チェリビダッケ&MPO東京ライヴ@1986



秋の好天続く。11月半ばの週末日曜日。昼をはさんで野暮用少々こなし、ひと息ついてアンプの灯を入れた。取り出したのはこの盤だ。


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ブルックナー交響曲第5番。セルジュ・チェリビダッケ(1912-1996)指揮ミュンヘンフィルハーモニー管弦楽団。1986年オープン直後のサントリーホールでのライブ録音。ライナーノーツには、いくつかの偶然が重なったこの録音についての逸話が記されていて興味深い。

ブルックナーやマーラーの交響曲に傾倒したのは学生時代。70年代半ばのことだ。クラシックギターを弾きながらも、聴くことに関してはギターの世界に飽き足らず、広くクラシックにのめり込んでいた。とりわけ大規模な管弦楽曲は魅力的だった。今夜選んだブルックナーの交響曲第5番も当時ルドルフ・ケンペ指揮ミュンヘンフィルのLPでよく聴いた。ケンペ盤は今でも愛聴盤の一つだが、今夜はチェリビダッケ晩年の日本公演ライブで楽しもう。チェリビダッケはフルトヴェングラーの後継者としてを目されていたが、様々な偶然と必然が重なって、カラヤンにベルリンフィルのシェフの席を奪われた。その辺りのいきさつは中川右介氏の本に詳しい。

チェリのブルックナー第5番はまず音響の完璧さに圧倒される。
彼の初来日は1977年、読売日本交響楽団への客演指揮だった。そのとき、オケのチューニングに多くの時間を費やしたことが話題になった。従来のオケのチューニングといえば、オーボエが基準のA音を出し、それに全パートが一斉に合わせる、お馴染みの光景が一般的だった。ところがチェリは、弦楽パート、木管パート、金管パートという順で各パートごとに確認する手法を持ち込んだ。弦パートにしても、まずコントラバスついでチェロという念の入れ様だったという。このことだけでもオーケストラがトータルとして作り出す音響のバランスや統一感にいかに意を払っていたかが分かる。

第1楽章冒頭、低弦のピチカートに続いて提示されるのコラール風のモチーフからして実に安定した響きだ。低音をベースにしたピラミッド型の全体のエネルギーバランス、力強くも柔らかくブレンドされ揃った音色、各パートの完璧なバランス。極めて精緻で室内楽的なアプローチで音響を構成していく。ここだけ聴いても終楽章に待っている二重フーガの大団円への期待が高まってくる。団員もさぞ緊張を強いられるのだろう、ピアニシモで奏するホルンのハイトーンではしばしば音の乱れもあるが、取るに足らない些細な傷だ。

音楽は終始激さず、しかし過不足ない響きにのり、しっかりとした歩みで進んでいく。ブルックナー休止とも言われる特有の全休止の間合い、ときおり浮かび上がる木管群の切々とした歌、サントリーホールの豊かな残響も手伝ってブルックナーを聴く醍醐味をたっぷり味わえる。そして圧巻は最終楽章だ。第1楽章冒頭のピチカートや主要主題を回顧しながら、やがて音楽は大きく二重フーガとなって盛り上がる。数十分かけて長い旅を続け、ようやく大平原か桃源郷に、あるいはもっと違った高みなる処へたどり着いた思いに、いやが上にも高揚感を覚える。以前聴いた日本のオケによるこの曲の演奏では、明らかにこの終楽章で金管楽器群が疲労して音が続かず、空虚な強奏で終わっていた。チェリのコントロール下で演奏するミュンヘンフィルは、ここ一番の終楽章でも力と制御力をキープし、お祭り騒ぎでない大団円となって最後の和音を閉じる。コンサートホールに居合わせていたら、この演奏の感動はいかばかりだろう。このCDには終演後の拍手とブラーヴォの喝采が2分近くに渡って収録されていて、当日の演奏会を疑似体験できる。

この演奏が行われた1986年と言えば、以降のバブル経済への道を歩み出した頃だ。ぼくはバブルとは何の関係もなく地方でサラリーマン生活を送り、当時は音楽からも遠ざかっていたことを思い出す。あれからもう三十余年。チェリビダッケの実演に接する機会はなかったが、録音状態のよい彼のライブ盤を聴いて渇きをいやすことにしよう。


この盤の一年前1985年、本拠地ミュンヘン・ガスタイクでのライヴ。1時間25分50秒過ぎからの大団円だけでもどうぞ。


この盤の音源。全4楽章



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マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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