ホリー・コール・トリオ「Blame It on My Youth」



二月最後の週末土曜日。何となく慌ただしく過ぎた今月もまもなく終わりだ。きょうも朝から出たり入ったりと落ち着かなかった。ようやくひと息ついて、さて今宵はコレでどうかしらと、こんな盤を取り出した。


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ホリー・コール(1963-)がトリオ名義で出した2作目のアルバム「Blame It on My Youth」。ホリー・コールのボーカル、アーロン・デイヴィスのピアノ、デイヴィッド・ピルチのベース。1991年録音。収録曲は以下の通り。

1.トラスト・イン・ミー/2.アイム・ゴナ・ラフ・ユー/3.イフ・アイ・ワー・ア・ベル/
4.スマイル/5.パープル・アヴェニュー/6.コーリング・ユー/7.ゴッド・ウィル/
8.君住む街角/9.ハニーサックル・ローズ/10.アイル・ビー・シーイング・ユー

ピアノとベースだけのシンプルなバックにのって歌うホリー・コールがまるで目の前にいるかのように聴こえてくる。まさに唇の動きまで分かるほどで、深夜に聴いていると、時に人の気配すら感じてゾクッとするほどだ。この盤は収録曲の「コーリング・ユー」がヒットしたこともあって彼女の初期の代表盤となった。手元にはその後のアルバムも含めて何枚か彼女の盤があるのだが、この盤の彼女が一番いいように思う。ピアノのアーロン・デイヴィスとベースのダヴィッド・ピルチのミニマムなバックも、彼女のときに深くときに甘い声にぴたりだ。そしてジャケットにある録音データを見るとAADとある。すなわち90年代初頭のデジタル録音システムが出来上がっていた時期にもかかわらず、この盤は録音とマスタリングをアナログでやっている。そのこだわりも生きて録音もすこぶるいい。春の宵のお一人様リスニングには最適のアルバムだ。


この盤の音源。第1曲の「Trust in me」。
このトラックは低音再生の確認に最適だ。1:06からのベース下降音は1:13で4弦最低音のE(≒40Hz)まで下がる。この部分の基音がしっかり出ていれば及第だ。手持ちのオーディオシステムではここで部屋の空気がゆったりと震える様が再現する。


ホリー・コールの名刺代わりともいうべき曲「calling you」 このトラックでもベースの深い低音が心地いい。



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徳永兼一朗(Vc)



時々下手くそなギター演奏や手持ち音源の断片などをYouTubeにアップしている。まったく脈絡なく記録保存しているだけのチャンネルなのだが、このところ登録者が増えてきた。もちろん世のYouTuberなどとは比較にもならないが、長らく50名に満たなかったチェンネル登録者が今年に入ってから少しずつ増え、現在170名ほど。何がきっかけなのか調べてみると、どうやら以前アップした徳永兼一朗の音源であることが分かった。…というわけで、きょうはその音源の盤を取り出すことにした。


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NHK交響楽団チェロ首席奏者だった徳永兼一郎(1941-1996)の弾く小品集。
70年代から80年代のN響にテレビで、あるいは時にはライブで接してきたぼくには、いくつかの懐かしい顔がある。コンサートマスターの田中千香士・徳永二男、ホルンの千葉馨やフルート小出信也・宮本明恭、クラリネットの浜中浩一等々。当時の各パートトップの顔が今も浮かんでくる。そして指揮台には岩城宏之、外山雄三、サヴァリッシュ、スウィトナー、マタチッチ、ブロムシュテット。名前を連ねるだけで当時の空気まで思い出す。そんな中の一人にチェロの徳永兼一郎がいた。同じ頃コンマスだった徳永二男の兄にあたる。その彼がまだ若かった70年代初頭に録音した小品集。神谷郁代のピアノ伴奏。1971年2月東京青山草月会館ホールでの録音。収録曲は以下の通り。お馴染みの小品が並ぶ。

1.サン=サーンス:白鳥
2.フォーレ:夢のあとに
3.バッハ/グノー:アヴェ・マリア
4.ベートーヴェン:メヌエット ト長調
5.カサド:愛のことば
6.ルビンシュタイン:ヘ調のメロディ
7.ポッパー:ハンガリー狂詩曲
8.ヘンデル:ラルゴ
9.メンデルスゾーン:歌の翼に
10.バッハ:アリオーソ
11.ケーンズ:スケルツォ Op.12-2

