ナージャ 「It ain't necessarily So」



朝晩はめっきり涼しくなった。気付けば九月も残すところ僅かだ。季節の二極化とも言えるような昨今だが、今年はコロナ禍も加わり、何がなんだが分からぬうちに夏が始まり、そして終わり…。そんな年寄じみた感慨にふけってしまう。むべなるかな。
さて、気を取り直して今宵もまた変わらぬルーチン。先日聴いたナージャ・ゾネンバーグのブルッフの協奏曲で思い出し、こんな盤を取り出した。


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ナージャ・ゾネンバーグ(1961-)のヴァイオリン小品集<It Ain't Necessarily So>。1992年録音。手持ちの盤は先日のブルッフ同様、十数年前にEMI廉価盤シリーズとしてリリースされたときのもの。収録曲は以下の通り。お馴染みの小品が並ぶ。

 1.前奏曲とアレグロ(プニャーニのスタイルによる)(クライスラー)
 2.歌劇「ポーギーとベス」~It Ain't Necessarily So(ガーシュウィン/ハイフェッツ編)
 3.「ベルガマスク組曲」~月の光(ドビュッシー)
 4.バンジョーとヴァイオリン(クロール)
 5.愛の悲しみ(クライスラー)
 6.愛の喜び(クライスラー)
 7.前奏曲(ガーシュウィン/ハイフェッツ編)
 8.カンタービレ(パガニーニ)
 9.みつばち(フランソワ・シューベルト)
 10.ジ・イージー・ウィナーズ(ジョプリン/パガニーニ編)
 11.組曲「動物の謝肉祭」~白鳥(サン=サーンス)
 12.「ハフナー・セレナード」~ロンド(モーツァルト/クライスラー編)
 13.ジプシーの女(クライスラー)
 14.「スペイン民謡組曲」~アストゥリアーナ(ファリャ/コハンスキ編)
 15.「スペイン民謡組曲」~ホタ(ファリャ/コハンスキ編)
 16.歌劇「3つのオレンジへの恋」~行進曲(プロコフィエフ/ハイフェッツ編)
 17.テンポ・ディ・メヌエット(プニャーニのスタイルによる)(クライスラー)
 18.ヴォカリーズop.34-14(ラフマニノフ)

80年代後半から次々に登場した才能あふれる女性ヴァイオリニストに中にあって、ナージャはひときわ異彩を放つ存在として注目された。ファッショナブルなヴィジュアルも加わって人気も急上昇。次々と新譜がリリースされた。ぼくはその頃、音楽そのものから少々離れていたこともあって、当時の人気ぶりはほとんど知らない。この盤を2000年代になってから手に入れ、初めて彼女の演奏にふれた。

美しくも奔放、情熱の輝き…そんな当時の彼女のキャラクターは、この盤のジャケット写真にも現われている。廃墟の中に場違いに置かれた椅子。長い脚を投げ出し天を見上げるナージャ。このジャケットだけ見ていたら、クラシカルなヴァイオリンのCDとは誰も想像できないだろう。そんな音楽以外の魅力的な要素に引き付けられつつプレイヤーのボタンをオンする。

そうした邪念?!は差し置き、演奏は実にいい。手元にはハイフェッツに始まり、この手の小品集がいくつかあるが、それらの中でもこの盤は、最も魅力的な盤の一つだ。正確な音程、切れ味鋭いボウイング、硬軟併せ持つ歌いっぷり、いずれも予想以上の素晴らしさだ。この手の小品集の醍醐味はソリストの歌いっぷりということになるが、新人はとかく力尽くに、ベテランは崩し放題、などということもよくある。ナージャはいずれの曲でもかなり大胆にテンポとディナーミクを振るが不自然さはなく、むしろ聴きなれたこれらの小品を新たな光で照らし、こんな表現が可能だったのかと気付かせてくれる。ノン・ヴィブラートの場面が多く、ここぞというときに正確な音程をキープしたまま効果的なヴィブラートを加え、ときにポルタメントもまじえる。伴奏をつけるサンドラ・リヴァースのピアノも脇役をわきまえながらも、中々に雄弁に主張し、総じてアルバムとしての完成度は高い。 ナージャは90年代半ばにちょっとしたアクシデントがあって一時期、第一線から遠ざかっていたようだが、近年また復帰し活躍中のようだ。


アルバムのタイトルにもなっている2曲目のガーシュインの「it ain't necessarily so」
「ポーギーとベス」の中の一曲にして、ジャズのスタンダード。


ドビュッシー「月の光」。テンポと弱音のコントロールが秀逸。


トランペットを吹く若き日のナージャ



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