先日の記事にも書いたが、折をみては道楽部屋の整理をしている。作り付けの棚の過半を占める音盤を前にすると、これまでたどってきた道楽人生を思わず回顧する。一時は同曲異演盤、珍曲・秘曲の類に興味をもったが、最近は万事に保守的になったのか、かつて若い頃に聴いたごく狭い範囲の曲を繰り返し聴くことが多くなった。もうあれこれ手を出す年齢でもなくなったということか…。そんなことを思いながら、きょうも音盤棚を見回し、聴き馴染んだこの曲を取り出した。 マヌエル・デ・ファリャ(1876-1946)のバレエ音楽「三角帽子」。シャルル・デュトワ(1936-)とモントリオール交響楽団による1981年の録音。デュトワが世界的な知名度を得るきっかけとなった一連のデッカ録音中の一枚で、「恋は魔術師」がカップリングされている。80年代のこのコンビによる録音は60年代のアンセルメ&スイスロマンドのデッカ録音をなぞるように続いた。この盤の他、フランスやイタリアなどラテン系近代作品は、仏系のこの指揮者とオケに相応しい絶好のレパートリーだった。 久々に取り出して針を落としたが、鮮明なデッカサウンドは今でも十分現役。デュトワのいきのいい曲運び、それに応えるモントリオール響のアンサンブルと音色。1978年から2002年までの長期に渡った両者の関係を示す好サンプルだ。もちろんファリャの曲そのものもよく出来ている。スペインの土俗的なリズムや旋律といった民族的要素と、フランスで学んだ近代的な管弦楽法や印象派風の楽想とがよくブレンドされていて、聴き飽きることがない。 「三角帽子」は好きな曲の一つで、以前もブルゴス盤やアンセルメ盤について記事にしたが、このデュトワ盤は録音の良さ、オケの実力からして抜きん出ている。プライベートでも様々に浮名を馳せた華麗?!なキャリアを持つデュトワに渋いブラームスや悲劇的なベートーヴェンを期待するつもりはない。この盤のような曲にはこそ相応しい指揮者だ。 この盤の音源。「三角帽子」VIDEO 「三角帽子」の中で最も知られている「粉屋の踊り」VIDEO ギター版「粉屋の踊り」VIDEO ■ にほんブログ村ランキングに参加中 ■ ■↓↓↓バナークリックにご協力を↓↓■にほんブログ村
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ここ数日、台風や前線の影響あって雨まじりの日が続く。気付けば八月も半ば。暑さはピークアウトしたように感じるが、季節感を感じる余裕もなくコロナ禍は続く。さて週末日曜日の午後。部屋の片付けをしながら、久々にこんな盤を取り出した。 サイモン・ラトル(1955-)とウィーンフィルによるベートーヴェンの交響曲全集。2002年4月から5月にかけ、ウィーンフィルの本拠地ムジークフェラインでライヴ録音されたもの。元々EMIから出ていたが、EMI身売りに伴い、ジャケットにはWARNER CLASSICSのロゴが入っている。このラトル&VPO盤はライヴとして短期間にまとめて録られたこと、またベーレンライター版が使われたことなどが話題になった盤で、例の石原俊著のオーディオ本 でも同著発売当時(2005年)のベートーヴェン演奏の代表として、またオーディオ的リファレンスとして取り上げられていたもので、ムジークフェラインの音響を生かした高音質でも評価されていた盤だ。 またまた数年前、ヨドバシアキバのタワーレコードで叩き売られていたのを見つけ、値段はともかく、日頃古めの録音ばかり聴いていて、たまには時流にのるものいいかなあと思っていたこともあって手に入れた。手元にあるベートーヴェン交響曲全集はかるく十種を超えるが、もっとも新しいのがジンマン&チューリッヒトーンハレ盤(1997-98年録音)、高関健&群馬交響楽団盤(1995年録音)あたりで、21世紀の録音はこの盤が唯一だ。きょうはこの中から第5番ハ短調「運命」を取り出した。 この全集はこれまでにひと通り全曲を聴いたが、ひと言でいえば、やはり面白い演奏だ。リリース当時、賛否両論大いに物議をかもしたのもうなづける。ウィーンフィルは極上の音響、ライヴのハンディキャップを感じさえない録音と仕上がり、そして何よりラトルの眼力があちこちで新鮮な響きをもたらし、飽きさせない。第5番も70年代までの重厚長大路線の演奏がデフォルトのぼくら世代には、この曲にこんなフレーズや仕掛けが潜んでいたのかと、感心することしきりだ。巨匠時代の重厚長大路線をごく大雑把に言えば、スコアを遠くから俯瞰し、全体像としての構成を重視する傾向が強い。それに対してこのラトル盤はスコアを手元ぎりぎりまで引き寄せ、書かれている音符の隅々にフォーカスし、明解な音にして提示する。慣れ親しんだ、あるいはいささか手垢のついた予定調和的な先行きが見える演奏の対極として、21世紀のリファレンスの一つと言っていい演奏だ。 この盤の音源。第5番第1楽章。VIDEO 第5番全4楽章。2001年ウィーンフィルとの来日公演@サントリーホールVIDEO ■ にほんブログ村ランキングに参加中 ■ ■↓↓↓バナークリックにご協力を↓↓■にほんブログ村
