帰宅した。ひと息ついて夜半前の音盤タイム。今夜はちょっと甘口のジャズを聴きたくなって、こんな盤を取り出した。

木住野佳子のセカンドアルバム<Photograph>。1996年録音。収録曲は以下の通り。スタンダードを中心に彼女のオリジナル曲も交え、ピアノトリオと一部でギターを加えたカルテットで演奏している。
01.ナイト・アンド・デイ、02.スカボロ・フェア、03.デザート・アイランド、04.オール・ブルース、05. ロンギング・フォー・ユー、06.アローン・トゥゲザー、07.フォトグラフ、08.不思議の国のアリス、09.オン・グリーン・ドルフィン・ストリート、10.ラヴ・ダンス、11.Jズ・ワルツ、12.オータム
木住野佳子はすでにデヴューから四半世紀。ぼくはたまたまではあるがデヴュー当時に出会って初期のアルバムを何枚か続けて聴いてきた。桐朋在学中からジャズやフュージョンのセッションをこなし、その実力はよく知られていた彼女だけに、リリースされたアルバムはいずれもジャズテイストながらも今風のポピュラリティーも持っていて聴きやすく、それでいて安っぽくない上質なセンスに満ちている。このセカンドアルバムもどこから聴いても、いつ聴いても、疲れた気分をほぐしてくれる。彼女のアルバムはジャズの中でもいわゆるスムースジャズといわれるカテゴリーに入るのかもしれない。ぼく自身はスムースジャズのたぐいはあまり好まないのだが、彼女のアルバムで聴くオリジナルやスタンダードは、成り行き任せのアドリブではないしっかりとした構成感と、何かしら日本歌謡曲の伝統とを感じて、例外的に気持ちよく聴ける。
この盤の音源。<On Green Dolphin Street>
彼女のオリジナル曲<Nostalgia>。30秒ほどのイントロののち、都会的でジャジーなスローボッサが続く。
数年前のライヴにまつわるPV。
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青春真っ只中の16歳になったマイ田邊ギター。このところ滅法調子がいい。



田邊雅啓さんは現在栃木県足利市で伝統的手法にこだわったギター製作を続けている。大学を出てから長野県上田の石井栄ギター工房で修行ののち独立。2001年から故郷の足利に工房を開いて製作を始めた。たまたまその頃、久しく中断していたギター演奏を再開するにあたり、新しい楽器を探していたときに名前を聞き及び、拙宅から車で1時間ほどの距離に工房があることもわかって、早速お邪魔したのが以降のお付き合いの発端である。ちょうどその頃田邊さんは名匠ホセ・ロマニリョスの製作マスタークラスをスペインで受講、その教えと伝統的なスパニッシュギターの製作手法に忠実なギター製作を本格化させていた。最初に訪問したときに試奏した修行時代の作品と、その音作りの姿勢にひかれ、ぼくはすぐに新作のオーダーを決めた。一つ一つの製作工程を深く吟味しながらの製作は、およそ商業ベースの効率的な製作スピードからはほど遠く、ぼくの注文品完成も2004年6月まで2年近く待つことになった。
表面板はヨーロピアンスプルース。濃い冬目がはっきり出ている良質のもので、田邊さん曰く「最高グレードのもの」とのことだ。裏板は音の面からはあえてハカランダにすることもないだろうとの判断でインディアンローズウッドとし、写真でわかる通り、裏板中心部にはメープル材で少しオシャレをお願いした。指板の黒檀は極めて緻密な良材が使われている。実際、16年を経過した現在も指板表面は滑らかな艶を放ち、伸縮が皆無なのかフレットのバリも出てこない。ヘッド、ロゼッタ、3ホール式のブリッジ等にも高い工作技術を示す美しい、しかし派手さとは無縁の装飾が施されていて、見る度にため息がもれるほどだ。糸巻きは黒檀ツマミの米国スローン社製。塗装は全面セラック仕上げ。弦長648㎜。ナット幅52㎜。重さ1440g。
