バッハ「ミサ曲ロ短調」
最近バッハのカンタータにご執心の知人が「YouTubeで聴いたカール・リヒターのミサ曲ロ短調が素晴らしかった!」と少々興奮気味にメールを送ってきた。ロ短調ミサかぁ…しばらく聴いていないなあと思い出し、今夜はこの盤をプレイヤーにセットした。

廉価盤ボックスセットの雄:ブリリアントクラシックスのバッハ全集中の2枚。言わずもがなのことではあるが、ロ短調ミサはバッハの数ある作品のうち、もっとも素晴らしい曲の一つだ。この曲に初めて触れたのはかれこれ40年以上前の学生時代。確かクレンペラー盤の演奏だったと記憶している。四畳半の下宿にしつらえた貧弱なオーディオセットではあったが、冒頭のキリエに戦慄を覚えたことをはっきり思い出す。
ロ短調ミサはバッハの作品中、マタイ受難曲と双璧といえる存在ではあるが、曲の性格は当然異なる。そして、ぼくのような声楽に馴染みのない、またその歌詞を聴きながら宗教的な意味合いを感じ取る素地がない聴き手には、マタイよりこのロ短調ミサの方が、音楽として親近感を感じながら楽しめる。マタイではエヴァンゲリストによるレシタチーヴォを交えつつ進行する<物語>としての側面が強いに対し、ミサ曲ロ短調はお馴染みのミサ曲の様式により音楽だけで進行する。そのあたりが声楽曲を<器楽的に聴く>ぼくのような聴き手には耳に馴染みやすい理由だろう。
冒頭、キリエの合唱とそれに続くフーガから一気にこの曲の魅力に引き込まれる。以降も全編バッハの対位法が駆使され、バッハファンならずとも身悶えるほどの音楽的感興に満ちている。一方でソリストの歌うアリアも美しいものばかりだ。同時にそうしたアリアにいくつかには器楽の魅力的なオブリガートが付く。例えば前半<グロリア>の中でアルトの歌う<Qui sedes ad dexteram Patris>にはオーボエダモーレの、そして続くバスの歌う<Quoniam tu solus sanctus>にはコルノ・デ・カッチャ(狩のホルン)によるオブリガートが付され、それを聴くだけでも心おどる。
ブリリアント版バッハ全集で多くの声楽曲を担当しているネーデルランド・バッハ・コレギウムに比べ、この盤でロ短調ミサを受け持っているハリー・クリストファー指揮ザ・シクスティーンの演奏は数段洗練された印象を受ける。合唱、オケ、ソリスト、いずれも立派なもので、1994年に録られた音の状態も上出来だ。その名の通り16名の合唱団をベースにした団体で、規模や編成はBCJあたりと同一のもの。村治佳織(G)が英デッカに移籍したあと、現地の合唱団とコラボしたアルバム<ライア&ソネット>をリリースしたが、その合唱団がハリー・クリストファーの主宰するこのザ・シクスティーンだった。手元にはやや古い重厚長大スタイルのクレンペラー&ニューフィルハーモニア盤、先鋭的なピリオドスタイルとは一線を画しつつ、穏かなバッハ演奏を展開するヤーコブス&ベルリン古楽アカデミー等の盤があるが、このザ・シクスティーンによる演奏も、それらとは異なるアプローチながら水準の高いクリアな演奏で、勝るとも劣らない。
この曲は冒頭のこの10分強だけでも価値有り。クレンペラー盤の第1曲キリエ・エレイソン「主よ、あわれみたまえ」
悲痛な叫びのような冒頭句。そしてそれに続くフーガが素晴らしい。各声部が入り混じりながら進み、最後にバスパートが入ってくる様はフーガの醍醐味。バスパートの入りは…2分23秒 4分55秒 6分59秒 8分41秒 12分44秒あたり
アルトが歌う、オーボエダモーレの美しいオブリガート付きアリア<Qui sedes ad dexteram Patris>
2012年プロムスでの全曲。冒頭から10分過ぎまでのオケと合唱によるフーガはこの曲の魅力のダイジェストといってもいい程だ。ハリー・ビケット指揮イングリッシュ・コンソートによる演奏。ハリー・ビケットはトレヴァー・ピノックを継ぐ2007年からのイングリッシュ・コンソート三代目のシェフ。
41分30秒過ぎからオーボエダモーレのオブリガート付きのアリア。この演奏ではカウンターテナーが歌っている。45分45秒過ぎからコルノ・デ・カッチャ(狩のホルン)のオブリガート付きアリア。1時間33分20秒過ぎから:フルートトラベルソのオブリガート付きアリア。
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