ショパン:ソナタ第3番ロ短調



今週始めの関東4都県緊急事態宣言(その後地域拡大)を受けた在宅勤務シフトの1週間が終わり、さて週末土曜日。野暮用あれこれで日が暮れた。夜になって一服につつ、まだまだ続くナンバー3しばり。今夜はこんな盤を取り出した。


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内田光子(1948-)が弾くショパンのソナタ第2番と第3番。手持ちの盤は十数年前に廉価盤で出ていたときのもの。1987年録音。内田光子のネームヴァリューは国際的には相当なものだし、実際彼女の活躍の主体は海外だ。1970年のショパンコンクールで第2位になった実力派(現在まで日本人では最高位)だからショパンも悪かろうはずはないのだろうが、彼女のショパン録音はこの盤以外に見当たらない。

先程から第3番ロ短調を聴いている。この盤の録音当時、モーツァルトのソナタや協奏曲を盛んに録音して話題となり、内外で認められる存在になった時期だ。以前の印象は、その当時の勢いを感じさせるようなやや速めのテンポと中々強靭なタッチのショパンだったように記憶していたのだが、きょう久々に聴いてみると随分と印象が違うのに驚いた。
聴く側のこちらの耳と心持ちの変化だろうか、テンポは決して速くは感じない。タッチもゴリ押し感はなく、すべての音が余裕をもって明快に響く。特筆すべきは複雑で分厚い和音も、左の伴奏音形にのって歌う右手も、速いパッセージも、ともかくすべてに曖昧なところがない。フィリップスらしいクリアな録音とも相まって、すっきりとした清涼感さえ感じる。ロマン派真っ只中のショパンが、ひと時代さかのぼったかのように聴こえた。

80年代に国際的な評価を受けるようになってから、彼女の演奏曲目はモーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、シューマン、ドビュッシーと続くが、先に記したようにショパンの録音はこの盤以外にない。2000年代に入ってからザンデルリングと組んでベートーヴェンの協奏曲を録音したり、モーツァルトの協奏曲を弾き振りで再録している彼女だが、年齢を重ねた今、彼女が弾くショパン晩年のバラードやマズルカを聴いてみたいと思う。


この盤の音源。ソナタ第3番第1楽章。


同 全4楽章。
https://youtu.be/up-XOE2tqOk

ショパンのエチュード作品10第2番を弾く若き日の内田光子。1970年ショパンコンクール前後のものとコメントがある。



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チャイコフスキー:管弦楽組曲第3番ト長調作品55



正月気分も抜けて(そもそも無かったか…)、寒さもピークの一月半ば。引き続き「三」シバリで、今夜はこんな盤を取り出した。


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チャイコフスキーの管弦楽組曲第3番ト長調作品55。例のアンセルメボックス:ロシア音楽編全33枚中のDisc1,2。
・チャイコフスキー:「くるみ割り人形」全曲 Op.71
・チャイコフスキー:管弦楽組曲第3番ト長調 Op.55
・チャイコフスキー:管弦楽組曲第4番ト長調 Op.61「モーツァルティアーナ」
という具合で、管弦楽組曲第3番はナッツクラッカーの続きと、組曲第4番と共にDisc2に収められている。何箇所かで顔を出すヴァイオリンソロはルジェーロ・リッチが弾いている。

チャイコフスキーの熱心なファンでも何でもないぼくにとって、管弦楽組曲はこのアンセルメ盤以外に手持ちはない(おそらく…)。つまり、ごく最近までこの曲をFM等で聴き流すことはあっても、まともに対峙して聴いたことはなかった。この曲の評価は様々あるようだが、こうしてあらためて聴いてみると中々立派な曲。少なくてもチャイコフスキーの個性は十二分に出ていて、楽しめる。

第3番は4つの楽章からなる。第1曲は<エレジー>の副題が付くが、エレジーというほどの悲痛さはない。甘口のセンチメンタルなメロディーと10秒と聴かないうちにチャイコフスキーと分かる管弦楽手法で作られている。第2曲<憂うつなワルツ>は、これもいかにもなチャイコフスキーのワルツ。第1曲<エレジー>よりもメランコリック度数は強いだろうか。第3曲はテンポを上げてスケルツォとなり、第4曲は主題と12の変奏曲から成る。どこかロココヴァリエーションを思わせる雰囲気。前半は型通りに調や楽器を変えた変奏で進むが、中盤以降は少し凝った構成となって、様々な管弦楽技法が繰り広げられ、最後はこれもまたチャイコフスキーらしい華麗なポロネーズで大団円となる。

