イェラン・セルシェルのデヴュー盤



あっという間に九月も終わり。暑さもようやく癒え、夕方の日の入りも早くなった。灯火親しむの秋ももうすぐだ。さて、週末金曜日のきょうも業務に精励。いつもの時刻に帰宅した。あすは週末…ホッと溜息をつきつつ、こんな盤を取り出した。


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イェラン・セルシェル(1955-)の日本デビュー盤。A面にバリオスの「大聖堂」、「ワルツ第3番」、ポンセ「南のソナチネ」。B面はダウランドのリュート曲が7つ並んでいる。1980年録音。ダウランドはゲオルク・ボリン作の11弦ギター、その他はホセ・ラミレスの6弦で弾いている。

セルシェルについて説明は不要だろう。40余年前、この人の出現によって普遍的な音楽を奏でる楽器としてのギターの価値が一段階上がった。このデヴュー盤で聴ける音楽も実に端整な表現だ。最近はコテコテの演奏が多いバリオスも、スッキリとまるで古典を聴くようだ。ワツル第3番など、おそらく今のギター愛好家には物足らないくらいだろう。もっと歌うべし、もっと表情をつけて…。よく聴くセリフだが、音楽の骨格や様式感をないがしろにして歌ったり表情を付けたりする演奏ほど気持ちの悪いものはない。その点このセルシェルの演奏は御手本のような見事さだ。ポンセ「南のソナチネ」も<過ぎず>にいい感じ。この曲はポンセが残した他のソナタよりも小規模ながら、軽快なスパニッシュテイストがギターによく合っていて好きな曲の一つだ。こんな与太ブログ書いている時間をギターの練習に充て、この曲を華麗に弾きこなそうかと真顔で考えてしまう。


この盤の音源。バリオス「大聖堂」


セルシェルが1978年のパリ国際ギターコンクールで優勝したときの演奏。バッハBWV998



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ベートーヴェン「ディアベリ変奏曲」



週半ばの水曜日。きょうは仕事のあと野暮用あって少々遅い帰還。ひと息ついて音盤を取り出す元気もなく、先日聴いたこの盤の備忘を記しておこう。


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ベートーヴェンのディアベリ変奏曲。正確には「ディアベリのワルツによる33の変奏曲ハ長調作品120」。60年代半ばのデビューアルバムの一つにこの曲を選んでいたバレンボイム(1942-)による1981年再録盤。

今更、素人のぼくなどが講釈するまでもないが、この曲はバッハのゴルドベルクに比肩される大曲だ。実際この盤でも演奏時間は1時間を越える。作品番号からも分かる通りベートーヴェン晩年の曲。同時期には第九交響曲の作曲も進行していた。
アントン・ディアベリ( 1781-1858)はぼくらギター弾きにはいくらか馴染みがある。この曲の成立には当時のウィーンで、作曲家としてよりもむしろ出版事業主としての名声を得ていたディアベリの暗躍もあるとのことだが、それはともかく、平々凡々としかいいようのないワルツを使いながら、すっかりベートーヴェン色に染め、充実かつ新規性に満ちた和声と構成を成し遂げているところは、やはりベートーヴェンの第一級の仕事だろう。各変奏曲がそれまでの時代によくあったような技巧的バリエーションにとどまらず、まったく新しい情緒の表出になっている。特に後半、第24変奏の小フーガを経て終盤となり、ハ短調となって瞑想的に進む第29変奏、変ホ長調32変奏の重厚なフーガ、そして再びハ長調に戻って終曲を迎える頃には、この曲が小さな変奏曲の集まりだということを忘れそうになるほどの充実ぶりだ。


楽譜付き全曲。46分からラルゴ・モルト・エスプレシーヴォの美しい第31変奏。そして32変奏のフーガ(51分43秒から)へと続く。


バレンボイムによる2020年秋コロナ禍期間の録音。ベートーヴェンのピアノソナタ全曲(バレンボイムのとって5回目!)と併せて録音されたようだ。



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ブルッフ ヴァイオリン協奏曲第1番ト短調



シルバーウィークも終わり九月も下旬。台風が二つ通り抜け、ようやく秋の気配を感じるようになった。さて、週明け月曜日。連休続きで遅れ気味の山積み業務を片付けるべく、本日も業務に精励。といっても5時には疲れ果て、定時で退勤となった。まもなく開設から干支がひと回りする当ブログ。きょうも変わらぬ「盤ご飯」。今夜はこんな盤を取り出した。