チェロトップの彼はいつも指揮台のすぐ前に座り、実によく指揮者を見ていた。そして「燃えない、冷静、エリート臭い」と言われた当時のN響メンバーの中にあって、ときに抱えたチェロがほとんど垂直になるほど身体を前のめりにし、ひとり気を吐いていた。しかし彼はそのキャリアのピークに癌に侵され、1996年5月に55歳で世を去る。亡くなる直前、入院先のホスピスで最後の力を振り絞って演奏する彼の姿がNHKで放映されたのを覚えている輩も多いだろう。この盤は1971年彼が30歳のときの録音で、チェロの有名なショートピースを演奏している。オンマイクの録音がより一層リアルにチェロの音をとらえ、目前に彼がいるかのような錯覚におちいる。録音当時30歳の彼は正に前途洋々であったろう。その後の悲劇など彼自身はもちろん、誰も知る由もない。アルバムジャケットのこれ以上ないほどの素晴らしい笑顔をながめ、そしてチェロの美しい小品を聴いていると思わず胸が詰まる。小品集でありながら慰安として聴くには重いこのアルバムではあるが、ときに取り出したくなる貴重な記録だ。

<付記>
この盤でピアノ伴奏を弾く神谷郁代は、隣り町群馬県伊勢崎市出身であることを付記しておく。


手持のCDからアップしたもの。夢のあとに、ヘ調のメロディー、アリオーソの3曲。動画に対する高評価数=107はアップしている動画中最高値。いずれ続編をアップしようか…


スウィトナー&N響による「魔弾の射手」序曲。ホルンの序奏に続き、3分前後から徳永兼一郎率いるチェロセクションの登場。


NHKで放映されたもの



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チェリビダッケの「展覧会の絵」



在宅勤務シフト継続中で、いろいろとペースが狂い仕事もはかどらない。きょうは天皇誕生日で休み。昼を挟んでちょいと外出。3時過ぎに戻ってきたあと、ひと息つきながら音盤タイム。先日来のチェリビダッケ連投で、こんな盤を取り出した。


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チャリビダッケ指揮ミュンヘンフィルによるムソルグスキー(ラヴェル編曲)「展覧会の絵」。1993年ミュンヘンでのライヴ録音。チェリビダッケの展覧会の絵にはいくつかの録音があるが、手元にはこの1993年と1986年東京サントリーホールでのライブの二つがある。この盤を東京ライヴと比べると基本的な曲の運びは同傾向ながら、細部ではいくつか違いがある。特に終曲「キエフの大門」の終わり近く、例のグランカッサが入るタイミングは、まったく異なる。
さて、この盤。聴きなれたラヴェル編曲…と言いたいところだが、聴きなれたとはとても言えない演奏だ。少し大げさに言うと、最初に聴いたとき、これが同じ編曲の展覧会の絵かと腰を抜かしそうになったほどだ。まず晩年のチェリビダッケの特徴としてテンポ設定が遅い。最初のプロムナードなど、誰もがえっと驚くだろう。しかも弦も管も音は徹底的にレガートかつテヌートに保持される。以下に続く各曲も押しなべて遅いテンポと周到に計算されたアーティキュレーションが続く。スケール感は最大限に拡張されつつも荒削りな豪放さではなく、眼光紙背に徹すのごとき拘りが貫かれる。

中でも「カタコンブ」の異様さは圧巻だ。どこまで続くのかと思わせる金管群の深い咆哮、突然のフォルテシモとそのあとに現れる脱力したピアノシモ。この「カタコンブ」の部分だけでもこの盤の価値があるように思えるほどだ。終曲「キエフの大門」では失速寸前までテンポが落とされ、同時にスケール感も拡大される。音楽を聴いていて息苦しくなることはないが、この盤に限っては、チェリのテンポで呼吸をしていると息絶えそうになるだろう。こんな演奏を組立てたチェリもチェリだが、その指示に従いブレスの限界まで吹き続けるミュンヘンフィルの金管セクションにも脱帽だ。凡百のオケならギャラを倍もらってもこんなテンポで吹き続けられないとクレームを付けるに違いない。そうさせないチェリビダッケ、そうしなかったミュンヘンフィル。この盤は双方の固い意志と深い信頼関係が生んだ名演だ。


この盤の音源。YouTubeにはこの音源がいくつかアップされているが、多くがCDトラックのつなぎ目で音が切れる。幸いこの音源にはそれがない。先に記した「カタコンブ」は27分2秒から。


1989年ミュンヘンフィルとのライヴ。コメント欄によると同じバイエルン州にある自動車メーカー・アウディ社の工場で撮られたようだ。アウディはミュンヘンフィルをサポートしている縁と記されている。



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チェリビダッケのワグナー管弦楽曲集



気付けは2月も下旬の週末日曜日。野暮用あれこれで日が暮れた。夕方になったアンプの灯を入れ音盤タイム。先日来の流れで、きょうもチェリ。取り出したのはこの盤だ。


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セルジュ・チェリビダッケ&ミュンヘンフィルによるワグナーアルバム。ミュンヘンフィルの本拠地ミュンヘン・ガスタイクでの1993年ライヴ録音。収録曲は以下の通り。

