ムソルグスキー「はげ山の一夜」



あす6月23日は「はげ山の一夜」にちなむ日…ということらしい。何でもこの曲の背景として「聖ヨハネ祭(6月24日)の前夜に不思議な出来事が起こる」というヨーロッパの伝承があるあり、その伝承による「はげ山に地霊チェルノボグが現れ手下の魔物や幽霊、精霊達と大騒ぎするが、夜明けとともに消え去っていく」というロシア民話がベースになっているとのこと。ぼくのような極東の片田舎のオジサンにはとんとお呼びでない史実だが、まあそんなものかと合点して、今夜はこの盤を取り出した。


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エルネスト・アンセルメ(1883-1969)と手兵スイスロマンド管によるロシア管弦楽曲集。
今さら解説するまでもないだろうが、エルネスト・アンセルメは元数学者にして、のちにフランス物やバレエ音楽を得意とする指揮者として活躍した。特にスイスの仏語圏(スイスロマンド)を代表するオーケストラであるスイスロマンド管弦楽団を振って英デッカに残した一連の録音はステレオ初期の名盤として人気を博した。今夜取り出した盤はタイトル通りロシア近代の管弦楽曲を集めたもので、収録曲は以下の通り。

1. 交響詩「はげ山の一夜」(ムソルグスキー-リムスキー=コルサコフ編)
2. 歌劇「サルタン皇帝の物語」~くまんばちは飛ぶ(リムスキー=コルサコフ)
3. 序曲「ロシアの復活祭」(リムスキー=コルサコフ)
4. 歌劇「ルスランとリュドミーラ」序曲(グリンカ)
5. 同「イーゴリ公」~ダッタン人の踊りと合唱(ボロディン-リムスキー=コルサコフ編)
6. 交響詩「中央アジアの高原にて」(ボロディン)
7. 歌劇「三つのオレンジへの恋」~行進曲とスケルツォ(プロコフィエフ)

久々にフルボリュームで聴いてみたが、60年代英デッカ黄金期を伝える実に鮮やかできらびやかな音質にあらためて驚いた。ゴージャスという言葉がぴったりだ。日本では東京オリンピック以降60年代後半から70年代にかけてステレオ装置が一般家庭にも普及し出したが、英デッカ録音は独グラモフォンの重厚さや米コロンビアのやや乾いた音質に比べ鮮烈に響いたに違いない。この盤もマイクロフォンを各パートごとに設置してそれぞれ楽器の音は明確にピックアップした上でミキシングするという、英デッカのマルチポイント録音の特徴がよく出た録音だ。コンサートホールで聴くオーケストラのバランスとは明らかに違うのだが、これはこれで再生音楽としての楽しみを堪能させてくれる。

「はげ山の一夜」で鳴るグランカッサの音は、音というよりは部屋の空気を静かに揺すぶるように響き、不気味な妖怪達のうごめきや周囲を吹き抜ける冷ややかな風をイメージさせる。但し、これ(コンサートホール聴くグランカッサの空気感に近いイメージ)を実感するには40Hz程度の低音域まで素直に出るオーディオシステムが必要だ。こういう録音を聴くと作曲家や演奏家の意図をきちんと理解するには相応のオーディオシステムが必要だと思ってしまう。ほどほどのシステムだと、どうしても耳につきやすいメロディーや中音域のハーモニーだけに神経がいきがちだ。従来この曲はもっぱらリムスキー・コルサコフ編曲の版が演奏されてきたが、近年はその他の版でも演奏されるようになってきた。その辺りの事情は「展覧会の絵」に似ている。下記に貼ったアバドによる演奏が一つのサンプル。

アンセルメが1969年に亡くなったあとスイスロマンド管弦楽団は長らく低迷。一方英デッカは80年代のデジタル録音時代を迎えてフランス物・ロシア物の色彩的な管弦楽曲の再録音を迫られ、アンセルメと同じくスイス生まれのフランス系指揮者シャルル・デュトアと手兵;モントリオール交響楽団のコンビに白羽の矢を立てて録り直すことになる。


この盤の音源。アンセルメとスイスロマンド管。14秒過ぎからのグランカッサの響きが出ればオーディオの低域再生能力は及第か。


原典版の演奏。例によって!マークが出るが、「YouTubeで見る」をクリックするばOK。


ジャズ・フュージョン界の大御所ボブ・ジェイムスによって70年代半ばに大ヒットした版。



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マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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