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ブルッフ(1838-1920)が書いた3曲のヴァイオリン協奏曲のうち、もっともポピュラーな第1番ト短調。ジャン・ジャック・カントロフ(1945-)がソロを取り、アントニオ・ロス=マルバという指揮者がオランダ室内管弦楽団を振っている盤。1983年DENON・PCM録音。日本コロンビアがDENONレーベルで盛んにヨーロッパでのデジタル録音を進めていた頃の一枚だ。ブルッフがB面。A面にはメンデルスゾーンが入っている。最近は指揮者としても活躍するカントロフは60年代にいくつもの国際コンクールで上位入賞し、グールドにも絶賛されたという逸話を持つ。

ブルッフの第1番は、メンデルスゾーン、チャイコフスキーなど他のロマン派コンチェルトに勝るとも劣らない。腕利きの多くのヴァイオリニストが録音を残している。濃厚なロマンにあふれ、ヴァイオリンソロの名人芸だけでなく、オーケストラ部の充実した響きもこの曲の魅力だ。第3楽章はブラームスのヴァイオリン協奏曲ニ長調の第3楽章をイメージさせるジプシー風主題がラプディックに展開される。この盤は室内管弦楽ということもあって編成が少し小さい。分厚い響きを期待する向きには少々軽量級だろうが、迫力で押し切る演奏でない分、曲の持つロマン派的な微妙な色合いは、むしろよく感じ取れる。カントロフのヴァイオリンもしかりだ。強烈な個性や濃厚なロマンティシズムといった面ではあまたの名手に譲るだろうが、この楚々とした佇まいの弾きぶりは中々他に代え難い。


2002年スペイン生まれの新星マリア ドゥエニャスによる演奏。バックはマンフレッド・ホーネック指揮のNDRエルプフィルハーモニー管弦楽団。2021年3月。


メニューインとフリッチャイによる全曲



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アルベルト・ラ・ロッカ(G)からのメール



少し前から興味を持っているアーネスト・シャンド(英1868-1924)のギター曲。そのシャンド作品の三枚組CDをリリースしたのが、イタリアのギタリスト:アルベルト・ラ・ロッカだ。シャンド作品を網羅的に取り上げた姿勢と、YouTubeで聴けるロッカの演奏に感心したこともあって、彼のサイトに記されているアドレスにメールしたところ、すぐに返信があった。内容は以下の通り(グーグル翻訳を多少手直し)。


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=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
親愛なる与太さん
シャンドの音楽に対する私の解釈・演奏について、素敵な言葉を書いてくださってありがとうございます。本当に感謝しています! シャンドの音楽は日本だけでなく全世界にも知られているわけではありません。しかし、私の貢献がこの偉大な作曲家をより多くの聴衆に知らせるのに役立つことを願っています。

与太さんが手に入れた現代ギター社の楽譜の他、メルベイ社から23曲を収めた曲集(現在では品切れ)があります。インターネット上でもいくつかのアーカイブが見られます。しかし、あなたにとって最も興味深いのは、Stanley YatesがShandの完全な「生き残った」作品を出版しようとしているということです。今後数ヶ月以内に入手可能になるはずです。
YouTubeで聴いたあなたのLégend op.201の演奏は本当に良いパフォーマンスです。私が提案したい唯一のことは次のとおりです。 Peter Jermer (現代ギター版) は多くの音楽素材を変更しました。アーネスト・シャンドのような偉大な作曲家は、修正したりする必要はないと思います! 実際、Jermerのすべての変更はオリジナルよりもはるかに悪いと思います。幸いなことに、その曲集の終わりにはオリジナル版の小さな複製スコア(かつてショット社から出ていた楽譜のファクシミリ)が載っているはずです。私はそれらのスコアからプレーしました。あなたも同じことをすべきです。そして、あなたがそれについてどう思うか教えてください。

今後ともよろしくお願いいたします。敬具
アルベルト・ラ・ロッカ
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=