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週末金曜日。世間はお盆休みの中、暦通りに仕事。帰宅後ひと息ついて、いささか夏バテの老体に鞭打つべく音盤で暑気払い。ひんやり癒しの曲を敢えて避け、熱気とパワーで乗り切ろうと、こんな盤を取り出した。 リヒャルト・シュトラウスの交響詩「英雄の生涯。ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団による1960年の録音。手持ちの盤は70年代半ばに廉価盤で出たときのもの。ぼくら世代には懐かしいジャケット写真。この頃CBSソニーからは、セル、オーマンディーをはじめ、お抱えアーティストの廉価盤が幾度となくリリースされていた。この盤は記憶が正しければ当時、廉価盤で手に入る唯一の「英雄の生涯」だったという、実にわかりやすい理由で選んだ。 オーマンディーはこの曲を得意にしていたようで、SP時代、モノラル時代、そしてステレオ期2回の計4回録音している。絢爛たる管弦楽、堂々たる厚みのあるサウンド、起伏に富んだ構成、ときにこぼれ落ちんばかりのロマンティシズム。いずれもオーケストラ芸術の極みが堪能できる曲で、オーマンディーが半世紀に渡って共に歩み育ててきたフィラデルフィア管に相応しい曲だ。録音も優秀で、低弦群やオルガンの音もレベルは控え目ながらローエンドまでしっかり聴こえてくる。 このLPでは第3部までがA面に、第4部からフィナーレがB面に入っている。とりわけB面になってからの第4部以降はスリリングな展開と同時に、濃厚なロマンティシズムが交錯。さらにR・シュトラウスの他の曲からの引用がちりばめられ飽きさせない。フィナーレは特に印象的で、イングリッシュホルンに導かれ「ドン・キホーテ」のモチーフの引用で始まり、さしもの英雄も達観して人生の最後を迎えるかのような美しく調和した響きが続く。 この盤の音源。VIDEO ディーマ・スロボデニューク指揮ガリシア交響楽団。VIDEO 英雄もいつかは去るの図…VIDEO ■ にほんブログ村ランキングに参加中 ■ ■↓↓↓バナークリックにご協力を↓↓■にほんブログ村
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少し前から道楽部屋の断捨離が進行中。明確な方針はないが、週末の時間を使ってボチボチやっている。おそらく傍目には大した変化はないのだろうが、作業した本人だけにはヤッタなあ感がある。まあ、万事自己満足レベルの作業なのでよしとしよう。先日も音盤棚の入替え作業。ポピュラー盤の棚を見回していて、こんな盤を見つけて取り出した。 バントネオン奏者:小松亮太のベスト盤。2007年リリース。それまでに発売されたアルバムから、あれやこれや以下の17曲が収録されている。バンドネオンを聴いてみようかというときにはうってつけのアルバムだ。 1.マレハーダ 2.ノスタルヒコ 3.風たちとの出逢い 4.アグア・ベルデ 5.リベルタンゴ~ヴァージョン2005 6.タンゲディアIII 7.ラ・トランペーラ(うそつき女) 8.槍 9.ポル・ウナ・カベーサ(首の差で) 10.デカリシモ 11.フォルティン・セロ 12. 春のロマンス 13.空色の瞳 14.ブエノスアイレアンド 15.スム 16.タングアンゴ 17.トゥリウンファル 小松亮太が世間で人気を得たのはもう二十年前頃になるだろうか。名前を聞き付け、ぼくも2枚ほどアルバムを買った。当地に来演し、群馬交響楽団との協演でピアソラのバンドネオン協奏曲を演奏したのものその頃だった。田舎町でピアソラのコンチェルト聴けるとは思わなかった。 ぼくはタンゴファンでもバンドネオンファンでもないので、まったく語るべきものもないのだが、この手の音楽の常として、娯楽的なポピュラーミュージクに終始してしまうことがしばしばだ。