訃報 J・ブリーム
ジュリアン・ブリームが亡くなった。 87歳だっだ。合掌
ぼくら世代にとってブリーム(1933-2020)は、アンドレス・セゴビア(1893-1987)によって開かれた現代クラシックギターの潮流を受け、よりモダンなスタイルによって、次の世代への良き橋渡しとしての役割を担っていたように感じる。おそらくきょうのギター弾きブログでは彼にまつわる思い出が綴られるに違いない。70年代初頭にクラシックギターを始めたぼくにとってもブリームは当時もっとも好ましく接したギター弾きだった。手元には彼の盤を何枚かあるが、きょうは彼の初期の盤を紐解いてみよう。写真の盤は以前、隣り町のギター指導者新井貞夫先生からお借りしたもの。そのとき聴いた印象を思い浮かべながら、彼を偲びたい。


この盤はブリーム初期録音の2枚組でバッハの組曲他を弾いている。1967年発売の盤で豪華な見開きジャケット。松田二郎(晃演)が紹介文を、京本輔矩が曲目解説を書いている。しかも収録曲の楽譜が載っているあたりに、当時のギター音楽への姿勢と意気込みを感じる。収録曲はバッハのシャコンヌ、組曲ホ短調からサラバンドとブーレ、前奏曲・フーガ・アレグロなど、ヴィラ・ローボスの5つの前奏曲、トゥリーナのタレガ賛歌、モレノ・トローバのソナチネ、いくつかのソルの作品など収められている。残念ながらこの盤には録音に関する詳細な記載がないが、他の資料などからして、いずれも50年代後半から60年代初頭の録音、シャコンヌはモノラルなので1956年録音の音源と思われる。
録音当時20代後半から30代前半だったブリームだが、バッハはいずれも落ち着いた運びで、後年の印象とはやや異なる。テンポは決して急がず、かつ正確なビートにのって弾いている。ギター的な崩しや方言とも言えるような表現はほとんどない。後年、やや主情的な歌い回しや、フレーズの切り替えで見得を切るようなところが出てくるブリームだが、この盤のバッハではそれを感じない。中ではニ長調で弾かれる前奏曲・フーガ・アレグロがいい。前奏曲は明るさに満ち、弾いていても気持ちのいい曲だが、ブリームはやや押さえ気味に淡々と弾き進めている。フーガもしかりでテンポは安定していて、とかくギター弾きの弱点と言われる拍節感もしっかりしている。アレグロでは一転して闊達な表情を見せるが急がずに進む。現代の若いテクニシャンならもっと快速調で飛ばすところだろうが、アレグロとはいえ勢いで弾き急がず、一つ一つの音の丁寧に弾き進める若きブリームはやはり中々のものだ。1960年前後のギター界を想像すると、こうした普遍的なバッハ解釈は革新的だったに違いない。
多くのギター弾きに感銘と指針を与えてくれたマエストロ。ご冥福をお祈りします。
BWV1001のフーガを弾いている動画を貼っておく。いつ頃の演奏だろうか。90年代、交通事故に遭う前頃だろうか。弾いている楽器はロマニリョス。ロゼッタのアラベスク模様からそれと分かる。以前、ブリームがアランフェスの録音に使ったというロマニリョスを試奏したことがある。音量は控えめながらバランスよく、柔和な雰囲気をもった楽器だったのを思い出す。
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