クナッパーツブッシュのワルキューレ第一幕



夏になると聴きたくなる音楽がいくつかある。ワグナーはその一つだ。夏の音楽祭を代表するバイロイト音楽祭から条件反射的にそう思うのだろう。お盆を過ぎると夏も後半戦という感じだろうが、まだまだ暑い日が続く。重厚長大なワグナーは暑苦しい…いやいや、こんなときこそワグナーだ…というわけで、きょうはこの盤を取り出した。


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ワルキューレ第一幕を収めたクナッパーツブッシュとウィーンフィルのLP盤。確か大学4年のときは手に入れたはずだ。1957年録音のこの盤については多くが語りつくされているので説明は不要だろう。クナッパーツブッシュ(1888-1965)がこの録音に続けて「指輪」の全曲録音に進むはずだったが、残念ながらかなわず。その任はショルティに引き継がれた。

ぼくがワグナーを聴き始めたのは学生の頃からだが、恥ずかしながら理解も知識もその頃からまったく進展してない。近年になってワグナーのアルバムも手軽に手に入るようになったが、かつては中々大変なことだった。クナッパーツブッシュのワグナー録音も随分いろいろなものが発掘されて出ているようだが、寡聞にして不案内。この盤やミュンヘンフィルとの管弦楽曲集を聴く程度だ。

この盤は四日間に渡って上演される長大な「指輪」の中のわずか一幕。ワグネリアンでもなんでもないド素人のぼくなどがワグナーの盤について語るのはまったく恥ずかしい限りだが、聴きどころ多く楽しめる。嵐の情景を描く序奏からクナッパーツブッシュの構えの大きな音楽があふれてくる。第三場に入ってからのジークリンデとジークムントとの愛の歌、終盤での管弦楽による盛り上がり、いずれもクナッパーツブッシュのスケール感豊かな指揮振りと、それをややオンマイクでとらえたリアルな録音もまた秀逸だ。「指輪」全曲に関しては、ショルティ&VPO盤やバイロイトでのライヴ録音集やカールスルーエ歌劇場でのライヴなど、聴くべきが盤が山積状態なのだが、その取り崩しにも着手していない。嗚呼


この録音をベースに対訳を付したもの。


このレコードと同じクナとウィーンフィルによる演奏会形式のライヴ。 この映像のモノクロ版は以前から知っていたが、以下は最近になってGoogle Colabでカラー化されたものとのこと。



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ブロムシュテットのシューベルト



ひと月程前のEテレ「クラシック音楽館」で指揮者ヘルベルト・ブロムシュテットの特集が組まれた。ご覧になった向きも多いだろう。今年95歳になるブロムシュテットの生い立ち、キャリアそして現在の日常を紹介するドキュメンタリーがあり、そのあとNHK交響楽団とのベートーヴェン「英雄」が放映された。そのブロムシュテットが今年もまた来日するということでチケットを取ることにした。


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現役最高齢の指揮者ヘルベルト・ブロムシュテット(1927-)。ぼくら世代にはもっとも親しみのある外国人指揮者の一人だ。サヴァリッシュ、マタチッチ、スウィトナーらと共に70~80年代以降、NHK交響楽団に度々客演し、その指揮ぶりと作り出す音楽は映像と共にしっかり記憶に定着している。中でもブロムシュテットは80歳を過ぎてもまったく年齢を感じさせず来日を続け、気付けば95歳。

今回は3つのプログラムで計6回の演奏会が予定されている。3つとも聴きたいところだが、公私予定を考慮し、平日夜のシューベルト・プロを選んだ。いくつかの理由があるが、ドキュメンタリーでも紹介された近年の様子や、コロナ禍前年までのNHK交響楽団での指揮ぶりに触れ、ブロムシュテットが40年前の壮年期に全曲録音したシューベルトの交響曲を今どんな風に聴かせてくれるのかが最大の関心だ。二カ月先を楽しみに待つことにしよう。


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今回取り上げられるシューベルトは交響曲第1番ニ長調と第6番ハ長調。第1番はシューベルトがまだ十代のときの作品。そして第6番も二十歳のときに作られた。31歳で夭逝したとはいえ、若き日の作品といえる。今夜はブロムシュテットが名門シュターツカペレドレスデン(SKD)を振って1979~1980年に録音した全集盤から第6番を取り出して聴いている。 同じハ長調の大作第8(7・9)番「ザ・グレート」に対比されて「小ハ長調」交響曲と呼ばれる第6番だが、4楽章それぞれがきっちりと作られ、どうして中々立派な構えの曲だ。曲想は明るく大らかで、トランペットが所々で華やかに響く。如何にも二十代青年の明朗な作品。「小ハ長調」では可哀そうな気もするがどうだろう。