特にタンゴのふるさとでない日本ではなおさらかもしれない。あるいはピアソラ、それもリベルタンゴ、オブリビオン、アディオスノニーノの繰り返し…。しかし手元にある彼の数枚の盤を聴く限り、コマーシャリズムに流されない意欲的な表現が聴ける。最近の活躍にはまったく不案内だが、彼のサイトによればオリジナルのタンゴワールド以外にも活動の幅を広げている様子。特に様々ジャンルのアーティストとの協演が目立つ。そうした新たな潮流もいいが、バンドネオンなら小さなライブハウスでコテコテのタンゴを聴きたい気分だ。 「オスバルド・モンテスとの遭遇」VIDEO アコーディオンユニット:チャラン・ポ・ランタンとの「蛇腹談義」 中々面白い!VIDEO ■ にほんブログ村ランキングに参加中 ■ ■↓↓↓バナークリックにご協力を↓↓■にほんブログ村
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週明け月曜日…といっても三連休につき本日もオフ。 先日聴いたケンペのブラームスで久々に目が覚め、週末をはさんで手持ちの盤をいくつか聴いたのだが、その中であらためて感心したのはこの盤だった。 ギュンター・ヴァント(1912-2002)指揮北ドイツ放送(NDR)交響楽団(現NDRエルプフィルハーモニー管弦楽団)によるブラームス交響曲第2番ニ長調。1996年7月NDRの本拠地ハンブルグ・ムジークハレでのライヴ録音。手持ちの盤は同コンビによる全集中の一枚。 ディスクをプレイヤーにセットし、プリアンプの音量ボリュームをかなり絞り気味に合わせてからプレイボタンを押す。冒頭の低弦群の奏するd-cis-dのモチーフが弱く、しかしはっきりと聴こえる程のレベル。深夜リスニングのお供、ゼンハイザーのHD-800で聴いていると、その程度の音量でも全体のバランスを崩すことなく、オケの響きとステージの広がりが聴き取れる。 晩年になってもテンポの落ちなかったヴァント。ぼくの頭にあるこの曲の標準的なテンポよりわずかに速めの設定だが、急ぐ感じはない。音楽のテンポ設定はごく大雑把に言えば、速ければキレがよく、遅ければコクが出る。ヴァントの設定は正にキレとコクの絶妙なバランスをキープ。各パートの響きはタイトでフレージングも明確。何より音楽が推進力に満ち、淀みなくよく流れる。常にどのパートがフォーカスされているのかもよく分かる。細部を綿密に仕上げ、それを積み重ねて全体を構築する手腕は素晴らしいのひと言だ。 ライヴ録音ながら録音も秀逸で、毎度ながらぼくが聞き耳を立てるコントラバスの基音の支えもしっかりととらえられている。あえて注文を付けるとしたら、ヴァイオリン群の高音が少々ヒステリックに響くことがあり、ここはもう一段の芳醇さが欲しいのだが、ライヴ録音であることを勘案すれば上出来だろう。 この盤の録音から遡ること十年程前1984年のライヴ。ヴァント72歳。オケは同じNDR響VIDEO この盤の音源。全4楽章。VIDEO 先日のハイドン・ヴァリエーション同様、この曲もブラームス自身によるピアノ連弾編曲が残されている。VIDEO ■ にほんブログ村ランキングに参加中 ■ ■↓↓↓バナークリックにご協力を↓↓■にほんブログ村
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週末土曜日。昼をはさんで野暮用外出。午後三時を少し回って帰宅した。何はさておきエアコンをオン。幾分熱気が癒えたところで、少し前から気になっていたこの盤を取り出した。 あまりに有名なビートルズのアルバム「アビイ・ロード」。1969年発売。東芝音楽工業AP-8815。 ぼくは熱心なロックファンでもビートルズファンでもないのだが、中学生時代が1967~1969年で、ビートルズもローリングストーンズもクリームも、ラジオのスイッチを入れればヒットチャートでリアルタイムに流れていた世代。当時のヒット曲はひと通りインプットされていて、最近になって当時のアルバムを入手することもある。この手持ちのアビイ・ロードは20年程前、同世代の職場の同僚が「もう聴かないから」と譲ってくれたもの。何でも高校受験が終わった1970年春に買ったとのこと。同僚の歴史ながら、同世代ということもあって、この盤を取り出すと当時の空気感が蘇る。 第1曲「Come Together」に針を降ろし、プリアンプのボリュームをいつもよりやや多めに回す。