ナットとブリッジのサドル(骨棒)には、長手方向の厚みにわずかにテーパーが付けられていて、そのテーパーに合わせて作られたぞれぞれの溝に差し込むとピタリと収まる。また一般的に骨棒は低音側で高く、高音側で低く作られ、指板と弦の高さが決まるようになっているが、この田邊ギターは低音側も高音側もほぼ同じ高さとし、指板の厚みを低音側から高音側にかけて厚くなるように加工されている。ラミレスなどに見られる手法だ(ラミレスはさらに従来通りのサドル側傾斜も残る)。結果としてサドルとブリッジ木部の溝とは高音側も低音側もほぼ同じ面積で接触し、より確実な結合になる。また指板面にはわずかにR処理がしてある。
田邊ギター:ロマニリョスモデルの特徴は、低めに設定されたウルフトーンから繰り出される、どっしりと響く深い低音と、端正で伸びのある高音にある。決して派手にガンガン鳴る楽器ではないが、西洋音楽の基本バランスである低音をベースとしたピラミッド型の音響構成を作りやすく、バロックからソルやジュリアーニあたりまでの曲を表現するにはベストの楽器だと思う。外国語ではギターが女性名詞であることから、有り体に例えるなら、知的で清楚で優等生的な女性のイメージだ。反面、近代スペインのアルベニスやグラナドスなどの作品(ギターへの編曲物)やラテン系の艶っぽさ、熱っぽさを歌い上げるには、少々甘さと粘りが足らないと言えなくもない。
総じてこの頃の田邊さんの作品は、本格的な製作に取り掛かった彼のモチベーションの高さが随所に現れている。時々メンテナンスでこの楽器を彼に見てもらうとき、「いやあ、いい楽器だなあ」と彼自身がいつも感嘆する。手元にある何本かの楽器の中で、バランスの良さ、和音の分離、豊かな低音の響き、高音のサステインは最も優れているものの1本。現在、弦はサバレス社のニュークリスタル&カンティーガのノーマルテンションを張っているが、音色の統一感にも優れ、適度な張りの強さと相まって十分なサステインを確保し、申し分のないマッチングである。ときにやや線が細いと感じこともあるが、しっかりしたアポヤンドで弾くと緊張感のあるよく通る音で鳴ってくれるので、これは楽器の個性として弾き手が歩み寄るポイントかもしれない。あるいは太めの音の弦、オーガスチン社のリーガルや、アクイーラ社のペルラあたりを張るとまた印象が変わる。
実はこのギター、数年前にはこのブログに時折りコメント入れてくれる「みっちゃん」さんのところへ送ったり、近所のギター弾きの知人に預けたり、また少し前にはやはりブログへのコメントがきっかけで時折りメールやり取りをするようになったOさん宅へ送って試奏してもらったりして、第三者委員会的なコメントも受け取っている。そのいずれもがおおむね上記のような印象に近い内容だった。
このギターを製作した2003~2004年当時以降、田邊さんの評価は急速に高まった。最近はハウザー1世モデルやトーレスモデルなどの製作が多いようだが、端正な音色でバランスがよく、タッチの良否に応えてくれる、低音がしっかりとしたギターを望むなら、このロマニリョスモデルは少々の製作期間を待つ価値十二分に有りだと思う。
田邊ギターで弾いた音源の再生リスト。少し前にアップしたもの。こんな演奏をサンプルにしては田邊ギターに申し訳ないが、新たに録音する時間もなかったのでご容赦を。
佐藤弘和氏の小品三題
https://www.youtube.com/playlist?list=PLjAvYRun0efNUm3Yvw_QQEiqmEIfYk2wC
初級定番曲三題…数年前の録音。
何だかヒドい…(^^;
https://www.youtube.com/playlist?list=PLjAvYRun0efNJHgnBPU02uKzWvj3TO0mq
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