第6番全4楽章。ブロムシュテットとSKDによる1979年の録音。



シューベルトの大きい方のハ長調「ザ・グレート」。ブロムシュテット指揮NDRエルプフィルハーモニー(旧NDR響=北ドイツ放送交響楽団)による、コロナ禍となった2020年暮れの演奏。ブロムシュテット93歳。 第4楽章最後のコードが鳴り終わったあと、観客の拍手に代わり団員たちからブロムシュテットに拍手が送られる。そのあとの談笑も聴こえてくる…何と言っているのだろう。



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ハイドン チェロ協奏曲第1番ハ長調



世間はお盆休み。週末土曜日。朝から野暮用外出で午後3時過ぎに帰宅した。夕方近くになってひと息つき、エアコンの効いた部屋で一服。ついでにこんな盤を取り出した。


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十年程まえに来日して強い印象を残したクリスティーヌ・ワレフスカ(1945-)がメジャーデヴューした70年代にフィリップスに入れた一連の初期録音を集めたタワーレコードの企画盤。少し長くなるが収録曲を記しておく。

<CD1>
ブロッホ:ヘブライ狂詩曲「シェロモ」
ブルッフ:コル・ニドライ 作品47
シューマン:チェロ協奏曲イ短調 作品129
チャイコフスキー:ロココの主題による変奏曲 作品33
<CD2>
ドヴォルザーク:チェロ協奏曲ロ短調 作品104
ハイドン:チェロ協奏曲第1番 Hob.VIIb-1
<CD3>
プロコフィエフ:チェロ協奏曲第1番 ホ短調 作品58
ハチャトゥリアン:チェロ協奏曲(1946)
<CD4>
サン=サーンス:チェロ協奏曲第1番イ短調 作品33
サン=サーンス:チェロ協奏曲第2番ニ短調 作品119
サン=サーンス:チェロと管弦楽のための組曲 作品16
サン=サーンス:アレグロ・アパッショナート 作品43
<CD5>
ヴィヴァルディ:チェロ協奏曲ト長調 RV414 P.118
ヴィヴァルディ:チェロ協奏曲イ短調 RV418 P.35
ヴィヴァルディ:チェロ協奏曲ト短調 RV417 P.369
ヴィヴァルディ:チェロ協奏曲イ短調 RV420
ハイドン:チェロ協奏曲第2番ニ長調 Hob.VIIb-2

クリスティーヌ・ワレフスカ(チェロ)
エリアフ・インバル指揮・モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団
アレキサンダー・ギブソン指揮・ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(ドヴォルザーク、チャイコフスキー)
エド・デ・ワールト指揮・イギリス室内管弦楽団(ハイドン)
クルト・レーデル指揮・オランダ室内管弦楽団(ヴィヴァルディ)
【録音】
1970年11月(ブロッホ、ブルッフ、シューマン)
1971年1月(チャイコフスキー、ドヴォルザーク)
1972年1月(ハイドン)
1972年10月(プロコフィエフ、ハチャトゥリアン)
1973年11月(サン=サーンス)
1976年2月(ヴィヴァルディ)

…というように、主要な協奏曲がCD5枚に収められている。今夜はこの中からハイドンの第1番の協奏曲を取り出した。
まずハイドンのこの曲自体が貴重かつ素晴らしい作品だ。世の著名なチェロ協奏曲といえば、現在ではほどんどがロマン派以降の作品で占められる。ドヴォルザーク、シューマン、サン・サーンス、プロコフィエフ、ハチャトゥリアン、エルガー等々。イタリアンバロックではヴィヴァルディ他多くの作品が残されているが、古典派、取り分けウィーン古典派ではチェロ教程で必ず出てくるロンベルク等の作品等を除くと、モーツァルトにもベートーヴェンにもチェロ協奏曲はない(現存しない)。そんな中、ハイドンの二つのチェロ協奏曲はバロック期と古典期の手法を混在させながらもソナタ形式をもつ充実した作品として残されている。