出だしの「シュッ!」というシャウトが勢いよく飛び出してくる。そのあとに続くローエンドまで伸びる低音、生きのいいボーカル、飛び出してくるギターのリフ。「Come Together」と共にシングルカットもされてヒットしたB面の第1曲「Here Comes The Sun」ではキラキラときらめくようなギターのアルペッジョが部屋いっぱいに広がる。 この盤については多くのビートルズファンが語っているであろうから、ぼくなどが口を出す要素はまったくない。一つだけ感想を記すならば、この盤から出る音の一つ一つが実に新鮮だということだ。音楽の試みとしても、オーディオ的な音質の側面からも、半世紀経った今聴いても驚きの連続だ。 十年程前、リマスター盤CDが出た際に、このLP盤と聴き比べたことがあった。CDの特性を生かしたリマスタリングは一聴して低音の量感が圧倒的だったことを覚えている。おろらく半世紀前の一般的レコード再生のレベルを考慮したら、ここまでの低音をカッティングすることは不可能だったに違いない。中高音の分解能も際立っていて、このアルバムが持っている潜在的なポテンシャルを実感した。ビートルズのアルバムはその後もいくつかのリイシューが出ているようだが、寡聞にして不案内。しかし、この盤に限ってはいずれかのCDフォーマット盤を手にしたいと思っている。 「Come Together」 2009年リマスター盤。VIDEO 同「Here Comes The Sun」VIDEO ■ にほんブログ村ランキングに参加中 ■ ■↓↓↓バナークリックにご協力を↓↓■にほんブログ村
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今夜は、先回のブラームス:ハイドン・バリエーションで音盤棚を見回していた際に目が合ったこの盤を取り出した。 ブラームスの交響曲第2番ニ長調。ルドルフ・ケンペ指揮ミュンヘンフィルハーモニー管弦楽団によって1974~75年にブラームスの交響曲全集として録音された内の一枚。手元には当時出たLP盤で4曲が揃っている。80年代初頭に今はなき数寄屋橋ハンターで買い求めた記憶がある。このケンペ&ミュンヘンフィルの盤は短期間にレーベルがあれこれ変ったため、手持ちの4枚にはBASF・ACANTA・LIBEROの3種類が混在している。きょう聴いている2番はLIBEROレーベル。いずれも日本での発売はテイチクだった。 派手さとは無縁で堅実な職人指揮者というイメージがあったケンペ(1910-1976)だが、50年代からベルリンフィルを振ったり(ブラームスの交響曲全曲他)、ドレスデンのオケとリヒャルト・シュトラウスの管弦楽曲を録音したりと、日本での人気が高まる前から欧州では一流の評価がなされていたのだろう。日本ではこのブラームスやブルックナーで70年代半ばに大いに人気を得た。ミュンヘンフィルとのブラームス録音は彼の晩年の録音ではあるが、指揮者としては夭折だった彼のキャリアからすれば、まさに充実した壮年期の演奏記録と言える。 中でも第2番はリリース当時も話題になった。演奏はまったくもって誠実で生真面目。妙な演出や仕掛けはない。以前の記憶ではもっとテンポが速かったように思ったていたが、きょう聴いてみると速いとまではいかないレベル。曲全体をすっきりと組み立て、その上で各パートの出入りや重なり合いを実によくコントロールしている。その結果、マスの響きで押すような演奏の対極で、響きの分解能が高く、音楽の構図がよくわかる演奏に仕上がっている。録音状態もアナログ最終期の良好なもの。ピュアな響きの重なり合いがよく分かり、重苦しさとは無縁ながら重量感も迫力も不足はない。総じて正統派ドイツのブラームスを堪能できる名盤だ。 この盤の音源。フレーズの切り替えで微妙にテンポを動かしている。自身がオーボエ奏者であったことも影響しているのか、木管群が鮮やかに浮き立ち、弦楽群とよく対比される。 万事中庸で地味な指揮者というレッテルが貼られたことさえあるケンペ。どこが!?と真意を疑うのはぼくだけではないだろう。もっとも今ではそんな評価をする人はいないだろうが。VIDEO 貴重な指揮姿。バンベルク交響楽団との第2番第1楽章の佳境。VIDEO ■ にほんブログ村ランキングに参加中 ■ ■↓↓↓バナークリックにご協力を↓↓■にほんブログ村
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