…といった次第。ぼくが送ったメールには、ロッカがシャンドを取り上げたことや、その演奏の節度ある解釈、10弦ギターを駆使した美しい音色などへの賛辞を書いた。ついでにぼくの下手くそな演奏リンクも添えておいた。ロッカの返信の中で注目したのは、スタンレイ・イェーツ編の新しい曲集が出版されるという情報だったが、その後8月末にリリースされたようで(写真)、現在は米アマゾンサイトで入手可能。ぼくもさっそく注文したので、近々到着するのが楽しみだ。

分野を問わず、現代のアーティストにはSNSを駆使している人が多い。今回のように気安く送ったメールやメッセージにも返信があることも珍しくないように思う。YouTubeでお気に入りの演奏家がいたら応援を兼ねてメッセージを送ってみると意外な交流が始まるかもしれない。


ロッカによるシャンド作品の演奏はブリリアントクラシックスのYouTubeチャンネル等にある。以下にいくつか貼っておこう。
「Valse legère」


「Prelude et Impromptu」


「Autumn Leaves」



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アウグスチン・ヴィーデマン(G)「80年代ギター作品集」



今週は三連休に挟まれ、仕事の面では何となく気ぜわしい。あまり余裕のない自転車操業が続く。やれやれ… さて今夜は以前にも記事にしている、新しめのギター曲を収めたこの盤を取り出した。


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アウグスチン・ヴィーデマンの弾く80年代ギター曲集。BMGグループの廉価盤レーベルARTENOVAの一枚。前後してリリースされた同じヴィーデマンによる「90年代ギター曲集」の姉妹編。収録曲は以下の通り。

ローラン・ディアンス
Libra Sonatine (1982)
 •India
 •Largo
 •Fuoco
セルジュ・アサド
Auquarelle pour gitarre (1986)
 •Divertimento
 •Valseano
 •Preludio e toccafina
ジョー・ザヴィヌル
 •Mercy, Mercy, Mercy (arr.1989, Helmut Jasbar)
レオ・ブローウェル
EI decameron Negro (1981)
 •La arpa del guerrero
 •La huida de los amantes por el valle de los ecos
 •Ballada de la doncella enamorada
武満徹
•All in Twilight - Four Pieces for Guitar (1988)


先に記した通り、「90年代ギター曲集」の姉妹編にあたる盤だが、たまたま選曲によるだろう、10年早い80年代曲集のこの盤の方が、より現代的で斬新な表現がみられる。ついこの間の80年代…と思っているのはぼくらのような年寄りだけで、紛れもなくすでに40年が経過しているのだ。この間に、ディアンスの曲もブローウェルの「黒いデカメロン」、そして武満徹の「すべては薄明の中に」も、すっかり定番曲になった。いくつかの曲を除き、静寂が支配する音の世界が広がる。コンサートでこれらの曲だけを並べることはありえないだろうが、そこはCD。コンセプトとしてのまとまりのよいアルバムに仕上がっている。ヴィーデマンのギターは柔らかな美しい音色で丁寧に弾き込んでいる。


この盤の音源でジョー・ザヴィヌル「Mecry,Mercy, Mercy」 手持ちの盤からアップ。


アサドの美しい曲「Valseana」



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タル・ファーロウ「The Swinging Guitar」



雨まじりの日が続いた三連休が終わって日常復帰。相変わらず遅れ気味の業務進捗を気にしながらも、呑気に定時で退勤。いつもの時刻に帰宅した。変わらぬ日常。ひと息ついて今夜はジャズ。何年か前にも記事にしたこの盤を取り出した。


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タル・ファーロウ(1921-1998)のギター。彼の代表作のひとつ「The Swinging Guitar」。1956年録音。手持ちの盤は90年代終わり頃に御茶ノ水の中古レコード店で買い求めた国内盤。収録曲は以下の通り。

 1.恋のチャンス
 2.ヤードバード組曲
 3.夢からさめて
 4.誰も奪えぬこの想い
 5.恋の気分で
 6.ミーティア
 7.アイ・ラヴ・ユー

永らくクラシックギターを弾いているが、生まれ変わったらジャズギタリストになりたいと思うほどジャズギターも好きだ。あるいは生まれ変らなくても、明日目が覚めたらクラシックギターかジャズギターか、どちらかの名手にしてやると言われたら、迷わずジャズギターを選ぶ。まあ、半分冗談だが。