第1楽章。この時期の作品としては比較的長い序奏のあとソロが入る。特に展開部では短調に転じて極めて充実した響きを繰り広げる。第2楽章は穏やかで美しいラルゴ。ハイドンの書いたオケ部の響きが素晴らしく、交響曲作曲家としての面目躍如だ。第3楽章もソナタ形式で書かれていて、単純なロンド形式にはない充実した音響。チェロのテクニカルな側面も十全に発揮されハイポジションでの難所が続く。

ワレフスカの演奏は、彼女のソロが出た途端、大げさにいうと、これはコントラバスではないか、あるいは控え目にいってもピッチがかなり低いのはないかと思うほど。そう思わせるほど音が太く豊かに響く。チェロの胴全体がうなるような音、大きなヴィブラート等々。それらは裏返せば、現代的視点では演奏全体に揺れや誤差があることの証左でもあるが、同時に豊かに歌う楽器としてのチェロの顔でもある。エド・デ・ワールト指揮イギリス室内管弦楽団のバックもピリオドスタイルが一般化する前の時代のチャンバーサウンド。豊かで包まれるような音響でワレフスカの演奏と方向性がピタリと合う。かれこれ半世紀前の録音ということになるが、僅かに感じるのノスタルジックな音も


この盤のハイドンの音源。ワレフスカのチェロ、エド・デ・ワールト指揮イギリス室内管弦楽団による演奏。


マリー=エリザベート・ヘッカーによる全楽章。フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮ヒルヴァーサム放送室内フィルハーモニーのバック。マリー=エリザベート・ヘッカーは宮田大が優勝したロストロポーヴィッチ国際コンクールで宮田大の前の回の覇者。



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小曽根真トリオ「Dear Oscar」



きょうは山の日。思い起こせば二十代にはよく山へ行った。梅雨明け十日といわれる夏休みのこの時期は天候も安定していて、北アルプスの縦走路も快適だった。ほとんどが単独行で、わいわいがやがやの楽しい青春とは縁遠い山旅。三十代の終わり頃、何度目かの谷川岳西黒尾根を登ったのが最後となった。以来、山とも縁がなくなり、今やもうロープウェイに乗る気にもならなくなってしまった。…と、そんな人生の黄昏如く感慨にふけっているのもよくないなあと思い、気分をアップさせようとこんな盤を取り出した。


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ピアノの小曽根真がトリオ編成で演奏したオスカー・ピーターソンへのトリビュートアルバム「Dear Oscar」。1997年録音。
90年代後半、日本人のジャズを少しまとめて聴いた時期があった。そのときに手に入れた一枚。この盤が出た当時、小曽根真はメインストリームジャズの若手として大そう人気があった。きっと今もそのポジションに変りはないだろう。この盤はタイトル通り、オスカー・ピーターソンへの敬意を標榜し、収録曲全10曲のうちオスカーのオリジナル曲が5曲を占めている。

この盤に先立つこと一年前にリリースしたアルバム「The Trio」がよりアグレッシブな音楽運びをしているのに対してこのアルバムでは終始リラックスして、軽くスウィングするオーソドクスなトリオプレイが楽しめる。もっとも単なる耳あたりのいいカクテルピアノにはならないところが一流の証しだろうか、M4「枯葉」なども中盤から俄然音楽が息づき始め、イマジネイティブなインプロヴィゼイションが繰り広げられる。M5のバラード「ランド・オブ・ミスティ・ジャイアンツ」も限りなく美しくクリエイティブだ。


このアルバムのタイトルチューンM1「Dear Oscar」


小曽根先生によるレクチャー



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チック・コリア&リターン・トウ・フォーエヴァー「Light as a Feather」



このところ毎年のように異常な夏だと繰り返し言われる。今年も異例に早い6月の梅雨明け以来、梅雨入り梅雨明けを繰り返すような天気が続く。そうこうするうちに「正常な夏」の記憶も定義もなくなるかもしれない。…と年寄りくさくブツブツ言いながら今週もスタート。きょうも程々に働いて終わった。さて脳内洗浄のための音盤タイム。きょうはこの盤を取り出した。