「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕前奏曲
ジークフリート牧歌
「神々の黄昏」よりジークフリートの葬送行進曲
「タンホイザー」序曲

冒頭収録された拍手に続くマイスタージンガーから、巨大なスケール感と音響の透明性に圧倒される演奏だ。生前チェリビダッケはレコード録音を嫌っていたわけだが、その理由の一つが実演で繰り広げられる音響イメージ、特にホールの響きや副次的に発生する倍音の響きも含めた音響の広がりが録音では再現できないということだった。70年代の初来日で読響を指揮した際、オケのチューニングから各部のバランスまで徹底的に練習を重ねて団員がねを上げたというエピソードも、そうした彼の音楽哲学によるものだった。

このワグナーアルバムを聴くと、スケールの大きさというのは、音の大きさでも、アタックの強烈さでもないと納得する。マイスタージンガーしかりタンホイザーしかり。各声部のピュアな響きを確保し、それを重ねていくことで重層的かつ透明な響きを確立していくことでスケールの大きな音楽が目前に広がる。その一方で、ジークフリートの葬送行進曲では、そうした透明な響きに葬送の音楽という特殊性からだろうが、ときに音が割るほどの凄みも見せる。いずれもチェリビダッケの晩年の音楽美学が十全に繰り広げられる名演だ。


この盤のタンホイザー序曲。15分過ぎからのエンディングには圧倒される。このテンポと緊張感で演奏するには、オケに要求される体力と集中力も並大抵ではないだろう。


マイスタージンガー第1幕前奏曲。ミュンヘンフィルの本拠地ガスタイクのホール@1985年。晩年の演奏は更にこの路線が徹底されている。



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懐かしの茶位ギター



つい先日ギターを一本買った。もう楽器を増やすのはやめようと思っていたのだが、何となくピンとくるものがあったのと、遊びで買える価格だったこともあって、つい…


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手に入れたのは茶位幸信1974年作。表板スプルース。横裏板インディアンローズウッド。指板は黒檀。弦長650㎜。ペグは60~70年代の楽器によくある39㎜ピッチ。塗装は薄塗りのラッカー。当時の定価8万円のモデル。ちょうど私が大学に入学した年のもので、サークルでもこのクラスの茶位ギターを何人も使っていた懐かしいブランドだ。大学1年の年末、サークル内の発表会でタレガのアラビア風奇想曲を弾くことになり、高校時代から使っていた松岡ギターでは冴えないので、同期の仲間から茶位ギター借りて演奏した思い出もある。先日、大阪・茨木六弦堂にこのギターが出ているのを見つけ、そんな懐かしさもあって店主南里さんに連絡し送ってもらった。 1974年当時といえば前年のオイルショック以降のインフレが激しい時期で、物価も給料も年率20パーセント以上上昇していた。当時8万円の定価は大卒初任給より少し高いくらいに相当する。物価水準、使用材料等からみると現在の30万クラスの楽器ということになるだろうか。

茶位幸信氏は元々ヴァイオリン等の弦楽器を製作していたのだが、60年代からのギターブームもあって次第にギター製作へシフト、特に70年から80年代には創業者の茶位幸信氏と何名かの職工とが家内制手工業レベルの小工場でかなりの数を作っていた。完全な個人製作家とは少し業態を異にし、学生にも手の届く価格のスチューデントモデルに位置付けられるものも製作していた。ギターデュオのゴンチチが使っていることでも知られている。製作本数も多いので現在でも中古の出物はしばしば見かける。

送られてきた個体は製作から40数年を経ているにしてはキズ少なく、ネックや指板、ボディーや表板、塗装の状態もおおむね良好で、どうやら前所有者はあまり弾いておらず、かつ保存状態もよかったようだ。肝心の音は実はあまり期待していなかったのだが、予想を裏切る好印象。高音はやや硬質ながら張りのある音で良く鳴り、低音はやや腰高(レゾナンスはG♯~A)ながら音量や伸びも十分。全体のバランスも良好だ。到着した直後は、あらゆる音域での音の均一性という点ではやや難があるかなと感じていたのだが、数日弾いているうちに楽器が永い眠りから目覚めてきたのか、全域でスムースに発音するようになった。音にもう一段品位が欲しい感じだが、その辺がこのクラスの楽器としての限界だろうか。仔細に点検するといくつか手を入れたい箇所もあるが、それにしてもおおよそ不満のない音で、十分いい買い物だったと自己満足している。


手に入れた茶位ギターの音の確認。フェルナンド・ソルの練習曲作品60の4(下の楽譜)。単音のやさしい練習曲ということになっているが、ハ短調の調性感と単音ながら豊かな和声を感じさせる佳曲だ。例によって楽譜を広げてさっと弾いただけなので、肝心なところでミス散見。機会があればあらためて…
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楽譜はこちら




