テンシュテットのモーツァルト



三月三日のひな祭り。オジサンにはほとんど関係ないイベントだが、何とはなしに春の訪れが感じられて心和む。さて、年度末第一週の水曜日。きょうも程々の業務に精励。8時過ぎに帰宅。ひと息ついて…音盤棚を見回し、こんな盤を取り出した。


202103_Tennstedt_Mozart_s.jpg


モーツァルトの交響曲第35番ニ長調「ハフナー」。クラウス・テンシュテット(1926-1998)とロンドンフィルハーモニーによる1984年来日公演の記録。4月13日大阪フェスティバルホールでのライヴで、当日の演奏曲目、マーラーの5番交響曲とこのモーツァルトとがCD2枚に収められている。きょうはこのうちモーツァルトを聴くことにした。

テンシュテットが世間のクラシックファンの知るところとなったは、彼が50歳近くなった70年代半ばだった。まだ東西ドイツには厚い壁が存在した時代で、テンシュテットはその東側で歌劇場の指揮者としてキャリアを積んでいた。もちろん相応の実力があったのだろうが、今のように情報が行き交う時代ではなかった。70年代初頭に亡命し、その後イギリスやアメリカのオケに客演するに至り、次第にその高い実力が知られるようになった。この盤に納められている1984年の初来日公演はすでに日本での人気も高まっていた時期で、その後1988年、1992年と来日を重ねた。

テンシュテットというと当時からマーラー指揮者として知られ、この盤の演奏が行われた大阪フェスティバルホールでもマーラーの第5交響曲を目当てにしていたファンが大勢だったろう。モーツァルトの交響曲は当夜前半のプログラムとしておかれたものだろうが、これがおよそ前座プログラムとは程遠い素晴らしい演奏だ。第1楽章冒頭、ユニゾンのトゥッティが堂々と立ち上がる。ロンドンのオケと言えばいずれも腕利き揃いで、当時から十分国際的なオケだったはずだが、その筆頭株の一つロンドンフィルがテンシュテットの手によって、まるで東独のオケのように渋い音を奏でる。厚く重心の低い弦楽群、時折り合いの手を入れる木管群の音色も派手さはなく、弦楽群の響きによく調和する。中庸のテンポで力強くはあるが、押し付けがましさはない。ロマン派以降の独墺系の曲で真価を発揮したとされるテンシュテットだが、こうした古典中の古典に対しても、その音色感から確実にコントロールする実力の高さを垣間見る素晴らしい演奏だ。


手持ちの盤からアップした音源。第1楽章。


1977年ボストン交響楽団との演奏。テレビ番組での収録のようだ。テンシュテット51歳。晩年の姿しか知らない者からみると随分と若く見える。テンシュテットはこの第35番「ハフナー」を得意にしていたのだろうか、この演奏を含めYouTubeにもいくつかの演奏がアップされている。



■ にほんブログ村ランキングに参加中 ■
■↓↓↓バナークリックにご協力を↓↓■
にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ
にほんブログ村
関連記事

A.C.ジョビン「三月の雨」



月があらたまって令和三年弥生三月。区切りでは令和二年度の終わり。思えば今年度は終始コロナ禍に翻弄された一年だった。その影響未だ収束せず、ぼくの仕事も思わぬ余波で難儀している。残る数週間で何とかリカバリーして年度末を締めくくりたいところだ。…と、そんなことを思いつつ本日も業務に精励。8時を少し回って帰宅した。ひと息付きながら一服。三月…で思い出し、こんな盤を取り出した。


202103_Twist_of_Jobim_s.jpg


ギタリストのリー・リトナー(1952-)が呼びかけて集結したオールスターキャストによるアントニオ・カルロス・ジョビンのトリビュートアルバム「Twist of Jobim」。1996年録音。収録曲は以下の通り。

おいしい水 /キャプテン・バカルディ/ジンジ/3月の雨/
ボニータ/ストーン・フラワー/ファヴェラ/チルドレンズ・ゲームズ/
ラメント/モハーヴェ/イパネマの娘/アンティグア/

このアルバムはボサノヴァの創始者といっていいジョビン・トリビュートではあるし、ボサノヴァの定番曲が収められているものの、純粋な(…という表現が適当かどうか分からないが)ボッサというよりは、軽いフュージョンあるいAORに近いテイストに仕上がっている。ボサノヴァを発祥の地ブラジル寄りに位置付けるか、50年代終盤以降アメリカに渡ってポピュラリティーを色濃くした、よりグローバルな音楽に位置付けるかの違いがあるだろうが、このアルバムは完全にアメリカの、それも西よりのそれだ。まあ、そんなことより「超」が付く一流プレイヤー達の肩の力が抜けた、それでいて完璧なプレイがこのアルバムの真骨頂。他の曲もジャズテイストの強いもの、スローロック調、ラテン色の濃いもの、いろいろなアレンジがなされているが、そのいずれもが「過ぎずに」いい感じの仕上がりで、大人の音楽になっている。

中でも人によってはボサノヴァの最高傑作と絶賛する「三月の雨」が聴き物だ。実際、このアルバムを取り出して聴こうというときには「三月の雨」だけを数回繰り返して終わりということさえある。オリジナルのジョビンや、エリス・レジーナとジョビンのデュエットと比べるとずっと洗練され、クリーンで清涼なミネラルウォーターのようなアレンジで、アル・ジャロウとオリータ・アダムスの歌いっぷりもピタリとくる。

灯りを落としたタワーマンション上層階のリビングルームで、冷えたスパークリングワインなどやりながら聴くには最高のチューンだ。…残念ながら、田舎の戸建の一室で下戸のオッサンが渋茶で一服…では絵にならない。


先年亡くなったアル・ジャロウ(1940-2017)とオリータ・アダムスが歌う「三月の雨」 ワン・ノート・サンバや松田聖子:ロンクンルージュなどと同様、一つの音を中心に上下するようなメロディーらしくないメロディをコード進行の妙で音楽に仕立てる仕組みの曲。この手法は古来クラシックの世界、とりわけロマン派の手法の一つとも言える。ショパン前奏曲4番やギター弾きならタレガの前奏曲イ短調などが思い浮かぶだろう。


1974年に出てヒットしたエリス・レジーナとジョビンのデュオ・ヴァージョン。


菊地成孔「三月の雨」を語る。


このアルバム全曲の再生リスト
https://youtube.com/playlist?list=PL8633AC31FDCAC018



■ にほんブログ村ランキングに参加中 ■
■↓↓↓バナークリックにご協力を↓↓■
にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ
にほんブログ村
関連記事
プロフィール

マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

カレンダー
02 | 2021/03 | 04
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
最新記事
最新コメント
カテゴリ
検索フォーム
月別アーカイブ
QRコード
QR
閲覧御礼(2010.10.01より)