クレンペラー&NPO ブルックナー交響曲第9番ニ短調



先日ブルックナー第8番を聴いたのをきっかけに、一連の交響曲にあらためて触れようと、こんな盤を取り出した。


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ブルックナーの交響曲第9番ニ短調。オットー・クレンペラー(1885-1973)指揮ニューフィルハーモニア管弦楽団(NPO)による1970年の録音。見開きのジャケットの隅に、購入1976年と記してあった。大学3年のときだ。当時、ギターを弾きながらも、クラシック音楽の広く深い森に魅力を感じ、自作のチープな管球アンプとダイヤトーンのフルレンジスピーカで夜となく昼となく音楽を聴いていた。貧乏学生ゆえに自由にレコードを買える環境ではなく、もっぱらFMエアチェックが頼りだった。ブルックナーに開眼したのものその頃で、先日も書いた通り第4番に始まり、5番、7番、8番、ややもどって3番、6番そして9番と聴き進めていった。中でも9番は特別な印象をもつ曲だった。ブルックナーが晩年、病状が悪化する中で作曲を進めたものの、第3楽章を書き終え、第4楽章を途中まで書いたところで帰らぬ人となった。そうした事情と曲そのものの印象とから、ブルックナーの白鳥のうたとも言われる。それほどに深い信仰世界と神秘性を感じさせる、ブルックナー作品の中でも別格の曲だ。

いわゆるブルックナー開始をはじめ、空虚五度や半音階的転調、トリスタン和音など調性からの逸脱を感じさせる響き、荘重なコラールとそれに続くゲネラルパウゼなど、聴くほどにその稀有壮大な曲想とそれまでにない和声感に言葉を失う。音楽を評するとき、もっとも多用されるのは言葉のひとつが「美しい」という言葉だろうが、この曲については、軽々に美しいという言葉を口にするのがはばかられる。それだけに、オーディオセットを前にして安易に聴くときでさえ、聴き終えた後はしばらく何も耳にしたくないほどの重い荷物を背負ったように感じる。ちょっと聴こうかというほどお気楽には相対することが出来ない曲だ。

クレンペラーとNPOによる演奏は、そうしたこの曲の性格をまったくそのまま音にしたもので、およそ何か仕組んで聴かせどころを作ろうとか、耳に心地よく響かせようとか、そうした意図は皆無といってよいもの。対向配置の弦楽群はピラミッドバランスの音響のベースを作り、その上に派手さのない金管群がのることで、この曲の随所で聴かれるオルガン的響きを展開する。手持ちの盤は先に記した通り1976年、下宿先から帰省した折に都内まで出かけ、数寄屋橋ハンター辺りで手に入れた記憶がある。国内初出時の盤だと思うが、現在も良好な盤質で、サーフェイスノイズが聴こえるか聴こえないか位のボリューム設定で聴く限り、ブルックナーの複雑な和声を十分解像して聴かせてくれる。リマスタリングされた最近のCDの音質にも興味があるのだが、さてどんなものだろう。


この盤の音源。第1楽章


カラヤンとウィーンフィルによる第2楽章


大野和士氏による解説



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プロフィール

マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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