タル・ファーロウはそう多くない白人ジャズギター奏者の一人としてして50年代から活躍し人気を得た。この盤は1956年に録音され、日本ではその後10年以上経って1969年に彼が初来日する際、その記念盤として発売された。タルのギターと当時のレギュラーメンバーであるエディ・コスタのピアノ、ヴィニー・バークのベースのトリオ編成。曲はいずれもよく知られるスタンダードが並ぶ。ドラムレスのため、やかましいところがなく、夜更けに聴くには好適だ。ドラムレスではあってもベースラインにのって全編よくスウィングしている。タル・ファーロウのギターは奇抜なところはないが、惚れ惚れするほど滑らかな高速スケールのアドリブフレーズを繰り出して、ジャズギターを聴く楽しみを存分に味わえる。


この盤の音源。「ヤードバード組曲」


同 「アイ・ラヴ・ユー」


バニー・ケッセルとのセッション。晩年のものと思われる。



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バースタイン&NYP マーラー交響曲第10番



週末三連休の日曜日。さすがに一時期の暑さはなくなり、もうすぐ秋本番だ。日頃から「やるやる詐欺」でごまかしていた家内野暮用を少々こなし、さて一服。アンプの灯を入れ、こんな盤を取り出した。


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久しぶりのマーラー。バーンスタイン指揮ニューヨークフィルの演奏で第10番の交響曲を聴くことにした。バーンスタイン、そして彼のマーラー演奏についてはあれこれ紹介する必要もないだろう。1975年録音のこの盤は、彼のニューヨークフィルとの60年代から始まった最初の全集録音に、あとから付け加わる形で作られた。この盤ではA面に第10番、B面にはジャネット・ベーカーが歌う「亡き子をしのぶ歌」が入っていて、当時まだ残っていたSQ4チャンネル対応のカッティングがなされている。二十年近く前に、近所のリサイクルショップのジャンク箱で見つけた。ジャケットの隅に¥150のプライスタグが付いたままだ。

調性感の定まらない不安げなヴィオラのメロディーでこの曲は始まる。ひとしきりこの旋律が続いたあとヴァイオリンの主題が出て、ようやく音楽が動き出す。以後はこの主題を変奏する形で曲は進むが、マーラーの作品らしい濃厚なロマンチシズムと同時に、頻繁な転調やときおり調性感を失うような箇所も多く、ずっとその音楽に浸り切る安定はない。常に居所定まらない不安が付きまとう感じだ。マーラーが、自身の死がそう遠くないこと悟っていた時期の作品で、かつ5楽章の構想を描きながら絶筆に終わったこの曲は、残された二十数分間のこの第1楽章に象徴されている。もし5楽章が完成していたらどういった音楽になっていたかは、デリック・クックによって補筆された全曲版が有名だ。手元にサイモン・ラトルによるクック版もあるので、いずれ取り上げよう。

バーンスタインの指揮ぶりは、この曲に関しては意外にもあっさりと仕上げている印象だ。同じニューヨークフィルとの録音で聴かれる熱っぽい感情移入や、フレーズをことごとく粘り気味に歌い、重い足取りで進む特徴的な曲の運びは影をひそめている。ど素人が批評するような話ではないが、さすがにマーラー指揮者として第一人者だったバーンスタインだ。やはり楽曲の特性をよく心得ている。今更バーンスタインでもないだろうという声も聞こえてきそうだが、いやいやなんの。一時代成した貫禄のマーラーだ。


ウィーンフィルとのライヴ映像。1974年ウィーンコンツェルトハウス。


クレーメルと彼が率いるクレメラータ・バルティカによる弦楽合奏版の演奏。 例によって!マークが出るが、「YouTubeで見る」をクリックすればOK。



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プロフィール

マエストロ・与太

Author:マエストロ・与太
ピークを過ぎた中年サラリーマン。真空管アンプで聴く針音混じりの古いアナログ盤、丁寧に淹れた深煎り珈琲、そして自然の恵みの木を材料に、匠の手で作られたギターの暖かい音。以上『お疲れ様三点セット』で仕事の疲れを癒す今日この頃です。

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