江崎アグアド



少し前に1980年作ヤマハGC-30Bを手に入れた。


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左:GC-30B 右:本家アグアド
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少々楽器に興味のあるクラシックギター愛好家ならば、このモデルについて説明は不要だろう。60年代終盤から本格的に始まったヤマハクラシックギターの頂点を成すグランドコンサートシリーズ。今日まで続くその歴史の中で、70年代から30年余に渡って中心的役割を果たしたのが、当時ヤマハ社員で現在は個人製作家として活躍している江崎秀行氏だ。

昭和49年・1974年、第一次オイルショックの影響続く頃、江崎氏が3年間の渡西(こちらでその歴史がみられる)を終えて帰国し、グラナダのフェレール工房に続く2年間のエルナンデス・イ・アグアド工房滞在で修得した技法によって、そのコピーといえる作品として上市したのがGC-30B。ヤマハオリジナル設計のGC-30A,GC-30Cと共に30万円の値付けで1974年に発売された。当時の30万は河野ギター他国内製作著名ブランドと同様の最高ランクの値付けだった。GC-30Bは江崎アグアドと呼ばれ当時から人気があり、クラシックギターではそれまで決してメジャーとは言えなかったヤマハを国内一流のブランドの一つに仕立て上げたモデルとなった。


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GC-30Bの存在はもちろん発売当時の70年代から知っていて、十数年前にギターを再開した際に欲しいと思っていた。しかしもともと生産数が少ないこともあって中古も少なく、出ても当時の定価以上ですぐに売れてしまうという状態で中々出会いがなかった。その後1973年作の本家アグアドを手に入れたこともあって、縁がないなあと忘れかけていたのだが、ひと月ほど前に大阪の販売店で1980年作の中古が出たのをみつけ、ふとかつての思いが頭をもたげた。以前から付き合いのある楽器店だったので、送ってもらって自宅試奏でもよかったのだが、久しぶりにイコかと、大阪茨木まで出向いて試奏。弾き始めて30秒で即決した。

大阪滞在1時間余でギターを背負ってトンボ返り。帰宅して本家アグアドと比べて驚いた。大きさ、プロポーション、ネックの感触など物理的条件はもちろんながら、音そのものも驚くほどそっくりだった。本家の方が6弦のボリューム感がやや豊かだが、それも僅差。クリアな高音はほどんど区別が付かない。何より目指す音の方向が完全に一致している。やや大きめのボディーから繰り出される音は、本家同様ゆったり大らかに響く。十分な音量はあるが、昨今のコンサート向きモダンギターのように剛性感に勝り、強いタッチと共にエネルギーのある発音をする楽器とは基本から異なる感じがする。トーレス以降、マヌエル・ラミレスやサントス・エルナンデスといったオールドスパニッシュがもつキャラクター、60年代以降今日まで続くモダンギターのキャラクター、ちょうどその二つをつなぐのがエルナンデス・イ・アグアドのギターだというのがぼくの印象だが、江崎アグアドにはそのキャラクターがしっかり備わっている。

世にアグアドモデルと称するギターはいくつかある。エルナンデス・イ・アグアド工房で修行したとされる日本の製作家も何人かいる。しかし、修行の期間、受け継いだ技法と精神、その後の製作実績等を考えると、ヤマハ時代の江崎氏が担当したGC-30B(及びその後型番を変えたGC-61)は、エルナンデス・イ・アグアドのもっとも正統かつ忠実な後継の一つだと、ぼくは思う。


手に入れた個体による音源。販売店HPでこの動画が公開される前に、すでにぼくが手を上げていてHOLDになっていた(^^



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プロフィール

マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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