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チック・コリア&リターン・トウ・フォーエヴァーの「Light as a Feather」。海の上を渡るカモメのジャケットが印象的なデヴューアルバムがヒットしたチック・コリア&リターン・トウ・フォーエヴァーの第2作がこの盤。名曲「スペイン」が誕生した盤でもある。録音は1972年10月、ぼくが高校3年の年だ。チック・コリア&リターン・トウ・フォーエヴァーを知ったのは大学に入ってからのこと。同じ学科のジャズマニアが、いま最先端のジャズはこれだと紹介してくれた。当時ぼくはクラシックの保守本流まっしぐらの日々だったが、友人宅で聴いたチック・コリア&リターン・トウ・フォーエヴァーのデビューアルバムは中々刺激に満ち面白かった。

このアルバムもデヴューアルバムの路線を受け継いでいて、シュトックハウゼンやジョン・ケージら、クラシック界の前衛音楽のエッセンスやラテンフィーリングの卓越したリズムを取り入れるなど、刺激に満ちながらもポピュラリティにもあふれていて素晴らしい。ベースのスタンリー・クラークやドラムのアイアート・モレイラのバックは何度聴いても文句無しにカッコいい。最近ジャズといえば、カフェで流れるような耳当たりのいい甘口ジャズばかりが持てはやされるが、こうした実験的要素や新たな試みにあふれ、しかもノリの良さや親しみやすさも兼ね備えたジャズがあることも再認識したい。


この盤全曲のプレイリスト → https://youtu.be/rbynfCYDfuI

ポピュラリティの高い名曲「スペイン」 いうまでもなくモチーフはロドリーゴのアランフェス協奏曲。この曲のオリジナルであるこの盤の音源。


スティーヴィー・ワンダー他


野呂一生&櫻井哲夫



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浜松「トゥルネラパージュ」



先回の記事に書いた浜松行き。主目的の江崎ギター工房での用件を予定通り終えても帰途につくまで少し時間があるだろう、久々の浜松、どこか見物でもと、実は事前にあれこれ考えていた。音楽愛好者ならまずは浜松楽器博物館は外せないところだが、だいぶ前にはなるが一度行ったことがある。ならば次なるターゲットは…そう考えて思い付いたのが、かねてより行ってみたいと思っていた喫茶店「トゥルネラパージュ」だ。


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初めてこの店の名前を知ったのは10年程前。独アヴァンギャルド社の超弩級スピーカーシステムが導入されている店として度々雑誌で取り上げられていて、機会があればその威容と音の一端に触れてみたいと思っていた。

店内はかつての昭和のジャズ喫茶のような暗さはなく、高い天井と開放的な空間の店内はやはり今どきのカフェのイメージだ。そんな明るくオシャレな空間にアヴァンギャルドのシステムはぴったり。平日の昼下がりで客の半数以上が女性。昭和のジャズ喫茶ではありえない光景だ。おそらく実力の何十分の一かと思われる程々の(しかし十分な)音量で鳴っているアヴァンギャルドのシステムは素晴らしいのひと言。もう少し音量を上げれば、まさにそこのピアノトリオがいるのではないかと思わせるリアリティーだ。音量を上げてもうるさくならないシステムの見本と言える。大型システムが控えめな音量で悠然となっている様は本当に素晴らしい。地方都市なら新築戸建が買えるほどの価格になるだろうが、あの音なら納得。今どきの繁盛企業の社長でオーディオ好きなら買いたくなるだろうと、容易に想像できた。


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初めて耳にした超ハイエンドの素晴らしい音に浸りながらの30分。午後4時過ぎに店を出て徒歩でJR浜松駅に戻り、帰りの新幹線に飛び乗った。東京駅には17時半過ぎに到着。そのまま上越新幹線へ乗り換えて帰途に。仕事の納期を気にしつつも、久々に呑気で楽しい一日だった。


トゥルネラパージュのアヴァンギャルドは上位モデル。不動産価格までいかない車一台分ほどの下位モデルもあるが…



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江崎ギター工房へ



7月末の某日。ギターを担いで浜松の江崎ギター工房まで行ってきた。
少し前に手に入れた40年前のヤマハ製ギターGC-30B本家アグアドと瓜二つのその音が気に入り、このところ毎日のように取り出して弾いていたのだが、素人目には特に不具合はないようにみえるものの、いくつかの音でデッド、ピークが感じられ、もしかするとブレーシングの緩み等も考えられるかなと思い、生みの親である江崎氏にみてもらおうと思い立った。以前も書いた通り、この楽器の当時の製作担当で、2007年にヤマハ退職後は個人製作家として活躍しているのが他ならぬ江崎秀行氏。江崎氏の自宅兼工房は浜松市中心部から少し離れた住宅地にある。