アンセルメ&スイスロマンドのこの録音はアンセルメ晩年の1968年のもの。他の60年代録音とかなり音の録り方が違っていて、この録音は各楽器の音像が大きめかつ手前に張り出し、少々独自な音響イメージを提示する。年代的には少し古い50年代終盤から60年代中盤までの、自然な広がりを感じる録音に比べると、やや不自然さを感じるのだが、クレジットされている録音技師の名前が異なることから、担当したエンジニアの趣向が反映された音作りになっているものと思う。演奏の細部に聴き耳を立てると、技術的に少々怪しいところや、アンサンブルのカジュアルな部分が気にならないわけではないが、明快な音で起伏に富んだ演奏で悪くない。


手持ちの盤からアップした。管弦楽組曲第3番から第4曲:主題と変奏。


ロジェストヴェンスキー(1931-2018)指揮アイスランド交響楽団による演奏。ロジェストヴェンスキーといえば70年代のチャイコフスキー交響曲の録音が印象的だった。アイスランド響はナクソスから多くの盤を出ている。



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M・ジュリアーニ:ロッシニアーナ第3番



4都県での緊急事態宣言に伴い、ぼくの仕事も昨年春同様、週2出勤・週3在宅のシフトとなった。在宅で出来ることが非常に限定されることもあって、業務進捗の観点からは歓迎出来ないのだが、一方で通勤時間の節約により日々の生活時間に多少の余裕が生まれる。この時間を有効に使おうと、きょうは日没後の時間にギターを出して少しさらうことにした。


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選んだ曲は年頭からの三番シバリに従い、マウロ・ジュリアーニ(1781-1829)のロッシニアーナ第3番。2012年に現代ギター社から出た曲集を開いた。 ジュリアーニはギター弾きにはお馴染みかつ習得必須曲を多々残しているイタリア生まれの作曲家。元々はヴァイオリンやチェロを学び、その後ギターも習得。19世紀初頭のウィーンで作曲家兼ギタリストとして大そう人気を博し、その華麗な技巧を駆使して古典様式の曲を多く残した。ベートーヴェン、フンメル、ロッシーニらとも交流を持ち、ベートーヴェンの第7交響曲初演時のオケにチェリストとして入っていたという。 6曲残されている「ロッシニアーナ」は、その名の通り、当時人気絶頂だったロッシーニのオペラから題材を取ったポプリ。元のアリアの魅力というよりは、それを使った技巧的なパラフレーズが聴きどころだ。

第3番は6曲の中でも規模が大きい方に属する。明快で堂々とした序奏で始まり、他の曲同様、いくつかの当時流行ったオペラから採った主題を使って技巧的なフレーズが続く。この曲を弾きこなせるのは相当な上級者ということになり、ぼくのような自称中級レベルではまともに弾き通すのは困難だ。それでも、このロッシニアーナをたどたどしくでもさらう意義は十分にある。具体的には大きく二つ。まず古典的な常用フレーズに慣れ親しむこと。機能和声をベースにした緊張と解決の和声感もサンプルとして好適だ。もう一つはギターの特性を生かした技巧パターンの修得。低音域から最高音域まで一気に駆け抜けるフレーズなどを弾く際、どこでポジションの移動・跳躍をするか、次のフレーズを指板のどのポジションで弾くか、といった左手のポジショニングと跳躍の練習にジュリアーニの作品はとても役に立つ。中でもロッシニアーナ全6曲はそうしたジュリアーニが駆使した技巧の多くが盛り込まれていて、最上のテキストの一つだと思う。


ドイツのカーチャ・ヴォルフによる演奏。


名手フレデリック・ジガンテ(1961-)による演奏。ロッシニアーナ第3番。完璧に弾きこなしている。



ジュリアーニ作品の楽譜を以下で閲覧可能。ロッシニアーナはOp.119~124。
http://maurogiuliani.free.fr/en/integral.php


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マヌエル・ポンセ:ソナタ第3番



週末日曜日。野暮用あって出たり入ったりの一日。日暮れ前に少し時間があったので、年頭から続く「三番シバリ」を意識しつつ、この盤を取り出した。


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これまで何度か記事に取り上げているイリーナ・クリコヴァのギター。ナクソスから何枚か出ている彼女のアルバム中の一枚。確かこの盤が一番最初にリリースされたはずだ。収録曲は以下の通り。20世紀になってから書かれた充実した近代作品が楽しめる。

 ・ポンセ/ソナタ第3番(1927)
 ・タンスマン/スクリャービンの主題による変奏曲(1972)
 ・ポンセ/子午線のソナチネ(1930)
 ・ブローウェル/ジャンゴ・ラインハルトの主題による変奏曲(1984)
 ・ホセ/ソナタ(1933)