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チェリビダッケのベートーヴェン交響曲第4番変ロ長調



寒さもピークアウト。とは言え三寒四温で通勤時のコートも春物、冬物と忙しい。さて週半ばの木曜日。先回の記事で思い出し、続けてこんな盤を取り出した。


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セルジュ・チェリビダッケ(1912-1996)とミュンヘンフィル(MPO)によるベートーヴェンのアルバム。第4番変ロ長調と第5番ハ短調「運命」が収録されている。先回の記事に書いたMPOとの一連のライヴ録音中の一枚。今夜はそのうち第4番を聴くことにした。1995年ミュンヘン・ガスタイクでの録音。

晩年のチェリビダッケと聞いて想像できる展開の演奏。しかし、こう来るだろうと分かっていて、その通りの展開となりながら、やはりその素晴らしさに打ち震える。提示部の繰り返しなしで、ベートーヴェンの交響曲の中では小規模なこの第4番に37分を要している。第1楽章の序奏はまるで葬送の音楽のようだ。主部に入っても落ち着いたテンポ。しかし、一時として弛緩することなく、音楽は豊かに進む。第2楽章アダージョの構えの大きさは比類がない。晩年どうしの比較として、カラヤンが1986年に来日した際の東京文化会館での第4番第2楽章が9分48秒。チェリのこの演奏はなんと13分18秒。ちなみの他の楽章は大きな差がない。一音一音が意味深く響き、弦と管の掛け合いではこんなフレーズがあったのかと今更ながら気付く。後半の第3・4楽章も弦のフレーズ、管のひと吹き、低弦群の経過句、それぞれが明確に提示され、この曲の構造的な骨格がよく見通せる演奏だ。ジャケットの大きく写る不敵な笑み同様、やはりチェリは唯一無二だ。


手持ちの盤からアップした。第4番第1楽章


同 第4番第2楽章



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チェリビダッケのハイドン「オクスフォード」



二月半ば週明け月曜日。きょうは都内で仕事だったが、相変わらず人出は多い。東京駅構内もおよそ緊急事態宣言下とは思えない様相だ。行き帰りの新幹線もビジネス、旅行他程々の乗車率で、密ではないが外出自粛とは程遠い感がある。そういう自分もそのうちの一人だから、仕方ないのだが…。さて、帰宅後ひと息ついて音盤棚を見回し、こんな盤を取り出した。


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セルジュ・チェリビダッケ(1912-1996)指揮ミュンヘンフィルハーモニーによるハイドン交響曲第92番ト長調「オクスフォード>」。1994年2月録音。同コンビの録音は2000年頃一気にリリースされ、その後もボックスセットになったり、今回入手した盤のように廉価盤になったりと、再発が続いた。相応のリクエストがあるのだろう。ぼくもたまたま近所のショッピングモールに入っている書店のCDコーナーで見つけて、落穂ひろいのように数枚買い求めた。この盤にはオクスフォードともう1曲、モーツァルトの40番が入っている。

チェリビダッケのハイドンと聞いて想像するイメージと重なるところと、意外にもきわめてオーソドクスな面と、双方兼ね備えた演奏。第1楽章の序奏…えっ、オクスフォードはこんな曲だったかと思うほど精緻で美しい響きに驚く。ゆっくりとしたテンポとフレーズの合間に漂う緊張感。意味あり気なゲネラルパウゼが素晴らしい。そして弦楽器群はほとんどヴィブラート付けていない。まるでブルックナーのアダージョ楽章を聴いているかのような錯覚に覚える。これまで聴いた中でもっとも美しい序奏かもしれない。主部もややゆっくりめのテンポだが、柔らかくかつ充実した響き。音楽の構えは大きいが、音響的には古典らしくコンパクトな響き。編成も少し小さいようだ。そしてオケを無理に鳴らすことは決してなく、響きのバランス重視で進む。第2、3楽章は少々重く引きずるような表現で賛否が分かれるところ。終楽章は予想以上に快活なテンポで一気呵成に聴かせる。ミュンヘンフィルのアンサンブルと重心の低い響きも素晴らしい。総じて、晩年のチェリビダッケ特有の個性に満ちた演奏だが、風変わりなところは感じない。それでもこんなスタイルは今どき聴けないし、独自の表現もチェリ以外ではあり得ないワンアンドオンリーな盤だ。


この盤の音源。 冒頭の序奏だけでも聴く価値有り(0:57から)。


NDRエルプフィルハーモニー(NDR響:ハンブルグ北ドイツ放響から最近改名)による演奏。



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プロフィール

マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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