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普段と同じ時間に家を出て、東京発9時過ぎのひかりに乗車。浜松までは1時間半。浜松は仕事で過去数回訪れて以来、十数年ぶり。駅前周辺の様相はさすがの70万人都市だ。JR浜松駅に隣接する遠州鉄道に乗り継いで15分。江崎ギター工房最寄り駅「積志(せきし)」に到着。出迎えに来てくれた江崎氏の車に同乗し近くの餃子レストランへ。モヤシのせの浜松餃子を初体験。昼を少し回って浜松医大近くの工房へ到着した。

挨拶もそこそこに早速楽器をみてもらう。1980年製で相応のキズはあるし、前所有者は中々の弾き手だったのだろう、指板も全域に使い込んだ痕跡があるものの、ネックの状態やサドルのセッティングも良好。総じて状態は健全で修理の必要はないでしょうとのこと。何か気になることは?と聞かれ、高音弦の開放と1フレット押弦時の音色差が気になると告げると早速ナット溝をチェック。ヤスリを取り出し溝を調整。加えて経年による裏板のスレやくすみを磨いてきれいにしてくれた。

低音の出方に話が及ぶと、ウルフを測ってみましょうと、自作と思われる簡易治具を取り出した。小型スピーカーをアクチュエータとしてギターのサドル部分に取り付け、想定されるウルフトーン近くの周波数を送り込み、ギターが発する音のピークからウルフトーンの音程を探すというもの。簡素ながら理にかなった方法だ。持参したGC-30BはGとF#のちょうど中間付近にピークが出た。江崎氏はそれをみて「驚くほど低いですね」と言う。現在の江崎ギターの設定はG#とAの間に設定しているそうだ。昨今の多くのギター同様、低音と高音のバランスや音の立ち上がり等を勘案してウルフトーンを高めにとる設計思想のようだ。

ウルフトーン(胴共鳴の音程)を決めるファクターのうち大きな要素の一つが表板の厚さ。板厚を測るツールでGC-30Bを測ったところ2.0ミリ程度とかなり薄くことがわかり、これにも驚いていた。江崎氏がヤマハでGCシリーズを作っていた40年前の当時は、ウルフトーンや板厚の正確な測定手段もなく、現代のようにウルフトーンが楽器のキャラクターを支配するという考えもなかったそうだ。


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ギターの点検をしてもらっている間、試奏用として工房に常備している楽器も弾かせてもらった。弾いたのは80万円の2機種(表板が松と杉、横裏板は共にマダガスカルローズ)と35万円の1機種(表板:松、横裏板はインドローズ)。いずれも楽器のキャラクターは同じで、価格差ほどの大きな違いは感じなかった。上位機種の方が幾分低音の量感があり、全体的に響きが豊かだったように思う。試奏したのが響きの良いリビングで、いずれも気持ちよく弾けた。ヘッドデザインにわずかなデザイン違いがあることと、塗装が「セラックフィニッシュ」と「全セラック塗装」の違いがあるが、これもパッと見は分からない。「セラックフィニッシュ」は下地としてウレタン塗装をした上にセラックを塗る、「全セラック塗装」は最初から最後までセラック使用という違い。全セラックの方が塗装膜を薄く仕上げられるので、より自由に表板が振動する…というのがうたい文句のようだが、仔細に検分しないと分からない。いずれにしても、現代のモダンギターとして正統派の音と作りで、強烈な個性を売り物にする楽器ではない。全域で均一に鳴り、工作の信頼度も高い。長く使っていくには結局こういう楽器がいいのだろうなあと、あらためて感じた。

これまで断片的に見知ったヤマハ時代やスペインでの修行時代の話も、あらためて興味深く伺った。ヤマハを定年退職して15年だそうだ。現在はギター製作のほか、地元愛好家の集いの取りまとめ、ブロアマ問わずギター愛の醸成が自身のテーマと語っていた。あまり時間を取ってもと思い、工房滞在は2時間程。尽きぬ話を切り上げ礼をいい、再び積志駅まで送ってもらって工房をあとにした。


江崎ギターの紹介。ナレーションは江崎さんご自身ですか?と聞いたら、いやプロにお願いしましたとのこと。


モデルNo.35G(松、杉)による演奏



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プロフィール

マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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