まずは本格的な近代作品を並べた姿勢に感服する。ポンセやタンスマンは、少し音楽的感度の高いギター弾きに取っては、好きな作曲家の双璧ではないだろうか。実際この盤に収録されているポンセの2曲とタンスマンの曲だけでもこの盤の価値がある。クリコヴァの演奏はいずれの曲も完璧な技巧とよく練られた解釈で、これらの作品が持つ和声の面白さや構成や展開の妙が存分に楽しめる。

先程から三番シバリのソナタ第3番を聴いている。この曲はポンセの他ソナタように副題がなく、彼自身のイメージがもっとも明確に出ている曲かもしれない。ラテン系らしいフレンドリーなメロディーながら明るい太陽のラテンからは遠い。どこかほの暗く、抒情に満ちている。第2楽章:シャンソンは憂いと哀愁を湛え、とりわけ美しい。以前も記事したセゴビアの演奏もこの曲のオリジンとして素晴らしい。セゴビアで聴くとその音色もあって何かノスタルジックなイメージが沸いてくるが、この盤で聴くとより新しい音楽を聴いているような気分になる。録音の状態や音の録り方も曲が与えるイメージに随分と影響する。

クリコヴァはチェリストであった母親から音楽の手ほどきを受けたことも影響してか、単音のメロディーの歌い方がインスピレーションに満ちている。加えて愛器サイモン・マーティーから繰り出される音は広いダイナミクスと浸透力がある。トータルとして現代的なギター演奏の典型であり、一つの頂点ではないかと感じる。YOUTUBEには相当数の彼女の演奏があるが、いずれも音質に問題が多い。オリジナルのCDを聴くことを薦めたい。お手軽、便利なYOUTUBEではあるが、それですべてを間に合わせるのは、演奏の本来の姿を見落としかねない。


手持ちの盤からアップした。ポンセのソナタ第3番全3楽章。


同曲の美しい第2楽章chanson


多くの国際コンクールを制しているメキシコのパブロ・ガリバイによる演奏。ソナタ第3番全3楽章。



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G・セルののシューマン第3番交響曲「ライン」



令和三年にちなんで「三」しばりの音盤タイム。先回のシューマン交響曲第3番のチェリビダッケ盤で思い出し、きょうは対照的とも言えるこの盤を取り出した。


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ジョージ・セル(1897-1970)指揮クリーヴランド管弦楽団によるシューマンの交響曲第3番変ホ長調「ライン」。数年前にセルの録音が少しまとまって出た際に手に入れたもの。シューマンの交響曲4つと序曲が2つ。マンフレッドとウェーバーの序曲「オベロン」が入っている。1958年から1960年にかけての録音。オベロンのみ1963年。意外にも全曲がCD化されたのはこのときが初めてだそうだ。
セルはとりわけシューマンの交響曲に思い入れが強かったとライナーノーツに記されている。在欧中はもちろん、セントルイス響でのアメリカデヴュー、トスカニーニの招きでNBC響を指揮したとき、そしてもちろん長らく手兵となったクリーヴランド管との24のシーズンのうち19で、いずれもシューマンと取り上げたそうだ。

かねてよりその評判は聞いていたが、この盤に接して期待に違わぬ素晴らしい演奏であると納得した。以前FMか何かで聴いたときの印象に比べると、最新のマスタリングも奏功しているのか音質も素晴らしい。先ほどから第3番「ライン」を聴いているが、第1楽章冒頭からいつも通りの引き締まった響きと明確なフレージング、そして鉄壁のアンサンブル。よく問題が多いと指摘されるシューマンのスコアだが、セルの手にかかるとそんな気配は微塵もない。そして各パートが実によく分離して曲の成り立ちが手に取るように分かる。冒頭少し過ぎたあたりで、弦楽群とホルンが少し譜割りをずらして呼応する箇所など、この演奏で始めてその効果を納得した。

シューマンの交響曲をドイツ的とばかりに、うっそうとした森のイメージよろしく深々とした響きと少々曖昧模糊とした音の塊で表現する演奏もある。それはそれでうまくいくと中々魅力的ではあるのだが、こうしてセル&クリーヴランドの演奏を聴くと、やはり神髄はこちらだろうと確信する。今更ながらのセル&クリーヴランド。やはり素晴らしいコンビだった。


この盤の音源。上記記事中で指摘した弦楽群とホルンの掛け合いは1分3秒過ぎから数秒間のフレーズ。1分25秒過ぎから木管のブリッジを経て1分35秒過ぎあたりからの低弦群の動き…、展開部に入り3分14秒過ぎからの木管群と低弦群の呼応…この第1楽章はまったく息を付く間もないほどの緊張と解決が続く。


