ペペ・ロメロのジュリアーニ
八月もきょうで終わり。もっとも暑さもコロナもまだ終わらない…
さて、きょうも程々に業務に精励。7時を少し回って帰宅した。ひと息ついて、しばらく前から進めていて整理がほぼ完了した音盤棚を眺めていると、この盤と目が合ったので取り出した。

ペペ・ロメロ(1944-)の弾くジュリアーニ作品集。1977年の録音。ペペ・ロメロがまだ三十代だった頃の演奏。収録曲は以下の通り。ジュリアーニのやや大きめの独奏曲が収められている。
Side_1
ヘンデルの主題による変奏曲 作品107
グラン・ソナタ「エロイカ」 作品150
Side_2
「おいらはキャベツ作りの子」による変奏曲 作品49
ラ・メランコリア 作品148-7
大序曲 作品61
ペペ・ロメロは今やクラシックギター界の大御所の一人といえる。ロメロ・ファミリーの中ではもっとも早くから独奏者として人気を博して多くの録音も残した。ぼくは社会人になって以降、しばらくギターと疎遠だったこともあって彼の活躍をほとんど知らない。たまたま十数年前にネットで箱買いしたLPの中に彼のアルバムが何枚かあって初めて聴いた。
この盤を手にしたとき、実のところあまり期待しないで針を落とした記憶がある。ラテン系ギタリストによくある拍節感の乏しい、およそ古典派作品に相応しくない弾きぶり…そんな予想をしていた。そして30秒後には勝手な想像をしていた自分を恥じた。ヘンデル・ヴァリエーション出だしのテーマを聴いてエッ!と思い、最初の変奏になる頃には参りました!と頭を下げた。今回久しぶりに聴いてみて、その印象は変わらない。いずれも演奏もこれらの作品がもつ様式感がしっかり表現されている。
マウロ・ジュリアーニ(1781-1829)はイタリア生まれながらウィーンで活躍した。ときのウィーンは正にウィーン古典派全盛期。ベートーヴェンの第7交響曲初演時にはチェロ奏者として参加していたとの逸話もある。その作品はイタリア的な明るく華やかな曲想を含みながらも、古典派の機能和声と様式感をベースに作られている。ペペ・ロメロの演奏はその辺りの様式感がしっかりしている。具体的には…安定したテンポと正確に刻まれるビート、和声の明解な緊張と解決、適格な倚音の処理…といった要素がきちんと処理されている。ギター演奏にありがちな安易な音色変化もなく、ジュリアーニ作品で頻出する高速のアルペジオや駆け抜けるようなスケールでも粒の揃ったタッチでごまかしがない。
あらためて濱田慈郎氏によるライナーノーツを見たら、なるほどという記述があった。この録音当時ペペ・ロメロはジュリアーニ作品の録音に次々と取り組み、そのいずれの演奏も恣意的な表現を排し、楽譜の指示を正確に表現することに努めた、と書いてあった。つまりはラテン系奏者に対するぼくの勝手な偏見が大いに間違っていたということに尽きる。 もちろん19世紀古典期作品の演奏に関しては、この録音から年月を経た今日、当時の楽器を使ったオーセンティックな演奏が主流かもしれない。このペペ・ロメロの演奏はそうした時代を迎える前の70年代に、無類のテクニックを誇った彼がモダンギターを駆使して一直線にジュリアーニを表現した記録だ。フェルナンド・ソル作品ならともかく、ジュリアーニ作品にあってはその表現はピタリとはまっているように思う。 この録音から40年余を経た現在もクラシックギター界の第一人者として活躍するペペ・ロメロ。やはりそれだけの理由がこの頃からあったことを示す名演奏だ。
この盤の音源で「大序曲」
同 技巧的な変奏が続く「おいらはキャベツ作りの子」による変奏曲 作品49
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