マレク・ヤノフスキ―指揮hr交響楽団(フランクフルト放送交響楽団)による同曲。



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S・チェリビダッケのシューマン第3交響曲「ライン」



令和三年にちなみ三番オシで始まった今年の音盤タイム。今夜はこんな盤を取り出した。


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チェリビダッケ指揮ミュンヘンフィルによるシューマンの交響曲第3番変ホ長調。もう二十年近く前になるが、晩年のミュンヘンフィルとの一連のライヴ録音がEMIから出たときの一枚。1988年の録音。カップリングは同じくシューマンの第4番。

この曲は第1楽章冒頭のフレーズ、序奏なしで勢いよく一気に立ち上がるテーマは新年の幕開けに相応しく感じる。そしてこのフレーズの扱いで演奏全体の印象が決まるように思う。ズワーンといくかパーンといくか…。オーケストラ音楽愛好家ならこのアインザッツの違いとイメージはすぐにわかってもらえるだろう。チェリビダッケはズワーンかつかなりソフトに始まる。以降もゆったりとしたテンポと深く暗めの音色でジワジワと音楽を進め、第1楽章展開部での寄せては返す緊張と解決、コントラバスの意味ありげな動きなど、ドイツロマン派の本流を好む向きにはたまらない展開となる。テンポを遅くとりながら緊張感と充実した響きを維持するのはオケのメンバーにとっては大変な負荷がかかる。この曲に限らず、チェリビダッケのテンポ設定と張り詰めた音響は、オケの団員が信頼と尊敬をもって彼に応じている何よりの証拠だ。第2楽章以降も音楽は常に悠揚迫らず、美しくかつスケール大きく進む。まさに「父なる河ライン(Vater rhein)」の悠々とした流れをイメージさせる名演だ。


この盤の音源。


エッシェンバッハ指揮SWR響による2019年の演奏。



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ベートーヴェン交響曲第3番変ホ長調「英雄」



カレンダー通り、きょうから仕事復帰。いつも通りの業務をこなして帰宅。ひと息ついて…さて、新年が明けて最初に聴く盤は何にしようか…多くの音盤愛好家が思い抱くテーマだろう。しばし考え、確か去年もと思い出し、令和三年の「三」にちなんでこんな盤を取り出した。


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数年前に出た指揮者エルネスト・アンセルメ(1883-1969)の録音を集めたボックスセットのうち<The Great European Tradition>と名付けられたセット。フランス音楽集、ロシア音楽集はその名の通りのセットだが、この<The Great European Tradition>はさしずめ<その他欧州編>とでもいうべきもの。バッハ、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームス等の独墺系の他、ファリャやアルベニスといったスペイン物や、レスピーギ、ロッシーニ、ショパン、シベリウス等を含む。きょうはその中から、令和三年にちなみベートーヴェンの交響曲第3番が入ったディスクを取り出した。オケはもちろん手兵スイスロマンド管弦楽団。1960年録音。

フランス、ロシア物のスペシャリストというイメージが強いアンセルメとその手兵スイスロマンド管(OSR)だが、ドイツ物もいくつかの注目すべき録音を残している。ベートーヴェンとブラームスの交響曲全曲と序曲等はその代表。特にブラームスはアルトラプソディーとドイツレクイエムも残している。ベートーヴェン、ブラームス共、以前から様々な評価がある録音で、ぼくも少し前からYOUTUBEで聴いて興味をもっていたもの。このセットでようやく正規の音盤を聴くことが出来た。

立派なベートーヴェン!それが最初の印象だ。
第3番変ホ長調<英雄>も出だしの和音からして明朗で開放的な響き。第1楽章展開部に入ると木管群と弦楽群のやり取りが明快なコントラストによって見事に描き分けられる。通常なら弦も管もマスの響きで押してしまいがちだが、この演奏は豊富な色彩感とコントラストで進む。第2楽章葬送行進曲の中間部、フーガとなる箇所ではテンポを落としてじわじわと盛り上げていく演奏が多いが、アンセルメはここでテンポをわずかに上げるという手法を採り、さらにその終盤ではトランペットの強奏が、まるで最後の審判を告げるかのように延々と鳴り続けて驚いた。

このコンビに対するネガティブな評価として、アンサンブル(縦の線の合い具合)や管楽器群の音程に対するコメントをよく見かける。確かに重箱の隅をつつくように耳をそばだてればそうした指摘も可能だろう。しかし今から半世紀以上前にこれだけコントラストが明瞭で、各パートの役割の面白さを実感できる演奏を実現していたことをもって、そうした指摘は十分帳消しに出来ると感じるのだがどうだろう。


この盤の音源。第3番変ホ長調の全楽章。第2楽章フーガは21分48秒から。そのあと23分55秒過ぎからも注目。トランペットの強奏に驚かないように!



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プロフィール

マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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